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【22】ハルル VS スカイランナー【30】


 ◆ ◆ ◆


 激しい煙幕の中。


 青いインコの頭を被った魔族──スカイランナーは、黒髪狐目の男、フェインの前に立っていた。

 まるで異端審問官が焼き鏝でも当てるかのように、その剣をフェインに突き刺していた。


 それは、毒々しい黄色と黒の刃を持つ、波打つ刀身の剣(フランヴェルジュ)



 ──赤い赤い血飛沫を激しく散らした。




「ワタスシを馬鹿にするから──」




 フェイン・エイゼンシュタリオンの胸板の真下──腹部から背を貫通する蛇行する刃は勢いよく引き抜かれる。





「こうなるんですよっ!! すふふふふっ!!」





 夥しい量の血の塊が溢れた。波打つ刀身の剣(フランヴェルジュ)は、傷口を大きく傷つける為に波型の刀身を有する剣だ。

 それ故、肉体に突き刺し、引き抜けば──致命傷を与えられる。


 膝から崩れ落ちたフェインに対してスカイランナーは声高らかに何かを言っていた。

 フェインの体から白い霧のような物が発生しスカイランナーに向かっている。

 その言葉の内容は──彼女の耳に届かない。



「スカイランナーああっ!!!」



 ハルルは叫んだ。目を見開き、薙刀が軋む程に力を込めた。

「っ! しつこいですねッ!! すっこんでてくださいよ!」

 スカイランナーはその(フランヴェルジュ)で一撃目を防ぐ。


(なっ、なんです! 小娘、さっきよりも力が強ッ!?)

 ギシっと音がし、スカイランナーは力で押された。


 爆発的。スカイランナーは内心で直感的にハルルをそう評していた。

 ハルルはそのまま踏み込み、加速と全体重を乗せた。

 スカイランナーはその重い一撃に数歩後ろに下がる。


 そこからの猛攻は、技や型などと言った物ではなかった。

 力任せ、乱雑に地面を削りながら振り続ける薙刀。


(きょっ、狂暴ッ! なんて荒々しいッ! し、しかしッ!

下手クソですッ! 構え無しのただただ早いだけの攻撃などっ!

冷静に対処さえすればっ!!)


 スカイランナーは多少だが剣術の心得があった。魔王時代、一応は小さな軍を率いることを許された将だったこともある。任期は一か月弱となったが、それなりに戦闘は行える魔族だった。


 狂暴。その一言に尽きる乱撃をギリギリで防御しながら──機を待つ。


槍矛薙棒(ながもの)は下手に振り回せばその重さで体力を奪われやすいッ! 体力が尽きれば攻撃なんて遅くなるんですよっ!!)


 槍や矛、薙刀といった長物と呼ばれる武器は、当たり前だが先端に斬撃を行う為の刃具が付いている。

 その為、武器の特性上、先端が重くなりやすい。

 これはいかに軽量化しようとも必然的になってしまうのだ。

 それ故、振り回せば振り回す程、体力は消耗するのは自明。


 スカイランナーは決死で目を凝らし、その薙刀を注視していた。


(小娘の薙刀をしっかり見るぞ……! そこに反撃を入れるッ!

すふふ! 大振りの攻撃が最も反撃には相応しい! 

他だとまぁ大薙ぎであの辺の大樹に刺さったら勝利確定ですねぇ! さぁ──打ってきなさいッ!)


 ハルルがフォームを変えた。技が大振りな攻撃となった。

 薙ぎ払いや、突き、打ち下ろしに平面叩き。


(疲れてきた証拠ッ! ならここからっ、更に目を凝らす!

大丈夫ですよ、すふふ。刃端(ほさき)をガッツリと見ておけば、あんなもの当たるはずが無いんですよ!! だからしっかりと機を伺って、狙い目で斬る!)



 ハルルはスカイランナーへ駆け寄った。薙刀を地面ごと切り裂く振り上げ──。

(ここだ!!)


 その一撃をスカイランナーは躱す。遠心力で空へ向かった薙刀をしっかりと見ながら、構え直す。

 波打つ刀身の剣(フランヴェルジュ)を軽くしならせ、蛇のような鋭い一撃が放たれた。


「じゃじゃ馬の小娘がァ! これで終わ──あれ」






 波打つ刃が放たれた先にハルルは──いない。





 空中に放り出された薙刀。そして、スカイランナーの視界の端。

 左側の目と鼻の先に。


「せっかく顔が無くて目の動きが読めないのに──貴方さっきからずっと頭が動いて、何を見てるかバレバレッス」


「なっ! クソ──ごッ!!」

 使い古された短槍──何の変哲もない、肘くらいの長さの短い槍がスカイランナーの喉に真っ直ぐに刺さる。



 だが、二人は分かり切っていた。



(だがッ! ワタスシは『銀の体』! 

この程度の斬撃ではワタスシは傷つかないと、分かり切っていたのですよっ!)


(分かり切っていたッスけど、浅いッスね。コンクリに釘でも打ってるみたいッス。

奥まで刺さり切らない。だから──)


 その一瞬。──スカイランナーの喉に槍を突き立てた一瞬で、もうハルルは槍から手を離していた。


 そして自由落下してくる薙刀をキャッチし、ハルルは薙刀を振り下ろす。


(! 狙いはあれかっ! この喉に刺さっている槍に攻撃し、更に深く突き刺す気かッ! っ! きっとそうだっ! このガキャっ!)


 スカイランナーは一歩後ろに退き、ハルルの一撃を剣で受け止めた。


残念(ざぁぁぁあんねん)だったねぇ! すふふ! 狙いは」

「成功ッス」

「はぁ?」

「一分一秒が惜しいんで、もう詳細説明は、無しッス」


 ──バチっとスカイランナーの首に刺さった槍が青白く光る。

 火花散る怒りを堪えることなく、ハルルは睨み付けた。


(! まさか、雷を──ァ! ああっ!? それはマズイ! 

こいつ、ワタスシの体内へ直接(・・・・・)!!)


落雷の火(フードル・フゥー)


 スカイランナーへ落雷が落ちた。


 突き刺した短槍を通しての体内への直接の雷撃。

 スカイランナーは立ったまま意識を手放していた。


 その姿をちらっと見てから、ハルルはすぐさまフェインへ向き直る。


「っ! 大丈夫ッスか!!」


 声を荒げてから、仰向けに倒れたフェインへ駆け寄った。

 刺された場所を押さえてフェインは体を僅かに震わせながら唇を噛んでいた。


「今止血……っ」


 血が──広く、広がり過ぎている。


「……ぁ」

「し、しっかりするッスよ!!」

 うめき声のように薄く声を出すフェインにハルルが大声を上げる。

 だが、声が届いているのかいないのか、意識は薄弱のままだ。


(ま、ずいッス。この血の量じゃ。どうにか傷口をッ)


 フェインが押さえている傷口を、ハルルもその上から押さえる。

 骨が割れてしまってもいい程の力を込めて抑えるが──それでも。


 通常の出血ならば、傷口を特定し圧迫することによって殆どが止血を行うことが可能である。

 しかし、その血流が心臓の鼓動、脈拍と連動している場合──。


(動脈出血……っ)

 ──動脈出血。心臓から拍出した血流を流す動脈からの出血だ。

 止血する為には出血点を特定し外科的処置か、魔術的処置を開始しなければならない。


 シンプルに言えば、素人の技術で治すことは不可能ということだ。


(こういう場合はとにかく傷口を押さえるしかないッス!)


「意識を取り戻してくださいッス! 

あんたが死んだら、撤退の合図を出す人が居なくなっちゃうッスよっ!」


(なんでもいいッス。とにかく喋って意識を!)


「勇者嫌いなんじゃないんスか! 勇者に助けられようとしてますよ!

貴方にはいくつも聞かなきゃいけないことがあるんスから!」


 血は、流れ続ける。

 押さえても押さえても。無力な訳ではない。それが自然の摂理。

 素人の限界。






「どいて、下サイ……ワタシが……いるデスよ」





 ──両腕が無い、藍の髪の女性──メッサーリナリナ。

 彼女が、ぜぇぜぇと呼吸をしながら、その場に立っていた。


 

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