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【24】セレネ VS ルクスソリス ②【25】


 ◇ ◇ ◇


 『賢い選択をするんだよ。族長として、何が一番に利をもたらすかを考えるんだよ』。

 そう、センスイさんはよく言っていました。

 口癖みたいでした。だから私はその口癖に従って、賢くあろう、と沢山勉強しました。

 族長は、そうあるべきと思って一生懸命に考えて考えて……。


 だけど……ごめんなさい。

 私、やっぱり賢くなんてないみたいです。


 正義感。

 私のちっぽけな正義感で……、帰ろうとしていたルクスソリスを呼び止めて、戦闘に縺れ込ませてしまいました。

 全然、賢くないです。


 この行動は、馬鹿、と呼ぶべきです。いえ、もっと酷いですね、大馬鹿です。


 大気が震える。陽炎みたいに空気が揺れているのは熱の魔法が放出されているから。

 その背中は更に禍々しく空間が揺れている。それは背から溢れ出した魔力が折り重なって空間を捻じ曲げている。相当な魔力量。

 ルクスソリスを本気にさせて、勝てるはずがない。


 だけど、それでも。……あ、ごめんなさい。今、気付きました。


 私。そうか。……私はなんて馬鹿なんでしょうね。


 ちっぽけな正義感、って言いましたが、そうじゃないみたいです。

 私は。──私は、凄く、今……直感的に。直情的に。


 ◇ ◇ ◇


黄月(こうげつ)の族長だ。殺していいリストにあったね~!」


 無邪気な笑顔を浮かべ、ルクスソリスは更に力を込めてセレネを岩肌に押し付ける。


「くっ、ぁっ」

「たしか、セレネ・ケイロスェルって名前だよね。ね、気候掌握(ケイロスェル)の一家って私の頃にはいなかったって思ったんだけどなぁ~。貴方、どっか山奥で暮らしてたの?」

「……ルクス、ソリス」

「んぇ?」



(正義感で動いているんじゃない。──私は、今……直感的に。直情的に。

感情的に──腹の底から)




「──センスイさんを、どうして殺したんですかッ!!」




 怒りだった。

 セレネは泣きそうになりながら叫んでいた。


「はぁ?? さっきも同じ質問を──っ」

「殺して欲しくなかったッ! 私は──私にとってはッ!」


 バチバチッと静電気のような音が響く。


(ポム博士……使わせてもらいますっ)


「家族同然の人でしたからッ!」

「家族同然って青陰(せいん)族と仲良くしてたって黄月(こうげつ)の族長として問題じゃ──っと」


 銀の棒は──雷を貯めていた。更に、形も変わっていく。

 先端は鋭く刀の形状──それは銀に輝く薙刀。





「『変形する銀の棒(トランセディア)』ッ!」





「へぇ、面白いね。変形するんだ。でも、それが何かな?」

「っぁああ!!」


 突き払い。

 まっすぐに相手の視線の高さに突いてから、相手の回避した方へと薙ぎ払う技。

 視線の高さに刃が向かってくれば通常であれば誰でも怯み避ける。ルクスソリスも例外ではなく避けた。

 そして、薙ぎが彼女の肩へ目掛けて振り下ろされる。



 だが、薙刀の刃が、突き刺さることはなかった。



「な、……っ」

 焦るセレネに、にぃっとルクスソリスが顔を歪めて笑う。


「私の体質はね~、超無駄に魔力を体に放出してるんだってさ。

しかも私の翼の名前である『火葬』の魔法に使う魔力をね~」

 肩に当たり止まった薙刀。

 浅い。

(……! 刺さらない……!?)


「だから並の刃物じゃ傷をつけられない。私に触れる前に溶けちゃうから。

だから褒めてあげるよ、この武器。私に触れても溶けないんだから、超いい武器だね。

ただ、私は心配だなぁ~、だってね~、だってね~?」



 じゅう、と焼けた肉の嫌な臭いがした。


「っ、ああ、っ、熱いっ……!!」

「あっはぁあ~──貴方の手の方は、耐えられるのかな?」


 薙刀を握る手が焼けている。その熱で。

 だが、それでも、力一杯握る。

 更に肉の焼ける音が響き渡り──激痛にセレネが涙を流す。


「無理しちゃって。でもこれ以上は刺さらないよ、貴方の力じゃね」

「っ……もっと、っ」

「お~、やる気だね~。がんばれがんばれ! 

まぁ骨まで行ってるから後もう10倍くらいの力があれば私の腕を落とせるぞ~! がんばって~!」


「骨、にっ」「そ~行ってるよ~! 血もほらちょっと出てるから頑張って〜!」


「……なら──良かった」


 ギリッと奥歯を噛んで、セレネはルクスソリスを睨み付けた。

 ルクスソリスはきょとんとその顔を見た。──もしセレネの対戦相手がユウやナズクル、またはヴィオレッタやルキだったらもっと前に気付けていただろう。既に魔法が構築し終わっていることに。





「体内なら、防ぎようがありませんよねっ……『局地的天候掌握(ローカライザー)』ッ!」




「!」



「『雷衝撃(ジゴリオン)』!」



 空気が割れるような──破裂音。

 それが銀の薙刀を通して放たれた雷の音だった。

 雷は一瞬にして空間を真っ白に照らし──ルクスソリスはその場で白目を剥いて上を見上げるように仰け反った。



(──体内に直接の雷撃。多少、エグイ技ではありますが……これを喰らって立っているのは不可能です。これは最早、落雷を全身で受け止めたのと同じで──)



「痛いじゃん。結構さ」



「なっ!? え!?」

 がしっと銀の薙刀を掴み、ルクスソリスは笑う。


「驚いてるじゃん? あは、可哀そう。手、そんなに火傷してまで一矢報いた~って思ったのにね? 

まぁ痛かったから一矢報いてはいるのかな?」


 セレネが混乱しているのを理解してか、そのまま、薙刀を持ち上げるように振るった。

 対処に遅れたセレネは、急に持ち上がった柄に顎を打たれて仰け反る。それでも薙刀を離さなかった。

 そのまま地面に転がる。四つん這いの姿勢で、薙刀を構えようとその柄を掴んだが──持ち上がらない。


 薙刀を踏んで、ルクスソリスは笑っていた。


「魔法発動までが遅いよね。確かにもう局所的天候掌握(ローカライザー)発動まで組み上がってたけどさ。見たらわかるじゃん? 何の魔法が放たれるか、ってさ?」

「な……んで。そんな、筈は」

「何でも何も。貴方知らないで使ってるの?」

「え──」



局所的天候掌握(ローカライザー)は私が作った魔法だよ」



「そ、そんな」

「あは~! 魔力の流れで次が雷系か風系が来るって分かっちゃうんだな~。

残念だったね~! ま、違う魔法組んでたとしても分かるだろーけど、私はさ~。

さーてーと」


 反射的に、セレネは自身が握った薙刀を離した。

 熱い。もう触れられない程に。





「次は私のターンでいいよね?」





 熱気が立ち込める。視界が歪んで目の前すら見えなくなる程の熱。


(! 【予報・緊急危険予測】ッ)






「『美味しい処刑法(スイュクルリ・ブロー)』──『すべてをとかす(メルティキス)』」






 爆音は無かった。ただ岩が蒸発した。

 溶けだした岩が空に舞い上がってから飛び散り落ちてくる。






「身軽じゃん。族長って意外と弱いってイメージが強いんだけどさ、もしかして貴方武闘派? 

ああ──そんな訳ないかぁ~」


 にやにやとルクスソリスが笑いながら左方──転がって窮地を脱したセレネを見る。

 まだ態勢を立て直せていない。膝を付いて息を荒く、何なら震えすら見て取れる。


(死……死んでいました。なんて、威力の魔法……っ。あれを受けていたら、私は確実に、死んで……っ)


「まぁこれくらいの方がイジメがいがあるね~! ほら。

一発や二発でへばらないでよね」



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