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【22】解釈違い【21】


 地面に転がっていた兵士の剣をフェインは取った。

 磨きも研ぎも甘いその剣に、玩具みたいだなあ、と小さな感想を吐いてからフェインはハルルに近づく。


「これで終わりだね、勇者」


「まだ……ま、だっ」


 ハルルは、それでも薙刀を握った。

「はは、驚嘆に値するねえ。でも本当に当たるかなぁ? そんな状態で──……ふん」


 死んでいない目。諦めていない者の目。

 ハルルの目は、偶然かそれとも必定か、フェインを見たように思えた。


(当たってから──当たった瞬間、その位置へ攻撃を出す)


「……と、でも言いたそうな目。はぁ、一周回ってさ、興ざめだねぇ……──させねえよ、そんなカウンターさあ!!」


 フェインは彼女の横に立つ。そして。


 振り下ろされた凶刃は、まっすぐに彼女の頭部へ──。






「随分と、うちのを可愛がってくれたみたいだな。え? 狐目」






 小気味すら良い程に、キィンと弾けた剣音。

 狐目が驚きで僅かに目が開く。


 男が──黒髪のラフな服に身を包んだ男、ジンがそこには立っていた。


「……し、しょう?」

「ああ。──待たせたな」


「驚いたなあ。……リナリナと戦闘してたって聞いてたけど、終わったのかい」

「そうだ。終わらせた。んで──」


 黒銀の刀をくるりと回して腰の鞘へと刀を戻す。だが、その柄から手を離さない。

 抜刀術の構え。そして、それを派生させた独自の構え。体を低くし──地面を強く踏み込み、足元の砂利がギチギチと音を立てる。



「──こっちも終わらせる」



 神速の一歩。

 地面が破砕し空気が割れたように音を立てる。

 誰の目にも見えない程の一瞬で距離を詰め、確実に当てられる回避不能の距離で行われる超高速の抜刀術。


一刀翔(いっとうかけり)


「いっ──」

 呻き声は上がらなかった。

 一閃の雷撃を思わせる程の抜刀術でフェインは上空高く打ち上げられていた。


「安心しろよ。抜く時、逆鞘にした。つまり峰打ちってやつだ。

まぁ顎は面白おかしく砕けたと思うけどよ」


 びたんっ! と音を立ててフェインが地面に叩きつけられた。

 仰向けで、泡を吹いて意識を失っている。


「……悪かったな。お前を一人にして」

「……師匠」

 ジンはハルルに微笑みかけた。

 刀を鞘に戻し、やれやれとため息を吐く。


「後は先に進んだ少しの兵士を討てば、村は守れて戦いは終わりだな」

「そう、ッスね」

「どうしたハルル?」


「いえ。すみませんス。……また、助けて貰って」

「気にするなって。ほら、行くぞ」

 ジンはハルルに近づいてその肩を優しく叩いた。


「……はいッス」

「まぁ指揮官を討った訳だし、これで──」


「師匠──いえ、ジンさん。一つだけ、良いッスかね?」

「ん? どうした」


 ハルルはにっこりと微笑んだ。だが、違う。

 その微笑みを見たなら誰でも思うだろう。彼女の目は。




「……解釈違い(・・・・)ッス」




 笑っていなかった。



 そして、その刹那で薙ぎ払いは放たれる。

 鋭い目でジンへ狙いを定め、止めようの無いゼロ距離。

 躊躇いも迷いも籠った真っ直ぐな一撃は──


  △     ▽   △ △▽


「よくも……! こんなっ、解釈違いの悪夢を見せてくださいましたね……ッ!」


 ──フェインの胸部を裂いた。

 致命傷には遠いが斜め一文字の傷は、近接戦の訓練を行っていないであろう痩せた体の男には大打撃であった。


 血を吐きながらフェインは地面に崩れる。


「かっ……な、んで。僕の、術技(スキル)から抜けられたッ……! どうして見破れたッ……!?」


「へ、へ……貴方……その術技(スキル)で見せる幻想……貴方が指定できるんスよね、きっと」

「あ、ァあ??」

(何を質問してきているんだッ? 確かにそうだ。僕の術技(スキル)は内容を大まかに指定できる。最後の一撃の時は【愛する者が助けに来る】という幻想を見せた。だから)



「ジンさんは──私なら出来ると判断したって言ったんス。……私に任せるとも言ってくれたんス」



「あ??」


「一度、私に任せた。なら、ジンさんは。私がまだ戦えるのに横やりなんて絶対に入れないッス。

ましてや、反撃の策がまだあったのに、それを蔑ろにする人じゃあないんスよ……!!」


「くっ……大した。大した信頼だあ……! だが、一度、幻想を破ったからってなあ……! 

確かに幻想を破ったのはお前が初めてだが、二度目が使えなくなる制約はこの術技(スキル)にゃついてないんだよ!」


 フェインは起き上がり腕を組む。

 が、視界にハルルが居ない。


「遅いんスよ、動き自体が!」


 フェインの真横に、ハルルは居た。

「なっ」

「私の見たくない夢ばっか見させて。そんなに悪夢が好きならッ!」

 フェインのその視界に映ったのは、硬く握られた拳。




「貴方がずっと見てればいいッスよッ!!」




 岩のように硬く握られた拳が、フェインの顎を的確に打ち抜いた。

 地面に一度バウンドして、フェインは数メートル転がった。


 仰向けで、泡を吹いて意識を失っている。

 奇しくも悪夢の中でも似たような構図。だが、ひりひりとした拳の痛みに現実を感じ、ハルルは一人、静かに拳を突き上げた。






「すふふふ……よもや一人であの幻影を突破するとは。貴方、素晴(すんば)らしいですねぇ」




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