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【総集編】恋は人を狂わせる【16】


 ◆ ◆ ◆【15】◆ ◆ ◆


 恋は人を狂わせる。


 毒のように、口にしたら最後。もう侵される。

 身体の中から掻き回されて、脳の中に渦潮を作る。

 混線する思考は、貴方の中身を全て絡んだ毛糸の玉(ヤーンボール)みたいにするだろう。


 そうすると、気分は滅茶苦茶になる。

 蹲って、二日酔いのように苦しい中、吐き気と嗚咽に頭を悩ませる。

 そして、歪みきって何もかもが見えない視界(・・・・・・)でようやく見上げた時、自分が最も欲しい糸が垂れてくる。

 他の糸を引き千切ってでも、欲しい糸へ手を伸ばし続ける。

 身体に糸が食い込んで、操り人形のように腕が(ひしゃ)げて。

 

 どんな者であっても、恋の前では盲目になる。妄信的に、その全てを網羅しようと猛進するだろう。


 気付けば自分で自分の首を絞めている。

 それでも手を伸ばすのだろう。


 それが自分。

 同時に、それを他者に与えたい。

 自分だけが『何故、こんな不条理に見舞われなければならないのか』。




 恋のように人を破滅させる。その様に──そうありたいと、願った。




 だから。『恋焦がれた』から、■■■■は自分の新しい名前に『恋』と付けた。


 それが彼の名前。彼の名前は『恋』。

 


 ◆ ◆ ◆ EX ◆ ◆ ◆



 悪巧みをするならどこでする?

 ああ、そこの貴方、ちょっとした小話だから逃げないでってば。


 ただ聞きたいだけなんだ。

 あ、悪巧みとはあれね。犯罪計画とかの打合せのことだよ。


 さて、貴方なら『どこ』を選ぶ?


 路地裏の暗がり? 人気のない廃墟? 誰も寄り付かない深い森? ふむふむ。

 真夜中の墓地? 使われていない倉庫? 暗い洞窟?


 そうだね、人目の付かない場所を選ぶんだね。なるほど。


 いいね! 貴方は最高だ。貴方には悪党のセンスがあるね。


 さて、じゃぁ条件を付け加えてみよう。


 今日ならどうする? 

 世間は祝日やお祭りを控えてるから、やけに人通りが多いらしい(・・・)

 人が多いならどこでかな? さっきと変わらない場所? 

 ──ああ、残念。それも良い選択肢なんだけど、この()が思う最高じゃないんだ。

 

 うん。分かった、順を追って説明しようかな。


 自分たちを世界を取り締まる正義の執行官だと思っている勇者(・・)たちはね、こういう繁忙期には悪い人間が出てくるのを理解している。

 だから取り締まりが強化される。彼ら勇者はね、意外と無能じゃないんだ。

 普段、人目に付かない所を、勇者たちは執拗に調査する。厄介だろう?

 

 模範解答を出すよ。ああ、これはあくまで『この()の模範解答』だよ。

 他にもきっと、素敵な悪事を行える場所は在るはずだ。

 是非、貴方(きみ)にも、悪事に最適な場所は考えて欲しい。

 自分なら、という意味で言うとすれば。



(じぶん)なら、あの素敵で可愛い喫茶店(カフェ)で行うよ」



 街中を恋は歩く。

 彼の隣を横切った誰もが振り返る──彼は、誰が見ても美形であり目を引く姿だった。

 スラッと上背のあり、どこの貴族よりも貴族らしい上品な服の着こなし。

 よく手入れされた皺のない服。常に目を瞑っているような糸目を隠すような中折れ帽。

 手入れのされた金髪。糸目の彼は──恋。


 王都中央──中流階級の庶民から超上流の貴族様まで、今、若い女の子の間で注目されている、お洒落なカフェに彼はいた。


「恋様の指南、イクサはしっかり覚えました!」

 その隣を歩く少女もまた美しかった。

 ウェーブの掛かった長い金髪は靴まで届くほどで、まさに人形のような少女。

 自分を『イクサ』と呼ぶ少女は、恋という男の腕に抱き着き微笑む。


「偉いね、イクサ。キミはどんどん覚えてくれるから教え甲斐があるよ」

「嬉しいです! このイクサは恋様の従者です! 恋様のことなら息の吐き方から寝返りの回数まで全て覚えますもの!」

「嬉しいね。ありがとう、イクサ」

 そう言いながら、恋は腕の中の人形を撫でる。


「……スヴィクの新しい体。今日も可愛いな」


「ん、もうっ! イクサが居るのにそっちを撫でてっ!」

「はは。ついね。──さて。スヴィクは果たして『少女完成(ネメシウス)』になれるかな」

「もうっ。イクサというものがありながらっ! イクサは『第一の少女(ファースト)』なのに!」

「ごめんごめん。いつも助かってるよ。イクサが居なければ()は外を歩くことすら出来ないんだから」

 恋はそう言ってイクサに微笑みかけた。

 イクサは頬を少し赤くする。

「もうもう」

「牛さんみたいだね。わかった。じゃあこの後、喫茶店(カフェ)でパンケーキを注文しよう。

イクサの好きなシロップをいっぱいかけて、クリームも乗せよう。これで恋を許してくれないかな?」

「ケーキ! もうー、分かりました! 許します!」

「よかったよかった」


「恋様、大好きですっ」

 ──作り物のように美しい少女は、美しい笑顔でそう笑う。


「うん。ありがとう。恋もイクサを好きだよ」

 ──作り物のように美しい彼もまた、美しい笑顔でそう笑う。


 作り物──それが2人を言い表すのに相応しい言葉なのだろう。


 ◆ ◆ ◆


 数か月前。


 ──『12本の杖』という魔族の組織がある。

 それは現在の魔族自治領の『統治者たち』である。


 その席次一位に座る老人──老王(ロォワン)という魔族は、彼の商品を見て声を無くした。


「改めまして。こちら、この恋が作りました人造半人(デミ)です。その名は──」


 貴族のように美しく華麗に礼をし、『恋』は微笑む。

 その背後、棺桶のような培養槽が怪しく緑色の光を浮かべていた。

 培養槽の中に浮かぶのは──少女。


「『少女完成(ネメシウス)』でございます」


「人造の半人(デミ)……まさか。本当に作れるとは」

「ええ。これを買っていただきたい──一先ずは、50個体、準備があります」


 12本の杖は王国から独立したがっていた。

 そして、その為の戦力を裏で掻き集めているのは事実。

 現虹位七族の族長たちは誰もが穏健派──結果的に、この集団が力を増していた。


 老王(ロォワン)が声を出せずにいると、恋はぽんっと手を叩いた。

「あ、もしかしてスペックを気にされてます? 寿命は3年以上は持ちますよ。

半人(デミ)の性質を幾つも受け継いでいる為、正しく運用すれば一人で王国AA級の勇者10名以上を殲滅出来るでしょう。

勿論、こちらの命令には逆らいませんし、自爆システムもついてますよ。完璧な人造半人(デミ)です」


「無論、購入する」

「流石です。お安くしておきます」


「しかし……見返りは、なんだね? 金だけ、という訳じゃないんだろう」

「流石、前魔王時代の大臣。話が早い。──研究用に半人(デミ)を貰い受けたいんです」

「研究用……」

「ええ。まぁこの恋のいう研究(・・)が非人道的なのは言うまでもないと思います。

魔族たちや半人(デミ)たちの間で問題になるのも当然になると思いますので──」


「……なるほど。爬虫人(リザードマン)が誘拐されたり死体で上がっても見て見ぬふりをするように、と」


「はい。その通りです」

「……分かった。いいぞ。しかし……聞いてもいいだろうか」

「はい?」


「何故、爬虫人(リザードマン)なんだ?」


「……それは恋の目的で、考えたら分かることですが。

ここはひとまず秘密にしておきましょう。恋には焦らされるもの、ですからね」


 ◆ ◆ ◆


 『少女完成(ネメシウス)』──人造の半人(デミ)はある研究論文から自分(こい)が作り上げた。


 最初は全く違う理由でその場所に盗みに行った。

 『人造生命』の論文を見つけた──。曰く『幼い少女の筆跡』と言われたが、幼い少女が書いたとは思えない内容であった。


 人間を人造の半人(デミ)に作り替える。

 125件程実験したが、人造半人(デミ)化は6歳~18歳の少女が最も成功率が高かった。

 39件中31件が成功。

 その後の追加分の処置も、半人(デミ)化手術も73件中71件が成功する。

 しかし短命な物が多く、この寿命の延長は課題……。


 この研究を続ければ、恋の願いも達成できる。

 どうして、この願いだけが上手く行かないのか。

 どうにも分からない。だけど、もっと上手く人造手術を続けていけば、恋の願いも叶う筈だ。


 単純な願い。この願いを叶える為だけに、恋は。


「恋様。どうしました?」

「ああ、ごめん。ちょっと考えごとしてたよ」

「でしたらいいのですが──とりあえずこの後はどうしますか? サーカスにはヴィオレッタたちがいるみたいですし」

「そうだね。サーカスへ行って直接『集荷』するのは止めよう。

……仕方ない。海賊たちを使っての海での集荷にしようか」

「了解しました! 手配します!」

「頼むよ、イクサ」


 




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