【22】幻拐永朽【20】
※ 加筆修正を行いました。 ※
【22】アルプトラオム【19】
訂正内容【不明点の明確化】
〇 話の本筋の変更はありません。
ただ、ハルルがどういう術技を受けたのか。
【幻拐/アルプトラオム】がどういう術技なのか、今回で明らかになる予定でしたが、
現在の話で混乱を招きえない書き方だった為、【22-19】の後半を加筆修正を行いました。
誠に申し訳ございません。何卒よろしくお願い致します。
暁輝 (2024/08/12 1:48 加筆修正)
◇ ◇ ◇
ライヴェルグ様は憧れでした。
初恋の人、と言ってもいいかもしれませんス。
でも、こういうと『絵本の中の王子様に恋してるみたいだ』ってバカにされるッス。
それくらい、雲の上の人。存在しているのに存在していない人を好きになってしまったんです。
えへへ──……え?
ぐるりと視界が揺れた。
沸き立つ罵声。泥まみれの石畳。降りしきる雨の中で、私は──小さい手の私が、いた。
立ち上がる。群衆の中を、血の雫を追って走る。
血の泥。血の泥の涙。血の泥の涙の痕──気付けば。
私は処刑台の上に立っていた。こんな場所に、立ったことは無いのに。
そして、体に槍が……爆機槍が刺さったライヴェルグ様の、首に──一度、断頭刀をあてがう。
違う、そんなはずがない。これはあり得ない。あり得ないッス……!
ライヴェルグ様は処刑台に上がっていない。そしてその後だって私は。
なんで、私が──違う。あり得ないッス。これは、違うッ。手が、手が勝手に。
止まらないッ……なんでッ!! 止め
血飛沫と。転がった頭──兜が突然に消えて……目が合う。ジンさ
師匠──あれ。
ああ、夢、ッスか……よかった。
揺れている……そうス。馬車ッス。馬車で移動中ッスね。
……ああ、師匠、馬車に揺られて眠ってるッス。
師匠って……面白い人なんだなぁって、思い始めました。
えへへ。喋ると、私より色々なことを知っているのはもちろんスけど、そうじゃなくて。
時々、なんでしょう。
──最初の頃、一緒に住み始めた当初。弟子として転がり込んだあたりッスね。
雨に降られた帰り道がありましたッス。
それでずぶ濡れで帰ったら、料理中だった師匠がタオルを投げてくれたんスよ。
タオルで頭を拭いてたら、師匠が火を止めて指でそっち向け、ってやったんス。なんだろう? って思いながら向こう向いたら。
『ほら、頭しっかり固定。動かすなよ』
頭をごしごし拭いてくれたんス。なんでしょ、なんか小動物でも乾かすテンションだったんスかね? でも。
その時の優しい声が。その、優しいごしごしが、……えへへ。どうにもこうにも、ずっと残ってしまってて。
だから、私、向こう向いててよかったって思ったんス。
顔、すっごく、赤かったから。だから。
世界の色が、カーキ色に変わった気がした。
突然、色が認識できなくなって。それから
『こっち向きなよ』 師匠の言葉? 振り返った時。
しゃくっと、リンゴに包丁を立てた時のような音がしました。
え、っと声を上げるより早く、偶然、だったんでしょうか。
手に、持っていた槍が、振り返った時に師匠の、胸に。
『ハル、……ル?』
ち、違、違っ、違うんス! 違う、これは、違、ッ。違いッ!
また、世界が歪んだッス。
今度は、硝子に……硝子を通した世界みたいッス。
目の前に……ジンさんがいるッス。
まるで、硝子に覆われたみたいに見えるッス。
『ハル・ル』
声も、くぐもって反響を繰り返した声ッス。
幻覚……間違いなく、これは術技。なのに。
分かっているのに。分かっているのに。
『ハルル──どうしたんだ?』
名前を呼ばれただけ、この目の前の世界が──現実にしか、見えなく、なるッス。
チュミィン……──
◆ ◆ ◆
【幻拐】
──対象者1名を目視し、その人物の前で腕を組むことによって発動する起動型術技。
制約である腕組みが故意・他意に関わらず維持出来なかった場合、術技は解除される。
この術技は相手に『大切な者・愛する者』の幻想を見せるものである。強い催眠術のようなものであり、これによって相手の戦意を喪失させることを主とした術技だ。
また発動者(以下、術者)の任意で、術者自身を『大切な相手』や『愛する相手』へ擬態させることも可能。その場合は【羊皮狼被】と宣言する。
また、後述される段階の【第三階想】以上の時にこの名称を宣言した場合、制約である腕組みを解除しても【幻拐】は解除されない。
そして当術技には【階想】と呼ばれる段階がある。数が上がれば上がる程、強く精神に作用する。
【第一階想】──対象者の殺したくない『大切な相手』が眼前に投影される。
【第二階想】──第一発動中に術者へ危害を加えた場合、第一効果に付随して発動する。
対象者はその幻想の中で『大切な相手』を傷つけたことになる。
対象者へ『大切な相手』はその後、暴言・怒号、あるいは悲鳴・絶叫によって責めを始める。
【第三階想】──第二発動時に『大切な相手』へ攻撃を行うか、術者へ攻撃を行う、または、この現象を何らかの術技の影響だと看破し【第二階想】を克服した場合、第二の効果を中断して発動される。
対象者は【起点①】『最も愛する者』との思い出を即座に思い出す。その後、対象者は、対象者の意思に関係無く、強制的に、『愛する者に対して殺傷・暴行を含むあらゆる残虐行為』を行う。そして、幻想内の『最も愛する者』が死んだ後、【起点①】から、これを繰り返す。
──つまり、愛する者を殺す幻想を見せる。
何度も何度も、無限に見させ続ける。永遠に。
【第三階想】、別名称を【永朽】。
脱出方法は──無い。
いや、一つあるようですね。──幻想の中でも唯一残っている自身の感覚。
これを断てばよろしいのでしょう。
その刀身で己の喉を貫く。
すなわち──自死。すれば抜けられるでしょうねぇ。
◆ ◆ ◆
「さて。野生の獣並だった勇者もこれまでのようだね」
フェインはにやりと笑った。
へたり込むハルルに近づいて、腕を組むのを止める──。
「あっはぁ、疲れたよ、腕組み! 割と大変なんだよ?? ずっと組んでおくのってさ!
で、腕組みを止めたら僕の術技は解除されちゃうんだけど──さ!
【幻拐・永朽】。これの最中だけ、腕組みを止めても大丈夫でね」
大仰に手を広げて、地面に転がっていた兵士の剣をフェインは取った。
「これで終わりだね、勇者」
◆ ◇ ◆
申し訳ございません。
次回更新は8月15日に変更させていただきます。
突然の変更、誠に申し訳ございません。何卒よろしくお願い致します。
2024/08/13 1:30追記 暁輝




