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【24】ライヴェルグ討伐作戦【21】


 ◆ ◆ ◆




「どれだけ大掛かりになってもいい──ライ公を完全に無力化してこい」




 それは、ナズクルからの命令だった。

 ライ公──それは《雷の翼》の隊長にして、魔王討伐を果たした最強の勇者──ライヴェルグの愛称だ。



「……マジで言ってます?」

「ああ。マジだ」



 十年経った。

 彼は名前をジンと変え平和な世を生きている。

 その実力は衰えた──訳ではなかった。



「魔王討伐時の16歳の頃が最高火力(ピーク)じゃなくて、未だに更新中に見えるんですよね。

そんな、最強生物を無力化って……」

 彼を表現するなら『世界最強』。とてもチープな言葉だが、それしかない。



「……あれも、生物だ。人間型の竜、あるいは厄災と思えば対処の方法があるのではないかと思ってな」



「無理、って言っちゃう方が楽なんですけど」

「例えばこの条件が揃えば勝てる、そんなことでもいい」


「うーん。……条件さえそろえば、ですか。それなら、まぁ……『ある』んじゃないですかね」


 机の上に置かれた資料──それは、集め尽くした洗い出せる限りの『直近』、ジンと名乗ってからの戦闘履歴。


 ある二人組の勇者から聞き出した、竜を素手で倒した戦い。

 賢者ルキが情報を出してくれていた時に話した、ヴィオレッタとの戦闘。

 鵺竜(キメラドニク)との戦闘痕、魔王との戦闘、王国の最強格老騎士(ロクザ)との戦闘、ユウ自身との戦闘。




「大前提として──隊長に『何も持たせないこと』が必須」




 ジンは、殆どどの戦闘でも武器を用いている。

 竜を素手で倒した戦いでは、序盤は鞘を使っての戦闘。

 ヴィオレッタとの初遭遇戦は木ベラ。その後はルキに作って貰った銀剣、ロクザから借りた刀によっての戦闘が主。



「刀を使えない状態、ということか」

「いやぁ、メイン武器を使えないじゃまだ物足りないですね。

隊長は傘で僕の氷防壁を叩き切りましたからね。

過去の戦闘でも、鞘、木べら、こん棒、お玉……棒が付いてりゃなんでも平気状態ですよ」




 ジンは──『棒状の物』さえ手にできれば、それが武器になる。




「……戦闘中に棒切れ一本入手出来ない場所で、素手の状態、か」

「それ、どこの戦場のアイテム禁止設定っ!? って状態ですよ。

ええ。そんな都合のいい場所、海中か空中かくらいしか浮かびませんね」


「海中は駄目だろ。魚の骨がある」「魚の骨まで武器にカウントしなきゃいけないとはっ」

 ユウは苦く笑って言葉を続けた。


「それに、もし僕が無力化をするなら、その上で僕自身が全力を出せる場所じゃないといけませんよ」



 武器を持っていない状態で、武器を入手できない戦場。

 ジンが不慣れでありながら、ユウ自身は有利な戦いが出来る戦場。



 ──だが、その非現実的な大自然(ばしょ)を。



「一ヶ所、心当たりがある」



「え?」

「──どこまでも開けた場所でありながら、足場が悪い。昼間は灼熱で戦えないが、夜ならば氷魔法も通りやすい極寒の世界」

「……それって」




「砂漠だ」




 ◆ ◆ ◆



(──武器無し状態にして、足場の不安定な砂漠へ移動。『隊長討伐作戦』、一つ目の難所はクリアと言った所……、っぁ)



 夜の冷え切った砂漠の上で──ユウは蹲る。

 ジンは少し離れた柔らかい砂の上に落ちたらしく、砂煙が舞っていた。


「は、はは……完全に意表を突いたのに、まさか転移の瞬間に(ぐー)が飛んでくるとは……ぅ」


 鼻からボタボタと血を流し、ユウは起き上がる。


「おい、ユウ。お前……これはナズクルの作戦か?」

「はは。そうですね。半分くらいは」


「ったく。なるほどな。武器を持ってない俺になら勝てる、って踏んだのか」


「ええ。その上、砂漠なら武器を入手出来ない。だから」

「はっ……お前、ボケてんのか」

 ジンは砂の上でバランスを取りながら立ち上がる。


「俺は一応、魔法も使えるんだぜ?」


「ええ、知ってますよ。ジンさん。魔力の扱いはかなり下手ですが、大雑把に広域を吹っ飛ばす破壊的な魔法は得意でしたよね。そう『魔力を大量消費する』タイプの魔法」

「ああ。よく覚えてんな。──つーわけで!」


 ジンの掌の上に白い光が集まり出す。バチバチと集まった光が空気を鳴らしたが──異変に気付いたのは発動したジン本人だった。


「ええ。だから、先に手を打ったんですよ」



 ジンの両腕に『蜘蛛の巣状の紋様』が浮かび上がった。



(──なんだ、これ。いや、これは知ってるぞ。この紋様は)


「王国に古くからある魔法を禁止する術式の一つ。『禁式』です。

セーリャ・ド・カデナさんに編んで貰った『地雷印・禁式』は高い火力な魔法を使おうとすると、それを引き金に魔法を禁止するそうで──とても便利ですよね」


「っ……いつの間に俺にそんな魔法を」

「やだな。今ですよ。というか、『持ってる』じゃないですか。

僕が(・・)渡した(・・・)魔法の媒体を」

「──っ」

 ジンはポケットに入れていた『砂時計』を思い出しすぐさま投げ捨てた。


「まぁ今から捨てても発動してしまった魔法は消えないんですけどね」


「っち。用意周到だな。武器無しで魔法禁止。それで戦えって?」

「ええ、ただこれでようやく対等ですかね。まだ拳が動くでしょうから」

「……対等? は。舐められたもんだな……俺相手によ」


 ジンが拳を握り込み、砂を踏む。


 爆弾でも爆発したかのような砂柱が立ち、ジンは空中に居た。

 そして空気を蹴飛ばしユウへ矢のように飛び掛かる。


「ユウ、お前の攻撃()の内は分かってんだ。幾ら強くても、お前の攻撃方法は把握できてる。

だから拳がありゃお前くらいなら一方的にボコれる!」 


「ええ、そうでしょうね。──僕だけなら、ボコれるでしょう。なので」




(──っ! クソ。この野郎ッ!!!)

 ジンはその瞬間、空中から砂漠に『叩きつけられた』。

 そして、砂煙が巻き上がる。けたたましい爆音。集中砲火だ。



 周囲一帯から、何の魔法かもう訳が分からない程の『爆撃』が行われた。

 



「──僕以外を連れてきました。一対一じゃ絶対に負ける。

だから、数人。いいえ、大勢で一気に圧し潰すのが得策です。

ということで、王国で幽閉されていた囚人の中から、魔法攻撃のスペシャリストの方々を選抜しましたよ」



 火炎、爆撃。まだまだ降り注ぐ魔法たち。



「ちなみに矢や弾ではなく全て魔法攻撃にしたのは、投げて跳ね返されるリスクを極限まで減らす為です。

どうですか? ここまで一方的に攻撃されるのは久々なんじゃないでしょうか隊長。

さて──」




 砂煙が霞み、残った炎が燻る中──体の至る所に焦げた傷跡があるジンはギリッとユウを睨んだ。




「──『隊長討伐』、完遂させましょうか」





 ◆ ◆ ◆

いつもありがとうございます!

申し訳ございません……。諸事情により次回投稿は11月26日とさせて頂きます。

よろしくお願いいたします……!


暁輝

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