【総集編】Chapter 6 : 王様と王子【34】
王国史において、多くの尊敬を集めている王は先代の賢王ダックスという人物である。
逆に、最も尊敬から遠い愚かな王は──その息子の一人だ。
──現国王ラッセル・J・アーリマニア。彼は──愚王と呼ばれている。
ある時を境に、ラッセル王は自室に引きこもって酒と薬に溺れ、大臣たちに国政を任せきりになった。
妻とも会わず、子とも会わない。
世間的には、親愛なる弟であるバセットという人物が惨殺されたことによるショック、とされている。
しかし、真実はそうではない。
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父と子
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Chapter 6 : 王様と王子
純粋禁式が王の居室を覆っていた。
それは王国、いや、この世界での最高峰の防御力を持つ、セーリャの術式だ。
発動してしまえば、中から開けなければ、外からは開けることは出来ない。
その発動より前に──王の居室には侵入者が入っていた。
少年王子ラニアンと、筋肉魔女男ヴァネシオス。
懸命に、王の命が危ないと伝えるが──ラッセル王は鼻で笑った。
「そんな戯言に付き合う暇はない」
「ざ、戯言!? 確かに我は第三者だけど! 実の息子がこんなに真剣に言ってるんだから、ちゃんと聞いてあげなさいよゥ!」
「実の息子? はっ。くだらんな」
「くだらッ!? あんたなんて言い方を──」
「そいつは実の息子なんかじゃねぇ」
「え」
「父、上?」
「父上なんて呼ぶな。……俺に似ないで優秀で、俺よりも青い綺麗な目だ。
……弟の、目も……そういう色なんだよ」
「な……そんな、訳。証拠、は」
「確かに、そんな厳密に調べる方法はない。けどな。……けど、生まれて来たタイミングがおかしいんだよ。
余も後で知った。……お前は余の弟、バセットと。余の妻が浮気して生まれた子らしいぞ。
余の甥なだけ。子供じゃねぇんだ。お前なんか」
言い放ち、ラッセルはベッドに座った。
「そ、そんなはず、ないのだ。母上は……父上を愛していると」
「言うだろ。もうバセットは死んでるし、生きてる余が王だから。
余に歯向かうようなこと言わんだろ」
「……母上が、浮気をしたと、言ったのであるか?」
「……もうどうでもいいだろ。この話は」
「どうでもよくないのだ」
「五月蠅い。もうこの話も、お前の言う俺の命が危ないっていう話も終わりだ。
お引き取り願おう。さもなきゃ衛兵を呼ぶ。屈強な勇者をな」
「……父上。信じて欲しいのだ」
「父じゃないから無理だな」
「……っ。……国王陛下。余方は、間違いなくこの耳で聞いたのだ。
ナズクルが、国が滅びてもいい、と言った。王を殺すと、その口で言ったのだ。
信じて欲しい。信じて、欲しいのだ」
「証拠も無いのにどうやって信じろと」
「ラッセル王ならば。……演説の時にも、言っていたのだ。
賢明な人の声に、耳を傾けると! 父上。いえ、ラッセル王! 王として!
……余方の、目を見て、話してくれないか」
ようやく。ラッセルは、ラニアンと目を合わせた。
(──ラニアンは、大きくなった。だから、会わないようにしていた。見ないようにしていた。
怖かったんだ。もしも、どんどん顔が、バセットに似ていったら。
だから、余はこいつを遠ざけ続けた)
「国王陛下」
その真剣な目。真っ直ぐな目に、曇は無い。
「……余、は」
ラッセル王が口を開いたその刹那。
「ふぬぅん!! 正打顎下!」
ラニアン王子の頭上を通り抜けた一直線の拳。
不条理過ぎる拳。何が起きたのか、ラニアン王子もラッセル王も理解出来なかった。
ヴァネシオスの拳が王の顎を揺らして意識を刈り取った。
「おおおおおオスちゃん殿ぉ!?!?!」
「あはぁん☆ なんか頑固っぽかったから気を失わせてさっさと拉致ってくわよ~」
「え、あ、いや! なんか良い雰囲気で父上も拉致られるのを受け入れてくれそうだったのだが!?」
「いいじゃないの~! 説得はまどろっこしいし、後でゆっくり話し合いなさいな~」
「え、ええー……」
──やや力業で王を拉致に成功した。
しかし、セーリャの介入やユウの行動など、歯車は少しずつ狂いだしていた。
一人の巨漢の魔族の男は、ある場所で待機していた。
(ぶひゅひゅ。王城から勇者たちの目を避けて逃げるなら……この場所かなぁ)
◆ ◆ ◆
──ジンは、窮地を脱却すべくロクザから二刀を借りた。
あまり知られていないことではあるが、ジンの得意武器は双剣。
刀二本を携えて、ジンはユウに相対する。
「──ユウ。悪いが急いでるんだ。……つーわけで、ちゃんと防いでくれよな」
「はい?」
「ちょっと強めに斬るから──防ぎ間違えたら、お前死ぬからな」
「ちょ。ま、もっとゆっくり戦いましょうよ! ただでさえ短いのに、これじゃ本編よりも短く──」
「『極陽世界』」
加熱され、炎を生んだ|金烏(刀)が、極光を生む。
銀世界──ジンが使ったその技は、いうなればただの連続攻撃だ。
しかしジンがそれを行えば、音の速度を越える。そして、金烏という炎を生む特性もあいまって、炸裂した火薬のような光を生んだ。
焼き過ぎたパンのように黒焦げになったユウを一瞥してから、ジンは刀を鞘に納める。
「ん。まだ原型あるな。よし次」
ジンは虚空を踏んで移動をする。
王城に真っ直ぐ向かったその途中で──見つける。
(あれはヴィオレッタか)
ヴィオレッタが勇者たちに囲まれていた。
(魔法で薙ぎ払えばいいのに、そうできないのは何か理由があるのか?
はぁ。まぁいいか。助けてやるか……)
ヴィオレッタに向かって飛んだ銛を弾き飛ばし、ジンはヴィオレッタの前に立つ。
「よお。随分と怪我してんな。流石に侵入は重荷だったか?」
「……なんか助けるタイミングを計ってたみたいでムカつく」
「はぁぁ?? 助けてくれてありがとうの一言くらい言えよなあぁ??」
「助けられてないんですけどお?? あんな銛、余裕で躱せるんで??」
「ああそうかよ。肩で息しながらもう限界アピール化と思ったんだけどなあ」
「んなワケ無いじゃん。貴方と違ってまだ全然若いから」
「今だ! 仲間割れしている間に攻撃を集中させろ!」
「「仲間じゃねぇよ!!」
一閃。炎を纏った黒刀と、嘴のように黒い大鎌が向かってきた魔法と勇者を切り裂いた。
「くすくす。それにしても凄い数だね」
「だな。仕方ない。とりあえず、ここを乗り切るぞ、ヴィオレッタ」
「指図しないで。私に合わせて」
「馬鹿野郎。協力プレーじゃなきゃ袋叩きにされて終わりだぞ」
「……はぁ。分かったけど。最悪だね」
「そうだな。最悪だな」
背中合わせで、ジンとヴィオレッタは周囲の勇者を一睨みする。
「俺たちの前に立ってるお前は」「人生で一番、最悪な運勢みたいだよ」
それは鮮やかな攻撃だった。
バトンのように回る大鎌。鮮やかな舞のような双剣。
前衛の十数人があっという間に切り裂かれた。




