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【24】ドゥール王子【17】



 ◆ ◆ ◆


 ──そして、今。ようやく竜車が止まった。


 砂の大国の──都に、降り立った。

 真っ青な空、白い石で作られた宮殿と背の低い家々。

 それから所々に飴色に光る石も嵌めこまれている。


 砂の香りを含んだ風が舞い上がる。

 ここが、砂漠の中にある神秘の都と言われた──。


「砂の都『カフラム』に到着ッスね! 本当に異国ッス!」

「ああ。来るのは流石に初めてだわ」


「いやー、綺麗な都ですねー」 ユウがひらひらと笑うように言う。


 辺りは砂丘に囲まれてはいるが、この土地だけ緑もある。

 足元は白石に金が混ざったタイルのような床が敷き詰められており、よく舗装されている都だ。

 至る所に巨大なオアシスから引かれた水道もあり、砂漠の中にありながらも潤った都である。


 俺たちの反応にドゥールはこっそりと鼻を鳴らしていた。

 そうだな、ドゥールにとっては地元が褒められた感覚だもんな。


「ジンさん! この足元の金色って、もしかして本物の金ッスかね!?」

「いや、流石に本物の金じゃないんじゃないか? そんなに金遣い荒くないだろうし」

「ああ。これは違うぞ、金じゃない」

 ドゥールは客車から降りてから、町の外周を覆う壁に触れた。

 そこに手を這わせた。丁度そこに大粒の金がある──いや、違うな。その大きさなら分かる。


「首都の名前、カフラムは古樹文(ルド)語のカフラマーンに由来する。意味は、『琥珀』だそうだ」


「琥珀! 琥珀なんスか!」

 琥珀なのか。凄いな。壁の琥珀を指でつんと突いた。綺麗だな。


「今しがた渡って来た砂漠だが、あの砂漠を砂の国では『バフラーンジョハラ』と呼んでいる。意味は『宝石のある海』で、琥珀が混ざっているんだ。

なんで混ざっているのか、何故まだ溢れるように出てくる理由は全くもって不明だし、謎だ。だが、とにかくこの国の土にも砂にも琥珀は混ざっていて、壁や城の装飾に使われているんだ」


 へぇ。不思議砂漠だな。

 ふと、俺の隣のハルルが──目をらんらんと輝かせている。


「その謎、興味あるッス!! 未だ解き明かされていない未知! それを解き明かした伝説の勇者、ハルルになるッス!」


「本筋から逸れてる逸れてる。ハルル、落ち着け」

「──本筋?」


 っと。ドゥールの目が俺を見た。


「あ──は、はね、は、Honeymoon、のさ」


「急に発音が良くなりすぎている気がするが」

「いや、いつもこんな感じだっただろ。な、ユウ」

「え、ええ。いつもこんな感じ──こんな感じに隠し事が超苦手でしたね」

 後半は俺にだけしか聞こえないように超小声の嫌味だ。


『苦手じゃねぇし』『サシャラさんの菓子(ハラヴァ)を勝手に食べた時隠し切れなかったじゃないですか』『ありゃお前が悪だろっ、裏切って俺を売ったんじゃねぇか!』『違いますよっ、あの時サシャラさんがもう気付き始めたんで勝ち馬に乗り換えただけで──』



「何か言いにくいことでもあるのか?」



「「いえ、なにも??」」



「それより砂漠の話をもっと聞きたいッス! ジンさんたちは置いておきましょ!」


「そ、そんなに興味を持ってくれたのか?」「はいッス! 超興味津々ッス!」「そうか。嬉しいな。──5200年前の建国時に初代国王がこの砂漠で大きな琥珀を見つけ出し、その時に信託を授かったのが興りとされて──……」


「ハルルさんのナイスフォローでしたね」

「いや……あれはフォローじゃなくてマジのマジに砂漠の謎に興味津々モードだよ」

 《雷の翼》のことを聞く時と同じ目してるからなぁ。今のハルル。


 ふと──なんだか物凄く視線を浴びている気がする。

 気がするじゃない。なんだ、注目の的か??


 ふと、ターバンを巻いた少年がわぁ! と声を上げた。



「ドゥール王子だ!」



 ──? ドゥール、王子(・・)

 王子? え、何かの聞き間違いか? おうじ……おうじー、OG? いや、OBの聞き間違い?


「ん。ああ」

 え、なんで少し口元だけ笑顔になるような顔を浮かべて手を振ってるんだ??


「やっぱり、本物!?」「ドゥール王子がいるって!」

「王子! ドゥール王子!」「きゃあ! なんで城下に!?」


 え。ええ? なんだ。待て待て、どういうことだ???


「場所、変えた方がいいかもしれませんね、ドゥール王子」

 ユウが狐みたいに笑って恭しく礼をした。

 え、何、どういうこと?


 ◆ ◆ ◆


「ドゥールさんは砂の大国『ミッドバルハーム』の姫であるシェンファ様とご結婚されました。

その為、王位継承権も与えられ、ドゥールさんは公式には『ドゥール・ミッドバルハーム王子様』ということになります!」


 銃声。ユウの頬を銃弾が掠めた。


「危なっ!! 殺す気ですか!!?」

「王子だけでいい所をわざわざ『様』を付けた感じに悪意があると判断した為、反射的に」


「ジンさんより凶悪ぅ!」

 サボテンがなんか喋ってんなぁ。改めて丁寧に埋めなおすぞ。


 ドゥールに案内されながら歩く、王宮までの道すがら。

 俺は改めてドゥールを見る。


「ん。どうした、隊長」

「いや。……なんか、ドゥールが王子になったって、不思議な気分だな。友達が王子か」

 俺の周りにそんな高貴な人間……と思ったが、そういやラニアン王子も王子だったな。


「……少しばかり恥ずかしいから、王子呼びは止めてくれ」

「分かってるっての。……あー、というか、なぁ。

ドゥール、もしかして将来的に王様になるのか?」


 俺が問うと、ドゥールは首を横に振った。

「王位継承権は持っているだけだ。そんな願望は無い」

「そうか。なんかよかったわ」

「?」

「いや、昔からドゥールは肩書きとか称号とか拘らないタイプだったから、変わってないなってさ」

「そうだな。とはいえ、最低限、シェンファの隣に立つのに相応しい称号だけは持ち続けなければならないからな。王子として振舞うのも慣れたよ」「そうか。まぁ変わってないようでよか──」

「王子、ぷぷっ」


 銃声3発。見事な早打ちだ。うん、やっちまえ、ドゥール。


「あっついっ!! 薬莢、服の中に入ってるぅぅ!! ぁああ」

「お前の自業自得だろうに」


 ◇ ◇ ◇


 王宮の門の前まで来ると、ドゥールが少し待っていてくれ、と言って守衛に挨拶をしてから中に入った。


「流石に俺たちを中に入れるにはそれなりの許可が必要か」

「みたいッスね」


「……丁度いい。作戦会議をしておきましょう」


「「なんの?」ッスか?」


 ズコッと絵に描いたように転がるユウ。


「……面白いリアクションに期待したけどこれか」

「期待外れッスね。いつも通りでした」

「酷い人たちだっ、あんたらはっ」


「で、作戦会議はどれのだ? お前がナズクルに変装するんだろ?」

「ええ、その決行時間についてです。と……まずハルルさん」


「はいッス!」

「……隠し事、得意ですか?」

「苦手ッス!」

「素直でいいですね! ……ハルルさんはちょっとここで待機してください」

「はーいッス……」



 まぁ賢明な判断だな。

 俺は冗談で隠し事苦手をするが、ハルルはガチで隠し事苦手だろうし。俺のは冗談。マジ。



 少し離れて、ユウは小声で話を始めた。



「決行は、今夜にします。そして、町の外れに呼び出します」

「町の外れに? なんで?」

「はい。ドゥールさんとナズクルが繋がっていた場合、定時連絡とか取り合うことは十分にありえますよね?

それが運悪くそのタイミングだったりしたら厄介です。それに本人が偶然に訪れるなんてことを避けたいじゃないですか」

「まぁ、確かにそうだな」

 戦闘で攻め込むときも、大体、立てた最初の計画は失敗する。不思議だが、綿密に組めば組む程何かしらのイレギュラーが起こるものだ。


「ハルルさんはあの性格ですから、王宮に置いておきましょう。

ジンさん。貴方が居ればドゥールは戦闘にもならず抑え込めるでしょうから」

「……まぁ、最悪の時はな」

「とりあえず、今夜、22時にこれを使ってください」

 渡されたのは──なんだこれ。砂時計?


「何これ?」

「転移魔法道具です。砂漠仕様の。来る時に話したじゃないですか。土地ごとに転移魔法が禁止されるって。これはこっちで購入したものなので、この国から獣国まで使える道具です」

 へぇ、こんなのあったんだな。


「では、今夜22時。寝てないでくださいよ、ジンさん」

「分かったって」


 風が吹く。

 清く乾いた風の香りの中で、ユウは目を細めていた。

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