【総集編】絡まる糸の始点は何処か【17】
◆ ◆ ◆【15】◆ ◆ ◆
王立中央サーカス団。
そのサーカスは世界を巡業している王国発の大サーカス団。
余談を語るなら──この世界においては20数年前の『一時停戦時代』、退役した軍人や武芸に長けた兵士や傭兵崩れが食い扶持を作る為に技を娯楽として見せたことが流行の始まりだ。
バラバラにやっていても稼ぎが少ないという所に目を付けてある男が当時の王のお墨付きである『王立』の看板を得るまでに発展させた。その男の名前がティバー・ラーナム。
「貴方は舞台の花になれる! 大丈夫、ちょっと契約するだけさ!」
雫型飛空師用サングラスを掛けて、上から下まで真っ白な燕尾服に、白い紳士帽子。
怪しさを絵に描いたようなこの男の名前は、ティバー・ラーナム。
会った時はまさか『王国娯楽の立役者』と言われた男だなんて知らなかった。
俺がその事実を知ったのは事件が解決した後である。サイン貰っておけばよかったと後悔している。
とにかく口が巧くて──あれよあれよと俺は契約していた。
いや、まぁ。サーカスを見張っていたから中に入れるなら、丁度良かったと言えば丁度良かったんだけどね?
──ハルルが『捕まった』。
ちょっと言葉が強すぎたな。厳密には『捕まったふりをして潜入捜査をしている』。
誘拐犯たちを一網打尽にする為にハルルは捕まったふりをして潜入捜査しているのだ。
実行犯と、その雇用主が居ることはもう割れていた。
ならその雇用主に辿り着く為に『受け渡し時』を狙って、全力を持って犯人たちを確保する作戦だ。
とはいえ。ぶっちゃけ言えば心配だ。ハルルも、その子たちも。
だから、内部に入れるのは丁度いい。
「──貴方はね、実は人を笑顔にしたいと心の奥底、その顔の下で思っているね。
ああ! 大丈夫! その優しい心根があるのは既に見えている! 実は人の為になりたいけど、どうすればなれるかは分からない! そんな優しい心が見て取れるよ!」
照れるし否定しようと思ったけど、彼の言葉はくるくる回る。
高揚したように、笑うような楽しい声は踊ってるみたいに言葉を回す。
「俺はその、人前って実は苦手で」
「そうなんだろうね! 堂々とした所作と同時に他人の為に一歩下がる気遣いが出来る!
きっと顔を隠して表に立つような芸が似合うね!」
ビクッとした。俺はライヴェルグと名乗ってた頃、兜を被って顔を晒していない。
偶然かもしれないが、見透かされたようで心臓の奥が跳ねたように感じた。
「ということで貴方にぴったりなのは──これだー!」
「……?」 随分と派手な衣装だ。白を基調にどこからでも目立つ赤が混ざって金色の刺繍も施されている。これは。
「『道化師』!!」
「ピエロかよっ!」「顔は全て白塗りするよ!」「いや、えっと!? おどけるのは苦手というかッ」
「だっははー! 道化師はね、ただおどける訳じゃあないさ!
周囲をしっかりと見て、場を盛り上げ、司会進行し、トークもする!
場繋ぎの為の即興はね、周囲への観察眼と度胸が無ければ出来ない!
けど、貴方なら出来る! その剣士のように鋭い目に腰の据わった胆力! 絶対に出来るね!」
いやいや、いきなりは出来ないというか。
と、やんわり拒絶して見たものの──翌日には道化師のジンさんが仕上がりましたとさ……。
まぁとはいえ本当にラーナム団長はしっかりとした『団長』だった。
教えるのも上手く段取りはすぐ覚えられた。なるほど、適性を見抜く力は凄いらしい。
結果、俺の初舞台は上々──いや、ほんと別に舞台で成功する為に来た訳じゃないんですがね。
「あ。また会ったね、ジン。なぁにそのカッコ。変な道化師だねぇ」
──『本日の主役』というタスキを掛けてドレスに身を包んだヴィオレッタ。
ヴィオレッタが笑いながら出て来た時は本当に錯乱した。
何の因果か……ヴィオレッタ一味も全員ここに居た。
……丁度、よかったかもしれない。
俺は、魔王と話をすることを望んでいたから。
けど。そう上手くは行かなかった。
お互いに──昔の話を避けるように、少し距離を置いていた。
というか少し気付いたのが……魔王は俺をライヴェルグと分かっている筈なのにそう呼ばない。
その上で、仲間たちにも俺がライヴェルグだと伝えないらしい。
まぁ、伝える必要も無い、ってことなのかね。
「ともかく。俺はここの誘拐事件の黒幕がお前らに繋がってるんじゃないか、って思ってた部分もあったんだが」
「繋がって無いね。私は誘拐なんてしない」
「だろーな。少年少女ばっか誘拐するって感じがお前らとは合わない。
まぁ、そういう変態に、心当たりは一件あるけど」
「……」 ヴィオレッタはじっと狼の魔王を見た。
『おい……なんで私を見る?』
「師、子供好きじゃん?」
『……知らん』
「あー、すねたー!」
『ふん』
仲いいね、おたくら……。まぁいいや。
「いや、あの、パバトって言う奴がいるんだろ?
会ったことは無いけどルキたちの話からソイツかと思ってたが」
『パバトは奈落の底に落ちたと聞いたがね』
「らしいね。だから違うのか」
『まぁ尻尾を出すまで待つしかないだろうな』
尻尾を振りながら狼姿の魔王が言った。ツッコミ待ち……なんだろうか。
しかし、ヴィオレッタ一味のおかげで『誘拐の目的』が判明した。
人造半人──胸糞悪いがそれを作っているようだ。
雪禍嶺の村にあった増えた死体は──大方、実験で失敗した死体を遺棄したという所か。
ともかく。この黒幕を早く捕まえた方がいい。
ヴィオレッタの研究を悪用しているらしく、こいつらも犯人を捕まえたいようだ。
だから、一時共闘。
本当に嫌な因果だよ、まったく。呪われてんのかって感じだな。
──この時、ジンは、ハルルが潜入していることを敢えて誰にも話さなかった。
魔王を含むヴィオレッタ一味を、少し快く思う部分は否定できないが、それでも『敵』。
仲間がどれくらいどこにいるか、という情報は漏らさないのが常道である。
──魔王もまた、ある思いがあり、ジンに深く質問をすることは無かった。
魔王が隠したい、いや、可能なら話したくないことがあるからだった。
──そしてガーは、ハルルが言っていた『師匠』というが目の前にいるジンと繋がっていなかった。
──この時にそれらの秘密が明らかにならなかったことは幸運だったのかもしれない。
そして。持ち寄った情報を精査していくと、犯人になりうる人間が浮かんできた。
誘拐は、樽に詰めた少女を物資搬送口から回収して『どこかに隠す』という手口だ。
その日、物資搬送口を自由に開閉出来て、どこかに運ぶことが出来たのは、たった3人。
「まずは団長か。一番怪しいよな。いつも一人で行動しているし」
『後は副団長も怪しいぞ。資材運搬担当でもある』
「そういえばジンをいじめてたナイフ芸の先輩とかも怪しいよー。よくどこかに消えてる。
その日は自主練してたらしいけど、嘘っぽかったしね」
「いじめられてねぇよ。……とりあえず、この3人に当たっていくしかねぇな」
◆ ◆ ◆
(犯人の術技は『別空間』を作り出す術技ッス。
鏡を出入り口にして、いうなれば『鏡の中の世界』みたいな、そんな感じッスかね)
(自分一人で出るだけなら簡単そうッスけど……。
この場には私含めて11人いるッス。それも、私より年下の子が主ッス)
(今朝連れてこられた子が5歳。最年少ッスね。
一度に全員で脱走はちょっと難しい……ッスけど、脱走計画は準備済みッス。
ここに来てから3日程度経ちましたので、外での見張りのパターンは読めてるんス!)
──ハルルは教わったことを実践した。
見張りの行動パターンを読み、音を立てずに無力化に成功。
誤算は2つ。
暗い夜の海は荒れて、潮の香りと揺れ。強い風。ここは沖合。
「船の、上」
「ああ。キミも酔ったの? 海賊でも酔うって言ってたけど、確かにキツいよね。はは……ん」
糸目の、貴族のような男が甲板に居た。彼はハルルの足音を聞き、困った顔を浮かべる。
「キミ……誰だ?」
ハルルは一瞬躊躇した。しかしすぐに状況を整理して行動に出た。
(この誘拐を行ってる海賊船に乗っているという時点で、確実に敵側の人間ッス!!)
この時、ハルルの先制攻撃は完全にその糸目の男──『恋』に命中した。
もしも。この一撃をただの打撃じゃなく『爆破』で行っていれば、全てを完結らせることが出来たのかもしれない。
そのくらい──千載一遇の機会ではあった。
「……っつー。逃げられてるじゃないか……まったく」
「大人しくするッスよ! 拘束させてもらうッス!」
「はぁ……なんだよ『勇者気取り』に潜られてるじゃないか。嫌だなぁ。
王国の優秀な方に嗅ぎ付けられてるって聞いてたから今回が最後だったのに。あーあ」
彼がその腰から何かを抜くのが見えた。
ナイフ。戦闘員だ。すぐに理解し、ハルルはすぐさま動いた。
武器が使える戦闘員だとするなら、次は致命傷を与える為の突き。
だが。ハルルは突き出せない。槍は『絡め取られるように』動けなくなった。
「! 糸ッスか!」
「おお。目が良いんだね。細い糸だからよほど目が良くないと見えないんだけどさ」
「熱鉄!」
「へぇ。火の槍ね。面白い武器だね」
そう言いながらデッキの手すりに手を這わせて、何度か確かめるように掴んだ。
糸を裂いて後ろに下がったハルルは──その男、『恋』の動きを見逃していなかった。
「……貴方、目、見えてないんじゃないッスか?」
「──自己紹介がまだ、だったね」 質問に答えず『恋』は笑い、言葉を続けた。
「自分の名前は『恋』っていうんだ。キミの名前は?」
「……ハルルッス」
「ハルルか。いや、キミは凄いね。気付ける人は少ないんだ。訓練してるからね。
ああ、でも、船の上じゃ流石に気付けるかもな。音が多すぎてね、苦手なんだよ。
とりあえず、質問に答えようか。よく言うだろう。だからこう名付けたんだけどね。
『恋』は盲目──いいネーミングセンスだと思っているよ、恋は」
「……自虐的で、あまり好きではないッスよ」
「ああ、そう。それは残念」
──糸を自在に扱う『恋』。それは糸の大きさや太さ、強度までもが自在に扱えるということだった。
刃のように鋭い糸を無数に操り、ハルルを追い詰める恋。
しかしハルルの方が有利だった。
糸を焼ける爆機槍と、盲目の恋が最も苦手とする音の多いこの場所。
ギリギリでハルルは『恋』を追い込むことに成功する。
されど、形勢は逆転した。
恋は『悪党のお約束』と嘯き人質を取ったのだ。
窮地に追いやられたハルルだが、咄嗟の機転で大砲を炸裂させる。
爆音により恋の耳を封じ、人質も助けることに成功した。
「勝負ありッスね」
「ハルル、と言ったね。……見事だよ。認める。恋の負けだ」
「そうスか。潔いッスね」
「いいや。潔くはない。──全力で逃げようと思う。
その研究材料を投棄し、イクサと自分の身を守ることだけに専念する」
「逃げられると思うッスか」
「逃げられないと思うかい?」
イクサと呼ばれた女の子のネックレスの一つを恋は外し──炸裂する。
急に船は爆発音と共に上下左右に激しく揺れた。
「船底に爆薬を仕掛けていた」
「!」
「本当はね。全てを運搬し終わった後に証拠隠滅で消し飛ばす予定だったんだ。海賊も船もね。
予定が早まっただけ。さて──この恋を追うかい? 追ってきてもいいが、『鏡の中の子たち』はどうなるかな? 船と一緒に鏡が沈んだら」
にやりと笑った恋は、イクサを抱きしめたまま『空中に跳んだ』。
糸を、何かに引っ掛けて飛んでいるのだろう。
「待っ! 待つッス!」
追いかける術も時間も、ハルルには無かった。
恋の影を追うのを諦め、すぐに客室の鏡へ戻る。
その鏡の中に子供たちが入っているのだから。
鏡が割れないように木箱に入れて、抱えて外に出ようとした時。
炎が何かの爆薬に引火──更なる爆発でハルルは木箱を抱えたまま、階段から落下してしまう。
そして──一時的に、意識を失った。
◆ ◆ ◆
──恋とハルルの戦いが終わる、少し前頃。
ジンとヴィオレッタはサーカスの内通者を炙り出すことに成功した。
犯人は、副団長だった。
歪んだ動機を侮蔑の眼差しで見送り、子供たちをどこにやったか聞き出す。
もう既に海賊に渡した。その事実と同時に、東の方の空に赤黒い光が見えた。
「ジン。爆発音だよ、あれ」
ヴィオレッタが鋭い声でそう言った。
「あんな遠くの音まで聞き分けれるのかよ」
「うん。本気出せばね」
「……爆発音。東の方っていうと、海があるよな」
「そうだけど、ジン。どうしたの?」
「実は……子供たちを救出する為に、一人、誘拐された子たちの中に紛れてるんだ。
──俺の、助手というか従業員というか、ともかくそう言う奴が乗ってるんだ」
ジンは胸騒ぎがしていた。海賊と戦い、あの爆発が起きているんじゃないか、という胸騒ぎが。
実際、『それは正解』であった。
「海の方に行ってくる。悪い。ここは任せる」
「はーい。じゃーねー。その間に私たちはこの副団長から『依頼人』、聞き出しとくよ」
任せた。そう告げてジンは雷の軌跡を残してその場から去る。
その直後──凶刃が走り抜ける。
片手剣の一撃目は副団長へ。その一撃をヴィオレッタが蹴りで止めた。
次の刃は団長に向かう。それもまた魔王──狼先生が靄で防ぐ。
「こ、この子」
「くすくす。……嫌な物を見たね。人造半人、じゃないの?」
──ヴィオレッタの研究を用いて作られた人造の半人の少女がそこに居た。
目的は明らかに──証拠隠滅の為の、副団長抹殺。
団長も攻撃対象に含めているのは『副団長から伝えられているかもしれないから』であろう。
居た方が不都合かもしれないなら、消してしまった方がいい。それが殺す側の見解だ。
「──貴方の飼い主の命令かな?」
ヴィオレッタの質問に人造半人の少女──スヴィクは答えなかった。
人造半人は多くの種族の『強み』を体に取り込むことが出来る。
一つの身体に竜人のような超腕力に、獣人の跳躍力、牛頭魔の高魔力も組み込める。
並大抵の人間は簡単に薙ぎ倒されてしまう。
──しかしながら、ヴィオレッタも狼姿の魔王も『並大抵』という枠では括れない存在だ。
苦も無く、人造半人スヴィクを無力化。
その体の中に埋め込まれた爆薬を見て──ヴィオレッタは嫌悪を覚える。
「貴方の飼い主は、貴方に爆弾を埋め込んでる。今取り外すから」
「違う。違う違うッ! そんなことする筈がない!!」
「暴れないで。──違わないよ。貴方はきっとその人にとって捨て」
「違う!! 恋様はそんなことしないッ! 私は、恋様に! 恋様にッ!!」
暴れ──決死。スヴィクは最後に微笑んだ。
これは──この爆弾は、不出来な子供のおつかいに持たせたおまもりだと。
親がおまもりにお金を入れるように──失敗した時の為に爆弾を仕掛けてくれたのだと。
だから。
「恋様は、優し
爆発が起こった。
間一髪で回避したヴィオレッタたちは、その場の血だまりを見て唇を噛むしか出来なかった。
スヴィクは、恋という男の命令通り──副団長を始末した。
「……『恋』って、言うんだね。こんな悪趣味な惨劇を、準備したのは」
ヴィオレッタは拳を握り込み、闇の中の見えぬ敵を睨み付ける。
風が少し吹いた。
爆風の熱と、耳の中にまだ響く最後の叫びだけが──その場に残っていた。
◆ ◆ ◆
俺が思うに、【迅雷】という術技は欠陥だらけの術技だ。
完全雷化すれば、音を越えた光雷の速度で動ける。
しかしそんなことをすれば、迅雷を解除した時に反動で体がバラバラになる。
比喩じゃない。文字通り、バラバラに、だ。勿論、そうならないようにセーブして使えばいいんだけどさ。
あー、でもポジティブに考えればこう使えるな。
身体の一部を雷に変えて瞬間大破壊できる術技──いや、デメリットがデカすぎる。
とはいえ。
ジンは──この状況を見て、覚悟を決めていた。
足を吹っ飛ばしてでも、この状況を変えないと駄目だ。──危機的だ、と。
海賊船が沈んでいく。
このまま船が沈めば、海面が沈み込み、大渦が出来る。
そして、あの沈み始めている海賊船の中に、ハルルがいるかもしれない。いや。
いる気がしていた。
暗い海の中に、ジンは飛び込んだ。
荒れ狂い、叫ぶような海の中で──一瞬、見えたモノがあった。
鏡が雷を反射したのかもしれない。それとも、違う何かが導いたのかもしれない。
ともかく──ジンはハルルを見つけ──その頭を抱きしめて海面へ浮上した。
冷たい体を抱きしめながら、陸地まで一気に跳ぶ。
足が避けてどろっとした血が流れるが、ジンはそれを気にしない。
それよりも。
横にしたハルルが──指一つ動かさないのだ。
「ハルル! おい、ハルル!」
首に力がない。青白い顔に、脈も弱かった。
ジンはハルルの顎の先を持つ。
そして顎を上げさせ、喉をまっすぐに伸ばす。
気道を確保する。彼は顔にハルルの顔を近づけて──胸の方を見た。
目視による呼吸確認法である。
目視で胸の動き、つまり、肺が膨らむ動きがあるかどうかを確認する。
そして、同時に手を口の辺りに置き、呼吸があるかも確認する。
皮膚に当たる息──無し。
そして、音。呼吸が無し。
(な──無い。無い、訳が、あってたまるかよッ!!)
ジンは頭をフル稼働させ戦場での知識を総動員する。
それは呼吸を戻す方法。別世界で言う心肺蘇生法に近しい。
大きく息を吸い、ハルルの口に自身の口を当てる。
覆うように塞ぎ、息を吹き込む。
吹き込みながら胸周りの確認。動かない。
「ハルルっ。頼む。戻ってこいっ!」
祈るように、もう一度、人工呼吸をした。
「くそ。おい! お前、頑張ったんだぞ! 鏡を離さなくて、皆助けたぞ!」
離し、胸骨の圧迫を開始──心臓マッサージである。
声を掛け続ける。意識を取り戻せと、喋れる言葉をとにかく喋る。
「凄い勇者だって、皆助けて凄いって褒めてやるから! ハルル!」
どんっ、どんっ。と骨が折れる程に力強く。
絶え間なく。続ける。
「お前、こんなっ。こんなとこでっ!」
そしてもう一度、大きく息を吸う。口をもう一度覆う。
(頼む。本当に。お願いだから。だから)
息を吹き込む。祈りを込めて。心の底からの。
そして。
「けぁっ、こ──こほっ」
「ハルル!!」
ハルルは口から水を吐いた。そして咳き込んだ。
ハルルは、手を動かした。鏡を持っていない方の手を。
ジンはその手を握る。──(血の流れがある。大丈夫だ)
何か、言っていた。小さな声だ。
「なんだ。ハルル」
ししょう。と言った声が聞こえた。
優しい笑顔を浮かべたハルルは──言葉を続けた。
「っ──と」
「何?」
「もっと……褒めて……ください、ッス」
カラ元気の笑顔を浮かべてハルルはそう言った。
その言葉に、ジンは安堵して頬が緩んだ。
「っとに……ちゃっかりしてるよ、お前」
開いた右手でハルルの頭をジンは優しく撫でた。
「お疲れ。……ったく。無茶しやがって」
「えへへ。……がんばった、ッス」
「ああ。偉いよ。ハルル。よくやった」




