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【23】あ、どーも……ガーちゃんです……【10】


 ◆ ◆ ◆


 ……。…………。

 あ、どーも……ガーちゃんです……。

 え、静か、だって? オレ……元から、こんな感じだけど……。

 ……。…………。無口で……静かで……煙草も、吸わない……吸いたい。

 あぁ……いや……全然出てこないから……人格(キャラ)が変わった訳じゃなくて……オレ……オレ。



「ねぇ、このガー、どうしたの?」



「あらハッチ。貴方も着いたのね。待ってたワヨん。今回は置いてけぼりでごめんなさいね」

「ううん。寧ろセレネさんを診てる人が必要だったからそれは別に大丈夫なんだけど……」


「うーん、そうなのよ。ガーちゃんったら、ここ3日ずーっとこんな感じなのよ」


「3日? 3日も腐りかけの死体みたいになってるの??」

「そうなのヨ……。口を開いたと思ったら」




「コ…………ロ……ころ……して……」




「……知性を失い始めたゾンビみたいなことしか言わない訳ね」

 シャル丸が、オレの頭を押している。転がそうとしている。

 コロコロしてくれている……。優しい……。


「そうなのよ。それに、(あたい)が尻触っても身動き一つなくなったのよ。

ほら、こんな感じで」

「……触れんなや……」

「元気のないツッコミなの」

「人が落ち込んでるのにつけこんで、変態行為ばっかりしやがって……」

「元気づけようとしてるだけじゃないのよんッ!」


「はぁ。もう。仕方ないわねぇ……一発で元気づけてあげるわ。──ほら、これ、レッタちゃんの髪留めよ~。

しかもお風呂に入る時にあたしが無理矢理レッタちゃんに着けたから、お風呂時の匂いが付いているわ~!

レッタちゃんのストーカーのあんたにとってはレアものよ~」


 ……鼻に髪留めが押し当てられる。確かにレッタちゃんの好む柑橘系の石鹸の香りだ。

 この香りは19日前のお風呂の後か? いや、22日前も同じ石鹸だった。

 ……レッタちゃん。……レッタちゃん。




「……はぁ」




「……!? ガー! 貴方、言葉どうしたの!? 『レッタちゃん、好き好き~!』って言ってごらん!?」

「本格的に壊れちゃったみたいだワ……腐ってやがる」


「お前ら人をなんだと思ってんだ……うう」


「……これは重症ね。……ねぇガー。何があったの? あんたがそこまで落ち込むなんて。

あんたからレッタちゃん(げんき)を取ったらもうただの吸い殻も残らないんだから」

「そうね。(あたい)も話聴くくらいは出来るワよ!」


「……ハッチ……オスちゃん……聞いて、くれるのか」

「……まぁ、あんたとの付き合いも長い方だし。悩みがあるなら聞いてあげるわよ」


「優しいな。(やさ)ハッチ……。(やさ)オスちゃん」

「やさおみたいでいやねぇ……」


「実は、その……」

「うん?」




「レッタちゃんに、避けられてるんだ……」




「……まぁレッタちゃん関係だと思ったけど。どういうことなの?

レッタちゃんに避けられてるって?」

「……言葉通り……だけど」


「信じられない。レッタちゃんがあんたを避けるなんて」

「……ぅぅ」


「なんか切っ掛けあるんじゃないの? 身体、嫌らしい手つきで触ったとか、エロい目で見てたとか?」

「日常茶飯事だろ……それは──痛ッ! 思いっきり殴るなよッ!!」


「何レッタちゃんの身体触ってんのよっ!!」


「違っ、それは違うッて! エロい目で見る方だけっ! 

触りたくても触れねぇよ! 緊張して触れねぇって!」


「じゃぁ、レッタちゃんを怒らせたとか?」

「……だとしたら、何をやったんだろう……オレ、何か悪いことしたのかな……。

術技(スキル)が使えるようになった日から、ちょっとおかしくなったんだよ。変になっちまったんだ」


「え、あんた術技(スキル)使えるようになったの?」

「ん。ああ、うん。そう」

「……まぁガー。とりあえず心当たり全部話してみてよ。何か分かるかもしれないし」


 ──そう。あの日。

 ビーム戦艦が特攻してきたあの日から、何故かレッタちゃんに避けられ始めたのだ。


 ◇ ◇ ◇


 ──3日ほど前。

 王国の一番西側にある町が、ビーム戦艦によって半壊させられたんだ。


 オレは、レッタちゃんを守りたいっていう気持ちが術技(スキル)になった。


(マジなことを言えば……狼先生を失ったこともきっかけだ。

目の前で、大切な人を失いたくないって気持ちだったけど、これはハッチたちにも言わないでおこう。

狼先生の名前を出して、二人に悲しい顔させるのも嫌だしよ)


 んで……オレに発現した術技(スキル)は【守る力】。

 守りたい物への気持ちが強ければ強い程、それに応じた強い守りを与える術技(スキル)


 【愛】──パーフェクト・ラブ! 良い名前だろ、この術技(スキル)名!


 オレのレッタちゃんへの愛は世界最大。だからレッタちゃんへの防御は世界最強! っていうね!!


「……助けてくれて、ありがと」

 それで幸せだ……。レッタちゃんは、恥じらうように微笑んでお礼を言ってくれたんだ。

 潤んだ紫色の目は、つややかで光ってるみたいだった。

 頬を僅かに染めた赤も熱っぽい顔も、可愛くて仕方なかった。死ぬかと思った。死んだらもう見れないと思ったからぐっと堪えて生き延びた。


 その後、脅威が去ったことをレッタちゃんが確認してくれて。

 遮二無二、負傷者を助けた。

 ああ、この時に、レンカっていう女の子と、合流? 仲間になる? んー、これは後で話すわ。


 とりあえず、避難場所を作ったり、レッタちゃんが怪我人を治したりした。

 オスちゃんも大活躍だったよな。重傷者はレッタちゃん、軽症者はオスちゃんが対処って感じだった。


 オレ? オレはこういう時には役立たずだぜ?

 誰にでも出来ることだけ指示通りにやって、特別何かしたわけじゃない。


 ……だから、かな。それで、オレ……嫌われたのかな……。


 二日くらい滞在してから……目的地に向かって歩き出すんだけどさ。


 レッタちゃんの距離が、3センチ遠かった。

 視線を向ける回数が平均より22回少なかった。

 くすくす笑いの回数なんて、もっと少なかったんだ。オレに向けてくすくすしたのだって、道すがら、なんと52回しかくすくす無かったんだ。あり得るか? 52回だぞ?? だからオレ。


 ◇ ◇ ◇ 


「ちょっと待って。距離が3センチ遠いってどういうこと??」

「え? いや、喋った通りだけど。いつもなら、横並びで歩くと手がたまにぶつかるんだよ。だけどそれが殆ど無かったってことだぜ?

それに、手がぶつかった後、気まずそうにしてたし」


「……ガーの気のせいじゃないの?」

「というか視線を向ける平均回数なんて普通数えないわヨねぇ??」


「た……確かに数えるのは気持ち悪いか……でも好きな人のことはなんでも気になるだろ!? 

可能ならまつ毛の本数だってカウントしてぇぜ!?」


「気持ち悪っ!!」 

「恋なんて気持ち悪いもんだっ!!」

 ふと、ハッチは息を吐いて笑顔を浮かべた。


「はいはい。そーよね、あんたにとって大問題なのよね」

「そーだよ……レッタちゃんは太陽だし空気だし水だし酸素だし窒素だし」

「生きる上で必要なすべてね。分かってますとも。じゃ、ちょっと行ってくるわ」

「え? 行くって?」



「決まってるでしょ。あたし、ちょっとレッタちゃんに聞いてくるわ。ガーのこと嫌いよね? って」


「ぇえ!? つか待て、なんで嫌いよね? って嫌い前提で話もってくんだよ!?」



「嫌いでしょ、普通、そんだけストーカーされたら」

「がはっ」

「どれくらい距離を取った方がいいか、適切な公衆距離を直接聞いてくるわよ。

だからちょっとこの辺に居て待ってなさいって。

オスちゃん、ガーのことちょっとよろしくね。

レッタちゃんと話してる最中にうっかり来られたら面倒なことになるかもだから」


「? 了解したワん!」

 ハッチは少し笑っているようだった。なんだろう、何か分かったのかな?

 ハッチの背中を見送って、オレとオスちゃんは部屋に残った。


 

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