【総集編】革命プレゼンテーション【27】
時は少し遡る。
溶鉱炉から取り出したばかりの鉄のような、灼熱の赤を束ねたような髪の少女がいる。
正義と刻印された鉄槌を持ち、白いマントを靡かす勇者。
彼女の名前はティス。ティス・J・オールスター。
今日の彼女は少しだけ、弾むように歩いていた。まるで子供がホリデーのプレゼントを開ける直前のような、浮足立った雰囲気で。
「ご機嫌だな。ティス」
その隣を副官の男、スタブルが行く。
「はい。楽しみでありますよ。今日、クエストを達成すれば念願の略綬を獲得できそうでありますから」
スタブルは首を傾げた。
耳慣れない略綬という言葉を質問しようと思ったのだが、そのままティスは楽しそうに語り出してしまう。
「達成困難でありましたからね! 魔族種を30種類征伐した証!
後の一種類がどうしても見つからなくて各地を旅して歩き回り過ぎて疲れたであります!
しかし、バーンズさんのおかげで最後の一種類、居場所が掴めそうでありますから!」
略綬というのは、武勲章である。
軍人や勇者が正装の際に胸に付けるメダルなどがそれにあたる。
この世界で一番有名な物で言えば、竜種討伐の証である翼の形をした『翼撃章』だ。
他にも、魔族の集落を破壊したことを認められた場合の『砲将章』や、クエストを短日で3個以上クリアした者に与えられる『傑物章』などがある。
証という以上の価値はないのだが、それでも求める人間は多い。
「あの綺麗な星形。大星章。必ず手に入れるでありますよ」
鼻息荒く、ティスはガッツポーズなどをしながら微笑んだ。
「そうか。……で、この辺りが目的地か」
「であります! さぁ探すでありますよ」
スタブルは仏頂面でその場所を見る。
ここは、かつて『薬草園』だった場所。
「バーンズは本当にこの場所で半人を見たのだろうか」
「貴方も一緒だったでありますよね?」
「俺は薬草を守っていたシャルヴェイスを抱えていた」
「なるほど」
「──本当に、この辺りに爬虫人がいるのだろうか」
「……いるでありますね。間違いなく」
ティスの目は、まるで空気の中にある粒子でも見つめているかのように、鋭く細くなった。
戦場で見せる横顔。真剣に血の臭いを嗅ぎ分けて、獲物を見つめる顔。
「そうなのか」
「ええ。直感であります。ただ、魔族という生き物はこういう場所に魔法で入口を隠して暮らす。
……悍ましいでありますね。つい目と鼻の先に人間の集落もあるというのに」
自分の身体を抱きしめるようにしてからティスは辺りを舐めるように見回した。
絶対に居る。そう呟きながら。
「どうやって見つけるんだ?」
「簡単でありますよ。害虫の見つけ方など、大昔から決まっているであります」
「隊長ぉおおお、重たいんだけどぉおお」
その間延びした声にティスは振り返る。
「遅いでありますよ。悪はすぐに滅ぼさないとすぐ増えるであります」
「いやぁぁ、それならぁ、一個くらい、持ってくれよぉおお」
「嫌であります」
背後に追いついて来たのは、荷車を引く男たち。
その荷台には──大筒。
「大砲か?」 スタブルが訊ねるとティスは首を振った。
「残念ながら大砲を買う余裕は無いで在ります。
私が買ったのは『花火』でありますよ」
「花火?」
「そうであります──古今東西、虫を追い出すにはこれが一番」
ティスはおもむろに荷車の花火の筒に近づいた。
ぽん、と触って少女は微笑む。まるで天使のように優しい顔で。
「燻り出しであります。この森、全て焼き払うのであります」
狂った瞳に、天使の微笑み。少女は、命令を下した。
火炎は──森を瞬く間に火で覆う。
焼け落ちた木、焦げた土。その中で──彼女たちはその洞窟を見つけた。
無傷の洞窟。──無傷。ということは、何らかの魔力的な干渉がある場所だ。
洞窟を乱雑に調査し、ティスはある岩壁を蹴破った。
そして。狂った瞳が笑みを浮かべる。
「最高であります。ついでに砲将章も獲得のようであります」
◆ ◆ ◆【17】◆ ◆ ◆
薄暗い夜、波のうねり声が聞こえてくる。
陥落した魔王城。
しかし廃墟とはなっていない城。
その城は現在、王国の所有物である。
文化遺産だから保護をしたのか? いいや──王国の持ちうる技術で破壊が出来なかっただけだ。
結果、立ち入り禁止として、出入り口を封印するに終わった城。
しかし、その城に明かりが灯っていた。蝋燭の灯りはある一室にある。
円卓の間。
闇に輪郭を描き出した彼らは──円卓を囲む。
一人目。巨漢の魔族。
彼は『元四翼』。紫翼神のパバト・グッピ。
二人目。灼熱の髪の少女。
五級勇者。『正義狂い』のティス・J・オールスター。
三人目。人形のような少女。
未だ謎の悪党『恋』。その使いであるイクサ。
四人目。猛禽類のように鋭い目をした男。
元《雷の翼》。王国参謀長のナズクル・A・ディガルド。
「もう集まっているな。よく忙しい中集まってくれた。
今日は今後の作戦と利益の分配に関しての話を──」
「あ、もう始まってます??」
そして扉を五人目が開けた。
彼は、青い髪の細い男。
身体にぴったりとした服を着た、童顔の男。彼は部屋に入るやいなや、にこやかに微笑んだ。
「「「誰」」」
「……あ、忘れていた。お前も呼んだんだった」
あまりの対応に一瞬だけ五人目は引き攣った笑顔を見せたが、そこは冷静。
大人の対応とはここから巻き返すことですよ、と言わんばかりに前髪をかきあげて、こほんと咳払いなど一つかまして見せた。
「──僕の名前は『ユウ』。ユウ・ラシャギリ……と言えば、分かりますかね」
勝算ありなにやり顔でユウが言う。
「ぶひゅひゅ。僕朕、女の子以外の名前は覚えられないからなぁ」
「だから誰であります?」
「誰でしょうか」
「っ……。僕は、《雷の翼》に所属していた男です!」
赤面して声を荒げると──円卓の彼らはそろって首を傾げた。
「僕朕はさぁ。やーっぱり《雷の翼》のメンバーならロリっこのプルメイちゃん一択ゲーだしなぁ」
「いたでありますか? 有名どころではなさそうでありますが」
「昔の勇者には興味ないですね。私が生まれるより前ですし……」
「……」
「ユウ。まぁ。そのなんだ、途中で離脱したお前は割と影が薄い。
名前も『新生児ランキング』で上位に来る名前だし。
今から爪痕を残してくれればいいと思う所存で」
「そういう慰めの仕方が一番傷つくんですよっ! 貴方がクーデター起こす前に僕が貴方にクーデターしてやるっ!!」
耳まで赤くしたユウの怒声をナズクルは珍しい困り顔で宥めていた。
それを横目に、パバトが興味深そうに首を傾げた。
「クーデター? ぶひゅ。なんぞそれ?」
「ああ……説明の順番が前後してしまったな。そうだな。順番を飛ばして説明すれば『革命』を行い、それぞれの利益を獲得できるようにする」
「ぶひゅ? なるほどぉ? 詳しくどうぞ??」
「詳しくも何も、やることは単純明快だ。国王ラッセルを殺す。新政権樹立。
そして新政権で戦争開戦だ。
戦端は魔族に向ける。そして、戦火は不運な事故で獣国に飛び火する。
この獣国が本命だ。」
──パバトには『敵国の少女を自由にする権利』。
「ぶひゅぅ! 獣人ロリっ子ハーレム! キタコレ!」
「本当に気持ち悪いでありますね。この方」
「ですね」「それは全員同感だ」
──ティスには『正義の使者としての矜持』。
「魔族と獣人は経典上不法占拠を行っているでありますから、奪い返した土地に正義の御旗を立てるであります」
「ほんとにティスちゃぁぁぁん。それしか言わないねぇぶっひゅぅ」
「正義に準拠することが正義でありますから」
──『恋』には『求めている研究の素材』。
「恋様が探している蛇種の爬虫人を頂けるのであれば、協力を結べると思います」
「……爬虫人?」
「? ティス? どうした」
「い、いえ。なんでもないであります」
──ユウには……この場でこそ話さないが、彼の生きる行動原理の為の物を。
「……ナズクルさん。こっちの利益は分かったんですけど、これをやることによってナズクルさんは何を得られるんですか?」
ナズクルは一度言葉を詰まらせた。
しかし、ユウの質問は煙に巻いた。
「……俺が革命を起こす気になった理由はどうでもいい。
それより全員の利益が勝ると思うのだが。
協力するのか、しないのか。そういう選択肢だ」
沈黙が流れ、中央の燭台の火が少し揺れる。
蝋燭が滴り、ティスはばっと手を挙げた。
「自分は協力するであります! 人類に敵対する悪を根絶することが正義でありますから!」
「僕朕も問題ないねぇ。ぶひゅぅ! 戦争していくロリっ子。考えただけで涎が」
「こちらは持ち帰るとしか言えません。ですが、獣人国が標的となるのであれば、恋様からのいい返事をお持ちできると思います」
ナズクルは彼らを見てからユウを見やる。
「……まぁ。僕も参加ですよ。先にもう色々と打ち合わせしてますしね」
「──では。我々の利益と理想の為に。今後も良しなに頼むよ」
闇の中で、利益と理想を旗印に──彼らは蠢く。
魔王よりも暗く、勇者よりも目的の為なら手段を択ばず。
欲望のままに、世界さえも変えてしまおうと、彼らは動き出した。
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いつも読んで頂き本当にありがとうございます!
昨日11日は投稿を行えず申し訳ございませんでした……。
代わりの本日、投稿させていただきました。
よろしくお願いします。




