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【22】その笑顔は歪か否か【26】



 ◆ ◆ ◆


 ──術技(スキル)とは何か。


 魔法や錬金術と違い、人間の内なる力により超常現象を引き起こす力──だとされている(・・・・・・・)


 術技(スキル)が何なのか。定義こそ出来るが──明確な答えは存在しない。

 術技(スキル)には未だ解明されていないことが多いのだ。

 術技(スキル)という言葉は40年程前に生まれた言葉だが──突然この世界に発現した訳では無い。歴史を紐解いていくと大昔から存在していた。

 歴史上──固有魔法や血統魔法、超能力や異能などと呼ばれていた。──残った文献に合わせれば、それらは術技(スキル)という概念で括れるそうだ。


 ともかく、術技(スキル)とは不思議な力だ。

 しかし、それは自然な力なのだ。


 鳥が羽を持っているのと同じ。

 馬が時速50㎞もの速度を出せる足を持っているのと同じ。

 犬が、3日以上前の人間の足跡を100㎞以上追跡できる嗅覚を持っているのと同じ。


 ──これらが自然であるように。


 この世界においては、人間が術技(スキル)を持っているのが自然である。

 ──発現の有無こそあれど、生物なら誰もが術技(スキル)を理論上は発動できるとのことだ。




 不可思議な──未知の力。それが術技(スキル)




 ただ。統計的に分かっていることもある。

 その術技(スキル)の根源は、『蓄積』によって行われる場合もあるということ。


 記憶の蓄積、感情の蓄積、経験の蓄積。

 つまり、その人の生きてきた『蓄積』が術技(スキル)として現れるという現象が確認されている。

 これは後天的術技(スキル)として研究者の間ではよく研究対象にされている。──なお、生まれながらに持つ先天的術技(スキル)は研究するには分布が広すぎるが為、研究はあまり為されていない。


 後天的術技(スキル)はどうやって獲得されるか。という研究を多くの研究者が行う。

 そして、その先──一部の研究者たちはとある二択に辿り着く。


 自分たちで理想の術技(スキル)を作り出せないだろうか?

 または。

 今ある術技(スキル)を更に増幅させることは可能だろうか?


 そして産み落とされた『研究成果』がある。


 進化術技(スキル・アペンド)



「前提が特殊だけどね。術技(スキル)は『魂』や『心』として考えている。

なるほど面白い着眼点だ。けども進化(アペンド)は成功率が悪い。

一番成功率が高い『後天的術技(スキル)』にしたって5割しか成功しないし、成功してもナズクル先輩みたいに発動範囲や条件緩和だけに終わる場合がある」


 癖の無い金髪を指で撫でながら、気品のある顔立ちの白い肌の男は読むことが(・・・・・)出来ないの(・・・・・)に、開かれた本の頁を撫でた。


「恋様、その頁を読みましょうか?」

 ソファに寝転ぶ『恋』と呼ばれた男の隣に、作り物のように愛らしい少女が立つ。長いウェーブの掛かった金髪の少女、イクサ。

 盲目の気品のある顔立ちの男、『恋』は微笑んだ。


「大丈夫。見えなくても、ここに何がかいてあるか、散々読んでもらったから覚えているよ。……残念だよ」

 恋はまるで吐息でも吐くように、言葉を続けた。





術技(スキル)をどれほど進化(アペンド)させても、この恋の目が見えないままだ。

恋はただ──また世界が見たい。それだけが望みなんだけどね」





「ええ。必ず見えますよ! 見えるようになります!」

「ありがとう。……術技(スキル)で見れるようになると思ったんだけど難しかった。

だから人造半人(デミ)の作成もした。それで技術は確立した。

目を移植しても無駄だった。この恋の目は……修復や移植の次元じゃない損壊をしているそうだ。……だから」



「蛇の半人(デミ)ですよね。そうすれば」


「そうだよ。熱で世界を見ている蛇の器官。あれが手に入れば、見えるようになるかもしれないからね」



「はい。必ず、手に入れます」

「ありがとう──しかし、さ」

「?」

 紙のざらついた感覚──それを指に味わいながら恋は息を漏らす。





「アペンド──発見者は詩的な表現を付けたものだね」




 詩的? と少女イクサが小首を傾げた。

注釈を付(アペンド・ノーツ)け加える(トゥ・ア・ブック)

紡ぐ、という意味もありますが……機能追加という意味ですよね? 

イクサはあまり詩的とは思えませんが……」


 イクサの言葉に、恋はカラッと笑った。

「そっちじゃないよ。進化(アペンド)の方法の方さ」

 イクサは、ええっと、と声を出す。


「『死地から舞い戻る』でしたっけ。今回スカイランナーで実験し成功した方法は。

でもあれは完全凍結後のイレギュラーで」


「ん。ああ、それの話をしていたつもりじゃないんだよね。あれは進化(アペンド)だけど、別の名前が相応しいだろうね。いうなれば機械化処置。

体を丸ごと挿げ替えて『心臓』を二つに増やした。術技(スキル)を物理的処理で強化したっていう唯一無二処置(イレギュラー)だよ。もう一つ。もっと成功率の高い方さ」


 恋が言うと、イクサは少しだけ俯いた。言い辛そうに、彼女は言葉を発する。






「『愛する者をその手で殺す』──ですか」






「そうさ。そして、苦しみによって『()』が引き裂かれる。

二つになった心を、繋げ合わせる──つまり加算(アペンド)する」

「……」

「イクサ。今、辛い顔をしているのかい?」

「はい。……イクサが愛するのは、恋様です。……恋様を殺してまで術技(スキル)を得たいと思えないもので」

「嬉しいな。おいで、イクサ。頭を撫でてあげよう」

「はい。恋様」

 イクサは寄り添う。


 それから少しして──彼女は言葉を。震えながら言葉を紡いだ。

「……恋様」


「ん、なんだい、イクサ」

「……思い上がりを、訪ねてもよろしいでしょうか」

「うん?」


「その──イクサを、殺して術技(スキル)を得られるなら。

イクサは喜んで命を差し出します。イクサは」


 くしゃっとその頭を恋は撫でた。

「ありがとう。イクサ。大丈夫だよ」

「恋様!」







「もちろん、最初からそのつもりだよ」






「……!」

「イクサ。キミはこの『恋』の杖だ。目の代わりであり、弾避けだ。その命の全ては恋の為に使うんだ。だから──」

 ぎゅっとイクサは恋に抱き着いた。



「嬉しい……! よかったです! イクサは、それが一番の幸せです!」



「ありがとう。イクサ。必要があれば喜んで命を差し出してくれ」

「はい、恋様!」



 二人は笑顔を浮かべていた。

 その笑顔がどれほど歪んでいるのか。それとも全く歪んでいないのか。

 誰も見ることは出来ない。



「……恋様。そういえば一つ質問があるのですが」

「ん、なんだい?」

「この技術をお伝えしてから、ナズクルさんはその直後にもうアペンドを行えました。……彼は誰も殺していませんよね?」

「……ああそれか。ナズクル先輩もいいデータだよ」

「?」

「過去に愛する者を殺していても、アペンドの条件は達成している。

──彼はもう既に、愛する者を殺していたんだよ」

「え」






「5年前かな。もう既に彼は最愛の妹をその手にかけているんだよ」




 

 

 ◆ ◇ ◆


いつも読んで頂き誠にありがとうございます!

操作を間違えてしまいまして、予約投稿をしようと思いましたら投稿していました!

その為、申し訳ございません。8/22は投稿をお休みとさせて頂きます……。

次回は8/23に投稿させていただきます。

いつもより7時間ほど早い投稿になってしまい、誠に申し訳ございませんでした。

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