【22】ジン VS リナリナ【23】
いつも読んで頂き、誠にありがとうございます!
今回の話ですが、話の都合上、いつもより少し長く(通常の2話分)となっております。
分割も短縮も出来ずに誠に申し訳ございません。
何卒よろしくお願い致します。
◇ ◇ ◇
『ワタシ、好きになってみたい人がいるデス』
『……? 好きな人じゃなく?』
『YEEES! ワタシ、恋愛はよく分かりまセーン! なぜなら、ワタシは皆の初恋の人!
世界の美少女トップ10の一人デースから!』
『……よく分からん』
『隊長サンは報われない片想いデスね!』
『っげふっ! ……あのな!』
『高嶺の花の、品種改良されて更に自生を始めたばかりの絶滅危惧種の、原種の中でも希少色彩を持つ』
『不可能と断言しとけよ、もういっそ』
『サシャラはそういう人デースもんね!』
『だぁーかぁーら……何で俺にとってサシャラは、その』
『初戀の相手デ~ス?』
『おい、俺を古風な人間みたいにすんな』
『隊長は遊い甲斐があるデス!』
『あのな……はぁ。で、お前は?』
『ハイ??』
『お前が振ってきた話題なんだが??』
『今日教わった必殺の回避斬撃『雷蜃気影浪斬』の話題デス??』
『違う。後、必殺の回避斬撃じゃなく、必殺の躱し斬撃だ。相手に真っ直ぐに突っ込み体を捻り、右側面へ回り込む。そして肩または腕を斬り裂き戦闘継続力を無効化する奥義で──』
『長いデス。長すぎるデース! でも、ちゃんと覚えて使えるのでご安心くだサーイ!』
『ならいいが……いやそうじゃなくさ』
『??』
『お前がさっき言った話だよ。好きになってみたい人がいるってさ??』
『Oh! そうデシた! ──恥ずかしいのでやっぱり会話中断しマスデスよ』
『おい。野営の見張りですること無いから恋話ってお前から言ったんだぞ?? で、俺はちゃんとタスク終了させたよね???』
『ピーッ──当該機体のシャットダウンを完了。スリープモードに移行します』
『ざっけんなっ! お前ッ! そんな機能無いのは最初っからしってんだよっ!』
『No! 機能自体はありマスが使わないだけデース!!』
『ったく……まぁ話す気が無いならいいけどな。
……そういう話しぶり、何か聞いて欲しかったのかって思ったんだがな』
『……Oh。流石、隊長サンですね』
『あ?』
『……ワタシ、好きな人っていうのが、分からないデス。
半分機械だから、なのかもしれないデス。いえ、まずそもそも』
メッサーリナは先ほどまでの饒舌さは失い、星を見上げて訥々と口を開いてくれた。
『半分機械、そんなワタシを。……好きになる人はいる、デスかね』
『……』
それは独白だろう。俺に回答を求めている訳じゃないことは、なんとなく分かった。
機人。人間の体を持ちながら、体内に幾つもの機械を植え付けている特殊な種族。
そして彼らは生まれながらに両腕は無く、機械の腕を付けて生活を行う。義手とは違い、完全に制御化におけるそうだ。
『王国の皆も、お前のことを知ってるやつは本当にお前を好きだと思うけどな』
『……ありがたいですね』
『それに、ほら。お前が出立する日に、『メッサーリナさんをよろしくお願いします』って言ってきた子がいたろ。あの子だって』
『Oh! 『 くん』デスね! あー、まさにその子の話デス』
『??』
『その子から、とても好意、向けて貰えているデス』
『それは、良いことじゃないのか?』
『……ええ。いいことデス。ですが、その』
『うん?』
『身分違いでもありマス。彼は皇子デスし、まだ年も、ええ』
『……そうなのか?』
『はい』
沈黙が少し流れ、それからふむ、と一つ唸った。
『なんか隠してるな』
『ふぁっ!?!? ななな何も隠してないデース!!』
『隠してるなぁ』
『Oh……流石隊長。よく仲間のことを見ているデース……』
『じゃあやっぱり、自分に嘘の理由をつけてでもその好意を拒絶する理由があると』
『Yes……』
『……話したくないなら言わなくていいけど。話、聞いて欲しいから話してくれたんだろ?』
『女心を理解しながらなんて無粋な言い方でしょうか。モテない男代表のライヴェルグ隊長デース』
『ん? 何? 明日の最前線一人で切り込みたいって?? いいよ、行ってこい??』
『ひぃいんっ』
二人は少し笑い合う。
お互いに想う相手が居た。だから、きっと。
『隊長。ここからは……自分の記憶も消失させるデス。
ので、ワタシと貴方だけの秘密にお願い致します。二人だけの秘密デス』
『……ああ、いいぞ』
『実は、……実はデスね。彼を好きになってみたいですが。ワタシは』
◆ ◆ ◆
──音が、止んでいた。
斬撃も、回転音も、何もかも。
「聞いていいか?」
「答えないかも、しれまセンが」
ただ、風が通り抜ける音だけが一度した。
「そのフェインって奴のこと、好きなんだな?」
「なっ……っ! ンっ!?」
「……鬼気迫る顔で必死に叫んでたろ。言っちゃえば、メッサーリナはそういう戦いをしなかったから」
「……こ、ここ、こここ、答えま、セン」
「それが既に答えなんだよなぁ……お前は。いや、お前らは分かりやすいな」
ぽた、ぽた……と。血が滴った。
廻刈転刃は回転を止めている。そのピザカッターのような丸い刃には、血が付いていた。
「謝るよ。リナリナ。お前は……メッサーリナじゃない」
「……ええ、後継機デス」
「後継機が何を差すかは分からないが、お前は別の人間なんだな。確証を持ったよ。顔も攻撃も同じだけど、別の存在で、別の心があるって」
「……そう、デスか」
ジンは、リナリナに向き直る。
右肩から肘にかけて──どくどくと血が流れていた。
リナリナも、ゆっくりと振り返る。
まったく同じ場所、右肩から肘にかけて──一本の刀傷があった。
バチバチと電気的な火花が散っている。
「嫌味のように同じ技をされたデス」
「はっ。『躱し捻りの斬り上げ』この技、俺が教えたんだがな」
「Oh? そんな記憶無いデスよ。都合が悪いことは忘れられるデース」
「都合が悪いことって今言ったな?? 言ったよな???」
──まるで十年来の友人と話すようにジンは呟いてから、黒刀金鍔──金烏を鞘に仕舞う。
そして流れるように、黒刀銀鍔──玉兎を抜いた。
「刀を変える意味はなんデス?」
「『燃える刀』でこの後に使う技を使ったら、お前を殺しかねないからな」
「Oh。ここに来て手心を加えるとは、愚かの極みデスね」
「いや。そうじゃないさ──まぁ、構えろよ」
「いいデショウ。ああ、データ照合完了デス──『躱し捻り』なんて名前じゃなくて『雷蜃気影浪斬』と」
「都合が悪いことは忘れられるです」
軽口を叩きながら、二人は視線を刺し合った。
そして──当たり前の確認を行う。
次の一撃にて勝負は決する。
ジンはその刀を両手で構える。
リナリナは身を低く、顎が地面に付くほどに体を下げる。
廻刈転刃『剪定者』が地面を食い破るように鳴り始めた。
「脚部機械化解放──装備展開」
「八眺絶景」
回転音が鳴り響き、リナリナの足の皮が裂けて内部の機械が露出する。内蔵された無数の鉄銀車輪が煙を上げる程に回転する。
ジンは──柄を握り込む。ギシリという重く小さな音を聞きながら、その刀の重さと体の芯を一つに揃えた。
「──『無限跳躍』」
リナリナの限界まで引き絞った脚力により、爆散する地面。
姿が見えなくなる程の高速跳躍。
ジンが使う時を緩やかに見る目──『絶景』の世界ですら、彼女の速度は素早かった。
跳ね回る鉄の獣は、人間に出来る運動性能を越える。
そして最も効率よく死角──即ち──背後を衝く。
──空気すら止まって、目で追えるような世界でリナリナは見る。
背後に回った筈なのに、今は真っ向から対峙していると。
(高速移動についてきたデス!? いえ、違う! 流石に人体ではこの速度についてこれない!
なら、最初から背後を狙うと分かっていたと──デス、がッ!)
攻撃を止めることはしなかった。
繰り出す技は『連撃』。機械化し、人間の生身で動ける限界速度を超越した超速の斬撃。
そして、奇しくもジンが繰り出す技も『連撃』。
「『私は敵を薙ぎ倒す』!」
「『銀世界』」
──
二人は立っていた。互いに背を向けて。
ジンは最初の位置から動いておらず、リナリナはジンの後方数メートルの距離で立っていた。
距離が開いているのは、リナリナの攻撃が超速度での跳躍を行いながらの連斬撃の為だ。
二人の間の地面が黒く焦げているのもその影響だろう。
「隊長。貴方……人間の。動き、動体視力じゃないデスね」
「リナリナ。お前も凄いぜ」
ぼたぼたぼたっ、と、溢れるように血が流れた。
ジンは、笑う。自身の胸部に出来た、横一文字の傷を見て、笑った。
「俺に二回以上攻撃を当てられたの、魔王とその弟子と、お前で三人目だな」
「は、はは……途方も無いデスね……」
がしゃん、と音が鳴ったのが最初だった。
落ちたのは廻刈転刃剪定者。地面に転がった。
そして立て続けに地面に鉄くずが落ちるような音が鳴り響く。
「まさか、あの高速戦闘の中で……腕だけを破壊するとは……」
リナリナの鋼鉄の両腕が細かく刻まれて地面に転がった。
そして──壊れた人形のようにリナリナは膝を付く。
息荒く、リナリナは空を仰いだ。
「……教えて貰ってもいいデスか?」
「? 何をだ?」
「何故、ワタシが、メッサーリナじゃないと確証を持ったのデス?
あの質問で、何が分かったのデス?」
『そのフェインって奴のこと、好きなんだな?』
「……ああ、それか」
「教えてください」
「ん。──それは」
『ここからは……自分の記憶も消失させるデス。
ので、ワタシと貴方だけの秘密にお願い致します』
『……ああ、いいぞ』
『実は、……実はデスね。彼を好きになってみたいですが。ワタシは。』
『うん』
『ワタシは、その……お、おっきい人、好きなんデス』
『……アァン????』
『その、ふくよかでどかんと大きい……! 脂肪分が、こう、どどんと身体にある人が好きなんです!!
ほら、機人は細い人しかいないのでっ! なので! そういう大きな人に憧れが』
『デブ専ってこと?』
『Oh!!! 言葉選ぶデス!!! 〇〇ック!!』
『お前の方が言葉を選べよっ!! 姫様だろ!?』
『と、ともかく!!!』
『分かった、分かったってメッサーリナ! お前はふくよか体型が好きなのな』
『ああもう!! 深夜テンションで喋り過ぎたデス!!!
いいデスか隊長!! 絶対に──』
「答えられないな」
「えええぇ何故デスか!?」
「そりゃ──」
『絶対に! 二人だけの秘密にしてくだサイね!!』
「二人だけの秘密、だからだよ」




