【24】了解した【37】
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戦闘服の迷彩は、戦闘地域によって異なる。
迷彩と言われてパッと浮かぶのは、黒・緑・茶・砂色の四色からなる野戦四色迷彩だろう。
それは間違っていない。最も多く使われるのはその四色だ。森林や平地等での戦闘が前提とされている為、そういう四色になる。
実際に戦闘になる地域はそういう土地の方が断然多いのだから採用率が多くなるのは当然だ。
都市戦闘用には黒・白・灰の都市迷彩、雪上であれば純白無地が迷彩となる。
そして、砂漠の国にも、砂漠用の迷彩がある。
砂色をベースにした四色。緑は排して、岩と砂と赤土に倣った迷彩だ。
そんな砂漠に対応した、彼の愛用の砂漠長靴に、長履袴の裾を入れ込む。
『では、ドゥール様、今回の敵の情報をお伝えしますね』
赤いピアスからドゥールの耳へ、念話の魔法でよく知った女性の声が耳の中に響いていく。
『敵は最上位魔族です。使用魔法は炎熱系。
魔力の最大火力は一瞬ですが魔王と同格です。
四翼の生き残りかそれに準ずる魔族と思われますが心当たりは?』
「あまり無いな」
『了解しました! 対象はアンノーンとしましょう』
黒いタンクトップの上から、砂色の上衣に袖を通す。
『先行偵察機はもうじきハルルさんの戦闘地域に到着予定です。
到着後、ゴーグルに映像をリアルタイムで表示しますね。
その前に、戦闘地域の確認をしましょうか』
「ああ、頼む」
その最中、目の前に緑色に光る地図が浮かぶ。
『アンノーンの座標は今送った通りです。
戦闘地域は岩石地帯。見晴らしは良く狙撃なら転移魔法地点を数キロずらしますが……』
「隊長のお嫁さんの保護が優先だな」
『同意見です! では転移を近距離にしますね』「ああ、任せた」
『それから、炎熱系に属するという前提情報から有効と思われる氷魔法の弾丸を生成、準備しました。
氷の魔法弾丸は32発。追加で用意はしますか?』
「了解。追加は不要だが、念の為に属性干渉をしない通常弾と貫通弾が少し欲しい」
『承知しました! 通常弾は各60発、初期セットとして準備してあります。
貫通弾12発なら十秒後に用意が完了します!』
「了解。問題ない量だ」『他に追加は』「不要そうだ」『了解!』
前鍔の帽子を目深に被る。
自身の名が入った認識票を首から下げて、服の中へと入れ込んだ。
『今回、想定される戦闘からして、通常の拳銃に加えて、中近距離用の大口径と散弾銃を用意してありますが、他には追加の武装は必要ですか?』
「狙撃銃も念の為。魔族と言えば逃げ足が速い。遠距離に持ち込まれた時の備えが欲しい」
『了解! 実はもう準備してあったりします!』
「流石、優秀な相棒だ」
『えへ。では、装備鞄は射出します!』
──全ての準備を整え終わり、ドゥールは窓を開け放つ。
流星のように飛んでいった『装備鞄』を目で追ってからゴーグルを着け直した。
『先行偵察機到達しました! 映像、ゴーグルに流しますね!』
ドゥールの視界、ゴーグルの中にノイズが走る。
そのゴーグルには『ここではない場所の映像』がリアルタイムで映し出された。
「……これは。大物だな」
『アンノーンは過去に戦った誰かでしたか??』
「ああ。ルクスソリスだ」
『ルクス……ソ、え、え!? だって彼女はもう死んだって!?』
「間違いない。まあ、あれが死んだとは思ってなかったが……」
『じゃあ、ハルルさんは』
「いや、まだ優勢だ。凄いな」
『あ、あのルクスソリスを相手に、優勢!?』
「ああ……しかし」
熱気のような魔力の魔族と、戦う少女の姿を見て、ドゥールは腕を組む。
「急ぎたいところだな。
ルクスソリスは一時的な力の向上が切れるのを待っているようにも見える」
『ですね。私の『シェンファ式転送魔法』、次発動までは残り43秒です。
発動可能10秒前からカウントダウンを開始しますので』
「ああ。こればかりは焦らなくて大丈夫だ」
『はい。……では、改めて最終確認です。
転送先は座標3724の1070地点。
先に物質転移魔法で送った装備鞄を座標3725で回収し、武装を整えて頂き、即時にハルルさんの救援をお願い致します!
ですが、ドゥール様、くれぐれも無理はしないようにしてくださいね』
「……ああ」
『ただし』
「?」
『必ず、ハルルさんたちを助けて下さいね!』
ドゥールはその言葉に少しだけ微笑んだ。
「了解した。──優勢のうちに加勢して片付けよう』
◆ ◆ ◆
金棒がルクスソリスの顎を叩き上げる。
彼女は逆海老反りで、空中に放り出された。
──そして、ルクスソリスは背中から地面に叩きつけられる。
大の字に、仰向けに倒れた。
ハルルはセレネの隣に着地し、ふぅーっと息を吐いて『金棒』を『乗馬槍』の姿に戻す。
「もう大丈夫ッスよ、セレネさん」
「す、すごい、ですっ! ハルル、さん! あのルクスソリスを、倒しっ! 倒してしまい、ましたッ!」
喉も焼けたのかガラガラとした声で地面に倒れ込んだままのセレネはなんとかそんな声を絞り出した。
「……? ルクスソリス? あ。ルクリスという名前は偽名、ッスか」
なるほどッス、と呟いてからハルルは目を更に細めて──武器を構え直す。
「──? ハルル、さん?」
嫌な静寂の中で、ハルルは槍を握り直した。
「なら、まだッスね」
「え」
「この方がルクスソリスという女性でしたか。
勇者ライヴェルグと最も多く戦った魔族にして、『VSルクスソリス』シリーズの女性。
……なら。ライヴェルグVSルクスソリス、第13戦時に使用した奥の手が使われてないッス」
「奥、の……?」
「はいッス。
魔王の幹部である四翼に伝わる超戦闘魔法の装纏翼。
ただ、彼女はその背を焼かれて『翼』を出せない。
だから、彼女は装纏翼を改良した魔法を生み出したんス。
その名前は」
「装纏骸」
それは、原初の死の形。
肉を脱ぎ棄てていた。
カラカラとまるで缶でも転がるような異様な軽い音と、蛇のように這いずる音。
「は、るる、さ」
「セレネさん。なるべくそこを、動かないでくださいッスね。流石に」
骸骨。
そして──砂漠の中から骨が次々に溢れてくる。
集まり、肥大化し──人間の倍の大きさに膨れ上がった。
右肩から伸びる、骨の腕は三本あった。
鋭く細く、剣のような骨で出来た指と腕。
左腕は丸太のように太く巨大な腕だった。
人一人簡単に握れてしまいそうな、骨の腕。
まるで、骨を集めて固めた玩具のように──骨を纏った骸骨の王。
翼を纏わず、骨を纏った異形の死神。
「──あは。ライヴェルグ様以外に見せたことがないんだからね、私の中身」
「光栄、ッス──ね!」
骨の手が伸びた。それを槍で叩き爆破し、突き進む。
火花が撒き散らされる中をハルルは真っ直ぐに槍を突き立てる。
「爆機槍ッ!!」
◆ ◇ ◆
いつも読んで頂き、誠にありがとうございます!
いいねやブックマーク、評価など、本当に励みにさせて頂いております!
今後も少しでも楽しんで頂けるように、しっかりと書き続けたいと思います!
今回は、今更なのですが……。
本作品を読み返していて、かなり長大な物語になってしまっており、
コンナ キャラクター イタッケ。
という魔法の言葉が生まれてしまう可能性が高くなってきたなぁ、と
思ってきた次第でございます。
平たく言いますと、一度、総集編を作ってまとめてしまおうかと思いました。
24章はまだ少し続きますが、24章が終わったあたりで年末になると思いますので、
そのタイミングで、本編25章は少しお休みにさせて頂き、
数日間、総集編を投稿させていただきたいと思っております。
(仮のふわふわした予定では、26日以降~1月7日くらいの間を総集編期間と思っております)
また、上手く調節が出来れば、年末年始の番外を投稿したいな、と思っております。
実は、本年の年始はインフルでぶっ倒れておりました為……。急な休載をさせて頂いたことを恥じておりました。
今年の年末年始こそは、出来れば明るい話を投稿したく思っております……!
総集編と番外で本編の進行は少し止まってしまいますが何卒、ご理解を頂ければと思います。
また予定が固まり次第、後書き等で記載させていただきます。
今後も、よろしくお願いいたします!
暁輝




