【24】雨【42】
◆ ◆ ◆
ジンさんの腕力によるバットフルスイング×僕の魔法による空気抵抗の軽減による人間ロケット。
体感している僕的には音速を越えた気持ちでしたよ。ええ。
流星のように射出され、瞬きの間も無く数秒もせずに戦闘地域の凄惨な有様が見えてきました。
燃える砂漠と穿たれた地面。溶けて悪臭を放つ砂利と骨。
その戦場。その光景。
──僕は決断を迫られることになりました。
ドゥールさんの援護があったからなのか。それとも別の要因か。
判断材料が無いまま、ルクスソリスが腕を落とされ、ハルルさんが優勢にたった瞬間を見て──僕は迷う。
このまま、僕も加勢してルクスソリスを無力化するか?
数分耐えれば『人型殲滅殺戮兵器』も到着する。
それくらいの時間ならきっと稼げる。ドゥールさんもいるなら連携も容易い。前衛にハルルさんを添えての形の遅滞戦闘なら容易だ。
僕の読みではハルルさんが窮地に追い込まれている状況だった。
しかし、そうじゃないなら……このままルクスソリスを落とすべきではないだろうか。
正直、戦闘の厄介さだけで言うならナズクルより厄介なのは間違いない。
ナズクルは強いが、ルクスソリスは厄介なのだ。
不死者というだけでも厄介なのに、その戦闘力は割と高い。本人の精神状態に左右されがちだし、遊び癖こそあるが──ジンさんと互角に渡り合える程に高い火力を持っているのは明らか。
落とせる時に落とすべきだ。
──けど。
僕の頭を過ったのは、その後だ。
まず、どうしてルクスソリスがここに居るか分からない。
ナズクルが、僕を尾行するように言った? ありえなくはないけども、どう、なんだ? または別件でこの辺りにいた? それも無くはない。
いや、ダメだ。
なんにしても、ここでルクスソリスを無力化するのはダメだ。
ルクスソリスを無力化出来る実力者なんて、この世に数名も居ない。
無力化された。捕縛された。殺された。──どれでももれなく『ジンさんの関与』を最初に考えるだろう。
そうなったら、ルクスソリスが居なくなった時にジンさんと一緒に行動していた僕はどうなるか。
簡単だ。裏切りをしていることが露呈する可能性がある。可能性? いや『確実に裏切りをしたと露呈る』だろう。
それは『ダメ』だ。──そうなれば僕の大切な人──、フィニロットさんが処分されかねない。
なら、やっぱり──取るべき行動は一つ。
ジンさんに伝えた最初の手筈通り──『ルクスソリスを助けて、ナズクル側に間諜として潜入する』。
丁度、おあつらえ向きの『超重銃撃』も行われそうです。あれを防いでルクスソリスを拾って転移しましょう。
◇ ◇ ◇
「間一髪でしたね。まぁルクスソリスさんなら頭を撃ち抜かれても平気かもしれませんが──っと!」
発砲音が二つ響く。ドゥールは状況を理解や整理するより先に、間髪を入れずユウへ銃撃を行った。
しかしその銃撃は予備の拳銃──簡単に弾丸は弾かれる。
「ユウさん!?」「ユウ……」
ハルルとルクスソリスはそれぞれに驚きを見せ、ユウは溜め息を一つ吐く。彼女たちよりも、無言で『超重銃』に弾丸を装填し直している男の方を確認した。
(十秒も経たずに次は僕を狙撃されそうですね。
そうなると流石に僕は死んじゃうので、サクっと逃げましょう)
ユウは即座に行動をする。
雪の結晶の金細工──装飾魔道具。
「──ハルルさん、ドゥールさん」
(ルクスソリスに仲間だと信じ込ませる為ですので、ご容赦を。
詳しくは後でジンさんに聞いてくださいね。では)
「また、いつか、会いましょう」
恭しく一礼をし──転移魔法の青い炎がユウとルクスソリスを包んだ。
──昔の転移魔法は発動する度に激しい吐き気や頭痛や眩暈に襲われる現象──所謂『魔法酔い』が多かった。
理由はシンプルにまとめると『魔力が均一になっていないから』ということであった。
半世紀ほど前にその仕組みを解明した大賢者の登場以降、そのような副作用は殆ど無くなった。
殆ど──つまり、全てと言っていいくらいの大多数。
魔力が均されていないなら──眩暈も頭痛も起こりうる。というか。
「うげぇえええ」「痛ぅうううううっ!」
ユウとルクスソリスは吐き気、頭痛に襲われその場に蹲っていた。
「ユウっ、あんたっ! 魔法に長けてんなら、もっと丁寧に、うぅう」
「貴方の魔力が、ザラザラしすぎ、なんっ、う、っぐ!!」
「ちょっと! 吐くにしても絶対こっち向くなよッ! 汚らしいッ!!」
「魔力酔い、なんて……いつぶりですかね……っ」
「ほんと、最悪……っていうか、なんで、あんた出て来たのよ……」
「……隊長をね。完全無力化する、作戦中だったんですよ」
「ああ、そうなの」
「でも失敗しました。そんな矢先、貴方の気配まであって──負けていたので。
丁度良かったので連れ帰った、だけですよ。……感謝されないなら置いておけばよかったですね」
「……そうね。ああ……うん」
「?」 (ルクスソリスの様子が変ですね。悪い物でも食いましたか? いや──)
「ね。ライヴェルグ様が結婚するの、知ってた?」
(……──あー。あー、僕が吐いた嘘切っ掛けかぁ)
「初耳ですね」
「ハルルって女の子」
「ああ、弟子の。結婚するんですね」
「……だからね」
「はい?」
「……ライヴェルグ様、殺そうと、思う」
「……ハルルさんじゃなく?」
「うん。……あれは、なんかもう、違うから仕方ない」
(……ルクスソリスに『仕方ない』と言わせたとは。ハルルさん、何やったんですかね、貴方)
「でも、結婚するの……解釈違い、だから」
「は、はぁ。そう、なんですか。てっきりハルルさんを殺して私が代わりに花嫁になるっていうのかと」
「……あのさ。まぁね、まぁ運命が巡って、結婚できるなら、まぁしたいけど。
私は率先してそうなりたい訳じゃないの。……私がずっとずっと応援してさ。
幸せにしていきたい人だったのに。もう私が応援する立場に居られなくなるかもしれないのが嫌なの。
ずっと勇者をして貰えなくなるのが嫌なの」
(幸せにしたいって言ってるくせにガチで殺しに行くあたりが……いや、戦い殺し合うのが幸せっていうことでしょうか)
「だから……私が終わらせるしかないなって思ったわけ」
「……」 (これは、僕は選択を誤ったかもしれない)
ユウは目の前で座って恍惚に微笑む女を見て、指先から痛みが無い針が肩まで上がっていくような、異質な怖気を感じていた。
(転移で助けるのではなく。僕が足止めし、ジンさんを待って……何が、何でも。……──殺すべきだったのかもしれない)
「ライヴェルグ様を、私が……絶対に殺す」
うっとりと、赤らめた頬で──恋するようにルクスソリスは殺害予告を呟いた。
「……ていうか、さ。ユウ」
「? はい?」
「ここ、どこなの?」
「どこって。魔王城ですけど。僕ら拠点に使ってるって話しましたよね?」
「そーだよね。拠点だよね。ね、じゃあさ──あの夥しい血って誰の血だろう?」
「え?」
ふと、ユウは背後を見る。
廊下にべっとりと血痕が付いていた。
◆ ◆ ◆
そして、その翌日。
砂の大国には、とても珍しい大雨が降っていた。
雨季を外した大雨で、急に肌寒さも感じる。──昨日の戦闘が原因なのかもしれないが、それよりも。
窓を叩く雨の音。
昼間なのに、明かりを灯しているのにも、なお暗い部屋の中。
その部屋にはジンとハルル、それからドゥールとその妻シェンファの四人が居た。
四人に同時に聞こえた『念話』を、ジンとハルルは理解出来なかった。
「──ちょっと待ってくれ、ポム。……聞こえなかった。なん、だって?」
『……』
「今、誰が……──誰が死んだ、って?」
血の気が抜けるような冷たい雨の音が、更に強く響いた。
◆ ◇ ◆
いつも読んで頂き、本当にありがとうございます!
先日の予告通りに、明日から本編は休載させていただきます。
そして、本編をまとめた総集編を投稿させていただきます!
総集編だけ読めば、25章から読んでもすぐに追いつける!
というようなものを作りたいと思いますが、よくよく考えたら総集編など作ったことが無いので
普通に一話書く方が楽かもしれないと今更ながらに震えております……。
改めて、「こんな話があったなぁ」「こんな人いたなぁ」などと思っていただければ幸いです。
そして、一度、まとめてスケジュール調整も行わせていただきたく思い、
明日の投稿はお休みさせていただきます。申し訳ございません。
また、年末年始は特別回として、平和な回を投稿させていただきたいと思います。
予定では時系列をガン無視した回を予定しておりますが
内容は状況と都合によって変更させていただくかもしれません。
改めまして、少しでも皆様が楽しんで頂けるように努力させて頂きます。
何卒よろしくお願いいたします!
2024/12/26 0:51 暁輝




