表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/810

【01】何、やってんだ。【06】


「緊張するなよ。まぁ、夜行性の竜が昼に活動するなんて、万分の一の確率も無いから大丈夫だ」



 夜行性の竜が昼に活動するなんて、万分の一の確率も無いから大丈夫だ




 万分の一の確率も無いから大丈夫だ







 万  分  の  一  の  確  率  も







「ししょおおお! 出たじゃないッスかあああ」


 オルゴ山道の来た道を全速力で駆け抜けるハルルと俺。


「ああ、マジで最悪だな……!」


 俺たちの後ろに、血走った眸をギラギラと滾らせ走り寄る地竜がいる。




 そう。俺たちはミスった──訳じゃない。




 並走するのは、金髪の少女と、黒髪の少女。


「いやーーー! 巻き込んでしまってすみませんーー!」


 金髪ポニーテール碧眼少女が絶叫みたいに謝罪する。


「だからっ、いやだったのっ! ドラゴンの鱗納品なんてっ!」


 その隣を走る黒髪ボブの黒目少女は息も絶え絶えにそう言った。



 俺たちが森に入ろうとした、まさにその時、この二人が血相を変えて走って出てきたのだ。



 服装もボロボロな二人組の女の子。


 一人は、金髪。剣士なのだろうが、剣を持っておらず、その背には鞘だけがあった。もう一人は黒髪の女の子。何も持っていない処から、支援職系だろう。


 その後ろから、木々を薙ぎ倒しながら人間の倍はあろう体躯を持つ地竜が出てきた時、引きつった苦笑いしか出なかった。


 隣で絶望に凍り付くハルルを引き連れて走って逃げることにした。

 

 そう、この駆け出し勇者二名が、盛大にやらかしてくれた訳だ。


 作戦は根底から覆ってしまった。


 どうするか、決まり切らずに俺は逃げている。


 地竜との戦闘……いや、流石に見ず知らずの人間の前で、あまり目立つ行動をしたくない。


 こいつらが勇者である以上、ギルドに報告、ってなったら厄介だしな。


 しかし、そんなこと言ってられないか? うーむ……。


「ともかく、お前ら、地竜に何やったんだ?」


「もうダメっ……あたしたち、失敗したんです! 眠らせて鱗を取ろうと思ったんですが!」


 もうダメ、もう無理! などと叫びながら黒髪の子がそう答えた。


 俺と同じ作戦か。


 続けて、金髪少女は涙目で訴えてきた。




「だって、ちゃんと対竜用の麻酔ガス使ったんだよ!? ひどくない!? 詐欺じゃん!?」




 金髪少女の右手には、なるほど、銅貨四枚のセール品が握られていた。


 横目で見て溜息しか出ない。


「それっ! 師匠がっ、教えてくれたやつ! 恐竜種にしか効かないやつ!!」


 無知は本当に恐ろしい。


 仕方ない。無難な選択をするか。


「麓の拠点基地まで逃げ切るぞ。城塞化されてるし、人手もある」


 何より、そっちまで逃げれば竜も追ってこない可能性もあるしな。


 地竜種は、自分の縄張りからあまり出たがらない。


「ほんと!? 追ってこない!? 大丈夫!?」


「ああ。俺たちが縄張りの外まで逃げるのであれば、もう追撃を止める可能性がある」


「そうなんッスか!」


「ああ。それに、知能が高ければ高いほど、人間の危険性も理解しているものが多いからな」


「もう無理! 走ってッ! 逃げ切れるんですか!?」


 黒髪の女の子が肩で息をしながら質問してくる。


 人間と地竜が走ったらどっちが早いか? 体格的に地竜の方が早いだろう。


 だが、まぁ。


「大丈夫だ。振り返らずそのまま走れ」


 ハルルの鞄にぶら下がっている黄色と黒で装飾された筒をひったくり、空中へ投げる。投げた物の名前は、発閃光筒(フラッシュボム)という。


 効果は名前の通り。ピンを抜いて五秒後、中にある火薬が一瞬のみ、激しく燃焼する特殊な爆弾だ。





 影が消えるほどの光が、炸裂した。





 地竜が何かうめき声をあげて立ち止まる。


 発閃光筒。相手の目を眩ませて一時的に動きを止める代物だ。


 もろにあの光を見たら、十数秒は周りの物が見えなくなる。


「さ、流石師匠!!」


「言ってる間があるなら走れ。十数秒しか効果はないぞ」


「というかっ、貴方っ、なんで、走ってて、息、あがってないのっ!」


「あー……鍛えてるからか、な」


 後は、走り切れば大丈夫だ。


 竜は、人間の集団に近づかない。人間が蜂の巣に近づかないのと同じだ。


 竜にとっての人間は、可能であれば関わりたくない虫、みたいなものなのだ。


 拠点が見える。この坂を下れば。


 坂の先を見据えた時、思わず舌打ちをする。


 災いは一度に重ねてやってくる。




 ──間が悪い。




 赤い縞の入った虎の魔物。口から長い牙が出ている山岳赤虎(レッドタイガー)が、俺たちの通り道を呑気に散歩中だ。


このまま進んだら誰かしらに噛みつくだろう。くそったれめ。


 こちらには気づいていない。──今しかないな。


「借りるぞ」


「え!?」


 隣を走っていた金髪少女の背にある鞘を引き抜き。


 地面を踏み割り──加速する。



 空中へ。──さらに、空中を踏み(・・)、虎の上へ。



 虎が何かに気付き坂を見た。牙をむき出しにし、威嚇の声を上げ──る、より早く。


 虎の頸椎めがけて、鞘打ち。


 薙ぎ払う。


 ノーバウンドで崖まで虎を吹っ飛ばす。


 よし、これで大丈夫。障害の排除完了だ──着地し、振り返った時、青ざめる。



 おい、嘘だろ。



「きゃぁっ!」



 その瞬間、黒髪少女が、転んでしまった。


「メーダ!」 ──きっと黒髪少女の名前だろう、金髪少女が叫んだ。


 間に合え、と、坂を一気に跳び上がる。が。


 地竜がその爪を振り下ろす瞬間だった。



 鈍い音と共に──空中に吹き飛ばされる。



 何、やってんだ。




 血が飛ぶ。




 坂に転がったメーダという少女。

 そして。




「何やってんだ! ハルル!!」




 メーダを庇い、ハルルが空中に放り出された。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ