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【22】雷は舞う、花の如く鮮烈に。【08】


 ◆ ◆ ◆


『え!? なんで槍術全般の技、使っちゃ駄目なんスか!?』



『使っちゃ駄目じゃない。中段とか上段で構える『広持(こうじ)の構え』は問題なく使っていいが、他の技は効力を発揮しないって言ったんだ』


『効力を発揮しない?? どういうコトッスか?』

『それを説明するにはなぁ……まぁハルル。爆機槍(ボンバルディア)ってどんな槍だ?』

『え? そりゃこれッスけど』

『どんな槍だと思う?』


『えー……っと。形は騎乗槍(ランス)ッスね。腕に付けるこの手甲(ガントレット)とケーブルで繋がってて……魔法槍っていうカテゴリで、突き出して爆発する超カッコいい不思議武器ッス!』


『そう。その通りだ。よく分かってる。その武器は『突き』に特化した武器だ。

まぁ、薙ぎ払いは出来るが、基本的には『突き』から『爆発』に繋げて大打撃を与える火力系の武器ってことになる』

『そッスね! 大技に繋げやすくて戦いやすい! よく分かるッス!』

『ああ。いい武器だ。だが、俺が教えてるのは、もっと原始的な槍……いや、分かりやすく言えば、棒術って奴にかなり近いのを教えてる』


『え、天裂流奥義、破魔天槍(はまてんそう)月河牙滅(げっこうがめつ)の型じゃないんスか!?』

『っっっ! お前、よくそんな最初期のッ!! くそっ、んな技名俺ですらッ』

『?』


『な、んでもないっ! とりあえず……俺が教えてる棒術は名前の通り『棒を操る技』だ。

お前のその騎乗槍(ランス)だと効力を発揮しないっていうのは、ケーブルで繋がった『突き』前提の破壊力のある槍を想定していないからってことだ』

『……? えっと』


『棒術は基本的に薙ぎ払うし、持ち方を変えて中近距離も対応できる。

例えばだが、戦闘中に尖端側……そうだな。刃に近い方を握り込めば、まるで杭打鉄撃(トンファー)みたいな攻撃だって出来る。まぁ厳密には杭打鉄撃(トンファー)じゃないがな』

『ふむふむッス!』

『それに普通の槍なら尖端にある刀身に合わせて斬り下ろさないといけない。あと不用意に突きも出せないんだ』

『不用意に突きを出せない? 何故ッスか??』

『刺さって抜けなくなるからだ。複数人数相手なら、そのまま抜こうとしてたらその間に後ろから刺されて天国行だ』

『な、なるほどッス』

『で、お前の武器はそういう意味では『当てりゃいい』だからこの棒術を教えるのはここまでにするかとも考えていてだな』


『いえ、教えて欲しいッス!』


『あ? ハルル。いいか? この棒術はお前の爆機槍(ボンバルディア)だと効力を発揮しないんだ。だから』

『いえ! 棒術も知りたいッス!』

『……知りたいなら教えるが、いいのか? 遠回りにはなるぞ?』

『はいッス! 爆機槍(ボンバルディア)が使えない状態での戦闘だってあると思うッス! それに、『近道よりも積み重ね。得た技術は裏切らない』ッスから』

『……いいこと言うな。分かった。まぁ護身術にもなるしな。分かった。稽古を続けよう』

『えへへ、あ、それと師匠!』

『ん? なんだ?』

『さっきの言葉はライヴェルグ詩集3編の22pの言葉なので、師匠の言葉ッス!』

『……本当にこの世界から色々な物を抹消したいよ、俺はッ!!』


 ──あの時、ちゃんと普通の槍術、学んでてよかったッス。

 だから。


 ◇ ◇ ◇


 雷鳴と共に──少女は現れた。



「私が全部、ぶっ飛ばすッス! だから、アキ姉ちゃん。ちょっとだけ、待っててくださいッス」



 肩まで伸びた、銀白の癖のある髪。

 小動物のように少しふわふわとした髪を靡かせた少女──その手には薙刀。

 白い手と対照的に、漆のように美しい漆黒の柄。そしてその刀身は、まるで琥珀のように透き通った雷色の刀身。今もまだ青白い雷を僅かに迸らせた。



「っち。王国の勇者か……!」「くそ、思ってたより早いじゃねぇか」

「だけど、こいつ馬鹿だぜ。たった1人で俺たちの拠点のど真ん中に来るなんてな!」

 男が腰の鉄の剣を大振りに振り下ろした。



 その剣は当たらなかった。



 まるで水に映った虚像を斬ったかのような手ごたえで──男たちの目には幻影のように映った。


(──ヴィオレッタさんも良く使う、回避術(ステップ)。分かっちゃえば凄くいい技術ッスね)


 ステップ。これはヴィオレッタが使う独特な動きである。

 ダンスの足運び──それを応用した回避術。地面を蹴って横に移動する。その時、上半身の重心を極力ずらさず最小限の動作で動く。

 ダンスで言う『キレ』──つまり、緩急(メリハリ)がしっかりとついていればついている程、人間の目は『突然の動きに対処できない』。──しっかりと決まれば、芸術(ダンス)中には美しく見え、戦闘中には幻惑の魔法よりも効果的だ。




『ハルル。通常戦闘で刃物系の武器を使う場合、まず考えるのは敵の数だ。

さっきもちょっと言ったがな。乱戦時や敵の数が多い時、槍だったら──』




 ハルルは一気に刃側に近い部位を掴む。




『突くな。そして出来れば『石突(ケツ)側』で薙ぎ払え』





()ああぁッ!」

 石突が地面を擦り、そのまま兵士の顎を下から殴り飛ばした。




「がっい!?」

 頭兜がそのまま変形する程の一撃で男が大の字で伸びた。


「っ! 何しやが──」

「遅いッス!」

 次の兵士が何か喚くより先に、ハルルは既に懐にいた。

 片手持ち。だが、その石突側での正確な突きは兵士の首の真ん中を正確に突いた。


「く──!? が!?」

「せいっ!」

 流れるように、ハルルはその兵士を蹴飛ばす。

 奥に居た3人目の兵士は混乱しながらも喉を突かれた兵士を受け止めた。


 そして、とてもゆっくりな動きで薙刀がその兵士の胴鎧にこつんっと当たった。


「この薙刀なんスけどね。刀身、雷で出来てるんスよ」

「へ?」

「それで兵士さんたち。いい鉄の鎧ッスね~。まるで電気を流して欲しいみたいな感じに見えるッス。

じゃ、そういうことなんで」



 にこっとハルルは最後に悪く微笑んだ。





伽雷薙刀(エクレア)──放電花(スパーク)! ッス!」





 雷光一閃。

 それは一瞬だった。目が真っ白く焼けるような光と、耳が弾けそうな一瞬のシュゴッという雷音。

 そして、まるで花びらのように舞う雷の欠片たち。


 兵士2人はまとめて黒焦げとなった。


「ふぅー! 凄いッスね、やっぱりこの薙刀! 雷も自在ッスし、何より重さもちょうどいいッス!!」

 にこっと笑ってから──彼女はその大きな目を少し細めて、たくさんの足音(・・・・・・・)の方を見やった。



「さてと。──で、まだやるんスよね、そっち側の増援の人たちも」



「クソっ! 敵襲だッ! ただのガキじゃねぇ!!」

「あっという間に3人()されたぞ!」「馬鹿! 偶然だ! ただの魔法だろ! ぶっ殺せ!!」


「いいッスよ。まとめて掛かってくるッス! 私の修行の成果、見せてあげるッスよ──!」


「殺せ!」「射掛けろ!!」「死ねオラァ!」



「雷花式薙刀(そう)術──」


 枝のように細かく分かれた雷が、眩く青白く轟いた。

 それはまるで──勇者という称号を貰ったばかりの『若い獅子』の如く──。



 少女は走る──その手の薙刀が火花散らしながら地面を這う。



 帝国兵士10名程の塊に、少女は突進した。

 息を合わせて剣を抜いたその次の瞬間に、少女は消える。


 閃光。眩いと感じたその直後、兵士たちの半分が(・・・)、消えていた。


 残った兵士、5名程が目を見開き、バチバチと鳴った音に振り返った。

 跪くように少女はそこにしゃがんでいた。薙刀をくるりと振るい、息を深く吐く少女。

 



「──花天嵐(かてんのあらし)



 

 同時。空中から大の男たちが落下してきた。

 まるで巨大な嵐に巻き込まれたかの如くに、空中に薙ぎ飛ばされていた。

 感電し、ぴくぴくと痙攣する者。焦げて意識を失った者。斬撃によって出血している者もいた。


 兵士たちは直感した。

 ──今、この少女は。


 屈強な兵士たちの間を縫って突進した。

 そして、目にも止まらぬ速さで彼らを斬り上げて見せたのだと。


 早業。そして、あの小柄に見合わぬ力に、兵士たちは一歩退く。


「は、はぁ!? い、一瞬で!?」「ひぃっ、な、なんてことだっ」「こ、このガキャああ!?」




「だから。ガキじゃなくて──勇者ッスよ!」




 迸る青白い雷と、橙の火花が──夕闇を照らす花のように派手に飛び散る。

 ただの少女の微笑みに──兵士たちは剣が握れない程に震えあがった。


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