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【24】セレネ VS ルクスソリス ④【27】


 セレネは鞠でも弾けたように跳ぶ。

 力の限り砂を踏み──ルクスソリスに直進する。




(──私が使える最大火力の魔法を当てる。その為には)




 ルクスソリスは欠伸を一つしながらセレネを見る。


(ルクスソリスは私なんて警戒しない。だから、まずその油断を衝くッ!)


「はぁー……せっかくセンスイばあちゃんを殺した理由を考えて、ちゃーんと答えたのになぁ。そんな怒らなくてもいいのにー」



(強敵と戦う時の鉄則。相手の選択肢を奪うこと。まずは『視覚』を奪います──っ!)



「『彩色(いろいろ)』──! 霧の煙幕!」

 セレネを中心とした霧の煙幕に、ルクスソリスは腕を組む。


「うわぁ、探索とか探知苦手だから面倒なんだけどなぁ」


 振り払う方法は幾らでもあるが、ルクスソリスは動かない。

 そして、ルクスソリスは至極残念そうにため息を吐いた。


 ──ああ煙幕ね。セレネたん、このパターンに走ったかぁ。


 正味、猿知恵なんよねぇ……。

 私に正面から戦って勝てないってなると大体の奴は煙幕使って背後を取って攻撃するんだよね。

 慣れてるわぁ、このパターン。


 腕を組んだルクスソリスは目で煙を追う。


 ──私、背後は弱点じゃないんだよねぇ。私の魔力は背に集中してるからさー。

 背中への攻撃は物理も魔法も悉く焼き払える。

 それに……風を切る音が消しきれてないなぁ~。まだまだ下手糞だねぇ、戦闘が~。


 ルクスソリスは煙の動きを目で追った。

 煙幕の中で何かが動いている。


 ──(デコイ)も仕掛けてるのかもしれない。はぁ。まったく。




「この程度のことで……私の目をくらませられる、なんて本気で思ったのかにゃア?」



 ぐちゃりとルクスソリスが笑い──左腕を前に出した。

 そして、まるで奇術師(マジシャン)のような軽妙な動きで腕を真横に振る。



「燃え溶ける手──」


 その一瞬で彼女の腕が──じゅじゅうと煙を吐く骨に変わる。

 その骨の中には灼熱の色──赤白い光が見えた。骨の内部には超高温の液体が渦巻いている。

 指を鳴らすと、その液体が空中に舞う。そして、時が止まったかのように、血よりも赤い水の玉たちがその場で止まる。




「灼熱の棘礫。全方位に跳べ!」




 ──水飛沫はルクスソリスを中心に全方位に跳んだ。

 この一発一発は、威力の低い火炎の魔法だ。

 だが、ただの低下力な火炎魔法ではない。これらは水のように皮膚に張り付き焼き焦がす。


 その上、彼女は恣意的に(わざと)、弾幕が厚い部分と薄い部分を作った。


 ──私の正面には超、弾幕を放った。右側にもね。敢えて薄くしたのは左側。だから、セレネたんは左から来るはずよね。


 にたりと、ルクスソリスは笑う。

 読み通り──左側の煙幕が少し風で靡いた。更には銀の光が見える。

 あれは、セレネの持つ銀の薙刀であろう。



「おーわーりーだー、ね♪」

 そして灼熱の血が流れる骨の左腕が──煙幕の中の『それ』を掴んだ。


 ──ルクスソリスは、魔法感知能力が低い。だから気付くのが遅かった。



 

 ルクスソリスが掴んだのは──銀の薙刀を持った水の人形。つまり。



囮人形(デコイ)? あー、しまった」



 ルクスソリスが考える間も無く──『囮人形(デコイ)』は爆散する。

 それはルクスソリスの魔法は『超高熱の灼炎』によって掴まれた結果だ。

 高火力で水分を熱するとどうなるか。



 水分がまるで放出されたかのように──水蒸気が一気に立ち込めた。




「あーもー、罠じゃん。超加湿じゃん。でも今更何、煙幕の強化? 

というか……本人はどこ行った??」

 ルクスソリスが小首を傾げた。

 セレネの狙いは一つ。大きく広がったその水分。


(──センスイさん。貴方に教わった魔法。使わせていただきます)


「『彩色(いろいろ)』──『ぬめり水の枷』」


 その魔法は、水を別の物質に変質させる。

 ルクスソリスの両足に水が纏わりついた。ただの水ではなく、鉄の鎖のように重い水だ。

 足だけではなく、両の手にもずっしりと重い水の塊が付く。



「身動きを封じる? けどこんなの私を数秒も足止めできないよ」



「ええ。ですが──その数秒が欲しかったんですよ。何せ、この魔法……魔力消費量が大きすぎて、発動できる時間すらも、限られてしまうので」


 白霧が一気に晴れた。


「! 目の前っ!? じゃあさっきの弾幕──」

「ええ……全部、被弾しましたよ。でも……結果っ……発動、しました……っ」


 ルクスソリスは目を丸くした。

 真正面。

 全身、火傷を負いながら、血塗れになりながら──セレネの手の中に輝きが生まれる。


 それを、セレネは両手で掴んだ。


 掴むと、更に目が眩むほどの黄金色の(ひか)りが放たれた。

 火と雷が合わさり、無理矢理に剣の型に押し込まれたような、不安定なその(ひか)りの刃。


「この、魔法……!」

 その(ひか)りに──ルクスソリスは目を細くした。





「──月閃刃(ルナシフォス)ッ!!」





 まさに一閃。

 ルクスソリスの肩から袈裟斬りに──斬撃は命中する。

 月光よりも眩い閃光が──砂漠の空まで照らし尽くした。



 ◆ ◆ ◆



 ルクスソリスは──倒れています。やりました。……勝った。

 あ、ああ……足、力入らない。膝、ついて、ぺたんとなりました。

 魔力全部使い切りましたね……もう、明かりの魔法も使えません。



 ──月閃刃(ルナシフォス)……光の刃の魔法で……別名を『自壊の魔法』、と言うそうです……。



 この魔法は、斬り裂いた相手の『魔力を逆流させます』。


 簡単に言えば、相手の魔力の大きさに比例したダメージを与える魔法です。

 相手が強ければ強い程、防ぎようのないダメージを相手に与えます。

 強制的に魔力を逆流させる為、防御魔法なんて発動出来ませんし、肉体もズタボロ。


 対魔族においてはこれ以上ない、最大の攻撃魔法となります。


 でも、これで。

 センスイさんの仇を。








「私の翼が骨の理由はね。月の光の刃──月閃刃(そのまほう)で焼き尽くされたから」







 視界が──真っ暗だ。


 あれ。え。何。……痛い。なに、があったの。

 目の前が、何も見えない。



「まだ子供の時にさ。酷いよねぇ。イーリス・エルド・ウラノス。

私が嫌いな女。私の背の翼を焼いた──大嫌いな女」



 イーリス──その、名前は。



 私の、お母さんの名前だ。




 髪が掴まれた。ああ、私、地面に頭付いてたんだ。

 鼻血が、出てる。なんで。ああ、きっと殴られた、んだ。



「やっぱり似てるわぁ。うん。そうねー、顔立ちとか目鼻立ちとか、超似てる。

ね、ね。セレネたん。もしかして、年齢、見た目よりもっと若かったりする?」



 え……。




「今、15、あ、14? だとしたら──私があの時に殺し損ねた子供かなあ?」




 殺し損ねた、……子供?



「──あは。あの日殺せなかったイーリスの子供。ようやく殺せる訳だ。

あの女も、ようやく泣き顔を見せてくれるかなぁ? ね~」



 何を。何の。

 どういう。


「ああ、なんか困惑してるけど、やっぱり当たってるみたいだね~。

じゃあ、私とセレネたんの関係はこうなるね~」


 私は──混乱していた。

 イーリス・エルド・ウラノス。それは私の母の本当の名前。だから。



 ルクスソリスは。




「あはっ。私はね~、セレネたんのママを殺した犯人だよ~」




 軽々。笑った。


 

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