【24】それだけの一撃【40】
頭蓋骨が散らばった。
ドゥールは、アクロバットに空中に跳び、ルクスソリスの頭蓋骨をほぼゼロ距離で連射した。
たった数秒で十数発撃ち込まれ、骸骨化したルクスソリスの頭蓋骨をパズルのピース程に細かく撃ち砕いた。
ドゥールはハルルの隣に着地した。
「凄い銃撃ッス! 生で見れて感激ッス!!」
「そんなに凄いことはしていないよ?」
「いえいえ、凄いッスよ! 見てくださいッス!
無駄撃ちの痕跡一切なし! 16発、全部あの頭に当て切ってるんス!」
(──驚いた。隊長のお嫁さんは……俺の射撃数が見えたのか?)
「?? どうしたんスか?」
「いや。──それより、まだ気を引き締めた方がいいな」
「……確かに、そッスね」
──頭部が無くなった骨が、ぴくっと動いた。
頭蓋骨が再生して、あっという間に形になろうとしていた。
(『装纏骸』はルクスソリスの魔力を遥かに高めている。
魔力が高まれば再生速度もあれ程に素早い。まずは『装纏骸』の解除が最優先だな。
その為には、)
「やはり、魔法の核を撃たないと駄目だな」
「魔法の核ってなんスか?」
「文字通り魔法発動の核だ。『装纏翼』で言う『翼』の部分だ。剥ぎ取れば魔法は強制的に力を失う」
「なるほどッス。あれの身体のどこかに『核』があるんスね」
「そうだ。──俺は頭蓋骨の中に『核』があると思ったのだが、違ったようだ」
「核がある場所……」
ドゥールは耳のピアスに触れた。
「シェンファ。魔法反応の分析を頼む。どこかに強く魔力が集まってる筈だ」
『承知しました! 2分程時間が掛かります!』
「頼んだ」
ほぼ同時に。
──絶叫。
絶叫は悲鳴のように、耳を塞ぎたくなるような不快な叫び声だった。
そして、骨は動きを止める。
「流石、不死者だな」
ぼそりと呟きながらドゥールは地面に着地した。
そして、その手に持つ短機関銃をまるで拳銃のように軽々しく構え直し──容赦なく乱射する。
秒間で6.8発を射出する短機関銃の銃撃は雷鳴のように激しい音と光を放った。
ルクスソリスの右腕部が砕け飛ぶ。
(──避けられた。胴体から上全てを砕くつもりで撃った)
骨はみるみる再生している。
身軽。一秒も無く真後ろに跳んだ時点で、骸骨の姿は元に戻っていた。
「心外──私は不死者じゃなくてさ。もっと上位の」
「復活する者の血を受け継ぐ魔族、ッスよね! だから弱点は!」
「っ!」 その言葉はルクスソリスの背後から聞こえた。
(はは。凄い子だな。俺が攻撃をしたと同時くらいに、先回りしたか。なるほど。これは中々に連携がしやすいな)
その手にある槍は──斧のような先端を持つ槍。
バトルアックスと呼ばれるそれを、ハルルは力強く振り下ろす。
「閃斧槍!」
夜を一瞬、真昼のように照らした閃光。
その斧槍の一撃を、ルクスソリスは両腕で防御していた。
「ああもう、視界がぼやけるなぁ。後ね、私、光は克服済みだって」
「だが怯みはするようだな」
低く腹の底から響く、どんっ! という音が二発した。
ルクスソリスの右腕が、肩から吹き飛んだ。
その機を逃さず、ハルルは雄叫びのように声をあげてルクスソリスに体重を掛けて斬り下ろす。
「マジに、不愉快」
一瞬。ハルルはその骸骨の目の中にあった燃える光を見逃さなかった。
だから間に合った。その『拳』に。
左拳は目に見える速度ではなかった。だがそれを間一髪防ぎ、後方に弾け跳ぶ。
「!」 ドゥールは思いがけずに体が強張った。
位置的に、ハルルがどういう攻撃を受けたか確認し辛かった為、最悪が脳裏をよぎったのだ。
そんなドゥールの動揺を、ルクスソリスは見逃さない。
「マジに、アンタさえ片付けりゃ、もう終わりなんだよね」
その移動は『物理的に目視出来ない』。
風と同化する移動魔法は、実質の転移魔法と言い代えてもいいだろう。
(っ。攻めに転じられると──)
「餓者ヶ炎髑局」
「かっ……!」
炎の渦が槍のようにドゥールの腹に突き刺さった。
ミシミシミシッッ! と重たい音が響き──矢のように数メートル吹き飛ばされた。
「……何、防具着込んでる? あーあ、今日は攻撃の場所しくじるなぁ……。
頭にしときゃよかった。それでもって──」
「らああっ!!」
「まだ向かってくるのは、ほんと無意味だと思うんだよなぁ……弱いくせに、イライラするよ」
ハルルは棍棒を振り下ろす。
音によってルクスソリスの身動きを奪った棍棒──しかし。
「指向性のある音をトバして、相手の感覚を麻痺させるんしょ。で、範囲は振った後、2メートル先」
「……!」
「言い当てられて驚いたぁ? こーみえて、私さ、超強いんだよねぇ。
さっきから劣勢になってんのが不思議なくらい強いんだよ」
「──三叉灼熱槍!」
まっすぐに胸部に向かって槍は向かう。
ルクスソリスは瞬時に左側へ──まるで『上半身の左を守るかのように』避けた。
「だーから、なんどもなんども同じような攻撃、無意味なんだっての!」
確証を得た。直後、ルクスソリスの裏拳。
ごんっと鉄音が響く。ハルルは鋼鉄手袋で防いで退けた。
「左胸──ッスね」
小さな呟きが──真の意味での顔色は骨だから分からないが──蒼白に。
「な、んで」
ルクスソリスを動揺させた。
「避けたから、ッスよ。受けても死なないからずっと防御してたくせに、今の一撃だけ避けたからッス」
ハルルはルクスソリスの魔法の核の位置を言い当て──槍の姿が元の騎乗槍──爆機槍に戻した。
「──だからッ!」
「もう外さないっていう意志表示ッス!」
鋭く、その左胸に向かって槍が突き出される。
突きを、まるで格闘家のようなステップで体を屈めて回避した。
その直後──ルクスソリスの目の前に『槍が突き出されていた』。
(二段突きか──ッ! いや、違う──これは三段ッ)
気付いた時には、連続突きの三回目が──左胸の『ポケット』を裂いていた。
そこに収納されていた『金枠に装飾られた手帳』が見えた。
「──写真手帳。それが魔法の核だと思ったッス」
ルクスソリスはその手帳を手に取る。
「はっ……。勝ち誇るな……ッ。たかが私の弱点を見つけた程度でッ!」
「可能なら──その手帳を傷付けたくないので。貴重な写真ッスから」
「あはっ、心配ご無用! どうせ私に攻撃は届かないっての!!」
「いえ──もう間合いッス」
ルクスソリスの戦闘は、乱雑に燃える手を振り下ろす。
──ルクスソリスは生まれながらにして強者だ。
尊い血。高い魔力。圧倒的な資質。
何事も少しやればある程度には高いレベルの成果を出せるタイプ。
それ故、攻撃は大振りで大雑把だ。
『当たれば必殺』という次元の魔法を常時発動し続けられる能力の高さも相まって、攻撃を当てるという技術が必要無いからだ。
だから、ルクスソリスは準備なんてしない。
彼女は準備不足だ。敵と──強い敵と戦う準備をしてきていない。
対して、ハルルは実戦も含めて強敵と戦い続けてきて『知っている』。
劣勢時、特に実力に差がある場合、有効な技は一つ。
とても単純で、簡単。
振り下ろされた攻撃を、じっくりと見ること。
相手が攻撃を当てたと誤認してしまう程の──薄皮一つ分での回避。
ただ『避ける』。
そして、まるで商店街を歩く様な自然な動作で体を一歩だけ前に出し、距離を詰める。
友達に手を振り笑いかけるような軽い動作で──『槍を振り上げる』。
ただそれだけ。それだけの──一撃。
「天裂流、躱し斬り。と、言うそうッス」
──手帳を握ったルクスソリスの左腕が、ぼとんと地面に落ちた。
◆ ◇ ◆
いつも読んでいただき本当にありがとうございます!
申し訳ありません、諸事情が重なってしまい明日の投稿が難しくなってしまいました…。
明日は投稿をおやすみさせていただきます。
次は25の水曜日に投稿できるように調整いたします。
よろしくお願いいたします!
2024/12/24 0:14 暁輝




