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【総集編】一途【19】


 その女性は、すらっとした上背のある女性だ。

 長い真っ直ぐな髪は、氷を鏤めたように淡く光るような薄水色。

 あどけなさを残しつつも、凛とした美しい顔立ち。


 彼女の名前は、サクヤ。

 その額にある2つある『小さい角』で分かる通り、鬼人族の女性だ。

 現鬼人族の『元締め』。そして、魔王討伐隊《雷の翼》に所属していた勇者の一人である。


 鮮やかな着物を纏い、どこか憂い顔が似合う彼女は目を細める。


 立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花──


「べ、別に! ナズクルが心配だから一緒に地下大迷宮(ダンジョン)に入ってあげた訳じゃないんだからね!」


 ──喋ってしまえばラフレシア。


「……昔は、もっとこう。真面目な感じだったと記憶していたが。随分とまぁ」

 彼女の後ろを歩くのは、赤褐色の髪を持つ男、ナズクルである。


「何!? ナズクルも僕が負けヒロインだからって馬鹿にしてるの!?」

「いや、何の話だ」

「うぁあああ!! BSS! BSS! B、僕が! S、先に! S、好きだったのにッ!」

「ああ。その話か。まだ続いていたんだな」

 魔王討伐隊《雷の翼》の中に『公然の秘密』が幾つかあった。

 その内の一つが彼女にまつわることだ。

 ──『サクヤ・アイシアは、ライヴェルグに恋をしている』。

 気付いていないのは当事者のライヴェルグと、サクヤ本人だけという状況。

 部隊の一同は、サクヤのことを微笑ましく見守っていたのであった。


「そーだよっ!! 失恋の話はまだ続いてますー!! ずっと僕のターンですぅ!!

朝、ナズクルが会いに来てからこの話題を合計2時間、まだまだずーっと続けますぅう!!」


 ちなみに僕っ子被りである。


「次の恋を探すことに一票投じておく」

「そう簡単に切り替えられないのが乙女なんだよぉおお!! うわぁあん」

「乙女、ねぇ」

「うらぁ!! こんな美少女になんてこと言うんだぁああ!」

「……はぁ。悪かった。訂正する。乙女だな乙女。立派な乙女だ」

「謝って済んだら勇者はいらないんだし!」

 辟易し、ナズクルは溜め息を吐く。


「それより、隊長だよ! 隊長! 僕が見ていない間にっ。

僕が居ない間にぃぃぃ、あんな可愛い子と仲良くなっちゃってぇええ」

「ああ。ハルルか」

「そぉおおだよっ! うぁああん」

 見た目は麗人。中身は子供。ナズクルは無表情のまま歩みを進める。


「なんで隊長が生きているって僕にこっそり言わないんだよぉおお、ばかナズクルぅ!」

「悪かった。次は言う」

「次があっちゃダメなんだよ、ばかっ!」

「ああ、そうだな。そんなこと、あってはいけないな」

「そうだよ!」

「ああ──大切なことだな」 そうナズクルは呟いた。


 ナズクルとサクヤはただ散歩をしている訳では無い。

 彼らが行くのは雪禍嶺(せっかりょう)地下大迷宮(ダンジョン)──目的地は。


「ここか。例の男が落ちた場所は」


 地下大迷宮(ダンジョン)内の深い大穴──最下層まで直通の大穴である。

「そのはずだよ。『変態魔族のパバト』だったよね」

「ああ。──俺たちが《雷の翼》を結成した頃には四翼から退いていたが。

重篤(・・)な危険人物だ」

「そうなんだ?」

「ああ。もしパバトが四翼から左遷されておらず俺たちと直接戦っていたら……少し厄介だったかもしれないぞ」

「……ナズクルがそう言うレベルなの? でもこの穴に落ちたら普通は死んじゃうと思うよ」

「そうだな。普通なら(・・・・)死ぬだろう。ともあれ、生死の確認は重要だ」

「あ。ちょ、僕も一緒に行くよ!」

「いいや、上で待っていてくれ」

 ──ナズクルはそう言って穴に飛び込んだ。


 暫くその場でサクヤは待つ。だが口をへの字に曲げて、うーんと首を傾げる。

(僕も一緒に行かないと戻ってこれないんじゃないかなぁ。

というかもしパバトっていう魔族が生きていたらナズクル一人じゃ危ないじゃないの??)


 そう思いながらも根が真面目なサクヤは悶々と考えた。

 2・3分くらい唸ってから、サクヤは意を決して声を上げた。

「ナズクルー! やっぱり僕も行くー!!」


 そして飛び降りる。

 何百メートルあるのか分からない暗がりの自由落下(ダイブ)

 およそ人間の力を越えたような動きで、サクヤは壁を蹴る。

 たんたんたん、と小気味のいい音と共にサクヤは着地。

 ニィと笑うサクヤに「上で待っていてくれと言ったろうに」とナズクルは溜め息を吐いた。

 それから、「あれを見ろ」と呟いてサクヤの後ろ側を指差した。

「わ。骨だ。蛇かな」

「そうだな。──やはり。パバトは生きているようだ」

 ナズクルはそう言い、サクヤがこちらを見ていないことを確認した。

 そして、靴の裏で(・・・・)青い炎を(・・・・)踏み消す(・・・・)


 誰かを転移させたことを、決して悟られないように。


 ◆ ◆ ◆【16】◆ ◆ ◆


 ◆ ◆ ◆ 2 ◆ ◆ ◆


 ──終戦記念祭に向けて、各地ではお祭りが行われていた。

 各国の首脳たちも王国に入国しはじめ、見て分かるほどのお祭りモードだった。

 世間は大賑わいだ。新聞じゃ、王国の第一王子であるラニアン王子がお忍びで(こっそりと)城下に遊びに来ていたという記事が載っていた。本当に平和で何よりだな。


 こんな平和な祭りの裏で──『大きなうねりが暗躍している』と、誰も気づいていない。


 魔王の復活。

 謎の男、恋。

 活発化する魔族。

 何かの陰謀を張り巡らせるナズクル。


(分かっている。頭ん中で。今が色々と大変な時期だと。

──きちんと理解している。だけど。反感は百も承知)


 本日は、ハルルとのデートの日。


(世界の平和も大切だが──俺にとってはそれと同じくらい、デートが大切だっ!)


 時間ギリギリ。

 語ればそれこそ一つの物語が出来るとジンが豪語する程のトラブルを潜り抜け、彼は文字通りの雷速(しんそく)で待ち合わせの場に降り立った。


「師匠っ! おはようございます!」

「ハルル! 悪い、俺、遅れ──て」


 ジンは、絶景を使った時のような時間停止の感覚を味わっていた。

 優しい陽の光りに照らされた彼女に目を奪われていた。


 白いレースのワンピース。裾は生地に馴染んだ桜色。

 ツバの広い麦わら帽子を被って、太陽みたいに微笑むハルル。


「そ。そんなに見つめないでくださいッスっ! 恥ずかしいッスよ」

「わ、悪い」


 ハルルはもう一度にへらと微笑んだ。

 そして、一番の変化は、髪。その色。


「あ、っと。えと。

あれだな。お前、髪の毛、先っぽだけ、染めたんだな」

「え、えへへ。そうッス! 毛先だけ染めるのが流行ってるらしくて。

ちょ、ちょっと冒険しすぎたかなって自分でも思ってて。そ、その、似合ってないのは分かるというか」

「あ、違う! 悪い! そうじゃないんだ、その──さ」

「?」

「……似合ってる。だから、その。凄い、見ちゃったんだ」

「……えへへ。その言葉、聞けたなら幸せ、ッス」


 噴水の音だけが流れた。気まずいというよりかは気恥ずかしく。


「わ、悪かったな! 遅刻! ちょっと、まぁ短編小説クラスに色々あって」

「? 気にしてないッスよ? というか遅刻してないッスよ?」

「いや。俺から誘っておいて時間ギリギリって」

 ハルルは笑った。

「じゃぁ師匠。時計見せてくださいッス」

「? なんだ? いいけど──」

 ジンが懐中時計を渡すと、ハルルはゼンマイを回した。


「ほら。今はまだ9時45分ッスよ! 15分前集合、完璧ッスね!」


「ハルル」

「えへへ!」

 天真爛漫に笑ったハルルに、少し明るい声でジンは言った。

 彼女の優しさに対して、心を込めて、優しい目を向けながら言葉を続けた。


「時計はきっちり時間合わせないと使い勝手悪いから、元に戻すぞ」

「およよよ」


 それから、二人は目を見合わせてから、笑い合った。

 こうして二人のデートは始まった。


 ◆ ◆ ◆


 のだが。

 まるで厄災を一身に受けているんじゃないか、そう思う程に『何かが起こる2人』だ。

 2人でデートしている最中に何か事件に巻き込まれない筈がない。


 本人らもデートを楽しむためにトラブルが無いようにしよう、というデカい釣り針を発言する程だった為、ある意味では望んでいたのかもしれない。


 《雷の翼》非公式(ファン)ショップ。

「……こんな店があったなんてな」

「私は行きつけのお店ッス!」

 王都の路地裏。大通りに店を構えないのはライヴェルグの存在故だろう。

 ともあれ、ジンはそこでの買い物(ごうもん)を終えてハルルと一緒に外に出た。

 直後、黒服に追われる少年を見つけることになる。

 

 例に漏れず少年を助け──そのジンの強さを見た少年が、目を輝かせた。


「な、なんと強いのだ! その黒髪は金髪に染めて貰うとして……その背丈と筋肉は丁度良いのだ」

「あ? ああ?」

「頼みがあるのだ! 余方(わたし)の代わりに、余方(わたし)を演じて欲しいのだ!!」


 厄介ごとを賜ることに。


 少年の名前は『ニア』。

 彼の抱えた事情は──世代じゃない(・・・・・・)俺からすれば複雑だ


 王国は戦後まもなくから国内全土で雑誌が流通している。識字率が他国よりかなり高いのはそれも影響しているらしい。

 そして昨今、その雑誌で趣味を語る文通相手を募集するコーナーが流行っているらしい。


 顔を知らないが趣味の合う友人──文通友人(ペンパル)と言うらしい。


 ニア少年は趣味を通じて、女性の文通友人(ペンパル)が出来たそうだ。


 文通を続けていくうちに、相手の女性に惹かれていった。

 しかし、相手は年上。それも19歳の、立派に仕事をされている綺麗な女性だったそうだ。

 曰く、旅芸人の一座で踊り子をしながら、各地で天文学の講師をしているとのこと。


 そんな彼女に釣り合うように……嘘を吐いてしまった。というのが今回のコトの始まり。


 それも、まぁ『盛大に盛った』のである。

 自身を『身長180㎝』『24歳』『筋肉質な体格』『趣味は片手で果物潰してジュース作り』。


「んで、ご職業が」


「王国内務省の官僚なのだ……」

「エリート中のエリートッスね」

「大盛越えて特盛だな。他には何て書いたんだよ」


「特技はフラッシュ暗算とバク転と書いたのだ」

「この世で本来は交わらなかった筈の趣味たちッスね……」

「だな。ギガ盛ってことか……まったく。実際に会う約束さえなければ嘘のままに出来たのにな」

「うっ」

「それはそれで駄目ッスけどね」


 そう──会う約束をしてしまったらしい。


 というのも、彼女は次の公演の為に王国を出て別の国に向かうそうだ。

 次に王国に戻るのは十数年先かもしれない。

 だから、最後に会いたい。ある夜会の会場で待っている。それが彼女からの手紙だった。


 ──本来、自分が吐いた嘘には自分で決着をつけてこい、っていうのが筋だしそういう考えだ。

 けども……ニアの真剣な言葉に溜め息しか出なかった。


 背伸びをしたくなった気持ちも分かった。真剣に恋しているから、出てしまった(せのび)なんだろう。

 彼女を好きだから、最後は彼女の幻想(ゆめ)を守りたい。


 ……まぁ、やっぱり『だったら自分で会え』が答えだ。し、そう思うからこそ(・・・・・・・・)、引き受けた。


 俺が会ってから、事情を説明するタイミングが作れるかもしれない。

 そしたら。少しは話せるかもしれないだろ。幾らニアが子供でも、歳が滅茶苦茶離れてても。

 趣味が合うなら大丈夫だって思うからさ。


 ──などと微笑みながら行った、約束の場所。

 それは趣味の『会合』の夜会。


(ニアが居た場所から連想出来たじゃねぇかっ!! くそっ!!)


「王国のこの場所で《雷の翼》ライヴェルグ様・ファンの集いが再開できたこと!

協力してくださった皆様、心から──」


(地獄か!! ここは!! 《雷の翼》ライヴェルグ様・ファンの集い!!!??)


 ジンは全身が痒くなるような恥ずかしさと嬉しさともどかしさが同時に溢れていた。


「では皆さん、お手を拝借! 乾杯(サン・サンダー)!」

「「乾杯(サン・サンダー)!!」」

(やめてッ! 当時はカッコいいって思ってた俺の挨拶ッ!!! やめくれええええ!!)


「大丈夫、ニアさん? 顔赤いけど」


「あ、えぇ。いや、平気だけどお」

 裏返った声でジンは返した。

「そかそか。ニアさんって面白いなー」

 灰銀色の長髪が風に靡いた。焼けた肌の色が眩しい彼女がニアの文通友人(ペンパル)

 名前はピヨンさん。彼女は南から吹く風みたいにカラッと笑った。


 そこから、手紙に書いていた狂った盛りを解決していった。


 素手で果物(南に生えてる棘が付いたパイナポーという奴)を握り潰し。

 どこからか持ってきた板20枚に書かれた3桁の数値。フラッシュ暗算用だ(絶景でクリア……ッ!)。

 バク転30連発。久々に本気、出しました。


 ここまで。完全にお題をクリアして。

 クリアしたからこそ。か。

 ピヨンさんは楽しそうに笑う。


「貴方、ニアさんじゃないでしょ?」


 ──ああ、やっぱりバレたか。

 そうだよな。手紙の相手、趣味が合う相手……そりゃ、分かるよな。

 代役だってことは説明した。

「ニアさんってどんな人? どんな相手でもいいから会ってみたいなってね」

 やっぱりそうなるよな。

「あっちの湖の向こう側からこっち見てる筈だから、連れてくるわ」

「ほんと。ありがと!」

 対岸に、湖沿いに進む。そして、茂みの中。会場から見えないその場所で。


「何やってるんですかね、こんな所で」


 そこに居たのはサーカス団の時の先輩──『王国の勇者』で潜入捜査を専門に行っている『コルテロ』という勇者だった。


「……お前が『ラニアン王子』を連れ去ったと聞いたからな」

「ラニアン、王子……?」

 ──言われて、朝の新聞を思い出す。

「……あー。あー!」

 ニア──こいつはこの国の王子だ。

 『ラニアン王子』だ。


「王子は連れて帰る。夜会に代役が行くのは問題なかったが……。

あんな『危険思想の集会』に王子を出席させるわけにはいかない。

ライヴェルグなんかを崇拝するヤバイ連中だ。

カルト教団の方が幾分かマシだ」


 ハルル、セイセイセイ。ストップハルル。

 狂犬の牙が出てるぞ。


「迎えに来てくれた勇者よ。すまない。だが余方(わたし)は」

「なりません。聞き分けてくれって。

安全じゃない場所に出せないんだ。貴方の身分は分かっているでしょ」

「だけど」

「だけどじゃない。これは」


「おい。割って入って悪いけど、ニアの気持ちも分かってやれよ」

「……気持ちでどうにもならない。

万が一だ。万が一、そこに王国転覆を願う奴が居たら?

護衛無しでどうして守れる」

「私が頑張るッス!」

「だとよ」

「出てくんな、冒険者崩れの女勇者が」


「ふん! 何を言われても、ニアくんがどうしたいかッス!

ただ好きな人に会いに行くだけ! それを誰が止められるんスか!

ニアくんが一番したいことを、言ってくださいッス!

その本当の気持ちの為なら──私たちは力になるッスよ!」


「ハルル殿……!

分かったのだ。余方(わたし)は、夜会で会いたい人がいるのだ」


「王子」


「その人物に、余方(わたし)は取り繕った嘘を吐いた。

その嘘を正さねば一生後悔する。

だから。会う。自分の心の言う通りにするのだ!!」


 走り出したラニアン王子にコルテロは諦めた笑顔を浮かべた。


「はぁ」

「追っかけねぇの? 先輩」

「いいや、職務に戻る。王子探しだ。王都中央の方にいっかなぁ」

「え?」


「──ありゃ王子じゃない。ただのニア少年だ」


「だから純粋な興味で、恋の行く末を覗きに行こうぜ。

護衛も兼ねてよ」

「いいッスね! いきましょ! さ、師匠も!」

「ああ、そうだな」

 

 ◆ ◆ ◆


 夜会の会場まで走った。息を切らせてその少年は辿り着いた。

 汗ばんだ体で、息を荒くした金髪のニア少年は、夜会の会場で彼女を見つける。


 灰銀色の長い髪、焼けた肌の色が眩しい踊り子。

 彼女は、その隣にいる赤いドレスの黒銀の髪の少女と話し込んでいるようだった。

 姉妹だって聞いていた。顔が似ている。



 呼吸を整えて。

 ニア少年は、真剣な顔で、微笑みを作る。

 少し照れ臭い。ずっと会いたかったから。

 そして、ようやく会えたから、安心して、変な笑顔になった。


「キミが、ニアくん?」

 灰銀色の長い髪を掻きあげて、問われる。

 ニアは意を決して頷いた。


「嘘を、吐いてしまったのだ。年齢も仕事も。──ごめんなさい」


 ハルルたちが見守る中、灰銀色の長い髪の写真の彼女の前へ。

 そして。


「嘘を吐いた手紙だった。でも、信じてはもらえないかもしれないが、思いは本当であった。

確かに仕事のことや資格とか、色んな嘘を書いてしまったのだ。

でも。それでも、キミに対して抱いた気持ちは本物だ。だから。

……今、ここに。この場所に来て、分かった。……いつも」


 手を伸ばした。

 写真に写っていた彼女──


 ──その隣にいる、赤いドレスの少女に向けて。


「お返事、ありがとう」

 灰銀色の髪の女性──その隣に居る彼女の妹。

 その少女が、目を丸くしてから──泣きそうな顔で笑った。


「ニア、さん……。お返事……ありが、とう」


 少女──少女ピヨンは、泣きながら、その手を繋いだ。


 ◆ ◆ ◆


「ピヨンさんの方も、代役だったんスか!?」

「あはは。そういうこと。あっちにいる妹。

見かけによらず見栄っ張りだったみたいで、最初に年齢の嘘を吐いたのは妹だったの。ごめんね。

あ、あの妹がピヨンで、私がパヨ。パヨ姉ちゃんでいいよー」


 からっと彼女は笑ってからことのあらましを話してくれた。


「妹がね、ずっと手紙でやり取りしてたからさ。

見ず知らずの大人とのやり取りなんて危ない……と思ったらほら。

相手が妹と同じくらいの年齢って分かってさ」

「え? 何で分かったんだ?」

 ジンが訊ねると、パヨ姉はにったりと笑った。


「字。全然、子供だったから」

「ああ。そうか……! なるほど。そうだよな」

 大人びていても、七歳の子供の字で二十六歳はバレるよな。


「まぁ、後は皆さんのご想像の通り、というか、そっちも同じだったんじゃない? 

嘘を吐いたことを恥ずかしがりながらも、一目相手を見たいから、代役を頼んだ、みたいなね」


「嘘みたいに同じで驚いてるよ」

「あはは、でしょ!」


 そして湖畔で二人は笑い合っていた。

 星空の下で。どんな話をしているかは聞こえない。

 ただ、それでも。

 ピヨンとラニアンの、小さな手が重なった。

 二人はそっと手を繋ぎ、恥ずかしそうに笑っていた。



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