【24】岩と木がある町【01】
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転移魔法はとても便利です。
使い方を理解して上達したら、どんな場所にでも瞬時に移動できます。
分かっての通りだと思いますが、悪い魔法使いは転移魔法を悪用してきました。
大昔からずっとですね。
転移魔法はどんな場所にでも瞬時に移動できる。つまり、鍵の掛かった室内に入ることも可能。
そして、金庫ごと盗むことも、誘拐拉致監禁、密室殺人でもなんでもできます。
貴方が考えられる悪いことはなんでも出来るのです。
だからこそ、太古の昔から転移魔法は強い規制と多くの対抗策が講じられてきました。
王国で一番有名な対抗魔法は『不響』ですよね。
転移魔法の多くは着地地点を微細魔力で設置し、そこに目掛けて瞬間移動する魔法です。
不響は魔力振動を常時引き起こしその微細魔力が通らないようにする仕掛けです。
ちなみにこれは『何故転移魔法が人体に転移が行えないのか』の答えから作られた魔法なのですよ。
人体は常に微量の魔力が流れている。だから転移魔法の転移先に選べない。
他にも多くの転移魔法を妨害する対抗策がありますよね。
王国だと他には『解呪』、『禁式』、『崩魔術式』。
勿論、他国にもあるんですよ。
帝国で有名なのは『逆成』、『崩解』という術式。
獣国には『転移殺し』や『呪い叩きの樹』、海の国の『凪』に、これから行く砂の国では『砂千』という砂を使った魔法落としがあります。
微細に魔力を含む清潔な砂で、それで洗えば付与魔法すら落とせるそうですよ。
◇ ◇ ◇
「そして、太古の昔からそれを家屋や町に刻む文化が残り、ルキさんのような賢者クラスでなければバンバン転移魔法を使えるわけでもなくですね。
国と国を勝手に越えることも『違法』な上に、技術的に『高難易度』なのですよ」
……ユウの口はよく動く口だ。転移魔法に関して色々説明してくれた訳だ。
さて。
「……で、つまり?」
「はい~。僕の転移魔法では『砂の大国へ一発での転移』は出来ません~。
ハルルさんのご実家から、この場所までは僕の実力で転移出来ました! しかしながら!
この先は『専用の転移魔法具』が無いと転移ではいけないのです!
僕はそういう道具を持っておりません。つまり~」
広大。どこまでも伸びる砂丘の稜線と陰影。
照りつける太陽。乾ききった砂の香り。
どこまでも同じ砂丘の色彩。
無限にも見える青い空の下に広がる──大砂漠。
砂漠と岩面の境界線に立ち、ユウは恭しい動作で砂漠を見せた。
まるで『今日の泊まるホテルはこちらです』と案内するコンシェルジュの如くだ。
「こちらの大砂漠を越えて、砂の大国に行きましょうか♪」
「おっし。帰るぞ、ハルル」「はいッス!!」
「待って待って待って!! ノリノリでここまで来てくれたじゃないですか!
お前の頼みならなんだって聞いてやる、無償でな! って熱く微笑んでくれたじゃないですか!!」
「捏造すんな! 無償でなんて言葉、俺が使う訳ねぇだろーが!」
「そッスよ! ジンさんはお金に縁がないんスから、そんな優しい言葉出る訳ないんス!」
「ひょえええ!? 貧乏人だぁあ!?」
二人の額にチョップをプレゼントした。
「痛いッス!」「僕の方の威力いかれてません? 頭からどくどく血が出てるんですけど??」
右手側に居たユウは痛そうだな。まぁナズクル側の奴だったし、どんまいだ。
「で、マジな話、どうやって越えるんだよ。
まさか本当にラクダを借りて砂丘を越えて、なんて言わないだろうな」
「あはは。勿論ですよ」
「よかった」
「徒歩ですよ」
「マジで言ってる??」
「ほら、何かの歌にあるじゃないですか。『満月が照らす砂丘を越えて、進む砂漠の旅路♪』みたいな歌。旅情に溢れていいじゃないですか、ね?」
「いいッスね! ロマンチックッスね! 旅らしくなってきたッス!」
「おい、本気かよ。だとしたらマジで相当大変だぞ?」
「え、大変なんスか?」
「ああ。本気で大変だぞ。《雷の翼》時代ですら砂漠越えはやってねぇからな???」
砂漠越えは難しい。
まずは有名な話だが、砂漠は昼と夜で温度が全然違うのが大変なのだ。
昼は死ぬほど暑く、夜は死ぬほど寒いそうだ。
だからまず日焼け対策で厚手の布帽子は必需品だし、目覆い布もあるに越したことはない。
また服装も肌の露出が少なく通気性がいい物が必要だし、夜用に厚手の服も必要だ。
寝袋も同じ。それからルート上に水場が無いなら水も持ち歩かなきゃならん。
水系魔法使いがいたら楽だろうが、そうじゃないなら革製の水筒が必要だ。
そうだ、それから砂漠の地図とコンパスと──。
「冗談はさておき」
「っ、冗談かよ!?」
真面目に考えちまったじゃねぇか。
「当たり前じゃないですか~。こんな砂漠を人力で越えようとしたら死にますよ。
この砂漠を越える為の装備を真剣に考えるなんておバカさんがすることですよ。ね、隊長!
──じゃなかった。ジンさん! あれ、ジンさん、もしかして真剣に考えちゃいました~?
もー真面目なんですから~」
頭から埋めてやろうか。
「という訳で今日は一度あちらの町で宿を取ります」
──ユウが指差したのは砂漠と反対側。
砂色の壁と、砂利の少ない砂地の町だ。
ただ色彩が寂しい訳じゃない。風にカラフルな旗が靡いている。何の旗だろうか? ともかく、遠目で見ても分かる程に活気がある。町にはオアシスでもあるんだろう。ここからでも見える程のでっかい棗椰子が鎮座してる。
ザ・砂漠の町って感じだな。
「砂漠の手前。砂漠へ旅に出る為の最後の町──『岩と木がある町』という町です」
「交易都市みたいな活気ッスね!」
あ、なるほど。ハルルの言葉に頷いた。
そうだよな。砂漠と隣接してるってことは、砂漠の向こう側にある町と交流も盛んな訳か。
「流石、ハルルさんですね。ご明察です。別の名前を『商人の都』とも言われております」
商人の都。あれ、聞き覚えがある。そうだ。
「ユウ。商人の都って──獣人の皇国にある地名じゃなかったか?」
「ええ。そうですよ。ジンさん。実はここ、既に獣国です」
お、おう。マジか。ユウがあっけらかんと言っている。
隣のハルルはきょとんとして気付いていないようだ……。
「……不法入国じゃないのか?
っていうか獣人国には転移魔法を防ぐための『転移殺し』があるんじゃなかったっけか?」
「ははは~。ジンさん。僕、こう見えても魔族の上位種ですよ。
この程度の転移魔法妨害は抜けれるんですよ」
得意げに言うなぁコイツ。砂漠を転移魔法で越えられないくせに。
「ま。とりあえず、出発は明日の朝です。
商人隊との約束は取りつけてありますのでご安心を。
それに、運がいいことに『砂竜』を使う商人隊なので目的地には超特急で着けます」
きっと明日の夕方にはドゥールさんに会えてますよ。ユウだけに! と言っていたのは聞き流すことにした。
「……しかし、えらく手回しが速いな。砂竜を使う商人隊に約束取る時間なんてあったか?」
「ええ、ありましたよ。ジンさんに会いに行く前に依頼してありましたので」
会いに行く前? ってことは、おいおい。
「俺が一緒に行かない、って言う可能性、考えなかったのか?」
「あはは。考えませんでしたね~。ジンさんなら真剣に頼めば来てくれると思ってました」
ほんとかよ。
「それに頼んで駄目だったら、一人でも行くつもりでしたからね」
……そうだったわ。ユウはこういう奴だったわな。
「でも、ちょっと残念ッス。砂漠、歩いてみたかったッスけどね。
ほら、砂漠の砂って凄いサラサラらしいじゃないッスか」
「あはは。大丈夫ですよ、砂の大国は砂漠の真ん中。
その居城の周囲も砂漠でしたので、ハルルさんにも満足してもらえると思いますよ」
「! そうなんスか! よかったッス~!」
「あ、そうだ。とりあえずお二人とも、近づいてください」
「? なんスか?」 何だろう、何も理由無いけど嫌だな。
「先ほど、軽くお話もしましたが、この国は既に王国ではありません。
位置的には獣皇国の南部方面です。
王国との国境付近や首都ならまだ人間族はいますが、この地に人間は殆どいません。
そうなると──まぁ話さなくても分かると思いますが、不要なトラブルは避けるべきですよね?」
「……?」 ハルルは小首を傾げたが俺は何となく先の展開が分かったぞ。
「ということでお二人とも。僕の術技で『獣人仮装』しましょうか♪」




