【総集編】黒幕を手繰る【15】
◆ ◆ ◆【14】◆ ◆ ◆
──ヴィオレッタたちとの共闘の後、ジンとハルルは雪禍嶺の元締めであるサクヤの元で少し世話になる。
サクヤ。かの人物は《雷の翼》に所属した最も若い少女だった人物である。
当時は孤独を愛する氷のような少女だったが、その氷は徐々に解けて丁度いい塩梅となった。
人嫌いの性分は、マイルドに。そっけない態度も、柔らかく。
結果──既製品のツンデレみたいな性格になったなぁ、とジンは微笑ましく彼女を見た。
「もっと色々語りたかったッス。サクヤさんのこと、師匠の次に沢山情報を持ってるので」
「あー、もうこれ以上はオーバーキルだからやめときなさい」
「そうなんスか??」
(サクヤの黒歴史を大暴露大会して悪意無し。恐ろしい奴だわ……)
雪禍嶺滞在中に、ハルルに新しい技を教えていたジン。
その最中に、ルキとサクヤからジンは奇妙な事件の話を聞く。
スカイランナーとパバトが襲撃したある村落の死者の数が『合わない』のだ。
拉致されたから減ったのか。という訳ではなかった。
死体が『増えていた』のである。
謎解きは専門外だ、と匙を投げたジン。
しかし──この事件は絡みつくのであった。
それはまるで、静電気でくっ付いてしまう羽毛のように、払っても払っても纏わりつく。
交易都市に戻ったジンの周りで、暗殺者による誘拐未遂が発生。
そして、ハルルもクエストの最中に、誘拐された少女による盗難事件を解決する。
暗殺者は誰に雇われ、誰を殺そうとしたのか。
誘拐された少女が何故、盗難事件を起こしたのか。
そして、増えた死体は何だったのか。
絡まった糸のように謎がそこに転がった。
ジンは散々考えた。考えて考えて……思考を放棄した。
野生の直感。黒幕っぽい親友──ナズクルに直接問い掛けた。
結果、この事件にナズクルは関わっていないことが判明する。
事件は一つの線となっていた。
『黒幕』が少女を誘拐して『殺していた』。
どうして殺したのかはこの時には不明。
『黒幕』と少女殺しは別の人間で、『黒幕』は少女殺しの犯人を粛正する為に暗殺者を雇った。
しかし、同時に行っていた誘拐した少女が逮捕された。これにより盗難事件が明るみに出てしまう。
盗難事件から『少女誘拐・殺害』に繋がると『黒幕』は判断し、暗殺者を仕方なく少女の奪還に使用。
ここまではジンが辿り着いたが──『理由』、つまり動機が不明だった。
何故、少女を誘拐する。誘拐したのに、何故殺す。
殺すことが目的ではなく、別の行為が目的? 性的、いや、そういう痕跡は一切無かった。
……何かの……実験?
「これが限界だな。今の情報じゃ。ナズクル、サンキュな。知恵出してくれて」
「気にするな。とりあえず次からはアポを取ってくれ。幽霊の居る馬車はもうごめんだ」
「悪かったって。脅かす気は無かったんだって」
「まったく」
「まぁ。お前が黒幕じゃなくて安心したわ。そうだよな。お前は『人間に不利益を与えない』もんな」
「ああ。それは約束できる」
「だけど。何かやる気だろ?」
「……」
「デカいこと。何するのかは知らねぇし分かんねぇけどさ。……だから、今、聞いとこうと思うんだ」
「何をだ?」
「お前が間違えたことをしたら、どうして欲しい?」
「……」
「友達なら、一緒に間違えるのが当然だって俺は思う」
「友達か。……なら違うだろうな。関係性は友人などと呼べるものではないだろう」
「じゃあ仲間か」
「そうだ。仲間ならしっくりと来る」
「オッケー。──仲間なら、お前が間違えたことしたら、止めに行く」
「隊長」
「ん?」
「……俺は、間違えない」
「……そか。それなら、いいや」
「──ああ、そうだ。もしその事件を深く掘るなら、サーカス団について探った方がいいかもしれん」
「サーカス団??」
「証言の一つだ。……曰く、サーカス団が立ち寄った場所で誘拐事件が起こっている可能性があるとのことだ。詳細と情報提供はこれ以上出来ないが、もし掘るならそっちだな」
(詳細と情報提供が出来ないか。ってことは国絡みでなんか手が入ってんのかな?)
「いい情報ありがとな」
「気にするな」
そして、ジンとナズクルは別れた。
互いに背を向けて、何を思ったかは──今はもう分からない。
◆ ◆ ◆
誘拐事件を解決することが、黒幕に繋がる糸口になる。
パバトやスカイランナーすら隠れ蓑にしてコソコソと行動している──その時点で『真っ黒』だ。
もしかすると、魔王やヴィオレッタよりも厄介な存在かもしれない。
解決させた方がいい。
何か、取り返しがつかないことになる前に。
ジンの胸の中には煙のような焦燥が大きくなっていた。




