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【24】髪の毛 ③【34】


 ◇ ◇ ◇


 なんで私が勇者になりたいか、ッスか?

 理由なんてなくて、なりたいからなりたい! じゃダメなんスよね。

 うーん。凄く単純で、薄い! って言われちゃいそうなんスけど……いいッスかね? 恥ずかしいッスけど……。

 人が笑った顔が好きだから、ッスかね。


 はい? えっと、笑わせる仕事なら他にもある。ッスか。

 あー、えへへ。そうッスよね。ごめんなさいッス。

 そうッスね。もっと明確に言うなら……。そッスね。


 困ってる人がもう困らなくなった時の笑顔が好き、なんスよね。


 え。エピソードッスか? 欲しがるッスねー! えへへ。いいッスよ。

 えっと。まぁその、多分『これが原点』っていう話ッスけど。

 きっかけは、多分、あの日ッスねー。


 昔、ッスね。4・5歳くらいの頃ッスかね。うろ覚えの記憶なんスけど。

 王都から少し離れた栄えた町があって、そこにお姉ちゃんたちと一緒に買い物に行ったことがあるんスよね。

 お姉ちゃんたちが好きなモノ買ってる間に、私とアキ姉ちゃんの二人だけ、はぐれちゃって──そしたらちょっと嫌な光景を見てしまいまして。


 山賊みたいな人がお婆さんを殴ってたんスよ。

 あっ、と思いました。私は跳び出そうとしたんスけど、アキ姉ちゃんに止められたッス。


 周りの人も見て見ぬふりをして、助けに行かない。

 当たり前ッスよね。山賊は武器も持ってるし、なんか危ない雰囲気でしたッスから。

 『子供のあんたが行っても無駄!』アキ姉ちゃんが押し殺して叫んだ声を今でも覚えてるッス。

 でも。思ったんスよね。



 『力を持っていなくても』、動かないといけない。



 馬鹿ッスよね! 私が言っちゃうくらい馬鹿だと思うッス。

 正義感が強すぎるというか、後先考えて無さすぎるというか。いえいえ、今はもっと正常な判断をしてるッスよ! ホントっすよ!!


 でも思うんス。


 何かを変えたいなら、動かないと。


 目を背けたい凄惨な現状に気付いたなら、目を背けちゃダメなんだって。

 誰でもいいから最初に手をあげなきゃいけないなら、私が最初に手をあげる。

 それが危険でも、なんでも。そうしないと何も変わらないと思ったッスから。


 アキ姉ちゃんの手を振りほどいて跳び出しちゃったんスよね。


 で。実際に、山賊に「そういうことしちゃダメ!」と叫んだんスけど──超、怖かったッスね。


 片手で持つナイフが、見たこと無いくらい鋭い剣に見えて。

 体の大きさも何十倍にも見えたッス。恥ずかしいッスけど、超ビビってたと思うッス。震えて泣きそうになってたんだと思うッスけど、それでも絶対泣かないって決めてたんで、震えながらもう一回叫びました。「そういうことしちゃダメ!!」って。

 それが決め手で、怒りがこっちに向いて。何か怒鳴り声をあげられたんスけど──怖すぎて何言われたか全然理解出来なくて、一歩下がることも出来なかったんスよね。ほんとは後退りしなきゃいけないんでしょうけど。まー逆に怖すぎて怖すぎて。


 で、きっと殴り掛かられそうになったんだと思うッス。


 すっごい綺麗なお姉さんが、私と山賊の前に立ってたんスよね。


 山賊の拳を受け止めて、一ひねりで山賊を倒しちゃったんスよ!


 すっごい強くて綺麗なお姉さんは私に振り返って、頭を撫でてくれたんス。「キミの声が聞こえたから駆け付けられたよ」って笑ってくれた顔がほんとに綺麗でカッコよかったんス。

 お婆さんも幸いそこまで怪我してなくて、私の手を握ってくれて、ありがとうって言ってくれたんス。その安心したような顔が嬉しかったんス。


 でもその後、しこたまお姉ちゃんたちには叱られたんスけどね。

 アキ姉ちゃんには頬っぺ引っ叩かれましたッス。危ないことはしないようにと。山賊の前では泣かなくても、そのビンタで泣きまくっちゃいましたッス。


 えへへ。子供っぽくてごめんなさいッス。

 たったそれだけのことが私の原風景なんスよ。


 その後、大活躍するライヴェルグ様に憧れたんス。勇者になってもっともっといろいろな人を助けたいって。守りたいって。


 え? 

 すみません。今、なんて言ったんスかね? 聞こえなくて。




「キミは立派な勇者だね。と、言ったのだよ」




 え、えへへ。そ、そうッスか? 嬉しいッスけど、まだまだッスから!

 あ。頭撫でてくれるんスね。えへへ。あの日の綺麗でカッコいいお姉さんみたいッス。ありがとうございますッス!



「だから。キミみたいな勇者に私の術技(スキル)を使って欲しいな」



 ──目の前には優しく微笑む人が居たッス。

 スポーツ青年みたいに爽やかに微笑んでくれる緑髪の女性。《雷の翼》の女騎士、サシャラさん。


『それは……、出来ないッス。サシャラさんの術技(スキル)を使ったら、サシャラさんが消えちゃうじゃないッスか』


「大丈夫。まだあるじゃないか。四分の一もあるよ」

『もう四分の一しかないんスよ』

「キミが飲まなくても、もう数か月もなく消えてしまうだろう。それに今キミが見ている私はただの幻影だよ。これは私の記憶に過ぎない」

『だとしても』




「ええい強情だな! 話が進まん! 早く飲めッ!」

『さっきまでの優しい態度はどこに!?』

 ぐいっと頬に杯が押し当てられる。




「早く飲め! この強情少女!」『の、飲まないッス!』「飲め! それとも何か、私が注いだのに飲めんというのかっ!」『ま、まるでハラスメント上司の如く!? 良くないッスよ今の時代にっ!!』「ハラスメントが怖くて上司が出来るか! 上等だ! 相談窓口にでもなんでも電話するがいい!!」『逆に怖っ! でも飲まないッスよ!!』「ええい、本当に強情だなっ! 私と同格だなっ!」『え、えへへ、嬉しい限りッス!!』「喜んでいるな。それならよかった。ささ駆け付け一杯」『だが断るッス』


「まったく。先ほどの『私と同格』と言った発言は訂正する。私より強情だな、キミは」

『えへへ。嬉しいッス~』「誉め言葉に聞こえるとはポジティブガール過ぎるな!」

 はぁ、と息を付いたサシャラさんは椅子に座りました。それから膝を組みました。



「だが、使わないともう死ぬぞ。このままでは勝ち筋なんて無いだろうに」



『……それは』

「だけどもキミは強情だから根性と気合で乗り切りたいというだろう。私もそうだからよく分かる」

『え、えへへ』


「だから折衷案と行こう」

『折衷案?』

「ああ──飲む飲まないの間を取ろうじゃないか」


 ◇ ◇ ◇


 薙刀は凍てついた夜の空中を舞い、その良過ぎる切れ味が災いし──不運にも大岩の肌に突き刺さった。よじ登りでもしないと届かないだろう。


(ま。それよりも、もう武器も握れないか)


 数メートル先、冷たい砂漠の砂の上に──ハルルは転がっていた。

 身動(みじろ)ぎ一つしていない。いや、動こうとしているのか、腕だけが動いたように見えた。

 ルクスソリスは遠目でその姿を見て苦く笑う。


「運、強いなぁ、ハルちゃん。私が『武器破壊の魔法』じゃなくて他の魔法攻撃をしてたら、間違いなく即死だったのに。いや、計算かな? そこまで考えて受けたのかなぁ?」


「ハルル、さんっ」

 セレネが声を上げた時、ああ、とルクスソリスが振り返った。


「そういやセレネたん居たね、忘れてたよ。ハルちゃんとの戦いに集中し過ぎてさ。ま、ハルちゃんも片付いたし、先にセレネたんやっちゃおうか」

 ルクスソリスはにっひぃいと笑い──すぐに笑顔が消え、徐々に真顔になっていく。

 セレネは困惑した。ルクスソリスの表情の変化ではなく──彼女の後ろを見て、だ。


「おかしいな。私は攻撃で手加減することはしないんだけど。

──この私でも気付けるくらいの、なんか変な気配さー。ねー?

まぁ、でも、嬉しいよ?」


 ルクスソリスは振り返る。嘲笑うような見下した笑顔を浮かべて。


「あんな呆気なくだったらさー、つまんないもんね~。けどさ、聞いていい??」


 拳を握り、口の端に零れた血を拭って立ち上がった少女。

 鋭く、翡翠色の瞳を光らせて──ルクスソリスを睨むハルル。




「そのインコみたいな緑色のメッシュ──何なの??」




 ハルルの銀白の髪──その髪の毛の右側に、緑色の部分染め(メッシュ)が入っていた。


 まるで翡翠を砕いて塗り固めたような──輝く翠緑(エメラルド)色。

 ぐっと拳を握り込み、ハルルは息を吸う。




「お酒は飲む飲まないの間があるんスね。知らなかったッス」

「はぁ??」


「ちょっとだけ、なめてきました。なのでこれは。

──疑似術技(スキル) 、『不屈』ッス!」





「ふぅん。弱そ」



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