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【総集編】愛MAXって名前はレッタちゃんに却下されたから愛の一文字になったんだよ! ともかくオレ、レッタちゃん守ること専用の超強い盾出せるようになったから! 現場からは以上です!【44】


 ◆ ◆ ◆


『──ガー。お前に鉄の魔法を教えているのはな。性質が合うからだ』


 それは──ある日の、狼先生の言葉。


『性質。今回は、性格と言い換えてもいいな。鉄とお前はよく似ている』

 どういうこと? と問い掛けた時、狼先生は目を笑ませたのをよく覚えている。


 ◆ ◆ ◆


「心音。あの人は一切、嘘吐いてなかったよ」

「オッケー! じゃあ緑の一族、えーっと、緑飼(りょし)だっけか。

ここの族長さんは敵じゃない(シロ)っと」


 レッタちゃんの嘘発見超耳力によって敵に情報を流した奴を探してる。


 とりあえず、緑飼(りょし)じゃないし、黄月(こうげつ)でもない。

 こうなってくると、一番怪しいのは、橙色──橙陽(とうよう)の族長だろうか。

 

 ともかく会って話せば解決だしな! 進めレッタちゃん!

 ……レッタちゃん?


「大丈夫?」

「うん?」

「疲れたみたいに見えたからさ」

「くすくす。気のせいじゃないかな」

 ──そう気丈に振舞っているけど、違う。

 歩幅が1.4mmも短いし、歩く速度もいつもより時速0.02も違う。


「……くす。魔力、まだ回復しきってないからふらつくだけだよ」

「そう、か」

「大丈夫。散歩してたら治るから」

 ──そう言って微笑んだレッタちゃんの背を見て、前に狼先生が言ってた言葉を思い出した。

 レッタちゃんは魔力が溜まりにくいらしい。

 より厳密には、魔力を自動で消費しているそうだ。


 その聞こえすぎる耳。その耳の音調節を、身体が自動で行っているとのこと。


 高性能すぎる彼女の耳(集音装置)によって、彼女は何十キロ先の音すら拾える。

 つまり、近くで鳴った音なんてオレたちの聞こえる何十倍も大きく聞こえるんだろう。

 それを、彼女の体は聞こえすぎてオカしくならないように、魔力で可聴域を調節している──らしい。


 日常生活に不便が無いのはその為らしい。

 しかしそれは、常時魔法を発動しているのと変わらない。


 ……だから、魔力が人より溜まらないそうだ。

 狼先生クラスの巨大な魔力があれば、魔力を移し替えたりなんかも出来るんだろうけどな。


「そうだ。レッタちゃん。少し休もう!」

「? まだ疲れて無いから休まなくていいよ」

「いやぁー……疲れちゃってェ。もう一歩も動けなくてェ」

「……靄でロケットでも、くっつけようか?」

「ちょっと本気な顔! ──実際は、そうだ。休むならこの美味しいクッキーをおやつにするぜ!」

「! じゃあ休む!」

 よし! レッタちゃんは素直でいいよね!

 ばっ! と切り株に座って、早く早くー! と足をぶらぶらしている。

 はい、あの姿、SSRです!


「……!」


 ふとレッタちゃんが立ち上がった。シリアスな、顔をしてる。


「どしたのレッタちゃ──……!」

 次の瞬間、レッタちゃんじゃなくても分かるほどの轟音が響いた。

 聞いたことのない音だった。まるで空気が圧縮されて、さらに引きちぎられたみたいな、爆発音。


 同時に海辺から煙が上がる。

 丁度、オレたちが居る場所が高台だから、よく見えた。


 あれは……王国領の港町だろう。

「襲われてる」

 レッタちゃんが呟いた。港町が……襲われていた。

 攻撃は、あの海から。戦艦たちが団子になって砲撃をしていた。

 ……あれ。さっきの爆発音は今撃ってる大砲の音とは違うな。さっきの、なんだったんだろう。


「──レッタちゃん?」

「ガーちゃん。オスちゃん。私、ちょっと行ってくる」

「ま──待っ」


 オレの制止を振り切ってレッタちゃんは、転移魔法を振り絞って──消えた。


「……レッタちゃん」

 ……オレの大好きなレッタちゃんが、誰かに負ける所なんて想像が付かない。

 けど──どうしても、嫌な胸騒ぎが、していた。


「オスちゃん。オレたちも急ごう」

「ええ!? いや賛成だけど、あの距離よ! (あたい)たちの足じゃ、夜になるわよ!?」

「構わない。急ごう」

「いや構わないって。でも──あら」


 不意に、オレたちの上から、黒い羽根が降りて来た。

 それはこんなことを見越してなのか、見上げた空に居たのは黒い影。

 先回りしてくれた黒い羽の(仲間)の姿だった。


 ◆ ◆ ◆


 ──王国を攻撃していたのは『海の国』の正規軍だった。

 それは、『帝国』の差し金。帝国に逆らえない海の国は、帝国の王国侵攻に協力せざるを得ない状態にさせられていた。

 この時は、海の国という名を伏せて、賊を偽装し、王国への攻撃を行った。


 帝国錬金術の随意を集めて作り上げられた透過艦エーデレッゲ。

 目玉は、その主砲──荷重回速式電壊砲。

 空間が歪む程に圧縮されて放たれる破壊の砲撃は、まるで光を放っているように見える。

 あまりの破壊力に、戦艦自体を自壊させてしまう為、2度までしか撃てない砲撃。

 しかも2度撃てば戦艦は半壊する。


 ともかく、その高威力の砲撃を見た者たちは口を揃えて言った。

 ()()()()だった、とヴィオレッタに伝えた。

 

 その光が当たった場所が、数十秒した直後に燃え上がり、吹き飛んだ。

 結果として、たった一撃で、この町を半壊させた超砲撃。

 

 ──ヴィオレッタは上陸した海賊に扮する海の国の兵士たちと戦闘を繰り広げた。

 そして、兵士たちを撤退せしめるに至った。


「──生きていても、我々に帰る国はない。失敗は許されないのだ。

そして、万が一にも失敗した時の為に、我々は海賊に扮している……。

海の国との縁が無い海賊に扮していれば、失敗した時。

我々は、本当にただの海賊として海の国に処理して貰う為だ。……生きていたら、それが証拠になる。故に」

 生き残った兵士は最後の誇りを持って、光の砲撃のエネルギーを蓄える。


「最後の瞬間まで攻撃! 攻撃だあ!」


 閃光の砲撃(レーザー)が放たれた。

 限界を超えた圧縮で戦艦自体からも火を噴き始めている。


 その閃光に──真正面から向き合っているのは、黒い靄を纏う少女。


 後ろに、逃げ遅れた町の魔族や人間、一般の人々。

 そんな中で、ヴィオレッタは知識を頭の中で回転させて現状を正しく認識していた。


(指向性熱光(エネルギー)の塊。圧縮魔法の常識的限界を超えた圧縮。

これが機械と錬金術の技なんだね。とはいえ限界を超えてこそいるけど、これは私の既知(常識の範囲内)だ。

雷竜の殺息(ブレス)や魔王の炎、それにライヴェルグの一撃。魔法や物理で、これ以上の出力を見たことがある。

だから断言できる。これは)




「──防ぎ切れる! 【靄舞(あいまい)】、守れ!」


 


 勝算あり。

 大きく開いた靄を広げて、傘のように四方八方へ光を逃がすことにより防ぎ切る。


 その熱こそ周囲に伝播するが、防ぎ切れていた。

 火傷を負いながらも、これくらいならばまだ治せる、そう理解しながら。


 理解しながら、ヴィオレッタの視界の端──彼女は見てしまった。


 見知らぬ少年が、瓦礫の下に居た。

 そこは、防御の範囲から少しだけ逸れている場所。

 つまり、後数秒、閃光を防ぎ切った時──その少年は溶けて死ぬ。


(──っ!!)


 ヴィオレッタは、考えるより先に体が動いていた。


 魔法的防御はこれ以上使えない。靄を解除すれば後ろにいる守るべき人が吹き飛ぶ。

 だから、焼けた瓦礫を、魔法を使わない素手で弾き──むき身の焼けていく手で少年を掴む。


「後ろ、にっ!」


 引っ張り上げる。腕の感覚がなくなりながらも──少年を助けた。

 そして、閃光(レーザー)も防ぎ切った。


「──生き残っ、た」


 ヴィオレッタが力の抜けた笑顔を見せたその次の瞬間。


               「撃てぇぃ!」


 戦艦が爆発した。

 2度までしか撃てない主砲。3度目を撃った時、戦艦は完全に機能を失う。


 さしものヴィオレッタすら。

 目を見開て、驚嘆した。



「なん──で」

 


 ヴィオレッタが驚嘆していた。

 それは、光の砲撃(レーザー)が放たれたから。

 高威力だったから。

 自爆特攻に近い暴挙が理解できなかったから。



 ではない。



 黒い烏の羽根を数枚散らして。

「なんで」

 レーザーと自身の間。つまり、目の前に。


「ガーちゃんっ!? なんで!」


 煙草をくわえて、カシャンコとライターを鳴らす、肌の黒い男──ガーちゃんが立っていた。


「逃げ──!」




「レッタちゃん。オレは──キミを守りに来たんだぜ」




 白い煙が広がるように。


「──たとえ、それが神様の一撃でも。勇者(ライヴェルグ)の斬撃でも」


 超巨大な白い盾。ど真ん中に赤文字で「愛」と記された馬鹿な盾。


「どんな攻撃からも、好きな人を守りたい。それがオレの願い(スキル)。だから」


 馬鹿程デカいその()が。

 



「──キミをどんな攻撃からも守って見せるぜ!」




 ──ガーに、術技(スキル)が発現した。

 ヴィオレッタを守る為の術技(スキル)。名前は彼がこの後付けるが──【(パーフェクト・ラブ)】という。

 愛する人への愛の大きさが、そのまま盾の大きさ。

 愛する人への愛の重みが、そのまま盾の重みとなる。


「ようやく気付けたんだ。レッタちゃん」

「え?」


「オレは──ずっとずっと、永遠に。キミを守りたいってさ」


「……くす。情熱的?」

「そうだ。そーだぜ、情熱的だ」

 真剣なまなざしに、ヴィオレッタは初めて軽く視線を逸らした。


(──レッタちゃん。キミが強いから、一人で行っちまうじゃん。

その背中、いつも見てるだけじゃ、辛過ぎるんだよ。だから)


「だから、これからも。一緒に居よう。──一緒に、居て、いいかな?」

「……くすくす。もう。ずっと同じ返事だよ。

──好きなだけ、一緒に居ていいよ」



 ◆ ◆ ◆


『性質。今回は、性格と言い換えてもいいな。鉄とお前はよく似ている』

 どういうこと? と問い掛けた時、狼先生は目を笑ませたのをよく覚えている。


『鉄は、意外と柔らかいのだ。しかし、強度を高めることも出来る。

……鉄の魔法だけでは、他人を傷つけることは出来ない。寧ろ、その逆。

だから。ガー。お前が習得する魔法はきっと──いや、それどころか術技(スキル)さえも。

きっと──誰かを傷付けないものばかり得るんじゃないか、と思っているよ』


 ──大切な人を守ること。



『あの子を、頼むよ』



 先生に託されたこと。ちゃんと果たせそうだ、って思った。

 胸を張って。

 先生。







 レッタちゃんを幸せにします!!! 




 って言ったら『娘はやらん!!!』って言うだろうね!


 そんな声が聞こえるから。

 先生って、オレの中に、しっかりと生きてるんだ。って実感した。

 だから、こんなに強い術技(スキル)も生まれたのかな。……な。先生。

 ありがとな。……ありがとう。先生。



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