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【23】嘘吐き執事の来訪【08】


◆ ◆ ◆


 ──突然の来訪者に、ジンは目を丸くした。


 それは、昼食後の出来事。

 宿に、ジンを訪ねて来た人物が現れたのだ。


 玄関に出るなり、ジンは目を丸くし、拳を強く握り込んだ。

 そして『ひと悶着』の後、その場に居合わせた宿屋の主であり恋人の父であるシキは、気を使って、部屋を一室貸してくれた。


 その部屋は、一階の奥部屋。

 王国式、机と椅子とソファのある部屋だ。


(万が一……この部屋代は、別途で支払おうと思う。そして、万が一の時は、宿の建て替え資金だって、何をしてでも支払う)


 ジンは立ったまま、猫足の樹石で出来たよく磨かれた机の向こう側、ソファに座る男を見る。


 青い髪の細い男──服は体にぴったりと合う物を好んで着る男。

 顔立ちは童顔。いつもは不敵に微笑みを浮かべるが、今は少し左腕を押さえて苦く顔を歪め、汗を流していた。



「腕。悪かったな。痛むか? ──ユウ」

「ええ……割と、痛いですよ」



 男の名前は、ユウ。

 魔王討伐を果たした勇者部隊《雷の翼》の元メンバー──つまり、ジンと同じ、勇者の一人──彼の親友であり、仲間だ。

 だが、それは──その時代……つまり、十年前の話。

 現在は、違う。



 ユウという男は──現在、ナズクルの部下として行動をしている。



 しかも、ただの部下ではなく、ジンたちに対してしっかりとした敵対行動をしてきた人物だ。

 王都でラニアン王子を襲い、ハルルと戦った。

 更に、ジンとロクザとの戦闘の後に横やりを入れてきたし、重要な魔族式典の際には要人に変装してかき乱そうとしてきた。


「悪かったな。ちょっと全力で腕を殴り過ぎたな」

「あはは、仕方ないですよ……僕は貴方にとって、明確な敵の一人ですからね」


 ──明確な敵の一人。

 その言葉の通りである。ユウは敵だ。


 それ故、ハルルの実家である宿、四季亭の入口に現れた時点で──その左腕を容赦なく叩き折ったのである。


「──で、何しに来たって?」

「……助けを。求めに来ました」

「信じられないな。それに」

「ええ、都合が……都合がいいのは分かってます。

ただ、それでも……隊長。貴方にしか、助けを求められないんです」

「……」

 ジンは一切、気を抜かない。

 警戒も怠らず、敵意の欠片でも見せれば即座に刀を抜ける状態のままだ。

 椅子にも腰かけないことから、誰でも見て分かるだろう。


 それを理解した上で──ユウは丸腰で、頭を下げた。

「隊長……お願いです。話を、聞いてください」

「……喋るだけ、喋ってみろ。とりあえず、は、だ」

「……ありがとうございます。

ただ、隊長……この話に入る前の、導入なのですが。確認を、行わせてください。

隊長は、フィニロットさんを、覚えてますか?」


「ああ。お前の主人だろ」

(もちろん覚えている。フィニロットは貴族の女の子だ。ユウはその執事だったんだよな。それで二人は物凄い仲良しだった。そうだな、お前ら二人。まるで兄妹みたいで──)





「僕がフィニロットさんを、心から愛していたのは知っていると思いますが」





「え」

「?」

「あ、うん、悪い、続けて」

(そ、そうだったのか。そ、そうか、そうだよな。今考えればそうだ。あれだけの距離感だもんな。

当時の俺、というかそうだな。今の今まで考えても無かった。そう、そうだったのか)


「……戦中。僕は王国に魔族のスパイとして潜入していました。

ですが、フィニロットさんに惹かれ……そして、貴方達に惹かれ……南部の戦闘の後、僕は魔王国側にダブルスパイとして潜り込みました」

「だな。ナズクルの一計だな」

「はい。ですが……その後、戦後。フィニロットさんがどうなったか、隊長は御存じでしょうか?」

「どうなったか? なんだよ、その言い回し。……まるで」

「……死んではいません」

「んだよ……脅かすなよ」




「ですが──心を。いえ、魂を奪われたように……今は植物のような状態で生きています」




「な……に」

「その反応と間抜けな顔、本当に知らなかったんですね」

「間抜けな顔をは余計だ。……本当なのか?」

「ええ。……フィニロットさんを元に戻す方法を探してますが、最近、ようやくわかったんですよ。原因が」

「? 原因? 元に戻す方法じゃなくてか?」

「それもセットです。……術技(スキル)を、抜き取られた。それが原因だと分かりました」

術技(スキル)を抜き取る?」


「ええ。……スカイランナーという男が、術技(スキル)を奪う術技(スキル)を目覚めさせました。その時に、詳細を知ることが出来たのですが……術技(スキル)を魔法的な方法で奪おうとすると……人間は記憶に欠落や障害を発生させてしまう、ということです」

「……?」


「シンプルにまとめましょう。

術技(スキル)術技(スキル)で奪うことは出来ても、術技(スキル)を魔法で奪えない」


「…………?」

「……隊長ってたまに理解力無いですよね」

「……いや、分かるぞ。魔法で術技(スキル)を奪えないんだな。よし、分かったぞ」

「ええ。そうです。魔法で術技(スキル)を奪う行為を『力任せに奪う』とでもいいましょうか。

そうすると、人体や記憶に様々な悪影響が出ることが分かりました。

そして、フィニロットさんは、それの被害者です」


「……そう、なのか」

「はい。……何かの口封じか、それとも別の理由があってなのか。

ともかく、フィニロットさんは自分の意思で指一つ動かせないんです。

……そして、術技(スキル)を無理やり奪われたことが分かった。だから、犯人から術技(スキル)を奪い返せば」

「元に戻せる、と」

「ええ。そして、僕は──犯人はナズクルだと思っています」

「……ナズクルが犯人だとどうして思ったんだ?」

「行動に怪しい点が多いからですね。裏付ける証拠はありません。

ただ、フィニロットさんの居場所を隠したのはナズクルさんです。

確かに、《雷の翼》に所属する者なら誰でもフィニロットさんの隠れ家の場所を知っています……。

それにしても、彼が一番怪しいです」



「……で、ナズクルを討つ為に協力して欲しいと」



「はい。ただ、やみくもにナズクルを攻撃しても、その術技(スキル)を紛失されてしまうかもしれない。

そう思って、まずはナズクルの周辺を探ったのですが……それらしいものも、答えも出なかった。

ので、更に調べたんですよ……そしたら、思わぬところからヒントが出たんです。

貴方達の伝達もあった、雪禍嶺の一件から」

「?」


「砂の大国──そこに、今、ドゥールさんたちがいるのをご存じですか?」


「いや、知らないな」

「そうですか。そこはドゥールさんの奥様、シェンファ様の国なのですが、その国で何か研究がされている可能性が高そうなのです。

砂漠妖精人(デゼルト・アルヴ)の少女が誘拐されていたように。

子供たちの誘拐が西部で行われていました。海賊を使って海を越えていたようですが……どうやらそれはカモフラージュで、南部の砂漠に最終的には送られていた可能性があります。

となると……ドゥールさんが何かを知っていると思っているんです」

「……」


「お願いです……ナズクルの秘密を暴く為に、ドゥールの所に共に来てくださいませんか? 

ドゥールは遠距離攻撃の達人です。戦闘になった時、僕だけでは勝てない。

せめて、一緒に付いてきてもらえるだけでも、話が円滑になると思うんです。

ドゥールも隊長の貴方が居たら、譲歩が起こるかもしれない。だから、どうか」


 ジンは腕を組んだままだ。それから、暫く考えた。

 難しい顔をして。暫く考えた。


「……隊長?」


 ユウが心配そうに尋ねた。それでも、ジンは腕を組んだままだ。


「ユウ。お前はナズクルを裏切るってことでいいんだよな?」

「実質そうなりますが、表向きはナズクルの側にいる予定です。

その方が、有益な情報をあなたに渡せるでしょうから」


「なるほどな。じゃあ早速だが、有益な情報が欲しい。

ナズクルは──何が欲しいんだ?」


「え? 何が、欲しい?」

「目的だよ。アイツの。何で戦争をしようとしてるんだ。

アイツの目的だけが全然分からん。マジで何をしようとしているかが分かんないんだ」

「……隊長。これは、本当に誓って真実なんですが……僕らはナズクルの目的を何も聞かされていないんです」

「ぁ? そんなことあるか??」

「はい。あるんです。……利益が合致したから協力する。そういう状況をナズクルは作り出した。

僕も、彼の利益が何か知りたかった。けど、本当に聞けなかったんです」

「……そうか」


「……けど。彼の動機の一つは……復讐かもしれません」


「? 復讐? それに一つってなんだよ。複数理由があるのか?」

「多分、そうです。ナズクルは幾つかの理由があって行動しているように見えます。

その内の一つは、復讐。……彼に妹が居た、というのは知ってますか?」

「なんだそれ。初耳だ」

 ジンは目を見開いた。


 そして、ジンは──以前のことを思い出す。

 それは、数か月前のこと。

 魔王復活とヴィオレッタたちの対策を話していた頃に、ジンはナズクルの家に上がっていた。


 その時、ナズクルの私室にて──一枚の写真を見ている。


 礼服姿のナズクルと、知らないドレスの女性が映る写真。

 結婚──あの時は、ナズクルが結婚しているのかと思った。だが、違った。


「……その妹は、結婚、してたか?」


「ええ。してましたよ」

「そう、か。じゃあ、あの写真は……妹との写真だったのか」

「? 知ってたんじゃないみたいですね。

それなら、順を追って……話しましょうか。僕もこれは調べるのが相当大変だったんですよ」

「……」


 ユウは、指を組んで、少し目を細めて喋り出した。





「スノゥ・ヴォルフェリア。ナズクルの血の繋がらない──義理の妹の名前です」





 

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