【22】復活の小悪党【24】
◆ ◆ ◆
──ハルルは、思い出していた。
数か月前、雪禍嶺の迷宮に閉じ込められた時のことを。
その迷宮で過去に魔王腹心の四幹部の一人、『紫翼神』と呼ばれた巨漢男、パバトと対決し辛くも決着をつけた。
その後、『この騒動の元凶』についても話は聞いていた。
青いインコの頭を被った怪しい男。
『すふふ』と歯が抜けたように笑うその魔族。
名前は。
「スカイ、ダンサー!」
「ラァアアン!! ラぁンナぁっァア!! スカイランナー!!
ワタスシの名前は、スカイランナー!!」
「あ、ああ、そうなんスか。なんかスミマセン。
てか会ったこと無いのに名前を50%も憶えてて凄くないスか?」
「50%しか憶えてないッ! クルミ程度のサイズしかない低レベル脳味噌がッ!!
いいですか! しっかりと我が名を刻みなさいッ!!
ワタスシはいきなりリンボーを踊り出したりしませんよォ!! ラン!
空を翔る偉大なる走り! ラン! ラン! スカイランナァアー! でぇええす!!」
「初対面でテンション高すぎて怖いんスけど……」
「ええ! ワタスシの禍々しい魔力という名前のオーラ! 分かってしまうでしょう!?」
「微塵も分からないッス。なんなんスか貴方」
「ふぅん! すふふ! いいでしょう! 紹介いたしましょう!
まるで一年弱お待たせ致しました!!
美しき魅惑の青いインコの鳥頭巾着! 細くしなやか、長い腕!
この腕は機械化処置によりリンゴ程度なら簡単に粉砕! 頭蓋骨でも粉砕可能! 艶やかな光沢を放つ金を贅沢にあしらった美しい長脚は、スラっと見事なキリンの如く──!
空を舞う偉大なる魔族──12本の杖、現最高議長にして最高責任者にして最高権力者! 我が名は──」
「スカイダンサーッスよね」
「あらほれ! ソイソイッ! 踊れ踊れよ、ソイソイ! そーらそらそら、クソガキ、ぶっ殺すッ!!」
急降下。まるで燕のように急降下したスカイランナーが何かを握る。
(っ──!)
一閃、ハルルの鼻先を掠めた──派手な黄色と黒が合わさった蜂のような色をした刃。
それも特異な形の剣だ。
刀身の色も毒々しい黄と黒だが、形もまた異形。
うねる蛇のような剣身であり、その長さもそれを操るスカイランナーの背丈ほどの長さがある両手剣だ。
(確か、あれは──)
「すふふふ……! 一端の剣士なら知っていましょう! 魔法剣と言えばこの剣!! 見るが良い!
揺炎の刀身を持つ剣! 銘を『ヴィペール』! と、いうそうです! すふふっ!!」
スカイランナーはその波打つ刀身の剣をぶんぶんと振り回し、まるで聖騎士か何かのように剣を掲げて見せた。
(本人はカッコいいと思ってるんでしょうけど、なんとも間抜けな構えに見えるッス)
「偉大なる最強の魔王となるこのワタスシに相応しい禍々しくも美しい刀ですよ! すふふ!!」
ハルルは一歩後ろに下がって薙刀を低めに構える。
握った薙刀が、重く感じた。
(……変ッスね。目がかすむッス。体の傷は殆どない筈なんスけど。
凄く、虚脱感というか、疲労感……ヤバイッス。あの悪い夢を見せる術技の影響ッスかね)
ハルルは──スカイランナーは気付いていないが──足に力が入っていなかった。
まるで軽い貧血を患っているかのようにふらついてもいた。
(とりあえず、少し会話をして……体力の回復を。
集中力だけでも、戻さないと、今のままじゃ避けるのも出来ないッス)
「で──そんな魔王志望の方が、この場所に何をしにいらっしゃったんスかね」
「すふふ! よくぞ聞いてくれましたッ!
ワタスシですね──最強の魔王になるべく、力をつけてるんですよ!
前魔王が『世界の魔法を全て極めた』! ならばワタスシは!!」
スカイランナーは両手を広げ笑いだす。
「世界にある最強の術技を集め、偉大なる最強の魔王となるのです!!」
(……感想が出せないッス。なんというか、物凄い小物というか……いえ、そう見せてるだけでなんか凄い人なのかもしれませんが──ふぅ……少し呼吸……整ってきたッス)
「術技を集めるっていうのは、どうやってなんスか?」
「良い。良い着眼点ですよ!! すふふ! そう、そういう質問をどんどんするがいい!」
(なんかムカつく方ッスねぇ……)
「ワタスシの術技は──進化したのです!!」
「……アペンド」
何度か会話に出た名称にハルルは目を細めた。
「そう術技進化! より理想! 高みに近づいた我が術技!
名前を【海底撈月 】!
複合術技であり第一の術技【打表】によって、自分より背の低い相手の術技を確認! そして、『条件達成』をすれば相手から術技を奪い盗ることが可能!!」
(この人、全部説明してくれるッスね……。けど、その術技)
「……自分より背が低い……?」
じっとスカイランナーを見る。ハルルは女性の中でも背が高い方とは言えない。
ハルルは150少しといったところだが──スカイランナーはそれ以下にしか見えない。
「ッ! 今! 背が低いと思ったな!! このワタスシの背が低いと!!」
「いや、制約が厳しそうだなぁとは思いましたッス」
「ぬぅう! 馬鹿にしてッ! 女はいつもそう! 背が高くないと高収入じゃないとか! 仕事が出来ないとか! クソのようなことしか言えないッ! クソばっかりだ!!」
「いや、そこまで言っても考えてもないんスけど……」
「こんのっ! チビでデカ目玉の奇妙奇天烈小娘めぇ!!」
(──しかし……この人は、なんか面白いッスけど……持ってる術技が本人の言う通りに他人の術技を奪う物で、魔王として君臨することが目標なら……私がすべきことは──)
「馬鹿にされたのならもう見せるしかないようですねッ!!
この仮の姿を脱ぎ捨て真の姿をっ!! お見せしましょう、これこそ完全究極体スカイ──」
「いえ結構ッス──そんなもの見たくありません」
(──絶景応用、近接移動。からの)
「なっ!? 何故、小娘が瞬間、目の前!?」
「些か卑怯ッスけど──速攻ッス」
稲光一閃──ハルルの薙刀がスカイランナーに向けて容赦なく振り下ろされた。




