【総集編】Chapter 8 : 槍と拳【36】
オレが出来ることは、いつもいつも、ものすごい少ない。
ハルルッスがパバトを止める為に戦いに向かった。
だからオレは、戦闘地域から少し手前──倉庫に居た。
王城勤めの勇者が物置のように使っている倉庫らしい。
大小宴会の小道具にくす玉、クラッカーやらお祭りを彩る為の道具が無数に置かれている。
それはともかく。
現状、オレに出来ること、って、なんだよ。
ハルルッスと一緒に戦うこと?
出来ない。あんな化物との戦闘なら、オレは足引っ張るだけだ。
王様の怪我を治すこと?
出来ない。オレの出来る止血作業なんて、指切った所に絆創膏貼るのが限界。
じゃあ何が出来る?
王様のどてっぱらに穴が開いてて、王子は泣きそうで、ハルルッスがパバトと戦い始めた。
倉庫の二階でそれを見ているオレは、何をしているのが正解か。
ハルルッスはオレに、任せた、って言ってた。
なら、オレに出来ることを、考えるんだ。
出来ることをしないと。
オレに出来ることは……出来ることは。
落ち着こう。落ち着く為に、煙草を──と思ったが、壁にでかでかと『火気厳禁』と書いてある。
そして、タバコ絶対NGの文字も。
よく見れば足元に転がっている箱にも、火気厳禁と文字が彫られていた。
……? 文字が書かれている。暗がりの中、目を凝らしてよく見た。
これは。
「……終戦記念用、打ち上げ花火?」
◆ ◆ ◆【19】◆ ◆ ◆
父と子
◆ ◆ ◆ 8 ◆ ◆ ◆
Chapter 8 : 槍と拳
「俺、言ったよな!? 切りのいいところで切り上げようってさ!」
「でもジンがノリノリだったんじゃん!
私がもういいかなって思ったら、隣で勇者ぶっ飛ばしまくってたじゃん!」
「違っ! あれはお前! ちょっと数が多かったから大薙ぎ払いしただけだろ!?」
「でもその後、そのまま次の部隊に挑んでいったじゃん!」
「そりゃ確かにそうだけど! あれを威嚇だったんだよ! そしたら、そのタイミングでお前が突っ込んできやがって!」
「そこは確かに私がやろうとしたけど! 違うじゃん! ジン、すぐ違う所に切り込んでたし!」
「お前のことを遠くから狙ってるやつがいたから駆除してたんだよ!
つかお前こそだろ! 駆除し終わったから戻ってみたら、お前が全然違う所にいたんじゃん!」
「あれ違うし! 向こう側に魔法使いの群れが居て遠距離魔法打ってきたから倒しに行ってただけだもん! それに戻ろうと思ったら、ジンが『必殺! 八眺絶景!』ってやってたじゃん!」
「あれはお前が囲まれそうだったから──いや、それより俺は一度も『必殺』とは言ってねぇよ!!
つか、八眺絶景は由緒正しい技なのっ! 技名を言うのも流派のしきたりなんだっての!」
「ふぅんそう! でもカッコつけてるの見え見えだったけどね! 刀を振ってびゅんびゅん、すちゃっ、す! って鞘に納めて!」
「っ! あれは血払いだッ! 血脂耐性は付いてる刀だけど、ああいう風にやらないと錆びんだよっ!」
「ふーん! じゃぁその後の、息を吐いてふぅー、どやの顔も血払いなのかなぁ??」
「あ、あれは一息ついた後の顔だってのっ! お前だって飯食った後、はぁー食った食ったって顔すんだろ!?」
「はぁ? 人斬るのと食事するのに結び付けるとか超怖い人なんですけど! 犯罪者なんですけど!」
「っ、お前っ、ほんと俺に対して生意気だよなっ!」
「くすくす。馬が合わないんだよ、貴方とは」
「ああ、そうだな。同感──」
「くっ……国賊共め……ッ! せめて一矢報いて──」
「「喋ってる最中だから話しかけんな!!」」
黒刀と黒鎌が一閃。
最後に残っていた勇者が仰向けに倒れた。
城内の勇者──完全沈黙。
殲滅完了! と字幕が出てもおかしくない程の、気を失った勇者たちの山を見てジンは深くため息を吐く。
「やっちまったよ……。城内殲滅」
「くすくす。ほんと化物だねぇ」
「お前に言われたくないぞ。ノー魔法で手抜きしてやがった癖に」
「? あれ言ってなかったっけ。禁式って魔法を受けてて、魔法が発動出来ないんだよ」
「ァ? まじか。じゃあ転移魔法は」
「使えないね。朝まで」
「まじかよ。じゃあ合流地点までどうやって──」
その刹那。──外で炸裂音がした。
それが、花火の音だと、二人は気付く。
「──花火?」「だね」
──一瞬で、ジンとヴィオレッタの顔は真顔になった。
こんな時間に花火が上がることなんてありえない。
だが、花火が上がったのなら、それは──もしかすると。
「……背負ってく。背中、掴まれよな」
「……」
「おい。急いでんだよ」
「はぁい。仕方ないなぁ。お姫様抱っこされないだけましかぁ」
◆ ◆ ◆
実力差があり過ぎた。
ハルルは確かに強くなっているが、彼女と相対するその巨漢は強かった。
(認めたくないッスけど……今まで戦ってきた敵の中でも、かなり、一番……いえ、弱気になっては、ダメッス)
爆機槍は、ハルルの魔力に呼応し、激しく爆発を起こす。
戦いながら何度も爆発と爆光でパバトの身動きを止めながら優位に戦闘を進める。
だが、ダメ。
熱風で目を、爆音で耳を焼こうとも、パバトは自身の肉体を自在に組み替えて戦える。
(物理が効かない系の敵ッス。つまり、魔法関係が一番有効なんスけど)
「僕朕はさ。絶望に落ちた時の顔が好きなんだよね。
堪えていたけど決壊してさ、怯え悲しみ、ただ断末魔のような叫びをあげる。
その声が、その顔が、途轍もなく愛おしいんだよ」
「……興味ないッスね」
「それでいいよぉ! 気丈であればある程、壊れた瞬間の叫びは最高なんだぁ! あへあへぁ」
毒を纏うパバトは乱雑に拳を打ち込む。ハルルは槍でそれをいなす。
槍の方がリーチがある。拳と槍なら圧倒的にハルルが優位。
だが、パバトは刺さろうが爆発しようが、すぐに再生。
「爆機槍っ!」
パバトの顔面が弾け飛ぶ。──どん。
しかし、再生が行われていく。
「芸が無いねえー……」
首をガチャガチャと動かしながらパバトは笑う。
パバトは体を低くして突進してくる。
(!! 速っ!)
猪のような突進。合わせてハルルは爆機槍で地面を叩き、爆風と爆音を生み出してから隣へ弾けて避ける。
「音と風で混乱? しないなぁああ!」
「っ!」
乱雑な爆発。パバトは体の至る所を吹き飛ばされながらもハルルに突進する。
合わせてハルルもスライディング──パバトの足元に槍を這わせた。
足払い。そして相手を投げ飛ばす技。
「花筏ッ!」
「前も見た技を、何度もまともに受けはしないさあ!」
パバトは体を大きく仰け反らせる。
辛うじて吹き飛ばされはせず、とはいえ、ぼよんと音を立てて数歩後ろに下がる。
パバトは笑っていた。まだまだ余力がある。
楽しんでいる。ハルルの持て得る技を全て受けるつもりだ。
「さぁさぁ! どんどん殴ってきてくれよお!
キミの出来る全ての攻撃を受けるからさぁ! すべてが無駄だった時! 徒労に終わった時!
その時、キミはようやく絶望を見せてくれるだろう! さぁ!」
ハルルは真っ直ぐにそれを見た。
だから、パバトを見据えて、駆け出した。
(この子はねえ。性格がまっすぐだ。奇襲や罠は絶対に張らない。
だから読める。目だけ見てれば簡単にねぇえ! ぶひゅひゅ!)
「だぁぁあっ!」
三連突き。だが、パバトはそれを難なく躱す。
「無駄だよ。次は叩き付けだねぇ!」
パバトは爆機槍の真上からの盾一文字──所謂、叩きつけを左側に跳んで避けた。
「私を見るんじゃなくて、後ろを見た方がいいッスよ!!」
(ぶひゅ。一丁前に攪乱してるよ? ぶひゅひゅ。馬鹿な女だなあ)
「向いてないよ! そういうのはさぁあ!
キミはねぇえ、罠とかブラフとか、仕掛ける戦い方じゃないのはもう理解してるんだよ!
目がもう真っ直ぐ! キミは戦いに集中し過ぎる!
周りを見る能力が薄い馬鹿の典型だあ!」
「その通りだね。よく自分のことが理解できているじゃないか。変態魔族」
滴る水のような凛々しさで、車椅子の賢者は指を組んでいた。
「な」
「周りが見る能力が薄い馬鹿の典型。ハルルよりも、完全にキミに当て嵌っているね」
「賢者、ルキィ!!」
「ボクの名前くらいキミに呼ばれなくても知っている。しかしなんだな」
瞬間──パバトの前身が凍り付いた。
「キミの最後の言葉がそれとは──些か締まらないね。
『白年封蓋』──黙って凍れ」
パバトは、足の先から頭の先まで真白な氷に包まれた。
「ルキ、さん……っ!」
「大丈夫かいハルル。──花火とは機転が利いたね。おかげですぐに転移魔法でこれたよ。
──それより、か」
ルキはすぐさま踵を返して血塗れの王へ駆け寄った。
「ハルル。悪いが止血等は手伝ってもらう。大丈夫かい」
「は、はいッス!」




