【24】今だけは、負ける気がしないッス!【36】
◇ ◇ ◇
『ぶっちゃけ、爆機槍に新機能を追加し過ぎて、ハルルに渡すの危ないのだ』
『え、そ、そうなんですか?』
『なのだ。『超越せし機械槍の新たなる姿、黎明機装槍爆機槍十纏装填廻転式煉討天葬千騒砕槍~Feat.POM style~Ver2.87302EXE』には、『十種類異なった武器』の性能がくっ付いているのだ』
『十種類の異なった武器??』
『なのだ。十個列挙するとキショイことになるから例を挙げると爆発する爆機槍から始まって灼熱槍、鎖扇槍! それから剣や棍棒モードも搭載してるのだ!』
『す、凄いですね。なるほど。戦闘中にそれらを切り替えて戦えれば、かなり有利に戦えそうです』
『えっへん! そうなのだ!』
『でもどうして、ハルルさんに渡すのが危ないんですか? それだけ強い武器なら問題ないのでは?』
『いいや、問題だらけなのだ』
『?』
『十数種類の武器を使い熟せる実力が無いと、上手く使えないのだ』
『あ。そうですね。確かに。一つの武器を使いこなすのにも鍛錬が相当に必要なのに……そっか。十種類すべての特性をちゃんと理解しないといけないんですね』
『そうなのだ。誤発動や誤爆なんかしたら、大怪我じゃすまないのだ』
『……武器ですから、多少は危険もありますけど。その辺、ハルルさんなら理解しているんじゃ?』
『それは。……そうなのだ……』
『ジンさんとの訓練も見たことありますけど、剣に槍に格闘に……近接系はなんでも教わってる印象でしたよ』
『んぅー。でも流石に知らない武器をいきなり使いこなすっていうのはやっぱり無理だったかなと思ったのだ。まぁ勢いで楽しく作っちゃったのだけど』
『そうなんですか?』
『一緒に居てポムはいつでも楽しそうに作ってたの見て無かったのだ!?!?』
『あ、いえ、そっちじゃなくて。ハルルさんが武器を使いこなせない、って方です』
『……。使いこなせない、とは言っていないのだ。
ただ、その。ハルルは危なっかしーのだ。
作った人間として……爆機槍で怪我をされたくはないと思っているのだ』
『……』
『という訳で! ハルルが初回で全機能を使いこなせないように、操作を超複雑にしておいたのだ!!』
『ええええ!? 意味ないんじゃないですか!?』
『意味あるのだ! 誤爆防止に無茶な戦闘防止! 子供用の安全装置みたいなもんなのだ!』
『安全装置付きの武器ですか……なんか嫌ですね』
『近未来になったら銃やらなんやらは全部安全装置付くから同じようなもんなのだ』『そ、そうですか』
『まぁ、昔ながらの爆機槍を初期モードに設定して灼三叉と爆竜撃をすぐ使える簡単設計にしてあるから、3種類のモードをベースに練習していけば使いこなせるようになると思うのだ。説明書読まないとまともに使えない複雑な操作だからこれで安全なのだ!』
◇ ◇ ◇
(そう、聞いていたのですが……)
先端から伸びた鎖──その先には扇状の刃槍端。
星の無い空を切り裂くようにまっすぐに跳ね上がり、赤い血を飛び散らせた。
「な、ぇ?」 錯乱したのはルクスソリス。
無理もない。その扇状の刃は死角から──自身が構えた腕の左下側から蛇のように這って攻撃したのだから。
ハルルがまた攻撃を当てた。
(完全に、使いこなしているように見えるんですが……これも、あの術技の影響なんでしょうか?)
これで何回目か、見ていたセレネでも数え切れないほどに攻撃を当てていた。
(不屈という術技が発動してから……。
髪に翠緑色が入って、移動や攻撃の速度が目にも止まらぬ速さに変わりました。
一時的と言ってましたが、これは)
次は槍を両手で構えた。刺突の構え。
「廻装──」
鎖から先が突如に消える。そして代わりに槍の先端にはU字の突起が現れた。鋭さは無い。まるでU字磁石のような形だ。
ハルルも初めて見た筈だ。しかし、躊躇いはなく突きを出した。
まるで武器の効果を知ってるかのように。
対してルクスソリスは一歩遅れた。それは当然の反応だ。
歴戦であればあるほど、相手の武器を観察し来る攻撃を推察するクセのような反射が身についてしまう。それが未知過ぎる武器であった為、彼女の身体を自然とフリーズさせてしまった。
それでも反応速度は速い。結果、突きは軽く左の腹を小突く程度にしか当たらない。だが。
「電気槍ッ!」
「っ!! ぅぁぁあ!」 電撃がルクスソリスを貫いた。
(る、ルクスソリスを、こうも一方的に……っ。ハルルさんが、ずっと優勢です)
「そして、そのままっ! 花天槍術!」
ハルルは自身の肩に石突を乗せるようにして、更に一歩前に出る。U字の先端がルクスソリスの胴に食い込む。
「っ! この!」
「零距離肩突!」
全体重と加速を乗せた重撃がルクスソリスの腹に食い込み──雷鳴のような骨が折れる音を響かせる。
「これはセレネさんの髪の分ッス!
急に短髪になっちゃってるのはどうせアンタのせいでしょうから!!」
「あっぐぁああ!?」
「そしてこれは! セレネさんに大怪我させた分!! 電気槍!」
「がっぁああああ!」
一瞬で電気に撃たれ感電しながらも、ルクスソリスはたまらず槍を真横に殴り弾く。
合わせてハルルは横に独楽のように回転した。
その攻撃された一瞬、ハルルは親指の回転式撃鉄を回して『槍の先端』を変更した。
パーティーのダンスのように、ルクスソリスの前で一回転したハルルの手の武器は『金棒』と形容すべき形になっていた。
「音叉金棒!」
野球バットでも振り回すような軽快さで薙がれた一撃。
次はもう防御は考えない。ルクスソリスはただ真後ろに回避した。
ぶぉおおんと風が叩かれるような音がした。ルクスソリスには掠りもしない。その隙を狙い右腕をあげようとした時に──異変が起きていた。
左足が、膝から崩れていた。右腕が上がらない。痺れたように体が動かなかった。電気のせいかと考えたが違うと感じたのは、彼女の視界がぐわんと揺れたからだ。
「ちょっと嫌らしい武器かもしれませんが、指向性のある音で貴方の身体の自由を奪うんス!」
「音っ……くそっ」
「そして、これが!!」
ハルルは跳んで、その金棒を西瓜割りでもするような勢いでルクスソリスに振り下ろした。
「セレネさんを泣かせた分ッス!!」
その一撃は、ルクスソリスに直撃した。
間一髪で、彼女は防御したが──その左腕がボキッと音を立てた。
折れた。
「いくら骨を自在に操れる魔法があるとはいえ、こんだけ折ったらまともに戦えないッスよね」
「……調子に乗って……ぅ!」
ギリッと音が鳴った。金棒に力を加え、更にルクスソリスに押し付ける。
「今だけは、負ける気がしないッス!」




