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【24】友人として【06】


 ◆ ◆ ◆


 隊長──もとい、ジンさん。そしてハルルさん。

 二人は、いつも楽しそうです。いいことですね。恋愛は、楽しいものですから。

 馬車の中でも、馬車停まりでも。

 二人は本当に幸せそうに会話していました。何気ない会話から相手への思いやりが伝わって、いい関係だと思います。

 フィニロットお嬢様とも、僕はこうしたいと、こうありたいと思いました。

 いつかこういう場所にも連れてきたいと思いました。


 だからこそ──僕は思ったんですよね。


 数歩後ろを歩いた時に。

 僅かに見えた横顔に──その影に。


 ……。不安。それから、僅かな。


 はぁ。この質疑は、僕の目的とは少し違う。

 余計で脱線。無駄なイベントです。


 しかしながら。


 余計なお世話かもしれないけども。


 ()人として聞き出しておくべきだと。思いました。──ユウだけに。


 ◆ ◆ ◆


「ジンさん! 違いますって!!」


「どうしたユウ。急に騒ぎ出すなんて。

お前がさっきこの宿は壁が薄いから静かにしましょうねって言ってたんだぞ」


「いやいや、そうじゃなくて! 何で僕らはあんな全力で異国料理を堪能してるんですか!」

「そりゃお前、美味しかったからだろ」

「そりゃそうですけどっ! 違うっ! 今日一日を食事だけに費やしてしまったッ!!」

 ──人生で触れたことのない土地の、まったく知らない料理って全部美味しく感じるんだよなぁ。


「贅沢な一日だったな」

「まぁそれはそうですけどっ!」

 俺とユウは今日、朝からずっと色々と食べ歩いた。

 特にお気に入りは串に刺した焼き肉(シークケバーブ)。スパイスと肉って本当に相性いいよな。

「何が不満なんだよ」


「ジンさんへの問いかけえッ! 割と重要なコトを喋ったんだぞォ!」


「声が五月蠅ぇって……。あれだろ。ハルルの中にサシャラが云々かんぬん」

「そんな軽いノリの案件じゃないでしょうに」

「はぁ……っつーか、その辺はナズクルから聞いてないのか?

術技戻法(スキル・リバーサー)の話とか」


 ──魔王と最後の戦いをする前に、俺はナズクルにその辺の情報を伝えてしまっている。

 ヴィオレッタがサシャラの妹だっていう話もそうだが。


「あまりハルルさんのことは聞いてないですね。それが?」

「そうだな。順を追って話すと……」

 少し。ハルルのことを説明した。


 ハルルが【術技戻法(スキル・リバーサー)】という周囲の術技(スキル)を再現する珍しい体質であること。

 そして、サシャラの妹であるヴィオレッタが、サシャラの蘇生を行う為にハルルを利用しようとしたこと。

 その体質を利用して、サシャラの術技(スキル)から【記憶】を抽出・再現し、ハルルに移植しようとしたということ。


「……へぇ、興味深い実験ですね。ナズクルさんからは聞いていないこともありました」

「ああ。まぁちなみに最近になってヴィオレッタに聞いたんだが──最初にハルルにサシャラの術技(スキル)を移植してあるそうだ。

ただそれは失敗に終わったらしい。ハルルはサシャラの術技(スキル)を発動せず、記憶も乗らなかった。混濁はしたらしいがな」


 その後、無理矢理に記憶を上書きする魔法の研究を進めているうちに、ハルルは姿を消し──俺の元に来ていた、という訳だ。

 強制記憶上書き魔法の理論が完成し、術技(スキル)で安定させられるということが判明。だから、ハルルを探しつつ術技(スキル)を集めていたらしい。


「んで、ハルルの中にサシャラを見た、っていうのは、その名残なのかもな。

実際、魔力の波長や術技(スキル)に類似性が生まれる可能性があるってヴィオレッタは言っていた。

それで──」




「ジンさん──いえ、ここは敢えて隊長と呼び直しましょう。

隊長。違うんですよ。

僕ぁ、そういう難しい話をしたいんじゃあないんですよ」


「ああ??」




「一人の友人として──男としてしっかりと話したい」

 ユウが身を乗り出して顔を俺に近づけた。近い近い……っ。


「ちょ、ちょっと待て。何? 文脈が理解できないんだが」




恋話(こいばな)、したいんですよ」




「怖えええよ、なんかお前???」



「単刀直入です。

ハルルさんがサシャラさんに似ているから恋人にしたんですか?」



「……あ?」

「昔の好きな女の面影を引き摺って付き合ったんですか?」



 目が合う。

 ユウはじろりと俺を見ている。溜め息が出た。



「全然、似てないだろ」

「似てますよ」

「……サシャラはもっと凛々しい顔してるぞ。あんな丸っこい感じじゃない」

「ええ、そうですね」


「目も全然違うだろ。性格は、サシャラはもっと男勝りでガサツだ」

「いい部分ですけどね?」「悪いとは言ってねぇぞ??」


「でも似てる部分もありますよね。周りに気配りしちゃう所とか、常にお道化て相手を笑わせようとする所とか」


「……確かに。似てるっちゃ似てる部分もある。サシャラもハルルも、性格はまっすぐで明るい。

勿論、弱い部分もあるんだが、隠そうとする。

辛いことがあるとバレないようにこっそりと泣こうとする」




「似てるじゃないですか。だから好きになって付き合った、っていうことじゃないんですか??」




 ……ちょっとイラっとした。

 腕を組む。


「……。確かに、もしかすると切っ掛けはそうだったのかもしれないな。

けどな。似てることを理由に付き合おうとか、好きだと思った訳じゃない。

アイツを好きになったのは、そういう似てる部分以外だよ」

「ほう」


「ハルルは、すげぇよく相手を見るんだよ。

どうしてそう思うのかとか、どうしてそういう考えをするか、とか。よく考える。

誰かの意見を聞きながらも、その意見を聞いてからしっかりと自分で考えて、人任せにしないんだ。

アイツの言葉を借りれば、無関心にならない、だな。常に誰かに関心を寄せる。

お節介っちゃお節介だけど、そうやって誰かに積極的に関わっていく姿が、俺には出来ないって思って感心したんだよ」


「そういう所を好きになったんですか?」

「ああ、そうだよ」


「サシャラさんの面影を追った訳じゃなく?」

「ああ。そーだよ。サシャラと似てるとか似てないとか関係ない。

四季亭の末っ子で勇者ヲタク、山が遊び場の田舎娘のちょっと変わったハルルに惚れたんだ」

「つまり、ハルルさんだから、好きになったと」


「あのなぁ。さっきから、そうだって言ってんだろ??

俺は、ハルルを、ハルルだから好きになったんだ。

誰の代わりでもなく、世界に一人しかいないハルルっていう女の子を、一生愛したい。守りたいって思ったんだよ」


 ユウが目を細めて笑う。何だってんだコイツ。

「良かったです。友人として、最高の言葉をちゃんと聞けてよかった。ありがとうございます」

「ったく、こんな恥ずかしいこと言わせやがって」



「ええ。でもよかったですよ。きっと、少しは心配されてたかと思ったので」



「ああ??」

 では、これで、とニヤニヤ笑いながらユウが立ち上がって扉の方に歩いて行った。


「おい、どこ行くんだ? 男部屋はここ──っ」

 入り口側に目をやると。


「え、えっと、その。す、すみませんス、立ち聞きする気は無かったんスけどっ」

 耳まで真っ赤にしたハルルが、立っていた。


「よかったですね。ジンさんは、ハルルさんがハルルさんだから好きらしいですよ。

僕も友人として安心です」


 ユウ、この、やろ。


「ああ、それとジンさん。ここの宿の壁は薄いので。

お暑い夜の場合は静かにしてくださ──がぅち!?」


 椰子の実をユウの顔面に命中させた。ユウは笑いながら、手をひらひら振って部屋を後にした。


「……ちなみに、ハルル。いつから、聞いてたんだ?」

「え、えへへ。ユウさんが、恋話(こいばな)したい、って話だすあたりから、ッスかね」

 最初じゃん。全部じゃんっ……!


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