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【23】ちょっとだけ【11】


 ◆ ◆ ◆


 ちょっとだけ。本当にちょっとだけなんだけどね。

 最近、私……ちょっとだけ……変なんだ。


 ◆ ◆ ◆


「や、ヴィオレッタちゃん★ 久しぶりだね★」

 バチン、と眩いウィンクを飛ばすのは黒い肌に焦げ茶の髪の魔族の男。顔立ちはかなり良く、ハキハキと陽気に喋る男で──簡単に言えば、ギャル男である。

 ギャル男の名前は、ユニー・ホロニィ。彼は魔族の七つの部族の一つ、『藍枢(らんす)』一族の族長である。

 一見して、酷くチャラい青年然としているが、ヴィオレッタはくすりと笑ってその本質を()抜く。


(私を試す心音。自信家でもあるし、能力もある人なんだね。ただ、敵意は無い。見た目はとても楽天的な人みたいに振舞ってるのに、責任感も強い。族長っていうのは大体が変な人なんだね)


「くすくす。久しぶり、ユニーさん。早速なんだけどさ、貴方が裏切り者かな?」

「ああ、そういえばそれを確かめて回ってたんだよね。族長の中に裏切り者がいるんだっけ?」

「そうだよ。探してるの。魔族の内側に裏切り者がいるんだって。王国に情報を流してるってさ」


(その裏切り者さんは、ちょっと運が悪いよね。私はその人の言葉が本当か嘘かは、その心音で聞き分けられる(・・・・・・・)

こうやって一部屋で、至近距離なら殆ど確実に。だから)


「答えてみて。ユニーさんは裏切り者?」

「いいや、違うよ★ マイハニーに誓ってね★」


(──……いい音。安定した心音。調律の取れた、良い心音だね)


「嘘を吐いてないね。ありがとう、協力してくれて」

「とーぜんだろ★ キミの支持者なんだから、さ★」

「くすくす。喋り方は怪しいけどね」

「あは★ よく言われる★」

「けど、貴方は……とっても思慮深いんだね。そうやって軽薄な態度を取って、相手がどうやって向かってくるかを見てるんでしょ?」

「……そんなことまで分かるのかい?」

「うーん。確かに耳で聞いた心音も参考にしてるけど、この感想は直感かな。貴方、私に対して最初から対等で話してくれたから、きっとそういう人なのかなぁって」

「……あは★ そっかそっか。うん。よかったよ。嬉しいね~★」

 ユニーは歯を見せて笑う。


「コフィンちゃんも、裏切り者じゃなかったよ」

ヴィオレッタがそう告げると、ユニーはにっこりと微笑んだ。


「だろ、よかった★ 一安心だ」

(あ……優しい音だ)


「……よく、聞く音──」

「うん? 今、なんて言ったんだい?」

「え。あ……なんでもない」

「よく聞く音、って言ってたね」

「聞こえてるんじゃん」

「一応聞き返しただけだよ★ ね、何、おれからどんな心音がしたんだい★?」

「……大したことじゃないし」「気になるだろう??」


「……むぅ。貴方が、奥さんのコフィンさんのこと、心から好きなんだ、って思っただけだから」


 ヴィオレッタのツンケンした言葉を聞いてから──ユニーはにいいっ、と歯を見せて笑った。


「『よく聞く音』って言ってたね、レッタちゃん★ っていうことは、そういう音、よく向けられることがあるのかな★??」


「……それは……ちょっと分かんない」 

 ヴィオレッタは頬を少し赤くした。

 その反応に、おや、っとユニーが少し目を丸くする。


(あらぁ、これはあんまり弄っちゃあ駄目だな。なんだろ、感情が芽生えたて、的な??)


「?」 ヴィオレッタが小首を傾げるのに合わせて、にこりとユニーは笑う。


「──あは★ 話は変わるけどさ、橙陽(とうよう)のお姉さんはもう『質疑』は終わったのかい★?」


「え、ああ──うん。終わったよ」

 橙陽(とうよう)族──魔族の一族の中でも中堅的ポジションの一族であり、規律主義を謳う一族だ。その族長の秘書官のようにキリっとした女性は既にヴィオレッタは質疑済み。

「緑の虫羽くんたちも終わったのだっけ★?」

「うん」

黄月(こうげつ)のセレネちゃんも白だったね★」

「そうだね」

藍と紫(ぼくら)も、裏切り者じゃあないんだね~★」

「そうなるね」




「……じゃあ、誰だろうか、裏切り者は」




 ──先日、城壁の港に、勇者が襲撃した。

 その目的は、黄月(こうげつ)の族長であるセレネを拿捕ないし殺害する為だったと思われる。そして『ユウ』が搬送される日時もピンポイントでバレていた。


 その後、その襲撃を行った勇者から『魔族側から情報が提供されていた』という事実が判明する。

 あの時、黄月の動向を知っていたのは、本人含む、族長七名。

 それからヴィオレッタ一行と、ジン・ハルルの僅か数名だけ。の、筈だ。


「私の耳も欺けるような魔法がある、とかかな?」

「あったとしても、キミのこの特殊な技術、今こそ族長たちは知ったけど、その時は誰も知らないんじゃないかな?」

「だね。……くすくす。もうお手上げだねぇ」

「あは★ そーだね★ これは困ったね★」

 二人が暢気に笑い合う。


「まぁいいや」


「え、いいのかい~?」

「うん。今ある判断材料じゃ分からないもん。だから泳がせてもっと情報出そろったらそれで対処すればいいよ。裏切り者だって、そのうち分かりやすく行動に出るはずだしね。その時でいいや」

「あは★ 器が大きいのか、それとも適当なのか、面白い判断だね★」

「くすくす。今考えても分からないことは考えないだけだよ。

考える時に集中して考えないと、疲れちゃうもの」


「ま、それもそーだね★ ただ、おにーさんから、一言だけお節介な言葉、いいかなぁ~?」

「?」


「キミの今の悩みは、考えて行動しないと解決出来ないと思うよ★ 

じゃ、今後の方針がまた定まったら呼んでね~。バイバ~イ★」

 手をひらひらと振ってからユニーは出ていった。

 部屋に残ったヴィオレッタは、ぽつりと呟いた。



「悩み……」



(悩んでるのかな。私? ……分からない。

悩んでいる、というより、余計なことを考えているというか。

その……なんだろう)



 ヴィオレッタは目を瞑る。


 ──ある男の姿を思い出す。


 そして、聞こえてくる。自分の心音。


(自分の心音……聞いてもよく分からない。これは、どういう心音なんだろう。

今まで、こんな音を、出してたことなんて一度もない)


 ──その男のことを、思い出していく。


 決してカッコいい訳では無い。

 決して強い訳では無い。

 けれども、決して──決して、諦めない、男の人。





(──ガーちゃん)




 とんとん、と、叩くように鳴る心の音。





「あ、レッタちゃん! 良かった。もう終わったんだよね?」





「ハッチ。うん、終わったよ。……あれ、ハッチいつ来たの?」

「さっきだよ。ごめんね、すぐに来たかったんだけど」

「ううん、いいよ。それで、ハッチ、どうしたの? 私に何か聞きたいことがある感じ?」

「そうなんだけど。えーっと、うーんと」

「?」

「場所、変えよっか。ここの夕焼け、めっちゃ綺麗らしいから!」

「うん、いいけど」


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