【24】Hau ab【38】
人間の数倍の大きさに『組まれた』髑髏骸骨がカタカタと笑った。
その巨大な骸骨の隣に立つ女の骸骨──ルクスソリスも合わせて笑う。
「私の魔法、装纏骸は、主に『二つの魔法』で出来てる。
『骨生』。骨を自在に生み出して、骨をブロックみたいに組み合わせることが出来る魔法。
それから『灼骨』。骨の中に灼熱を生み出す私の固有魔法。この二つを超ハイレベルで融合してるから──まぁなんつーのかな」
戦いの中、攻撃を受けて彼女の骨が砕ければ、その砕けた骨は地面に転がる。普通なら魔法は解けて消えるが、彼女の魔法は消えない。
戦えば戦う程、周辺に燃える骨が撒かれていく。
撒かれた骨は灼熱の炎を生み出し続ける。
こうやって生み出された景色は。
「地獄みたいで楽しいっしょ?」
地獄の景色。
砂漠に骨が転がり、炎が地面を這い続ける。焼けた砂から生まれた煙が、辺りに分厚く壁となって上がっている。
滴る汗も、すぐに蒸発する焦熱地獄の中──ハルルは、立っていた。
ふぅーと息を深く吐いて、背後から降ってきた骨の槍を叩き砕く。
「ハルちゃん。しぶといけどさ。私は思うんだよね。ハルちゃんは短期決戦型でしょ」
「そう、なのかもしれないッスね」
「だと思うぞ~。で、私は長期決戦型。私が大好きなカードゲームで例えるなら、私にはまだまだ手札があるけど、ハルちゃんはどうかな? もう手札は出し尽くしちゃったんじゃない?」
「まだ──槍があるんで」
「あら、立派な手札。一枚で逆転し切れるか見ものだね」
ハルルは跳んだ。
爆機槍を突き出す。防ぐために伸びた巨大骨の手を爆破で弾き飛ばす。
「実力差、こんなにあるのに諦めないんだね~」
「ええっ! 日常茶飯事なので!」
砕けた骨に着地し、そのまま落ちるように駆け下りる。
ルクスソリスの真上で回転式撃鉄を回す。
先端が扇状の刃に変わり──鎖が延びる。
鎖鎌のように刃だけが自立し空中を舞う鎖扇槍を振り回し、ルクスソリスの腕を狙った。
鎖は狙い通りに絡み付いた。だが判断が早かったのはルクスソリスの方だった。
鎖に巻かれた自身の右腕を『取り外し』て、真横に避ける。ただそれだけの動きの間で、また新しい右腕の骨が生まれる。
(にょきにょきとっ! そうでしたね! 魔族の装纏翼中は魔力とか2・3倍ッスから、骨の再生速度も超速いんでしたッ!)
このまま着地したらいい的になる、そう判断してハルルは骨を蹴飛ばしルクスソリスから離れて着地した。
同時にハルルが蹴飛ばした骨が爆発する。一歩でも遅ければ爆発に巻き込まれていただろう。
ハルルはふと、手の甲を見た。
何かの破片が当たったのか、いつの間にか手甲に傷がついていた。
腕が少し重く感じた。
(まずいッス。サシャラさんから借りた不屈の術技が……)
「解けかかってるんじゃないの~??」
「っ……。いえ、全然、まだまだ余裕、ッス!」
(と、強がったッスけど……直感で分かるッス。後、1分程度、ッスね)
「そーなんだぁ。勘じゃ1分も持たないと思ってたんだけどなぁ。
じゃぁ、まだまだ遊べるね~、ハルちゃん」
その時、ルクスソリスの背後にある骨の一つが爆発した。
ハルルがやった訳じゃない、ルクスソリスが爆発させた。爆風がハルルの頬を撫でた。
その時、ハルルは目線を切った覚えは無かった。集中し、ルクスソリスを見続けていた。にもかかわらず。
(消え──!?)
ルクスソリスは消えていた。
獣的直感。ハルルは膝をがくんとまげて体を低くした。正解だった。
「あはっ、ほんと、奇襲にも対応とか凄~」
「っ!」
(風に乗って瞬間移動する魔法!
そうッス、ライヴェルグVSルクスソリスの第7、第9、第17戦で使っていると書いてありましたっ!
私としたことが失念しっ!)
その骨の拳が握られた。劫と灼熱に燃える拳。
「ほらちゃんと防御しないと──死んじゃうよ~?」
(っ、爆機槍の爆発で自身ごと吹っ飛んで防御を──)
銃声。
同時に、ルクスソリスの頭蓋頭部が空中に跳んだ。
「あら──」
地面に転がった頭蓋骨が、カタカタと笑って──闇の中を見た。
「──あー、なんて言ったっけ。名前、忘れちゃった」
「お前には名乗ったことは無いからな。別に名乗る必要は無いのだが、一応名乗っておこう」
砂漠用迷彩柄の戦闘服。
ゴーグルを着け、背には狙撃銃と散弾銃。腰には拳銃を二丁も差した男が銃を両手で構えてその場にいた。
「ドゥール・ミッドバルハーム。砂の大国、シェンファの夫だ」
「ああ、そうだ。ドゥールだ。思い出したわ。へぇ結婚したんだおめでと。で、既婚者、何の用?」
ルクスソリスの頭蓋骨は転がって、元の身体にくっ付いた。
「クレームを入れに来た。人の国の砂漠で勝手にBBQをおっ始めた馬鹿がいるらしいのでな」
「焼き終わったら出てくよ」
「今すぐ失せろ」
劈くような銃声が6発。
ルクスソリスに全弾命中したが、致命傷になっていないのは見て取れた。
──しかし隙は生まれた。見逃さない。ハルルが槍を突き出す。
「っ」
ハルルからルクスソリスは距離を取った。
身軽に一歩──だが着地地点を狙いすましたドゥールの銃撃が追い詰めた。
「ちょっ、まっ、お!?」
一気に数メートル、ルクスソリスは後退した。
「まるで猿回しの猿だな」
ドゥールは息を一つ吐きながら、ハルルの隣に近づいた。
「さて。隊長のお嫁さんよ」
「え、あ、えっと、はい」
「戦いを見ていた。あれを相手に粘るとは、とても凄いな」
「え、えへへ。ありがとうございますッス」
「本来なら、後は任せてくれと言うべきなのかもしれないが。
俺は知っての通り俺は銃使いだ。前衛が居た方が戦いやすい。
……まだ戦えるか?」
「! 戦えるッス!!」
「では──共にやろうか」
「はいッス!」
──目をらんらんと輝かせて立ち上がったハルル。
その視線の先の骸骨──ルクスソリスは、首を傾げていた。
「……今、なんかさ? 変なコト、言ってなかった?」
「何?」
──ドゥールが首を傾げた瞬間、ハルルは一つ気付いた。ゾッとする、気付きだった。
「──隊長の、え? 何、ちょっと、理路を整然と、言ってごらん?」




