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【24】セレネ VS ルクスソリス ③【26】


 ◆ ◆ ◆


 ──魔族の立場はとても弱い。


 魔王が討たれ、魔族は実質的に人間の支配下に置かれた。

 奴隷という言葉になるととても強い言葉と意味を持ってしまうからそうは言えないけど──数年後にそうなってもおかしくない。


 王国が強く動けないのは足並みが揃わないから。

 ただ足並みが揃ったら魔族はいよいよ奴隷か根絶か……。未来は失われるかもしれない。


 交渉を行えるだけの、最低限の強さが必要です。


 知識もそう、国交もそう。

 そして、私自身も、強さが必要だ。そう感じて、私は強くなろうと思いました。


 だから私は──センスイさんに、魔法を教わりました。


 私が、センスイさんに教わった魔法は、3つ。


 水の属性を変化させる魔法、『彩色(いろいろ)』。

 天候魔法を装備し放出する魔法、『局所的天候掌握(ローカライザー)』。

 そして──もう一つ。


 古代魔法が下地(ベース)になった『超撃魔法』──『月閃刃(ルナシフォス)


 その魔法は母も使っていた魔法だそうです。


 3つ目の魔法は、正直に言って、私の手に余るものでした。

 実際、私が引っ張り出した母の魔法書を読んでも、センスイさんは再現が出来ませんでした。


 簡単な魔法だけで組まれた──複雑な魔法。

 細かく見ていけば、簡単。敷布に使うような解れ防止魔法や、医療用の部分麻酔の要領まで織り込まれた魔法。ああ、小さな魔法もそう使うことができるのかと、とても勉強にもなりました。


 ……正直、この魔法よりも使い勝手がいい魔法はあったと思います。

 でも、私は……この魔法を習得したかった。


 絶対的な破壊力があり、かつ、対象者だけに攻撃を行える魔法だから。

 ……。

 いえ、ごめんなさい。それは建前ですね。


 


 はい。その通りです。

 私は──母が使っていた魔法だから、覚えたかったんです。




 そして──習得練習をしてから、5年。

 半年前にようやくちょっと使えるようになりました。


 『ちょっと使える』──という曖昧な言い回しなのは、幾つもの制限があるからです。


 一つ、夜にしか使えない。

 これは月の魔力の吸収の都合です。私の魔力が上がれば昼でも月の魔力は引き出せるようですけど……。


 一つ、1度しか使えない。

 私の魔力を全部使いますので……1回使ったら魔力回復まで使えません。


 最後に。

 ──明確な意思が無いと発動しません。


 初めて使った時は、妖収竜(ヴァルペサルド)から町の人を守るという決意がありました。

 守るという意志。戦うという意志。負けないという意志。

 

 強い意志があって初めて成立する。

 それが、この魔法──『月閃刃(ルナシフォス)』という魔法です。


 もし、ルクスソリスを倒すことが出来るとしたら。

 この魔法しか……無い。のですが



 ◆ ◆ ◆



 火の雨。

 黒い夜に赤々と燃える火の雨が降る。

 それは、ルクスソリスが溶()させた岩がただ降り注いでいるだけ。

 おおよそこの世のモノとは思えない景色を背に、ルクスソリスはにやりにやりと笑って見せた。



「ほらほら、次行くよ、次~!」

 狂ったように笑いながら──燃える拳でルクスソリスはセレネに駆け寄る。



(──こんな相手に、どうやって月閃刃(あのまほう)を当てればっ)



 ルクスソリスの拳速はセレネがギリギリ見切って防御出来る程度の早さだった。

 右ストレート、蹴り上げ、フック。

 銀の薙刀(トランセディア)でギリギリ防げる。

 いや──故意的(わざと)だ。


「上手上手♪ ほらほら、もっとペースを上げていくぞ♪」

「うっ、くっ!」


(遊ばれてるっ! ギリギリ防げる攻撃をして、まるで、猫が鼠を狩猟するみたいに、弄んでっ!)


 セレネは腰を落として突きを放つ。

 その一撃がルクスソリスの腹に当たる──だが、突き刺さらない。


「腹とかじゃなく首とか狙いなよ? ま、当たるだけよしかな?」

「はあああっ!!」

 そのまま上へ振り上げる──だが。

 ルクスソリスはその刃をつまんで受け止めた。




「はい、捕まえたー。薙刀とー、セレネたんの首~」




 がしっとセレネの首が掴まれ、締め上げられる。



「かっ!?」

「ほーら、ちゃんと暴れて暴れて~。薙刀も振って振って~がんばーって!」

 薙刀を振り回すが、当たっても刺さらない。血が僅かも出ない。


(っあ、力も、強っ……っ)




「ねー、グッズ屋とかで売ってる缶バッチって見たことある?」




 へらへらと笑った声だった。ルクスソリスは汗の一つも流さずそんなことを喋り出した。

(缶、バッチ?? なんの、話を……っ)


「あー、首絞めてたら喋れないか~。ほれー」

 ルクスソリスはゴミでも投げ捨てるようにセレネを放った。

 けほけほっ、と咽ながらセレネはその場で這いつくばる。


「コレクション要素っていうのかな? 全7種! とかついてるの見たこと無い?」

(何……何の話……)


「そしたら、全7種類並べたいよね。コンプリート欲っていうのかな。思わない?」

(なんの、ことを、さっきから喋って)


「──ちょっとちょっと。喜んだ顔してよ? さっきの質問の答えを私なりに超がんばって考えたんだからさ!」


(さっきの……質問──……?)



「どうして殺したのか、って質問の答えだよ。センスイばあちゃんを殺した理由! 

いや~、改めてどうしてだったかなぁ、って考えたのよ。それで冷静に立ち返ったら、やっぱり『コンプしたい』って欲求だったんじゃないか、って思った訳よ~」


(コンプ? 何の──)






「族長の腕のコレクション♪」





「……え?」

「最初に緑飼(りょし)の腕を取った時からね? 七族の族長の腕、コンプしたいなぁとは思ってたんだ。センスイ婆ちゃんの腕も片方はもぎ取られてたでしょ? あ、死体は見てない??」


 セレネは言葉を失った。


「後は橙陽(とうよう)の族長の腕さえあればってところまでコンプしてるんだけどさ~! やっぱ族長ってだけでレアでさ」


「──そんな理由」

「へ?」







「そんなつまらない理由で、殺したんですかッ!!」






「はぁ?? つまらなくないし。大切なことだし」


「命を! 命を何だと思ってるんですかッ!!」

 駆け出した。



(許してはいけない。こんな、やつを)



 明確な意思を持って。



(倒す……絶対に!)


 


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