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【24】正体見たり【11】



「とりあえず、大長王蛇竜(ダオ・ガンドルナーガ)刻んでくるわ」



「ちょっ! 何そんな玉葱みじん切りのテンションで一狩り行こうとしてるんです!?」

「そッスよ! ダオガンは捕獲しないと金貨貰えないんスよ!」



「いや、お前ら……状況分かってる??」



 ──砂漠の砂丘を爆走する竜車(ばしゃ)

 背後を見れば、砂を泳ぐように追いかけてくる巨大竜。


 速度的に、後数分以内には転覆させられてしまいそうだ。




「会いたかった未知の生物に出会えた状況ですね」

「レアな竜に出会えて嬉しい状況ッス!」




「割とピンチな状況だよ??」

 身体の一部分しか見えないが、細長い蛇のような胴体があちこちの砂の表面に見えている。

 そこから推察するにあの大長王蛇竜(ダオ・ガンドルナーガ)という竜は相当にデカい──いや、長い。


 ユウの仕入れた信憑性のない噂じゃ、動けば渓谷が作られるだったか? 

 そこまでの大きさには見えないが……いやどうだろう砂の中にもっと長い体が収納されているのか?


 ともかく──客車がまた揺れる。


「っ──何回もタックルされたら横転するな」


「ですねー」

「……滅茶苦茶に余裕ぶっこいてるなぁお前」

「いやぁ。ほら、隊長がいるし、何とでもなるじゃないですか。

よっ、無敵の隊長~! あ、もちろん殺さずにお願いしますよ! 

ハルルさんも言っていましたが、捕獲対象生物ですから!」

 むかつくなぁ。


「捕獲したいならお前が先陣切ってこいよ」

「いやいや、僕、氷系の魔族ですので。砂漠の真昼間なんて相性最悪ですよ。

夜だったら超全力で戦えるんですけどねー、いやー残念残念」

 もう一回埋めてこようかなコイツ……。



「では、私が行ってくるッス!」



「待て待て待て! お前に言った訳じゃない! 

ていうかお前は砂漠での戦闘なんて心得てないだろうにっ!」


「え、砂漠の戦闘って普通の戦闘と違うんスか??」

「かなり違う。今いる場所は岩石砂漠じゃなくて砂砂漠だ。

足場が悪くて踏み込んだ時に足が結構沈み込む。体力を奪われやすいんだよ。

それに、俺だって砂漠じゃ戦闘は──」


 瞬間、激しく上下(・・)に振動した。


「っ! 下から──」


 轟音。急に堰き止められた滝が溢れたような、轟音が響いた。


 っ。客車ごと、打ち上げられた。



 そして──俺は打ち上げられた竜車(ばしゃ)を外から見ていた。

 もっと厳密に言えば、投げ出されていた。



 悲運というか、不運というか……。

 今の反動で扉が大きく開け放たれて、一番外側に居た俺が外に投げ出されたらしい。

 実際ここから客車の中に戻れる。


 けどまぁ。


 俺はちょっと後頭部に触れる。


「痛ぇじゃねぇか、蛇」

 頭を打ったわ。


 ──腰の刀に手を掛ける。


 落下しながら、空気を踏み(・・)、体制を整える。

 向かうは下から突き上げてくれたあの尻尾だ。

 デカいな。確かにデカい。3階建ての屋根に届きそうな尻尾だな。

 これで全体像じゃない訳だし、どんなデカさだよ。まったく。


 まぁ、捕獲するにしたって、尻尾くらいは切断してもいいよな。




 ロクザさんから見真似した居合の技──切断技として汎用性が高い抜刀術。




一刀翔(いっとうかけり)




 斬った。

 斬った──んだけど。んー。


 んんー?? 斬った手応えが変だ。

 なんつうんだろう、巨大な物体を斬ったような手応えじゃない。

 例えるなら、そう。細かい繊維質を斬ったような……そうだ、寄り合わせて作った大きな縄を斬ったような、ぶちぶちといった手応えが近い。


 どういうことだろうか。いや、もしかして。


 砂丘に着地。足から着地したんだが、跳びあがった砂が体中に掛かった。熱ぃ。

 熱された柔らかい砂を振り払って空を見上げる。


 竜車が、空に浮いている。ゆっくりと砂漠に降りて来た。

 ここから十数メートル先に着地。きっとユウが浮遊の魔法でもかけてくれているんだろう。

 ま、それくらいはやってくれるよな。


 斬った尻尾が砂丘に落ちた。くそ、また砂がっ。

 砂煙の向こうにある尻尾を、目を凝らしてみる。

 ああ、やっぱりそうか。

 そうだよな。納得した。



 大長王蛇竜(ダオ・ガンドルナーガ)──そんな巨大な蛇竜、居る訳が無い。





「ジンさん! 大丈夫ッスか!!?」




 ハルルが駆け出してきた。砂を滑り落ちるようにまっすぐに。

 あー、なんか砂漠を楽しんでるように見えるけど気のせいにしておこう。

 それと出てこない方が安全だったが、出てきちまった以上仕方ないか。

「ハルル──背中合わせになっておこうか」

「え?」

「幽霊の正体見たり枯れ尾花、じゃないけどな。大長王蛇竜(ダオ・ガンドルナーガ)の正体見たり、だ」


 斬った尻尾が動き出す。そして、周りの砂漠もぼこっと幾つか盛り上がる場所が出てくる。


「夢を壊すようで悪いが、大長王蛇竜(ダオ・ガンドルナーガ)という竜はやっぱり居ないようだ」

「え、でもそこにいるのは」

「まぁ生態的に新種かもしれない。結果的にこいつら(・・・・)の名前が大長王蛇竜(ダオ・ガンドルナーガ)ってなるかもな」


 尻尾が分裂する。いや、厳密にはただ『集合』していただけ。

 俺が斬ったのは数匹の砂蛇竜だ。いや、俺が知ってる砂蛇竜とは少し違うようだ。


 その頭は船首みたいに尖っている。そして、その顔の上側に丸くて大きな口が開いている。

 八足盲顎竜(ムメノタツメ)という口がヒルみたいに丸い奴がいた。そいつに近いかもしれない。


「コバンザメみたいッスね。向こうは吸盤でしたけど」

「ああ、なるほど。それに近いな」



 全長、1メートル弱。

 そんな竜が集まって『巨大な竜』になっていたらしい。



「……泥みたいにドロッとしてるな。体を溶かして仲間と合体してたのか?」

 その茶色い体はドロドロになっているが──みるみる硬そうな肉に戻っている。

 合体と分裂が出来るのかもしれないな。


「泥みたいにドロッと、ッスね」

「ギャグで言った訳じゃないからね??」「分かってるッスよー!」


 しかし、厄介だな。あの尻尾の残りから出て来たのは5・6匹。

 大きさから逆算するに、あの竜は十倍か二十倍の竜が集まって出来ているんじゃないか?

 しかし、見たことのない生態系だな。だが、推察できることは十分にある。


「小さな竜が集まって大きな姿をしていたっていうことは、一体一体はそこまで脅威じゃない可能性が高いッスよね」

「ああ、そうだ。その通り」

 ハルルも薙刀を構えた。


 そして、竜はタイミングを合わせたように全方向から俺たちに向かって竜は飛び込んできた。

 実際、意識を共有しているのかもしれないな。面白い生態系だ。

 ま、研究は今回じゃなくていいな。


 ハルルの分析通り。これくらいの竜……絶景を使うまでも無い。


 俺の握った黒刀身の金烏(かたな)が、赤く燃える。

 火炎の一薙ぎ。一撃でいい具合に炙った(ミディアム)状態だ。


 俺の後ろでは大薙ぎ払いに合わせてバチバチと雷の音が聞こえた。

 見なくてもハルルの敵ではないようだ。


 そういえば、ハルルの戦いぶりは上達しているな。


 元から直線的な動きは無駄が少なかった。

 素早い突きはもちろんいい持ち味だ。

 そして、今は視野が広がった気がする。

 攻撃し、次の敵への攻撃をすぐに考えて対策している──そう見える。


 まぁ、引き運の悪さか良さかは分からないが、強敵と当たり過ぎているのも影響しているだろうか……。無駄があったら死に直結の場面が多かったもんな。


 俺も無駄なく、戦わないとな──飛び掛かってくる竜に最短距離の薙ぎ払いを与え、改めて背中を合わせる。


 斬っては避け、避けては斬って。竜が次々に倒れていく。

 足の踏み場が無くなって少し移動。

 斬っては斬っては、また避けて……。


「ジンさーん!! 数が多すぎるッスよー!!」

「ああ、まぁそうだな。嫌になるな流石に」

 消耗戦になっても負ける気はないんだが、流石に死体が積み重なってもまだ周りに竜の気配がある。

 その上、この気温だ。流石にハルルは堪えるか。


燃える刀(きんう)さんの火力、弱火でお願いしますッス……っ」

「そんな微調整できねぇって」

「えへへ、冗談ッスよー……!」


 軽口を言うハルルだが、流石に汗が凄いな。

 と言ってもこの状況を一撃で変えるような技は……いやあるにはあるが使ったらその後が──。


「うわっとぉお!? 危ないッスね!」

 ハルルの薙刀に竜が食いついてた。振り返りざまに斬り裂く。

 流石に厳しいな。仕方ない、竜車(ばしゃ)でゆったりしてるユウをこっちに呼ぶか──ん。


 今、光った? あの砂丘の上……──。

 



 瞬間、竜が5匹同時に俺へと跳びかかって向かってきた。

 だが、俺は構えることもしない。


「!? ジンさん!?」

「ああ、大丈夫だ」

 ──あの光は、双眼鏡の光。



 発砲音がした。一発、いや二発だな。



 俺に跳びかかって来た竜の頭から血が噴き出る。

 一発で2・3匹撃ち抜いたみたいだな。


 砂丘の上、上から下まで黒いローブの男がいる。

 ゴーグルまで付けて、暑くないのかねえ。



「だ、誰ッスかね?」


 ハルルが首を傾げた後に、あの男は人差し指程度の大きさの金属の棒を口に咥えた。

 ピィィイ! と甲高い音が鳴る。あれは笛か。


 その音に反応したのは砂の中の竜たちだ。



 地響きのような音がする。竜たちが一気に男に目掛けて跳びかかった。

 茶色い滝のように見えるほどだ。


 おお、そういう手があったか。そういう道具もあるんだな。


「!! ヤバいんじゃないッスか!!」

「いや、かなりいい手だ。ここに居る竜を全部が自分の方に向きさえすれば、『(ヘッド)』が狙いやすくなるかなら」

「え? (ヘッド)が狙いやすく?」

「ああ。アイツは狙撃が有名だけどそれ以外の近距離の早打ちも得意なんだよ。

銃をなんでも使いこなすから、そういう異名なんだろ?」


 《雷の翼》で、俺的には一番カッコいいと思ってしまう、その異名。




 まるで機関銃(マシンガン)のような銃声が砂漠に響き渡る。




 時間にして、数秒。

 竜たちを殲滅しつくし──黒いローブの男はその場に立っていた。



「合流する時はいつも何かに襲われていないといけない決まりでもあるのですか、隊長」

「よ。久しぶりだな、ドゥール」


 声を掛けると、その男──《銃神》ドゥールは、ゴーグルを外す。

 呆れたように笑っていた。


  

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