【07】証拠はないよ?【05】
本投稿分に、『描きかけ』という表記があり、削除致しました。
書きかけの話ではございません。
混乱を招き、誠に申し訳ございませんでした。
「おい。お前達。その鳥に、この僕の矢が刺さっていないか?」
超高圧的な貴族が、そんな質問を投げつけてきた。
そして、示し合わせたかのように、貴族の後ろから、従者が出てきた。
従者、というより、この三人とも、どこからどう見ても、山賊かゴロツキだ。
「刺さってないよ」
レッタちゃんが飄々と言う。
貴族は眉間に皺を寄せた。
「おいおい、嘘はよくないな。君の隣にある矢はなんだ?」
「この子に刺さってた矢だよ」
「おいおい、おいおいおい?? 僕は質問したよなあ? この僕の矢が」
「だから、今は、刺さってないでしょ」
ぼんくらそうな貴族が眉間に皺を寄せる。
むしろ周りの従者が少し笑い始めた。あっちの奴らの方がまだ頭に何か詰まってるみたいだ。
「貴方は、さっき、『刺さっていないか?』って質問してきた。その言い方は、現在進行形だよね。
だから、『今』、刺さってないって答えたんだけど?」
貴族がようやく理解したみたいで、顔を赤くした。
その様子を見て周りのお供たちは笑っている。
「くっ! 貴様っ! ……だが、そうか。ま、まぁ、頓智はよく分かった……っ!」
「頓知じゃなくて言語能力ね?」
「っつ! どこまでもっ! と、とりあえず! その鳥は僕のだから、君は退け」
「なんで、この鳥が貴方の物なの?」
「ふん。より正確には、僕の獲物が正解かな。
今、見ての通りハンティングの途中でね。この僕が、その鳥を撃ち落としたんだよ」
王鴉はぐるぐると怒った唸り声をあげている。
よしよし、とレッタちゃんが王鴉を撫でていた。
「貴方がこの子を撃ち落とした証拠は?」
「その矢さ。羽根の所に、この僕の家紋と同じ紋章が刻印されているだろう?」
貴族の男が自分の胸元を指した。シャツに刻印されている扉みたいな家紋。
レッタちゃんは矢を見た。
「本当だ。矢に家紋とか趣味悪いけど、ちゃんと入ってるね」
シャツに自分の家紋とかキツい、ってのは貴族社会に言うと殺される奴か?
「さ、その獲物から色々剥ぎ取らなきゃいけないんでね。
時間が無いんだ。退いてくれるかな、お嬢さん」
「くすくす。そうなんだ? その家紋が証拠ね」
レッタちゃんは、くすくす笑った。
そして、レッタちゃんの手に握る矢が、ぼろぼろと、まるで砂みたいに崩れていく。
「なっ」
「くすくす。あらら、この矢、随分と脆かったのかな? 女の子が握っただけで溶けちゃった」
「……貴様! どう見ても魔法ではないか!」
貴族が矢を番えた。
「証拠はないよ? 私は魔法に家紋とか入ってないし」
レッタちゃんの問答に、向こうの従者は腹を抱えている。
「くっ!! このっ!!」
だが、貴族のハラワタは煮えたぎってるようだ。
オレは、レッタちゃんの真横。
レッタちゃんの前に立つ──のをぐいっと服を引っ張られ止められた。
「れ、レッタちゃん?」
「ガーちゃん、ありがと。でも、大丈夫だよ。あんな矢、私には当たらないから」
「どこまで愚弄するかっ!! このっ! 死ねぇえぃ!」
矢が放たれた。レッタちゃんを守ろうと体が動くが、むしろ彼女に弾き飛ばされた。
その光景は、時間が止まったみたいだった。
飛んできた矢を、レッタちゃんは掴んでいた。
それを見て貴族も、その従者も、オレも、狼先生すらも、息を呑んでいた。
魔法か、術技か……いや、違う。
純粋な動体視力と、度胸で掴んだ。
バキン、と音を立てて、矢が折れる。
「くすくす。矢の攻撃なら、これくらいやらなきゃ」
半分に折れた矢を、レッタちゃんは手首のスナップを使って投げた。さながら手投げ矢。
風切る音だけを残して、矢は、貴族の後ろにあった木に刺さる。
すっ、と貴族の男の頬から一筋の血が流れた。
「っ!!? 痛っ!!」
「掠っただけなのに痛いなんて、言わないでよ。ダサい」
「っつ! 貴様あ! ……うっ!」
貴族の男は、レッタちゃんを見て、顔を青くした。
レッタちゃんの背中しか見えないが、それでもわかる。
冷たい怒りが。暗い顔が。
「……ふ、ふん! 旅の余所者の無礼など、寛大な心で許そうっ! 今回だけだ! 見逃すのは! さらばだ!!」
「あっ旦那ぁ!」「置いてかないでくだせぇよぉ!!」
貴族とその従者は足早に森へと消えた。
その背を見送り、レッタちゃんはため息を吐いた。
「変な人たち」
「レッタちゃん……ありがとう。オレ、何もできなくて」
「? ガーちゃんは一緒にいてくれたから、それでいいんだよ?」
優しいな、レッタちゃんは。
でも、オレだって、何かの役に立ちたいって思ってたりするんだ。
『それより、君。矢を手で掴んだな。驚いた。そんなに武芸に明るかったか?』
狼先生が声を出した。
レッタちゃんは、実はー、と間延びした声をあげてから、うーんと唸る。
「? どうしたの、レッタちゃん?」
「うーんとね。不思議なこと、言うね」
いつも言ってる気がするけども。
「矢が飛んできた時、周りがゆっくりになって見えたんだぁ」
面白かった。と呟いて、レッタちゃんは、くすくす笑っていた。




