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【07】『無理』です【14】


 ◆ ◆ ◆


 雨の中、少女が進む。

 黒緑色の長い髪、黒い毛皮。少女の名前はヴィオレッタ。愛称は、レッタ。


 レッタは、ずぶ濡れになって、町への道を行く。

 そして、その隣には、二つの影。

 黒い毛並みの狼と、びしょ濡れた煙草を咥えた真っ黒な肌の男。


「おい、止まれ。お前達、何者だ」

 門番の一人が長い槍を構えて止める。

 立ち止まったレッタは、目も合わせずに答えた。


「分からない」

「はぁ?」

「意味が……分からない」


「意味が分からないのはこっちだ。……ん。お前の顔……もしかして手配書の!」

 一人の門番が気付き、隣の門番も慌てて槍を構えた。

 そして、門番は警笛を鳴らした。


 すると、門の詰所から、五人、いや十人もの勇者たちがぞろぞろと出てくる。


「お、おい! 手配書の女だ!」「さっき、トゥッケが懸賞金を掛けてたぜ!」

「生かして連れていけば、金貨何十枚も貰えるぜ!」

「またメスガキかよ」「意外と可愛いじゃねぇか」「トゥッケに差し出す前に回さないとな」


 下卑た笑い声が混ざる。

 レッタは、ぴくっとその会話の一部をしっかりと耳に残した。

 拳を震わせる。それは、怒りか苛立ちか。



「何で、マッキーを殺したの。意味が、分からない」



「な、何を訳の分からんことを言っているっ!」

 一人の勇者が槍を突き出した。

 先端が、消えた。


 いや、勇者の腕は、引きちぎられた。


 何があったのか理解できず、叫び声も上げられないまま──勇者の腹部に穴が開いた。


「う、ぁああっ」

 ようやく声を上げた。だが、それすらも遅い。


「【靄舞(あいまい)】……刻め」


 勇者の顔は、真横に切断された。

 そして、肩と腕と、腰と足が、一瞬にして切断される。

 激痛に、ガラスを引っ掻いたような甲高い叫び声が聞こえた。

 だが、それも、一瞬で終わる。痛すぎて、叫ぶことすらも忘れる。


 トマトを切り開いた時のような、夥しい体液が、噴き出た。


「や、やりやがった、な!」「う、おぉおっ」「な、なんだこの化け物!」

「くそ、殺せぇ!!」「おおおおっ」


 勇者は挑んできた。不思議だ。

 私に、勝てる気なんだろうか。と、レッタは、イラっとした顔を浮かべる。


 剣が振り下ろされる──その斬撃を、黒い刃が受け止めた。


 黒い刃……いや、それは、黒い骨の羽だ。

 少女の背から出ているのは、黒い靄を固めて作られた羽だ。

 羽、というより蜘蛛の足のようだ。そんな黒い骨羽が、計十二本あった。

 それらは、攻撃を受け止め、勇者二人を弾き飛ばす。


 そして、レッタが体をくねらせ、その骨羽の一つが大きく横薙ぎで勇者に向かった。

 これは防げる、と、勇者は剣で防ごうとした。


 それが、判断ミス。

 レッタが放った骨羽の一撃は、剣を易々と叩き折り、勇者の体の上半身を軽く斬り飛ばした。

 返り血が、レッタを染めていく。


「あ、ああっ」

 今、上下二分された男がここのリーダー格だった。

 レッタは知る由もないが、彼の死により、ここの勇者たちの統率が一挙に失われた。



 そこからは、虐殺だった。


 逃げようとした勇者の後ろから突き刺し、その鼻の穴から脳天までを骨羽で貫き殺す。

 向かって来た勇者の両腕を吹き飛ばし、絶望した顔を蹴り飛ばし、踏みつけて殺す。


 胴体を抉り取られ、ハラワタを引き抜かれ、死の痛みに泣き叫ぶ勇者。

 髪と、耳と鼻と瞼を削ぎ落され、その削がれた髪と耳と鼻を喉に詰められ窒息死した勇者。

 眼球をくり抜き、両手の指を落とし、その眼窩に指を詰められて死んだ勇者。




 その光景を見せつけられて失禁する、勇者。

 ロン毛の、汚い顎髭の男は、震えあがっていた。


「偶然、生き延びた訳じゃない」

 レッタは、淡々と告げた。


「お前だけ、さっき『また』って言った」

 黒い骨の羽の、鋭利な先端が、男の太腿に突き刺さる。


「痛っぃいいい」

「今から、私の問いに、馬鹿みたいに正直に答えて」

 ぐりぐりと、動かす。


「いぃい痛ぁだあぁぁ」

「お前、マッキーをイジメた?」

「い、ぃいいっ」


「答えろ」

「は、はいぃぃ、で、でも領主様の命令で仕方なくっ」

 もう片方の太腿へも、突き刺す。


「あぁあああああっ!!! い、痛い痛いっっ」

「犯したの? 殴ったの? それとも、お前が殺したの?」


「ひ、お、犯して、殴りましたっ」

 骨に当たる。その骨を砕く程の力を入れる。

「ギァアアアアッ!! あああっ!?」



「マッキーを殺した奴らはどこ」



「ひ、ぎぃ」

 痛みで汚く歪んだ顔。

 もうダメだ。逃げたい。どうにか、どうにか。

 勇者は、敗北を悟り、生き汚く逃げようとする。

 その背を、突き刺す。


「い、痛い痛い。じんじゃう。お、おねがい、じまず。だすけで」

 真顔で、レッタはその話に頷く。


「いいよ。助けてあげてもいいよ」

「ほ、ほんとっ」

「うん。ただ、おねがいを聞いてくれる?」

「な、なんでじょう」



「昨日、お前たちが殺したマッキーを、生き返らせろ」



「は? そ、そんなのは、無理、です」

「そう。それが、答え。『無理』です」


「あっ、あ……」



 刺す。

「ぎぁぁっ!」

 刺す。刺す。刺す。

「ぎ、ぁぐぁ、ァィィィ」

 刺す。刺す。刺す。刺す。刺す。

 それは、もうミンチになるまで、入念に。


 そして。

 門番をしていた勇者は、一人残らず虐殺された。


 門番が居なくなった門を抜け、国境の町の中へと入った。


「あーあ。こんな派手に暴れて」

『ふん。まぁ、いいんじゃないか。たまには』

「それに、これだけ派手に暴れれば……向こうからも、出て来てくれるはずだしね」


 レッタは見据える。町の真ん中に位置する、貴族の館を。

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