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【24】背伸び【41】


 ◇ ◇ ◇


 ──私は、強い。

 生まれながらに、私は最強だった。

 実質最強の種族である『復活する者(レヴァナント)』の母の血と、黄月族の名家の父の血を受け継いだ。

 魔王様に羽を貰わなくても、翼を生み出せる程に高い魔力も持っていた。


 その翼を焼かれた後も、私はずっと強かった。


 路地裏に転がった幼少期も、喧嘩で負けなかった。

 貴族の家を襲った時も、軍人を殺した時だって、一方的に戦い勝った。


 魔法の才能がある。戦闘のセンスもある。

 私は世界の誰よりも天才だ。


 魔族四翼の座に着いたのも、必然だ。強いんだからそうなる。


 ずっと。ずっと私は誰より強い。

 誰より頭が良い。誰よりも天才だ。


 唯一。私が認めたライヴェルグ様にだけは、負けてもいいと思ってる。

 全力全開でやったら勝てると思うけど、まぁライヴェルグ様だけは私と同列に語ってもいいかなって思ってる。


 私……強いよね?

 実質の不死。再生能力。魔法で殲滅も出来て、あのライヴェルグ様と対等に渡り合えるんだよ。

 魔族四翼の、最も戦闘に特化していた時代の一翼も担ってた。


 私は……強い。紛れもなく、強い。


 なのに。


 ◇ ◇ ◇


(──隊長のお嫁さん、凄いな。まさかルクスソリスに『押し勝つ』とは)


 ルクスソリスの左腕が、地面に落ちている。

 じりじりと火を付けた紙のような音を立ててその腕は粉になっていく。

 その腕が握っていた手帳だけが残り、砂漠の上に転がった。


 その手帳が、ルクスソリスの『魔法の核』。その核が手から離れたら──ルクスソリスは元の人の姿に戻る。


(おかげで、ルクスソリスの装纏骸(イデア・モルス)は解除された。

これでルクスソリスは『反動(バックラッシュ)』で暫く魔力は弱くなる。援護……せねばな)


 砂漠にうつ伏せになりながらも銃を握るのはドゥール。重たい一撃を胴に受けたが辛うじてまだ動けていた。


 ──ドゥールの視線の先で、ハルルは槍を握ったままルクスソリスに対峙していた。


 ルクスソリスは徐々に身体が元の姿戻っていく。

 髪が、肉が、その右手──衣服も、再生されていく。

 唯一、今切断された左腕だけが、再生されない。





「──なんなの、あんた」





 ルクスソリスは絞り出すように言葉を吐いた。


「……?」 ハルルはその言葉の意味がよく分からず顔を難しくした。ルクスソリスは小さく唇を噛んだ。


「確かに。確かに……遊んだよ。手を抜いた場面や故意的に弱い攻撃でイジメた瞬間もあった。でも。それでも。

《雷の翼》の生き残りでもなく、魔族の部族長や四翼でもない──ただの娘っ子に……負ける筈が、無い……。

いくらサシャラの術技(スキル)でブーストしても、見たこと無い武器を使いこなされたとしても……負ける筈がないの。

ねぇ……あんたは。あんた。」


 ルクスソリスは再生したばかりの手の爪を噛んだ。

 ぎろりとハルルを睨みながら。




「なんなのよ。……あんた。なんでそんな強いの……?」




「……初めに、言ったじゃないッスか」

「は?」


  『ルクリスさん、知らないようなので教えて上げるッスよ』



「良いッスよ、もう一回教えてあげるッス。

『どんな強い力より。最後に勝つのは、強い想いがある方』なんスよ」


 ハルルの言葉を聞いたルクスソリスは訳が分からず目を数度瞬きさせていた。


「……自分は、強くないッスから。本当に全然、強くなかったんスよ」

 ハルルは槍をぎゅっと握った。


「──ずっと。誰かに助けて貰いっぱなしで。知らない勇者さんにもライヴェルグ様にも。

子供の頃からずっと、憧れた相手も助けられない。そんな弱さが嫌でした」



「私は──ライヴェルグ様に憧れました。そして、……ジンさんを好きになったんッス。

知っての通り……世界最強の勇者じゃないッスか。だから……。

……その人の隣に立っても。その人が……恥ずかしくないように強くなろうって決めてたんスよ」



 ハルルはルクスソリスを見た。その目を見て、ルクスソリスは一歩後ろに後退った。恐怖ではない。威圧感でもない。

 宝石が目の前に現れた時、思わず体を後ろに下げるような。眩しくて目が眩んだ時のような自然な反応。




「好きな人と同じ場所で、一緒に居る為に……私は精一杯、背伸びしてるんス。

強くないと、同じ場所に居れないと思ったんッスよ」




 理屈じゃない。


「守られるだけじゃ意味が無いんス。守れないと。

たとえ、魔王と戦うことになっても、一緒に戦ってお互いを守れるように。

だから──たとえ相手が魔王でも、私は、絶対に負けないッス」


 理論でも技術でもない。それはただの。


「なによ、それ……ただ、根性だけの話、じゃない」

「はい。私、根性以外の話をする気はないんで」

 化物というか馬鹿者じゃん、などと小さく口の中でルクスソリスはハルルを罵倒した。

 罵倒しながら──歯を食い縛って、軋ませていた。


 ルクスソリスは気付いていた。『この人は、私と明確に何かが違う。心の構造が自分と違う』と。


 そして気付いた。「……認めるか」

 その構造の違いこそが「認めるもんか」──自分が選ばれない理「認めて、たまるかッ!」



 シュドッ! と音がした。それが特殊な銃の銃声だと気付けたのはその場でハルルだけだった。

 ルクスソリスの両足にビリヤードボールが通りそうな程の穴が出来ていた。



「激情を迸らせている所に悪いのだが、これ以上暴れさせる訳にはいかない。何故なら」



 砂漠に座り、ドゥールはその狙撃銃を構えていた。

 厳密には、その狙撃銃は手で持つことも出来ない。──銃から伸びた四脚が、銃自身を支えているのだ。

 自身の背よりも更に長大──白銀(・・)に輝く『超重銃』。




「このままでは、俺はただお前にやられただけ、となってしまうのでな。最後(おいしいところ)は頂くよ」


「っ!!」




 それは銃の常識を超える程の超長砲身。装填する弾丸も手のひらサイズの弾丸。


 躊躇いなくその引き金は引かれ──ルクスソリスの頭に向かって弾丸は跳ぶ。






 そして──氷が弾けるような甲高い音が響いた。





 間一髪でしたね。と小さく呟く声──。


 

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