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【総集編】交差する轍②【11】



 ──オレがレッタちゃんに惹かれた理由は、人によっちゃしょうもないかもしれない。

 けど、どうしようもなく惹かれたんだから、人になんて言われても関係ない。


 レッタちゃんが、何やっても。

 何したいでも、これから先別の人を好きになっても、どんなことをしようとも。


 血を啜り、屍を撒き散らす死神だったとしても。


 レッタちゃんをこの後の人生、全部使って好きだと思う。


 あー。まぁ一言で言うとね。

 恥ずかしいけど、たった一言。ハルルッスに伝えるなら、こう言うね。



 愛は覚悟だぜ。



◆ ◆ ◆【12】◆ ◆ ◆

◆ ◆ ◆ 2 ◆ ◆ ◆



「──少し前の話に戻るんスけど。私とガーちゃんさんって、なんか似てるッスね」

「え? なんの話??」

「ああ、いえ。さっきのガーちゃんさんの名言ッス。

自分も、似た感じなんで。師匠を推してますし、大切ッスから」


「ああ。なるほど。愛は覚悟って話の続きか」

「はいッス。自分も覚悟してるッス」

「ならお互い、早く大切な人の所に戻らないとな!」

「はいッス! でも、ガーちゃんさんって凄いッスよね。

恥ずかしい言葉をどかどかと言えるのは、私に無い才能ッス」

「いやそれディスってん???」

「ディスってる訳じゃ──……!!!」

 急にハルルッスが体を強張らせた。

「なんだ、ど──」「声を出しちゃダメッス──ッ」

 押し殺した声で言われた。岩陰に押し込まれる。


 

 そして、手が、震えた。



 あらぬ方向を向いた目をした『人間の顔』。ただ人間の顔の大きさじゃない。

 人間の上半身程の顔が、口をバクバクと動かした。『たすけて たすけて』。

 よく見れば、それは長い首の一部だ。長い首の先の人面は、目を光らせて何かを探しているようだった。

 のそり、のそり、のそり。重々しい体を引きずるようにしてその生物は歩く。

 足が多い。首も長い。竜だ。ただ、オレの知ってる竜より『不気味』だった。

 その胴に無数の鱗のようにびっちりと『人間の顔』がくっついていた。

 動く度に、まるで風を受けて回る風車のようなリズムで、『いたい・いたい・いたぁ』『きんきゅ、きんきゅ、きんきゅう』と声をあげている。


 こっちを向いていない。けど、気付かれるのは時間の問題だとハルルッスは思ってるようだ。


 焦りが、顔に見える。

 きっと『先手を打つ』と思考しているんだと分かった。

 だから、その服の裾をグイッと掴んだ。


 首を、振る。音が出ない範囲で全力で。

 あれは駄目だ。駄目な生き物だ。

 あの魔物の目が──燃えるように赤くなっている。あれは、やばい。マジで。


 ルッスも我に返ったのだろう。

 息を殺して身を低くした。


 あの竜は何かを探しているが──オレたちを探してないと思ったんだ。

 もし、オレたちを探しているのなら、オレたちが来た方向へ向かう筈。

 アイツが来た方も向かっている方も、オレたちの方向じゃない。だから、やり過ごせる。


 やり過ごした方がいい。


 そう思ったんだ。

 実際。

 ──数十秒の緊張の後、竜は違う方へと進んでいった。


 後ろ姿が見えなくなってからも、呼吸すら押し殺した。

 数分が過ぎてから、ようやく呼吸した。


「……ガーちゃんさん。あれヤバかったッスね」

「ああ。な。だろ?」

「はいッス。止めてくれてありがとうございますッス……!」

「……なんだったんだろうな、あの生物」

「あ。あれは多分、鵺竜(キメラドニク)ッスね。……食べた人間や魔物を取り込んで、表皮に出現させる。そして、その言葉や形を疑似餌にして人や魔物を誘き出し、また食べるという……」

「バケモンじゃん」

「そッスね。……それにしても。なんでガーちゃんさん、あの竜がヤバいって分かったんスか?」

「え?」

「……竜が去った後、尻尾が上がってるのを見ました。あの反り上がった尻尾は『怒ってる証拠』ッスからね。

ガーちゃんさんの位置からは見えなかったと思ったんスけど」

「あー。尻尾は分からなかったけど。目がほら、真っ赤だったから?」

「……? 目、真っ赤??」

「ギンギラ輝いてたぜ? 真っ赤に」「……? 比喩表現ッスか?」

 オレの術技(スキル)!? 

 まさかこのオレにそんな秘められた力が……!!

 この、竜の怒りの姿を見破った的な伏線って、ちゃんと回収されるんだよな???

 投げっぱなしで終わる未来しか見えないぜ???


 ◆ ◆ ◆


 変態──という言葉がよく似合う男。


「特に好みは強い女子!! 

気丈な女の子が村を守る為に小さな体で懸命に奉仕する姿は涙ぐましくて勃■(そそる)

明るく元気な利発な子が、痛みと絶望の血の海の中で四肢を失いながら喘ぐ姿が勃■(そそる)

魔法を覚えて冒険者になったばかりの少女が、組み伏され抗えずに絶望していく様が勃■(そそる)!!

妹を守る為に体を捧げる姉にも勃■(そそられ)るし、その妹が隣の部屋で無残にも犯されているのも勃■(そそる)! 

そして、その妹の素晴らしい姿を姉に見せた時の精神が崩壊したような絶望に歪む顔にはもう、

絶頂(しあわせ)を禁じえない……!」


 恍惚な笑顔。顔に食い込む眼鏡。どろりとした汚い脂の涎。

 多くの者が──戦友も同胞も、彼の上司たる魔王も、現雇用主であるスカイランナーすら『生理的に受け付けがたい』と言う。


 それが彼、巨漢の魔族──。


『……パバト・グッピ。懐かしいな』

「ぶひゅひゅ! ええ、お久しぶりですねぇ!

元魔族四翼衆のパバト・グッピ! 元気ビンビンですよぉ!」

『変わらないな……その体系と性欲が限界突破している性格は』

「ええ! 昨今も相変わらずロリっ子三昧です! そしてそしてそしてー!!」


 巨漢のパバトは汗と脂を撒き散らすように体を回転させて微笑んだ。


「そしてヴィオレッタちゃんは超タイプッ!

特に目が良い! 瞳に映る意思は自分の目的の為には手段を択ばないという決意のある真っ直ぐさ! 

そして華奢な四肢に発育途中の小さな胸! 脹脛の柔らかそうな膨らみっ!

そんな細い体を蹂躙する野獣のような僕の■■■■■■■■■■■■。

■■■でかき回して■■■■■■■■■■■■。

そして、そんな目が! 高潔な彼女の瞳が痛みと苦しみと喪失感に絶望して歪む!

彼女は泣きながら懇願する! もうやめてと! 甲高い声でっ……ああ。

想像しただけで、ぐしょぐしょになってしまうぅ。あの細い体、浮いたあばらと細い腰。

その背筋のラインを舌で弄って、それからワキも舐めたい。

ああ、その感触が気持ち悪くて泣くでしょうから、その涙も舐めとってあげたい」


『大した想像力だな』


「ぶひゅひゅ! 魔王様なら知ってるでしょ。僕朕(ぼくちん)は性欲に忠実だと!」

『度が過ぎて命令違反が横行した為に降格処分を与え続けたんだがな』

「それくらいじゃあ僕朕(ぼくちん)の性欲は止められないってことですよ!」

『……はぁ。あの子を組み伏して犯したいなら、私は止めないぞ』


「先生!?」「ぶひゅほぉおおおお!? あざまああああす、話が分か──」


『勘違いするな。やれるものならやってみろ、という意味だ』


「……ぶひゅ?」

『正面から戦って倒せばいい。あの子は負けたならどんな運命でも受け入れるだろう』

「ぶひゅひゅー!! そうでふかぁああ、そうでぶかぁああ! よっしゃぁあ!

今から想像が止まりませんぞぉお! 僕朕(ぼくちん)があの白い肌を痣だらけにしていくのが!

甲高い嬌声を悲鳴のアンサンブルと少女が黒く沈んでいくその様が!」


『パバト。悪いな』


「ぶひゅ──?」

『私には想像力が欠如しているらしいんだ。どうやらそんな姿が想像できなくてな。

──どうにも。あの子がお前に負ける所、想像が出来ないものでね』


「……ほう。それは、そのヴィオレッタちゃんが、僕朕(ぼくちん)より強いと」

『いかにも』

「……魔族四翼衆が一人、『紫羽神(しうしん)』。魔王様より『毒裁王(ポイズニア)』の名を賜ったこのパバト・グッピが、小娘如きに負ける、と」

『その称号は、降格処分時に禁じたがね』

「なるほどなるほど。ぶひゅひゅ……──現実。捕まえて嬲ってすりおろす様ァ……見せてあげますよ」


 ──パバトは、部屋を出る。

「パバト? 何をする気です??」

 スカイランナーに訊ねられ、パバトは鼻を鳴らす。

僕朕(ぼくちん)もダンジョンに潜る」

「え!?」

「転移魔法で跳ぶ。この迷宮は転移魔法がジャミングされているんだろう? ぶひゅ。

大丈夫。どこに飛ばされても、そこからヴィオレッタちゃんを見つけ出して……戻ってくるよお」

「え。あ、ええ。は、はい」


 ──そして。パバトも地下大迷宮(ダンジョン)へ転移。

 彼が使った『粘着質な転移魔法(ストーク)』は、指定した人物の近くに転移する魔法だ。

 地下大迷宮(ダンジョン)を覆う不響(ジャミング)の魔法により、魔法は混線する。


 パバトはそれも承知だ。

 だが、運が良ければ。目的の人物の前に跳ぶことになる。


「ランダムエンカウントと洒落こもうじゃないか」


 ◆ ◆ ◆


 俺はどうも『センスがある。』という言葉は苦手だ。

 センスというものを俺自身が口で説明し辛いからだ。

 だからあまりその言葉を使わないのだが──今回に限っては『センス』というしかない。


 ──ヴィオレッタは竜の突進に合わせ、体を捻りながら竜の死角である首下に潜り込んだ。

 全身を横に回し、遠心力と膂力(からだぜんぶ)を用いてその首を叩き斬る。


 体幹(バランス)合間(タイミング)、そして正確に竜の首骨を捕らえる技術の複合技。

 対竜種の反撃技(カウンター・アーツ)


「──『椿の斬』」

 それは、俺の『昨日使った技』である。

 まったく同じ体裁き。筋肉の動きの一つまで『模倣』が出来ている。


「……見て覚えたのか?」

「くすくす。うん。そーだよ。貴方の剣術、綺麗だったから真似ちゃった」


 俺は、この技を覚えるのに何度も練習を行った。

 天裂流の剣術は、何度も何度も『同じ動きを体に形を覚えさせる』所から始まる。


 俺ですら、一か月は掛かった。それを。

 たった一回。流石に、笑えないな。


 ──ヴィオレッタは戦闘のセンスが、ずば抜けている。


 だから、か。我流でなんでも出来るタイプだから、多少、剣の握りが強すぎる。

 重心も、足の入り方も。そうだな。

 ……もし、少しだけ教えたら、すぐにでも剣術をモノにできるだろう。

 いや、何を。


「くす。何か変だった?」

「──。俺の体の動きを完全に模倣してるから、剣の重心が少しずれてるな」

「え? なんで??」

「剣の重さも違うし、何よりヴィオレッタ。お前の腕の長さと俺の腕の長さが違うからな。

だからもう少し、手前に捻り込むように構えればいい」

「……少し捻り込むだけってことは、5㎜弱かな?」

「そうだな。それくらいでいい」

「くすくす。ね。なんで教えてくれるの?」

「……俺の剣術真似て、怪我したら厄介だろ。ちゃんと教えとかないと危ねぇと思っただけだよ」

「ふぅん。……くすくす。優しいんだね、ジンは」

 別に。そういう訳じゃないけどな。

 ……はぁ。なんでだろうな。ハルルに教えてたからか? 

 技を……出来そうな奴には、教えたくなっちまう。それが敵でも、か。


「くすくす。優しくされても賭け(ゲーム)の手は抜かないよ」

「ああ。それはそうだ」


 ──そう。俺とヴィオレッタは賭け(ゲーム)中だ。


 どっちが『多くの害竜』を、出口までに討伐できるか。


 そして、俺が勝ったら『ヴィオレッタは大人しく俺に捕まって貰う』。

 ヴィオレッタが勝ったらなんでも言うことを聞く、となっている。


「──まぁハンデだよ。技を教わって無かったから負けた、なんて見苦しい言い訳聞きたくねぇからさ」

「くすくす。へぇ、そー。でもさぁ、ジン。

私さ、一匹分リードしてるよ。今」

 ヴィオレッタは挑発的にくすくすと微笑む。


「たった一匹分のリードでドヤ顔かよ。まぁさっさと勝負決めて、牢屋に入って貰うかね」

「くすくす。取らぬ狸さんの皮算用だねぇ。実際に今、リードがあるという事実が見えてないのかなぁ??」


「確かにそうだな。けどまぁ……結果、強い方が勝つ。つまり、俺が勝つ」

「……私の方が強いけどね」

「しつこいねー、お前も」

「ジン程じゃないけど」「……」「……」


 通路の向こう側から頭が蛇顔になっている鵺竜(キメラドニク)が向かって来た。


「「絶対」」

 二人は同時に駆け出す。


「「勝つ」」


 本日の一番可哀想な魔物は、意地乗り合いに巻き込まれたこの鵺竜(キメラドニク)かもしれない。



 ◆ ◆ ◆


 ──(あたい)の名前はヴァネシオス! 見て、この筋肉、素敵でしょ。

 アら、やだ。どこの筋肉みてるのよん。貴方も好きね。

 ほら、正直に言ってごらんなさいよ。どこの筋肉、想像してるの。ああもう、いいわ。

 見せてあげる。これが(あたい)大腿筋群(ハムストリング)──よっ、あはっん!!


『ヴァネシオス。お前は一体、何を見せているんだ……皆、嫌がるだろうに』

「あら。サービスシーンよん! 必要なのよ、サービスシーンっていう物がね」

『……そういう拷問(サービス)もあるのだな』

「そうよ~。こういう鎖に雁字搦めの姿に興奮をする人も居るだろうけど、ね」


 ばきん。と簡素な音と共にヴァネシオスの肩が外れる。

 (かのじょ)は自身の腕の筋肉──ひいては全身の筋肉を自分の意志で動かせる。

 それを応用して拘束から外れていった。腕を縛る鎖から、まるで縄抜けのように抜け出して、ヴァネシオスは得意げに笑う。


「じゃあ、先生。とりあえず身体を捻って外しましょうか」

『待て。無理だ。私は関節が硬い』「大丈夫。解きほぐすわ」『ちょ、まっ。っ! !!』

「もぅ。狼先生ったら体硬いわねぇ」『……ゆるさぬ』

「冗談じゃないのー! でも体の関節外して鎖を解くのは無理ね。

引き千切るのも無理だったし……まぁじゃあ、鎖に巻かれた状態で運ぼうかしら」

『そうだな。それでいい』「でもその鎖に巻かれてると魔法が使えないんでしょ?」

『そうだ』「レッタちゃんなら壊せるかしら?」

『……難しいだろうな。これは至銀(オリハルコン)が混ぜられた鎖だ。

破壊するには、そうだな……一点に地竜の全体重を乗せるような、そんな『破壊力』が求められる』

「……それって、破壊無理なんじゃないのかしら」

『他には、手順で壊す方法がある。この崩魔術式を、崩していくのは不可能ではない。時間が掛かるがな』

「まぁ、レッタちゃんなら何とか出来る、でいいかしら」『即日は無理だが、そうだな。出来るだろう』「おっけ~い。じゃあ、脱出を図ろうかしら。勿論、掴まってる皆と一緒にね」

『だな。あのマフラーの少女は特に回収しよう』

「あら。人道的ね」

『……。スカイランナーの術技(スキル)を妨害する為だ』

「ふふん。じゃあそういうことにしておきましょっか」


 ──そして、ヴァネシオスは狼先生を片手に持ち、拉致されていた『鬼人族の姫・サクヤ』を連れた。

 その上、その背に、スカイランナーの術技(スキル)を貯蓄する役にされているマフラーの少女を背負う。


「脱出開始ね!」

『そうだな。とはいえいきなり雪山を下らない方がいい。

あの子たちと合流するのが最優先だ。このダンジョンの出口は知っている』

「あらそうなの?」

『ああ。昔、来たことがあるからな。……出口は一つ。

だから出口が見える場所で待機して、合流し逃げ切ろう』

「了解♪」



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