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【総集編】宿場の町のココ家【45】


 ◆ ◆ ◆


 世界には、自分に似たヒトが3人は居るそうデース!


 尚、ワタシには十二個入り一組(ドゥゼンヌ)──1ダースくらい居ますけどね~!

 Oh! 笑う所デース! HAHAHA!


 そーなのデース。ワタシは予備素体。

 倫理的にNGなクローンなのデス!


 ああ、元存在(オリジン)を複製して最強の軍隊を作ろう! 的な計画で作られてないデスよ?


 元存在(オリジン)が損傷してしまった時、その臓器や血、その他のパーツを移植する為の存在。

 生きている在庫。生の予備素体。あるいは──有事の際の保険品。存在しない筈の寄贈者。



 機人(ヒューマノイド)の姫、メッサーリナ様。

 その予備在庫(スペア)がワタシなのデース。



 それも。ワタシは──諸事情により、生まれた瞬間から廃棄処分が決まっていた過剰生産品(オーバープロダクト)


 メッサーリナ・ナンバー22・オーバープロダクト。それがワタシの品番デス。


 ああ、言い忘れてたデス。ワタシ、所謂、機械の人デス。


 さて。まぁそんな感じのワタシではありますが。



 実は、ある人を──お慕いしておりマス。



 彼はとても残念な性格デス。

 目的の為には手段を択びません。人が死ぬのを見て笑っていられる悪党デス。

 帝国という国を屈強な物にする為、血の繋がった兄弟たちを悉く殺して伸し上がった悪い子デース!


 それでも。

 ……好きになった理由は語らないでおきましょ。

 あはは。だってまぁ、好きになっちゃったんデスから、仕方ありません!


 そして!

 その人は……ワタシに微笑んでくれます。


 その人は。微笑むその人の目に映るのは、ワタシじゃありません。

 ええ。ワタシは映っていません。


 

 ──彼は、ワタシと瓜二つの人を、心から愛しております。



 ワタシに掛ける言葉も、優しさも、愛情も。

 それは、メッサーリナ様。彼女に向けて渡されている物。


 ……いいえ。それでいいのデス。

 彼が、幸せなら。ワタシは。

 メッサーリナで、良いのデス。

 彼が、ワタシをメッサーリナ(リナ)と呼ぶなら。それでもいいのデス。


 ワタシは、好きな人の道具として使われている今。

 それで十分すぎる程に、幸せなのデスから。


 デスので。


 彼が、メッサーリナ様への愛情ゆえ、歪曲した復讐心を王国へ燃やしていても。

 ワタシはそれに付き従おうと思っている次第です。


 まぁ。そういう次第デス故。



 ──狂った怒号のような駆動(ローター)音が、響く。

 雪風に舞うのは、長い藍色の髪と兎のような機耳(みみ)

 ほのかに光る深蒼明(ネイビーライト)の優しい瞳。

 機械の両腕。後ろ首から赤と青のケーブル。

 人懐っこくも凛々しく愛らしい顔立ちの──メイド服の少女。

 10年前の戦争を経験した年齢の王国民なら、一度は見たことがある顔。


「メッサーリナ、様っ……」「おやめ、ください」

「貴方は……貴方はこんなことする人じゃ!」


「オー……ソーリー。元存在(オリジン)はそうなのかもしれまセン。

が、しかし──」


 血飛沫、血煙、血、噎せ返るその中で──機械の姫君は目を伏せて静かに微笑む。



「ワタシはマイマスター──フェイン・エイゼンシュタリオン様の命令に従うのみなのデス。

デスので、等しく正しく殺し斬りマース♪」



 駐屯基地、陥落。

 これで帝国と王国の間にある防衛拠点、基地、城塞──その全てが機能を停止したこととなる。

 尚、この基地での生還した勇者は0名だった。


 ◆ ◆ ◆【22】◆ ◆ ◆


 ──ジンはヴィオレッタの転移魔法を使って貰えなかった。

 結果、やむを得ずヴィオレッタが作った魔力の白い粉を服用してハルルの待つ東部まで翔けていた。

 ぐんぐん進んでいたのだが、その途中で民間人を襲う害竜を発見。

 民間人を助けた後、その際、協力してくれたシキという男性と意気投合していた。


「え! シキさん、40代なんですか!?」

「そうですよ。こう見えて私は子供も四人いますので」

「そ、そうなんですか。見えないですね」

 カラカラと楽しそうにシキさんは笑った。


「おべっかでも嬉しいですね」

「お、おべっかとかじゃないですよ。……凄いですね、子供四人て。大変そうです」

「大変なこともありましたけどね。娘ばかりだから意外と手は掛かりませんでしたよ」

「そう、なんですか?」


「ええ。娘は手は掛からず金が掛かる、とよく言われていますけど、その通りですよ。

私は息子が欲しかったので、早く娘たちには誰かと結婚して欲しいものです」

「そ、そうなんですか。お父さんって大体、娘の結婚は反対するのかと思っていました」

「え? そうですかね? 誰にも相手にされないより、それなりに相手にされている方が嬉しく思いますよ?」


「ああ、そう考えるんですね。なんか、シキさんて凄いですね……」

「あはは。凄くないですって。凄いのはジンくんみたいな剣術を言いますよ。あ、そうだ」

 シキは愛嬌たっぷりに微笑む。ジンは笑った。可愛いお父さんである。


「はい。どうぞ。金烏と玉兎と言います」

 シキは元冒険者であり、刀剣マニアだそうだ。

 その刀を是非に見たい、とのことでジンは見せる。

 刀は馬車の中だから抜かなかった。だが鍔と柄をまるで鑑定士のように集中して見つめ、時には軽くノックするように叩いて見せた。


(ほんとに鑑定士みたいだな。あれは音の反響を見て中の状態を確認してる──金細工とかでよくやる奴だけど……)


 そして馬車から降りて、宿場の町を進んでいく。

 偶然、シキとジンはこの町で降りた。


「あはは、ごめんなさい。マニアなもので。娘たちにもね、そういう気質が遺伝してしまってねぇ」

「ああ、娘さんたちも刀剣好きなんですか?」


「いいえ。一番上が釣り好きでね。今では船も買って隣町にあるらしく、時折、沖合に釣りに出てね。

二週間くらい釣りをして近くの魚屋さんに卸してるらしいんですよ」

(二週間くらい釣り……って、それ釣りの範疇越えてない??? 漁なのでは??)


「二番目の子が演劇好きでね。明日かな、共和国から帰ってくるの。週一でクオンガに行ってますよ。

私は演者さんの顔は詳しく分からないんですけどね。部屋一面に推しくんたちの写真が貼ってありますよ」

(お、おお……それはなんか身近に似たことしてた奴がいるからわかる範囲だな。週一国外は凄いけども)


「三番目の子は虫が好きでね。扉を開けてたら脱走して大変なことになってもいましたね。

趣味が高じて新種を捕まえたみたいでね。先日、南部の学者ギルドに呼ばれてて、大変だったなぁ」

(それもう博士なんじゃないの??)


 ……。

 それからシキは刀を撫でた。

「……あれ。四番目の子は?」

「……ああ。そうだね。四番目の子はね、《雷の翼》が好きでね」

「──」

「活発すぎる子で、ライヴェルグさんに付きまとってね。サインまで貰ってさ」

「──ぁ」

「?」

「あの。つかぬ、ことを聞くんですが。もしかして、その。娘さんの名前って」



「お父さん! お帰りなさ──あれ! 師匠!?」



「ハルル、さん」

 ジンが仲良く喋っていた相手。

 それはハルルの父。シキ・ココだった。


「お父さん、でした、かっ」


 ◆ ◆ ◆


 部屋に案内された時、時刻は既に夕方手前だった。


「──たった今「時間」が……! 飛んだぞッ! 

いつの間にか俺はハルルの家の宿、四季亭の部屋にいるッ!!」


「師匠? どしたッスか、そんな劇画調の顔して?」

「あ、いや。なんでもない……一度はやってみたかっただけというか」


(──お父さんに緊張し過ぎて、意識が全部吹っ飛んでた。などと言うことはハルルには黙っておこう。

いや、別に怖かったとか嫌だった訳じゃなくてさ。誰だって緊張するだろ? 恋人の父親ってさ??)


「でも、あのメッサーリナ様によく似た人、なんだったんでしょうね?」

「え? 誰それ?」

「え?? メッサーリナリナって名乗ってた人ッスよ? 師匠が戦って撤退させたじゃないスか!」

「あー。うん。そうね」

(そうなんだ、撤退させたんだ。割と、おぼろげだ。まぁその辺は憶えてないが)


「……お母さんの料理、美味しかったな」

「えへへ! そうッスよね! 当店自慢の母の料理ッス!」

「ああ。これは繁盛するね」

「そッスよー! もっと行楽シーズンになれば大繁盛ッスから!」

 ハルルはとても誇らしげに笑った。


「それにお姉さんたちも良い人達そうでよかった」

「えへへ~! 嬉しいッス! あ、でも怒らせるとバリバリ怖いんで!」

「そりゃ誰でもそうだろ。……ただ、一人会えなかったな。えっと、二番目の、アキ……」

「アキギ姉ちゃんスね! そうッスね。昼には帰ってくるらしいって聞いたんスけど」

「もう夕方だぞ。流石に遅いんじゃないか?」

「そうッスね……でも共和国と王国間なら比較的治安もいい筈なんスけど……」

「……なぁ。ちょっと見に行くか? 帝国が攻めようとしてるなら、何かに巻き込まれた可能性もあるだろ」

「確かに、ッスね」

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