【07】羽に土をかぶせて【09】
◆ ◆ ◆
まいった! とトゥッケが叫ぶと、正方形のリングが砕け散った。
レッタちゃんは、最早、トゥッケを見ていない。
「マッキー。なんで、止めたの?」
レッタちゃんの質問は、優しかった。
威圧的な物は何もなく、純粋な疑問の声だった。
「止めるよ……そんなにやったら、死んじゃうよ」
「うん。そうだね。死なせるためにやってたから」
マキハが、言葉に詰まる。
すると、マキハは、レッタちゃんに駆け寄って、抱き締めた。
「レッタさん。……ありがとう、わたしの代わりに。……でも、もう……それ以上は、大丈夫……だから」
マキハが、絞り出すように声を出した。
レッタちゃんは、マキハを撫でた。
「グリズは、マッキーにとって家族って言ってたから。それを奪った奴を殺そうと思っただけだよ」
「うん……。でも、それでも……あの人にも、家族が、いる。だから」
レッタちゃんが、少し目を丸くしたように見えた。
「優しいね、マッキーは」
レッタちゃんは、目を閉じて、そういった。
騒がしい。と思ったら、ボロ雑巾のようになったトゥッケをギルドの勇者たちが取り囲み、急いで運んでいる。
相当な重症だ。医療術者も走ってきた。
「痛ぃっ! ううっ、痛ぃっ!!」
無様なわめき声が聞こえる。
レッタちゃんは、トゥッケと勇者の方へ振り返った。
「ねえ。約束して。……二度と、私たちと関わらないって」
あの貴族のトゥッケからの返事は無い。それどころじゃないからだろう。
だが、周りの勇者たちは、一様に頷き、後ろへ下がった。
誰もレッタちゃんへ向かってこない。
そりゃそうか。あんな戦い見たら。
鮮烈だった。オレも、息を呑んだ。
確かに、強すぎて恐怖を覚えた人間も多いだろう。
でも、オレは、レッタちゃんの戦闘が、すげえ美しいって思えて。
ずっと見てられた。
オレ、こんなすげえレッタちゃんと一緒に、歩いてていいのか。
隣じゃなくても、後ろでも、一緒に居ていいのか。
不思議な興奮があった。博打で連勝してるみたいな、熱い……妙な昂りが。
『とりあえず、出るべきじゃないか。王鴉、弔ってやらないと』
唯一冷静な狼先生が言うと、レッタちゃんは、そうだね、と頷いた。
もう息をしていないグリズの遺体は、オレが背負う。
冷たく、独特な死の臭い。
ずっしりと重さがある。
オレたちは、ギルドを後にした。
◆ ◆ ◆
マキハの家の裏側に、レッタちゃんが穴を掘った。
靄舞で力任せに彫られた深い穴。
遺体を埋める穴は、野生の動物に掘り返されないように、なるべく深い穴にする。
狼先生がどこからか石灰を持ってきてくれた。
いや、魔法で作ったのか? よく分からないけど、良かった。
石灰を穴の底に敷く。
あるだけ。ともかく、大量に。
「何してるの?」
レッタちゃんが覗き込んできた。
「ん。石灰を敷いて寝床を作るんだよ。死者がゆっくり眠れるように。まぁ、オレの村の風習だけども」
『なんだ。遺体の分解を促す為と知ってるのかと思ったぞ』
「あ、そういう効果あるんだ」
『ああ。それと殺菌と防臭効果だな』
狼先生が本当に先生らしく教えてくれた。
「後は、麻布で覆う、っていうのがうちの文化だな。寒くないようにって」
『その辺は、死生観だな。よくは分からぬ』
穴から這い出る。
マキハは、王鴉の遺体の隣に蹲っていた。
彼女を包むように、黒い王鴉のノアが羽を広げている。
「皆さん……すみません。お墓も、掘って貰って」
マキハは、そう言ってから、グリズを撫でた。
最後に、ありがとう、と呟いていた。
グリズを穴に寝かせた。
土を掛けていった。
土をかけ始めてすぐ、黒い王鴉のノアが、少し暴れた。
『カァッ!』と声を荒げて、羽をバサバサとバタつかせる。
「もう、休ませてあげなきゃいけないから。ノア、分かって」
マキハはノアを宥めるように、抱き締めていた。
レッタちゃんは、何も喋らなくて、狼先生は、ずっとレッタちゃんの隣にいた。
盛り上がった土の上に、木を立てる。
「……ありがとう、ございました。本当に」
簡単な墓を背に、マキハは出来る精いっぱいの苦しみを堪えた笑顔で、オレたちに礼を言った。
「今日も、泊めてね」
急にレッタちゃんが言った。
「そ、それは、いいです、けど」
「うん。ありがと、マッキー」
◆ ◆ ◆
「くそっ……なんなんだあの女っ」
自室で包帯をぐるぐる巻きにされたトゥッケは悪態を付く。
「トゥッケ坊ちゃん。今は安静になさってください」
白髪交じりの執事が言うと、トゥッケは顔を赤くした。
「安静に! 出来るか!」
トゥッケは従者に怒鳴りつける。
「あんな無礼者、早く捕まえて牢獄にぶち込め! なんで僕がやられた後、ギルドの勇者は誰も捕まえようとしなかったんだ!?」
「坊ちゃん。皆、坊ちゃんの命を最優先に」
「違う! 保身に走っただけだ! あいつら全員、怖くなって! 痛ぇええっ」
お腹の辺りを押さえて、トゥッケは涙を浮かべる。
「……あいつら、ただじゃおかないぞ……っ! くそっ」
「坊ちゃん。最近の行動は目に余りますぞ。領主様が聞いたら嘆きますぞ」
「うるさい! 父が死んだらここはこの僕の土地になるんだ!
そうした時、僕の意志にそぐわない人間は皆いなくていいんだよ!!
じーやもあまりうるさいなら、その時には追放するぞ!」
「坊ちゃん……」
「そうだ! まずは、あいつらに懸賞金を掛けるっ! おい、じーや、人相書きだ!」
「……はい。ただいま、絵の描けるものをお呼び致します」
「大至急だぞ!」
部屋を出て、執事はため息を吐いた。




