【総集編】宿場の町の攻防③ / 心の箱【48】
◆ ◆ ◆
真実が、知りたかった。
僕はね。嘘が嫌いなんだ。
ねぇ。嘘ってどういうことか知ってるかい?
嘘はね、事実に反した事柄のことを言うんだよ。
他人を騙す為に選んだ言葉。
ただね。結果的に相手を騙したら、その言葉も嘘だ。
つまり、嘘っていうのは、守れなかった約束も含むんだよ。
嘘が嫌いだ。きっとね、僕のことを『良く成熟した他者』が見たら幼稚だの頭が異常しいだのと言うだろう。
だとしてもだよ。僕はね。本当に嘘が嫌いなんだ。
嘘を吐かれるとさ、心臓の下の方が震える程に怒りや不満や、イラつきが抑えられなくなっていく。
許せないんだ。逆立っていく毛に、震える手。爪を割れる程に噛む。そして。そして。そして。
……。……さて。主題に戻ろう。
僕は、真実が知りたい。
メッサーリナの死の理由は、何だ。
心の箱の中に、ずっと燻っていたその問いかけ。
王国は、嘘を吐いた。彼女の死の日付すら。
そして、彼女が戦死と言った。だがそれも嘘だ。
リナリナは言った。
彼女は、勇者に盾にされて死んだのだ、と。
死の寸前の記録は、流石に断片的らしい。前後関係も無く、全てがある訳ではない。
特に、機人は魔法を使えば『記憶を失う』。
そういう一族なのだ。
だから、そもそも魔法なんて、教えた奴も、同罪だ。
メッサーリナに魔法を教えなければ、彼女は、死ななかったかもしれないんだから。
……ともかく。記憶が飛んでいる。それは仕方ない。
しかし捏造される訳じゃない。
間違いない部分がある。それが『盾にしている映像』。
魔王腹心の四人衆『魔族四翼衆』の一人、『白羽』。
それの戦闘中。メッサーリナが攻撃を避けようとした際。
──聖女ウィンが彼女を、盾にした。
何故、そんな行動をしたのか。
そしてその行動によってメッサーリナは大きく損傷。
そこからの記憶は断片的。
──裏切りか。裏切りだとしたら、今も裁かれずにのうのうと生きているのか。
答えをくれ。
本当の答えを。
……当たり前だけど、僕のリナリナが嘘を吐くことはない。
なら。
なら。なら。なら。
王国は、メッサーリナの死の理由すら嘘を吐いたのか。
真実が知りたい。
だから。
何を犠牲にしても真実を、手に入れに行く。
それが僕が皇帝にまで上り詰めた理由の全て。
僕の、フェイン・エイゼンシュタリオンの原動力。その全てだ。
◆ ◆ ◆
そして。
皇帝フェイン・エイゼンシュタリオンと、勇者ハルルの戦い。
強い催眠状態に陥れ、悪夢を見せ続けられていたハルル。
窮地に追い込まれたハルルだった。
術技発動中。目には赤みが掛かり、術技が解けていないことが見て分かる。
のだが。
「──かっ……は!?」
最後の一撃。
それは、フェイン・エイゼンシュタリオンの胸部を、ハルルが切り裂いた一撃だった。
「な、んで。僕の、術技から抜けられたんだッ……! どうして見破れたッ……!?
僕の術技は、キミを完全に! 完全に悪夢の中に引きずり込んでいた!
現実と幻想の境界線が無くなっていた筈なのにッ!」
「へ……へへ。貴方の術技で見せてくれた最後の悪夢……間違ってたんスよ」
「な、に」
「一番、好きな人が……助けに来てくれる。夢。──それが間違いなんス」
「は……はぁ?」
「私が、一番、好きな人は……」
──『帝国の軍を率いている指揮官がいる。──お前に任せたい』
「一度、私に任せる、って言った戦いに。手を出さないッス。
貴方を、倒すことを任されてる。だから、ここに助けに来ることがあり得ないんス」
「……な。そんな理論もへったくれも無い理由が!!」
「ちゃんとした理由があるッスよ!」
「何!?」
「貴方の悪夢は──解釈違いッス! それが理由ッス!!」
(だからそんな理論も何もないちゃんとしてない理由ッ──)
そしてゼロ距離。反論する言葉よりも先に。
拳がフェインの顎に突き刺さった。
仰向けに倒れ、フェインは激痛の中で唇を噛む。
「……勇者、なんかに。勇者……なんて」
大嫌いだ。
誰にも聞こえないように、フェインはそう口の中で呟き、彼は意識を手放した。
「……申し訳ないッス。手加減、流石に出来なくて」
ハルルが呟いた直後だった。
「すふふふ! いい物を見せて貰いましたよ」
空気が抜けたように笑う声にハルルは振り返る。
鳥の頭、枝のような四肢。
──ハルルは、その男と直接は会っていない。
しかし、その男のことは聞いていて覚えていた。
それは数か月前、雪禍嶺の迷宮に閉じ込められた事件の元凶。
青いインコの頭を被った怪しい男。
『すふふ』と歯が抜けたように笑うその魔族。
名前は。
「スカイ──ダンサー……!」
「ランナーッ! スカイランナーですよ!! このアホンダラァ!!!」




