【総集編】宿場の町の攻防② / 二人だけの秘密【47】
◆ ◆ ◆
迷えば、弱くなる。
少なくとも、俺が教わった剣術はそうだ。
迷いを消し、ただ一つのことを剣に乗せる。一心不乱。乱れることのない斬撃が天をも斬り裂く。
だから、正直に告白しよう。俺は迷っている。
目の前にいる機人が、メッサーリナという親友と同じ顔だから。
メッサーリナの記憶を引き継いでいるって言っていた。
後継機。そう言っていたから別人なんだとは思う。
けど。
メッサーリナが戻って来た姿ともいえるんじゃないか。
彼女とは分かり合えるんじゃないか。
などと、俺は迷っている。
敵対しているのだから、斬り伏せなきゃいけない。
なんなら斬り伏せてから事情を聞きゃいい筈だ。
頭じゃ分かってても、そう出来ない。
不自由な物だ。
剣を交えて、戦いの最中だというのに。
どうしても。メッサーリナとの思い出が、脳裏に浮かび上がっていた。
星が綺麗な夜。二人で話した、小さな話。
恋の話。──そう、メッサーリナっていう女の子の、女の子らしい。小さな恋の悩み。
『絶対に! 二人だけの秘密にしてくだサイね!!』
彼女の声がありありと耳に聞こえた。
誰にも結局言ってない。そうだな、年の頃が同じ女の子の間じゃ、特殊な感性だもんな。
だから、ある男の子の好意を無下にしなきゃいけない、と悩んでいた。
確か、その少年の名前は、フェイン。帝国の皇子だったはずだ。
◆ ◆ ◆
耕された。そう表現するのが最も適切だった。
周囲の木々は砂糖菓子で出来ていたのかと疑ってしまう程に簡単に薙ぎ倒される。
そして砕けた端から熱、あるいは雷で焦げて粉微塵になって転がった。
それを踏み拉き、二人の獣が刃を交える。その度に、熱風で地面が掘り起こされ、葉も土も炭化していく。
そう。戦場は──耕されていた。
猛る獰猛な二匹の獣。
ピザカッターのように丸い鋸刃の廻刈転刃を操る兇兎、メッサーリナリナ。
対するは燃える刀を自在に奮う獅子、ジン。
畝のように地面が盛り上がり、振り下ろされる斬撃で土はそんな高さまで飛び散るか、と目を疑う程に高く舞い上がる。
「メッサーリナ。お前は何も思わずに人を殺せる奴じゃない。なのに」
「Oh。ライヴェルグ隊長。……何度も何度も言わせないでくだサイ。
先ほども言いました。ワタシは──リナリナ! メッサーリナ2!」
鬼気迫る獰猛。彼女は走り叫び、力強く廻刈転刃を振り下ろす。
「っ」
「マイマスターの! フェイン・エイゼンシュタリオン様の、最も扱いやすい武器デス!!
だから、ワタシは! 彼の為なら──どんな強敵だって!」
身体を低くし飛び込み、身体を捻って斬り上げる──それはジンが得意とする技。
いや、厳密には──ジンが彼女に教えた技。
「っち!」
「どんな強敵だって、倒して見せるデス!!」
斬。
その一撃がジンの右肩から肘にかけてを切り裂いた。
滴る血を見送りながら、ジンは一歩だけ下がって刀を構え直す。
(フェイン、エイゼンシュタリオン……)
ジンはその名前に聞き覚えがあった。誰でも聞き覚えくらいはあるか。
まだ若い皇帝だが革新的な手腕の狐目のスレンダーな男性。
皇帝というよりヒラの役人という風貌であり、服装も常にきちっとした格好をしている。
新聞にも何度も顔を出しているその人物。
(繋がりが、見えて来た。そうだ……フェインは、メッサーリナを好きだって)
「聞いていいか?」
「答えないかも、しれまセンが」
「そのフェインって奴のこと、好きなんだな?」
「なっ……っ! ンっ!? こ、ここ、こここ、答えま、セン!」
「はは。それが既に答えなんだよなぁ。ほんと、お前らは。いや、お前、分かり易いな」
「ゥー??」
「──謝るよ。リナリナ。お前は、メッサーリナじゃない。
確証を持った。その顔も繰り出す技も、その記憶すら共有しているけど、別の存在。
別の心があるんだな」
「……Oh? 急に認めて下さりましたデス?」
「ああ。確証を得たからな」
「ホーウ? 分かりませんが。──まぁ、貴方がそういうならそうなのデショウ」
「ありがとな。別人。いや、妹みたいなもんかな。──それが分かった。
だから、もう迷わない」
ジンは燃える刀──金烏を鞘に仕舞う。
そして、抜くのはもう一刀。銀の鍔の黒い刀身──玉兎。
「まぁ、構えろよ──下手するとお前を殺しかねないからさ」
「Oh。いいデショウ。……一撃で勝負を決める。コレ、一番、分かり易いデスからね」
腹の底に響く重回転音が鳴り始める。
姫殿下御用達廻刈転刃『剪定者』。
機人の技術で作り上げた廻刈転刃が土を巻き込み重音を上げ始める。
リナリナは、顎が地面に付くほどに、身を低くする。それは異形の構え。
対してジンは、正道。両手で刀を構えた構え。
「『脚部機械化解放』──『装備展開』」
リナリナの足の皮が裂けて内部の機械が露出する。
内蔵された無数の鉄銀車輪が煙を上げる程に回転し始めた。
「──『無限跳躍』──」
リナリナの限界まで引き絞った脚力により矢のように飛んだ。爆散する地面。
姿が見えなくなる程の高速跳躍。
ジンが使う時を緩やかに見る目──『絶景』の世界ですら、彼女の速度は素早かった。
跳ね回る鉄の獣は、人間に出来る運動性能を越える。
そして最も効率よく死角──即ち──背後を衝く。
──空気すら止まった世界。
空を舞う誇りの粒すら目で追えるような世界でリナリナは、目が合う。
目が、合ってしまった。あり得ぬことだ。彼の背後に回ったのに。
今は真っ向から対峙していると。
(ば、けものッ! ワタシの速度に付いてきたデス!? しかしッ!!)
攻撃を止めることはしなかった。
リナリナが繰り出す技は『連撃』。
機械化し、人間の動きの限界速度を超越した斬撃。
「八眺絶景」
そして、奇しくもジンが繰り出す技も『連撃』。
空から落ちる雨を斬るという途方も無い訓練を果たした先にある剣術。
「『私は敵を薙ぎ倒す』!」
「『銀世界』」
──
二人は立っていた。互いに背を向けて。
ジンは最初の位置から動いておらず、リナリナはジンの後方数メートルの距離で立っていた。
距離が開いているのは、リナリナの攻撃が超速度での跳躍を行いながらの連斬撃の為だ。
二人の間の地面が黒く焦げているのもその影響だろう。
「隊長。貴方……人間、じゃないデスね」
「人間だっての」
「いえ……何故、あの速度に……ハハ。本当に、凄いデス」
「いや、リナリナ。お前も凄いぜ」
ぼたぼたぼたっ、と、溢れるように血が流れた。
ジンは、笑う。自身の胸部に出来た、横一文字の傷を見て、笑った。
「ガチ戦闘で、俺に二回以上攻撃を当てられたの、魔王とその弟子と、お前で三人目だな」
「は、はは……途方も無いデスね……」
がしゃん、と音が鳴ったのが最初だった。
落ちたのは廻刈転刃剪定者。地面に転がった。
そして立て続けに地面に鉄くずが落ちるような音が鳴り響く。
「まさか、あの高速戦闘の中で……腕だけを破壊するとは……」
リナリナの鋼鉄の両腕が細かく刻まれて地面に転がった。
そして──壊れた人形のようにリナリナは膝を付く。
息荒く、リナリナは空を仰いだ。
「……教えて貰ってもいいデスか?」
「? 何をだ?」
「何故、ワタシが、メッサーリナじゃないと確証を持ったのデス?
あの質問で、何が分かったのデス?」
──『そのフェインって奴のこと、好きなんだな?』
その質問のことだろうとジンはすぐに分かった。
「……ああ、それか」
「教えてください」
「ん。──それは」
◇ ◇ ◇
『ここからは……自分の記憶も消失させるデス。
ので、ワタシと貴方だけの秘密にお願い致します』
『……ああ、いいぞ』
『実は、……実はデスね。彼を好きになってみたいですが。ワタシは。』
『うん』
『ワタシは、その……お、おっきい人、好きなんデス』
『……アァン????』
『その、ふくよかでどかんと大きい……! 脂肪分が、こう、どどんと身体にある人が好きなんです!!
ほら、機人は細い人しかいないのでっ! なので! そういう大きな人に憧れが』
『デブ専ってこと?』
『Oh!!! 言葉選ぶデス!!! 〇〇ック!!』
『お前の方が言葉を選べよっ!! 姫様だろ!?』
『と、ともかく!!!』
『分かった、分かったってメッサーリナ! お前はふくよか体型が好きなのな。
だからそのフェインって少年がガリガリ系だから好きになれないと』
『そこまで酷い言葉言ってないデース!! これから先、高カロリー爆弾で増えるかもしれないデスから!』
『やせ型の人間って太ろうとしても太れないらしいぞ』
『No……! ああもう!! 深夜テンションで喋り過ぎたデス!!!
いいデスか隊長!! 絶対に──』
◇ ◇ ◇
「答えられないな」
「ええぇぇ何故デスか!?」
「そりゃ──」
メッサーリナと全く同じ顔の、メッサーリナとは全く違うリナリナに向けて。
ジンは、懐かしい顔の、あの時の照れて赤くなった微笑みを思い浮かべた。
『絶対に! 二人だけの秘密にしてくだサイね!!』
あの時の、あの少女を真似して。──ジンも少しだけあどけなく。
「二人だけの秘密、だからだよ」
そう微笑んだ。
◆ ◇ ◆
いつもありがとうございます!
度々申し訳ございません……3/21の投稿を休載させていただきます。
次回は、3/22は夕方以降に投稿致します。
何卒よろしくお願い致します……。
暁輝 3/21 0:34




