【24】……! お前ら!【22】
◇ ◇ ◇
クソ……。バカスカ魔法を撃ち込みやがって……怪我したらどうすんだよ。
極寒の砂漠の夜で、馬鹿みたいに熱い炎をかき分けて俺は、ケホっと一つ咳をした。
「──『隊長討伐』、完遂させましょうか」
討伐? 俺はモンスターか何かよ。
──焼けた砂を踏みながら、ユウを睨む。
「お前、この上着、結構高かったんだぞ。もう焦げ焦げじゃねぇか」
「はは。ダメージ感あってオシャレじゃないですか。それに、砂漠じゃその方が涼しくていいんじゃないですか?」
「そうだな。オシャレになって風通しが良くなって、いいことづくめだな。お前の服も同じようにしてやるから降りてこい」
「あはは。……しかし、改めて。隊長は本当に規格外ですね。
火炎魔法の見本市みたいな量の魔法を叩きつけたんですが。焦げ焦げで済みましたか」
「ちょっと火傷もしたぞ」
左肘がヒリヒリと痛い。早く水掛けて処置しないとな。
しかし……困ったな。
「……正直言って、ユウ」
「はい?」
「お前の仕掛けたこの戦法……かなり、やりにくいな」
「お褒めに頂き光栄ですよ。ええ、隊長は武器全般が得意ですからね。木の棒から聖剣まで、なんでも使えましたから」
「安売りの広告かよ」「使えない武器は遠距離系の弓とか銃でしたよね」「いいや。弓も銃も得意だぞ。先っぽ持って相手を頭から殴りつける鈍器だろ」「はは、隊長に掛かれば何でも打撃武器でしたね」
──一閃。鼻先を炎の槍が掠めた。
掴むことを試みたが、ダメだな。実体が無いタイプの魔法だ。
「姿くらい見せてくれよ。モブ魔法使いって呼ぶぞ?」
「姿を見せたら一瞬で殺されると伝えられている。だがしかし」
「先ほどの攻撃で死んでないなら」「ヤハリ、本当に、勇者らいヴぇるぐ、ナノダナ」
ローブが闇夜に投げられた。透明化魔法のローブを捨てた?
腕に自信あり、なのだろうか。
「久しいな、ライヴェルグッ!」 鮫頭の魔族?
「復讐の機会、待ちに待っていたぞ!」 四ツ目の人?
「今日ガ、オ前の祝日だッ……!」 トカゲ顔? 祝日じゃなくて命日だろうなぁ。
「……! お前ら!」
鮫頭の魔族、四ツ目の魔人、トカゲの半人。
こいつら……。
「……誰?」
「十年前にお前にやられたシャシャックだ!」
「同じく四ツ目のフォイア!」
「八骨『跳炎』の腹心の副官の部下の友人、ゲトカだ!」
「ハルルのファンブックにも顔を出してないような奴らしかいねーじゃねぇーか。
思わず読み返しそうになるけど、お前らどこにも一言も書かれてないぞ」
俺の言葉に逆上したのか、すっげー色々喚いてるけど、もう割愛でいいな。
やっぱりモブ魔法使いズって呼んでおこう。
──さて。
少し軽口を叩きながら、状況を分析できたな。
まず、砂丘の上に居るユウまでの距離、10メートルちょっとだ。
ユウの奴は……俺が絶妙に攻撃出来ない、射程範囲外で高みの見物か。
実際、俺にとって、10メートルちょっとなんてのは遠くない。だけどそれは、全力で地面を蹴れるならっていう前提が付く。
今の足場じゃ無理だ。この砂漠の砂は柔らかすぎる。足が持ってかれて全力が出せない。本気で突っ込んでも2歩、いや3歩は欲しいな。向こうは砂丘の上だし、3歩だな。
俺の2歩。その間にユウは魔法を2発は撃てる。
それだけなら正面突破でいいんだが……周囲が厄介だ。
「火炎槍!」「岩石の豪快なる礫ぇ!」「超爽快! 破爆熱色ファイアー!」
モブ魔法使いズの火炎魔法と砂魔法を避けながら、そのバックアップに飛んでくる火弾魔法。
避けるしか出来てない。どこかで反撃の糸口を見つけないとな。
しかし……。
「鮫炎・散!」 鮫魔族の鮫型炎魔法。蹴飛ばして弾くが、くそ、火の粉が目に。
「砂かけアタック!」 四ツ目は砂魔法使いか。くそっ。目ばっかり狙ってくるなこいつらッ!
「強刺激! 輝支離光爆ファイアー!」 トカゲの頭悪そうな攻撃だが、眩しくて目が開けられない。ただの光魔法だってのに。
この三人はとりあえず躱せるが──それより厄介なのは、今現状、見えてない奴らだ。
姿を上手いこと隠して魔法を撃ち続けられている。10人……いや20人か。数的にも不利だな。
けども。
俺は少しよろけたふりをする。──敢えて、隙を晒せば。
「今!」「好機!」「タタミ、カケルッ」
「っ! 下がれ!」
「誰が下がるか! ライヴェルグへの恨み!」「ソシテ、懸賞金っ!」
「俺たちの物だあ!」
──威勢よく三人が飛び掛かってきた。
よいよい。手が届く範囲に入ってくれればありがたいぞ。
これで、丁度──射程だ。狙うは一ヶ所。
「お前らの顎。ぶっ壊す」
左右へ裏拳、正面には蹴り上げた。
バキッと砕けた音が響いた。確実なクリティカルだな。
──3人、地面に転がった。
「ふぅ。俺の攻撃範囲、もっと入念に伝えないと駄目だろ?」
「……っち。先走って。まったく」
ユウは舌打ちをしていた。
この統制の悪さ。それから、こいつらの口ぶりから察するに。
「大方、王国に収容されてた魔族の囚人ってところだな。ってことは、俺を打倒した報酬は、莫大な賞金と釈放ってところか?」
「ええ、そうですよ」
「烏合の衆じゃ、俺をどうにか出来ないぞ」
「……そうですかね?」
「あ?」
「──詠唱魔法の詠唱時間は、稼ぎ終わりましたよ」
──気付いた。いつも間にか、ユウの背に青黒い翼があった。
あれは。い、いで、いで……いでお。
「装纏翼──」
あ、ああ、それ。だ。
上位の魔族が使える翼を生やす戦闘魔法。発動すると魔法の威力が倍近く上昇する。対策はあの翼をもぎ取ればいいんだが。
まずい。流石にこの距離だと。
「くそ」
「──役は一色に清まり、天衣無縫の名を冠す和了」
鬼火のように、青い炎が周囲に浮かぶ。
唇が突然に切れた。辺りの空気が一気に乾いた──くそ。
──一瞬、俺の視界に入ったのは。
「──っち」
「『九蓮門宝燈』」
そして、空気が溶ける程の高温──青い炎の津波。
上下左右から──轟音を立てて押し寄せて来た。
流石に、これは──っ




