【07】最早、山賊だな【06】
昨日の投稿分に、『描きかけ』という文字がありましたが、誤記入によるものでした。
昨日の投稿分に、書きかけの箇所はございません。
混乱を招き、誠に申し訳ございませんでした。
◆ ◆ ◆
「なんか、こういう状況の話、無かったっけ? ツルを助けたら宝島に案内される話」
「あれ、それってカメじゃね? イジメられてるカメを助ける話」
「ああ、それかも。その後に、深海にある魚人島に連れてかれて」
「そうそう! で、絶対に開けちゃダメって言われた扉を開けて、宝盗んで……えーっと」
「くすくす。確か、老人になるまで、投獄されるんじゃなかったかな?」
「それだ!」
『そんなバイオレンスな話じゃなかったと思うんだが……』
えー、今現状。
王鴉を助けたら、王鴉にこの家に案内された、ってこと。
そして──。
「えっと、その。本当に、何とお礼を伝えればいいか。本当にありがとうございます……」
丁寧にお礼を伝えてくれたのは──まぁ、何の偶然か、森の中で出会った眼鏡の少女だ。
この少女が、角有竜に追われていた所を、レッタちゃんが助けた。
──その後、お礼のお菓子だけ置いて居なくなっちゃったから、オレだけは腑に落ちてないが。え、女々しいかな……。
「何も、お礼は出来ないんですが……本当に、助けて貰いっぱなしで」
「くすくす。気にしないで。美味しいお茶を出して貰えただけで、本当に嬉しいし」
レッタちゃんは、隣にいるこの黒い王鴉を助けた。
そしたら、なんか、王鴉が付いて来て欲しそうにしていた。
まぁ、ちょっと付いて行ってみようとなって、この小さな牧場? に辿り着き──この眼鏡の少女と再会した。
どうやら、王鴉を育てているのは少女らしい。
えーっと、名前は。
「マッキー、飴、ありがとうね。美味しかったよ」
そうだ、マキハだ。マキハ、って名前だった。
レッタちゃんは、マッキーと呼んでいる。
「喜んでもらえたなら良かったです。あの時は、本当に急いでいて……すみませんでした」
「なんでそんなに急いでたんだ? 夜道で危なかったろ」
オレが訊ねると、マキハは口ごもる。
「それは……」
「竜食花でしょ」
……竜食花? レッタちゃんがお茶を飲み、ふぅと一息ついた。
「え、どうしてそれを」
「香りかな。私、魔法薬も得意分野だから」
レッタちゃんが少し楽しそうにマキハに話しかけていた。
「その、竜食花ってなんなんだ?」
『魔法薬の素材になる花だな。竜の好物で、別名、一夜枯花』
狼先生が答えてくれた。
「一夜花……なら、確か、夜に咲いてすぐ散る花、でしたよね?」
『ああ、そうだな。ただ、一夜枯花は、違うんだ。
咲いている場所から抜いたら、一夜も持たずに枯れてしまうから、そういう別名だ』
「へぇ……ああ、だから急いでたのか」
「はい。どうしても、竜食花を届けなくちゃいけなくて」
「理由、訊いてもいいのか?」
「えっと……お金が、必要で」
金?
「竜食花って高いの?」
「うん。ガーちゃんが、そんな高いの!? って驚くくらいには高いよ」
「え、いくらくらい?」
「金貨十枚くらいかな。花びら一枚で」
「そんな高いの!? え、竜食花って花びら何枚くらい付いてるの!?」
「十二枚かなぁ」
「金貨百二十枚!? お、オレも、探そうかなっ」
『そう簡単に手に入らないから、高価で取引されているんだぞ』
「そうそう。古龍の骨からしか生えないから。それに、古龍の骨の周辺は大体、竜の巣だしね」
「オレ、そんなとこ行ったら数分で死んじゃうね……」
『数分も掛からないだろうな。秒だ。秒』
ひでぇ……けど現実的な数字だ。
「え、じゃあ、あれか。君、一人で竜の巣まで行ったのか?」
「はい……一応、気配を消す術技を持ってるので」
それでも、結局見つかって、危なかったんですけどね、とマキハは苦笑いした。
『しかし、どうしてそんなにお金が必要だったんだ?』
「えっと、話せば長くなるんですが……」
「じゃあ、ヤだ。とりあえず、お腹がすいたからお菓子食べていい?」
「あっ、なら、何かご飯でもどうですか? 助けて頂いたお礼に」
「いいの!? やったー! ありがとう、マッキー!」
レッタちゃんが、ご飯問題解決したね、と耳打ちしてきた。
息が耳に当たって、なんか、ドキドキしました。
◆ ◆ ◆
王国には、飛空騎士団なるものがあるそうだ。
王国の航空戦力。
飛空魔法士や王鴉を用いた飛空騎士──オレは興味ないけど、現行法では、騎士じゃなく勇者だっけか?──などが在籍していたらしい。
戦後も航空戦力としては重宝されているようで、ここでも王鴉は、王国の勇者向けに育てていたとのこと。
だが、三年程前に、ここの経営をしていた両親が他界。
その後は、王鴉の育成業は廃業したらしい。
マキハと王鴉は家族同然に暮らしているそうだ。
「今は、一応、職業は勇者をやってます。主に、戦闘はノア任せですが……」
ノア──それは、先ほど、レッタちゃんが助けた黒い王鴉の名前だ。
あれ、レッタちゃん。
気付いたら王鴉のノアを布団代わりに向こうで横になってる……。
寝てるのかな。
まぁ、マキハが竜食花を手に入れた理由、興味ないからー、とは言っていたが……。
『なるほど。生活費を稼ぐために、ということか?』
「あ、いえ、違うんです。その……税金を支払う為に」
「税金?」
「……実は、今の領主様が病気になられて。その息子様が領主代理をされてるのですが、税がどんどん吊り上がっていて……」
『増税か』
「はい……それで先日、払えない分を……王鴉でいい、って。
グリズ……えっと、ノアのお母さんを連れてかれてしまったんです」
「え、何、滞納とかしてたの?」
「いえ……毎月、金貨十枚どうにか払っていたのですが、突然、家畜含むペットにも税を掛けるということで……」
「おいおい。中々ぶっ飛んでるな」
『金貨十枚も法外だしな。都ですら年五枚と聞いたが』
狼先生がオレをチラッと見て、合ってるか? みたいな目配せをしてきた。
いや、オレも国のはみだし者で、詳しくないんですけどね。
「返してほしければ、金貨五十枚を支払うようにと……」
『最早、山賊だな。その領主の息子』
「確かに。……で、無茶して、あの花を」
「はい……でも、おかげで、お金に換えることも出来て、今朝方、支払いも済みました。後は、返してもらうだけなので……」
まぁ、解決したなら良かった。
「でも、あんまり無茶はしない方がいいぞ。昨日だって普通に命が危なかった訳だし」
「……ありがとうございます。
でも……その。グリズは、わたしにとっても家族同然で、大切、だから」
無茶しちゃうんだな。
「家族、大切だもんな」
「はいっ」
マキハが少し笑った。
なんか、勝手に苦手意識を持っていたオレが、なんかバカみたいだな。
視界の端で、ノアを枕にしたレッタちゃんが、寝返り、薄く微笑んだ気がした。




