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【24】……死んでいないと。信じていたよ【12】


 ◆ ◆ ◆


「《雷の翼》のドゥール様! 現在は27歳ッスよね!

職業は銃使いと書いてガンマスター!

遥か彼方からの遠距離狙撃! ゼロ距離戦闘での近距離射撃!

銃での戦闘ならなんでも得意! 超有名な戦闘は、クライリオスの戦いッス! 

王国の東南部に浮かぶクライリオスの孤島を侵略しようとした帝国兵士を、たった一人で、しかも銃だけで守りぬいた戦闘ッス!

ちなみに、そこで現在の奥様であるシェンファ様と出会っておりますが、そこは短編レベルなので一度割愛!

有する術技(スキル)は【鋭視(スコープ)】と言われておりますが、実際はどうなんスかね? 

実はファンの間でも色々と考察がありますが、実は術技(スキル)無しとか、違う術技(スキル)かもと言われてるッス!

とても無口でクールな人とどのインタビュー記事にも書かれてるッス! 

そのミステリアスさにファンも多いッス! 《雷の翼》人気(ハルル調べ)では上位に常にランクイン!

ここからは独自調査ッスけど、趣味は模型作成ッス!

これは南部鉄橋作戦時の発言に起因するッスけど、蒸気機関車にとても詳しい上に熱狂者(ファン)でなければ知るはずがない型番まで知っていたからッス! 

単に蒸気機関車を好きなのかと言うとそうではなく、ずばり乗り物にはとても詳しい傾向にあったッス! 

そして極めつけは鉄の町在住時の購入物! 当時の領収書を全て調査した所、銃の素材にしれっと紛れ込ませた道具たちは模型を作るのに必要な物を購入しているのが明らかになってるッス! 

そして戦後に開かれたボトルシップコンテストにはドゥールさんと思われる方が映り込んでおり──」


「ハルル、ストップストップ。毎回どこまでアクセル全開で喋るんだって」

 というか領収書の調査とか、会計監査も真っ青なハルル調査だ……。


 今は竜車(ばしゃ)の客車の中で話をしている。

 ドゥールに向き合うようにして俺とハルルが座っている。ドゥールの隣にはユウ。合わせて四人だ。

……そう言えば、今回のハルルのデータベースアタック、過去一ダメージが少なかったな。まぁドゥールは昔から黒歴史らしい黒歴史は無いもんな。


「……凄いな。この子は。俺のことをそこまで知っているとは」

 驚いたようにきょとんとした顔をしているのは、ドゥールだ。撫でつけたようなオールバックの黒髪、黒い目に白い肌。十年経ったが昔からあまり変わってないな。


「でしょ。僕のことも超詳しく知ってくれていたので、歩く図書館と僕は思っています」

「えへへ、恐縮ッス~! 《雷の翼》の大ファンなので!」

「そうか。嬉しいな」


「ですので、サインを貰ってもッ! あと、いいタイミングなのでユウさんからもサインをば!」

「ああ、構わないよ」「いいねー、いいねー! いいよー!」

 ドゥールはぱぱっと片手でサインしていた。すげぇな。

 流石慣れてるな。昔からドゥールはファンに囲まれることが多かったしな。

 美形……というのと少し違うか? 女子受けするイケメンはアレクスが一番。

 そうだなぁ。なんというかドゥールはスポーティーな顔立ちで男女ともに受けがいいというか。誰が見てもカッコいいというか、対応が大人と言うか……。


 不意にドゥールと目があった。

「隊長」

「ん?」



「……死んでいないと。信じていたよ」



 少し、口元を微笑ませてくれたように見えた。

 昔より、顔に感情が出るようになったな。


「ずっと連絡してなくて悪かった」

「そういう状況でも無かったんだろう」

 目を閉じてサインを書き上げた。ユウも書き上げ、二人のサインを貰ったハルルがバナナを得た猿みたいに歓喜している。よかったな。


「が、まさか恋人を連れて観光しているとは思わなかった」


「観光ではねぇよ??」

「? じゃあ何をしに?」

「それは──あーっと」



「僕から話しましょう、ドゥールさん!」



 そうだな。ユウ、任せたぞ。こういう時の誤魔化しは俺には出来ない。

 アイコンタクトもバッチリ決まった。視線を交わし、ユウは良い笑顔を浮かべた。






「これは結婚を決めた隊長の婚前旅行! いわばハネムーンなのです!」






 なっ!?


「そうなのか」

 ドゥールは少し驚いた顔をし、俺は顔を強張らせた。

 ハルルも同じだろう。隣で皺の取れたシャツみたいにビシッとなったがの見なくても分かる。


「ええ、そうなんです!」

「本人たちは顔を赤くしているが」


「結婚が決まって間もないですからね! 僕に堂々と言われて恥ずかしがってるんですよ!」

「なるほど」


「そして、この僕は現在王国で旅行代理店に就職しており、今回の旅を企画した訳です!!」

 それは嘘っぽいってならない???


「……嘘っぽいな」 なっちゃったじゃんっ!


「あはは。ええ、嘘ですよ。流石ドゥールさんですね~。

普通に王国でナズクルさんの下で働いているのですが、婚前旅行の案内役として休暇を貰っております! 

こうやって10年前の仲間たちに極秘で挨拶して回ってるんですよ~」


「ああ、そういうことか。公に出来ないからか」

「ええ、そうなんですよ。ドゥールさんに会うのが目的で、なんならサプライズ予定だったんですが、バレてしまいましたね」

 

 ──流石、酸素と同じように嘘を吸って吐く男だな……。


 わざとバレる嘘を吐いて見破らせて、その次に真実っぽい嘘を語る。

 こうすれば嘘を信じ込ませやすいのか。

 手腕は凄いし、見事だが──この野郎、ハネムーンってことになっちまったじゃないかっ。




「それと、ドゥールさんにお土産もあるんですよ」



「土産?」

 ドゥールが首を傾げる。

 あ……あの鞄の中身か。


 ユウは鞄を取り出し──そしてその中身を、静かに見せた。



「……! これは」

 

 

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