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【07】三人一緒の写真【11】


「なにこれ……! 全然似てないんだけどっ!」


 レッタちゃんには珍しく、鼻息を荒くした。

 それは、国境の町に張り出された手配書の絵を見てのことだ。


「まぁ、髪の毛が長い以外、似てないな」

「ううん。全然、似てないからね?」

 キッと見つめられた。

 まぁ、そうですな。確かに、特徴は何一つ掴めていない。


 悪意のある吊り上がった目に、歯もむき出しで笑う顔。

 まぁ……幼稚園(ナーサリー)の落書きと言われても頷ける。


『まぁ、手配書なんて似てないくらいでいい。似てたり写真だと、行動し難くなるだけだからな』

「確かにそーですね」

『それでも、黒塗り棒人間は可哀そうではあるが』

「……え、隣の影みたいなの、オレなのか?」

 隣の手配書……もう黒い肌の人間だということしか分からないような絵だ。


『まぁ、特徴は掴めているな』

「黒い肌っていう特徴だけを掴んでやがる……この綺麗な細い目とか、煙草とか色々あるはずなのに」


『思っていても、自分で言うのは辞めておくんだぞ。痛々しいから』

「ひっどい」



 カシャッと音が聞こえた。



「うーん。もうちょっと上から、見下ろすように撮って欲しいかな」

「そうするとこんな角度でー、どうでしょうかね。にこにこ」

「うん。そうそう。それでこんな感じでポーズしたら可愛いじゃん?」

「ああ、いいですね。では、そんな感じで。にこにこ」


 階段を一段上がった所。

 ギルドの受付嬢さんが紫色水晶を構えレッタちゃんを見下ろすように撮影が行われていた。


『何やってんだ、あの子は』「レッタちゃん!??」


 慌てて近づく。

 というか写真ってああいう水晶で撮影するのか。


「手配書の撮影しなおし」

『いや、そうなんだろうけども』

「あ、良ければ三人で取ります? 三人まとまった手配書も作成できますし。にこにこ」

「あぁ、いいんですか! ──とは、ならんでしょ」

『というか、ギルドの受付嬢が手配書の撮影とかもやっていたのか』

「三人なら、そこの階段を使おう。今度は下から見上げるようなアングルはどう?」

「でしたら、こう、反攻(パンク)な感じでポーズはどうですかね。せっかく、皆さん黒っぽい恰好してますし。にこにこ」


『……はぁ。お前達! 遊んでないで、早く行くぞ』

「ええ、(せんせー)、写真撮ろうよ」

「そうですよ。手配書に残るなら、しっかりと良い物をと」


『馬鹿らしい。写真でなんか残したらずっと追われるんだぞ? 撮るならお前達だけで撮れ』

「ええ……!? カッコいい狼さん、取りたかったんですが……。にこにこ、しゅん」


『はん。この私が、カッコいいだと?』


「はい。狼さん、カッコいいですよ。毛並みとか、目鼻立ちとか。

 鼻から顎にかけてのラインがカッコいいじゃないですか? にこにこ」


 くだらん。と狼は呟いた。

 今は狼の仮の姿を取っているが、中身は魔族の元王である。


『……人間の価値基準は分からん……』


「そうですか……。にこにこしゅん」



『たく……──。一枚だけだからな』



 にこにこっと、写真撮りたがりの受付嬢による撮影会が始まった。



 ◆ ◆ ◆



 オレたちは、一度、荷物を置きに、マキハの家に戻ってきた。

 荷物とは、この大きな手配書である。


 レッタちゃんの手配書の写真は、自分の顔のアップ撮り。

 にぃっと笑った感じが妖艶でありながら可愛らしい。そんな一枚が本採用の手配書。


 オレのは、階段の下で煙草を吸ってるのが本採用。

 プロが撮ると、被写体がこんなオレでも超カッコよく見えるのね。


 で、狼先生は、横顔。素直に一番カッコよくてズルい。

 また、他のバリエーションも印刷されたら張り出される予定。


「結局、(せんせー)が一番ノリノリだったね」

『違う。ちょっと、こう、毛並みの確認したかっただけで』


「自分用の手配書、何パターン作るんだよ、って思ってたけど」

『っ! もうこの話は無しだっ!!』


「でも、三人一緒の写真、なんか楽しい感じに撮れてるね」


 まぁ、それは、かなり気に入っている。

 レッタちゃんが、俺と狼先生を抱きしめて笑ってる写真。

 うん。いい写真だ。


「あの。盛り上がってる所あれなんですけど……。

 こんな全力で手配書を撒かれてしまって、大丈夫なんですか?」

 マキハが訊ねて、オレたちは立ち止まる。


 写真撮影に協力……というか積極的に映りに行き過ぎて、ギルド側の路地はオレたちの手配書だらけになっていた。


「手配書が貼られてるからって何? って感じなんだけど?」

『……まぁ、正式に犯罪者、ということになるな』

「お、おぅ」

「くすくす。今更、って感じだけど」


『ただ、困った。国境越えが面倒になったな』

「?? どうして?」


『どうしてって。当たり前だろ。国境警備にいる勇者全員と戦闘する気か?』

「ああ、そうか。オレたち、犯罪者だから、普通に捕まえようとしてくるのか」

 というか、オレたちは、どういう名目で犯罪者なんだ……詳細を読むと、『国家反逆罪』となっていた。

へぇ、貴族に反攻すると、なんでも国家反逆罪になるらしい。


「別に、向かってきたら一人ずつ叩き潰したらいいんじゃないの?」

『……そりゃ、そうだが。そんなに暴れては、目標が達成できないだろう?』

「そうかなぁ?」

『そうだとも。とにかく出来る限り目立たないようにするのが一番だ』


「……はぁい」

『それに、自由に振るう靄舞(あいまい)も、無限に使える訳じゃない』

「あれ、そうなんですか?」

『ああ。そうだ』

 詳しくは言わない、と、会話が打ち切られる。

 そりゃそうか。弱点の情報が万が一にも漏洩したら、皆そこを狙ってくるもんな。


『とりあえず、現状では南の皇国を経由するルートは使えない。

 ……あまり使いたくなかったが、北からのルートで行くしかないか』


 確か、王都の周辺を通るは嫌、なんだったな。

 理由までは分からないが。


「皇国、行かないなら、もうここに長居は無用じゃないか?」

 オレが言うと、狼先生も頷く。

『貴族に喧嘩も売ってしまったしな。……まあ、あれだけやったんだ。しばらくは何もしてこないだろうし、動くなら、今のうちか。今日にでも、ここを経つか』

「そうですね。善は急げで、悪事も急げ、ですかね」


 くすくすっとレッタちゃんが笑った。

 不意に、ノアがレッタちゃんの手に頭を擦り付けていた。

 可愛い、と呟きながら、レッタちゃんは、ノアを撫でる。



「ね。マッキーも一緒に行かない?」



 レッタちゃんの言葉に、マキハは目を丸くした。

「これから、あんな嫌な貴族と一緒に居る必要もない訳だし。だったら、一緒に行かない?」

「えっと……その」

「もちろん、無理にとは言わないよ」

 マキハは、俯く。


「……わたしも、一緒に行くべき、でしょうか」


 マキハの言葉に、レッタちゃんが何かを言おうとする。

 だが、口ごもった。

「……それは、自分で決めないとね」

 オレが代わりに言葉を置いた。

 マキハは、頷いた。

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