【07】狼先生の術技習得講座【03】
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「そのさ。術技ってどうやって身につけられるんだ?」
質問すると、レッタちゃんは、首を傾げてから、狼先生を見た。
「師、どうやって身につけるの?」
『そうだな。生まれながらに術技を持ってる奴もいれば、
苦労なく獲得できる奴もいる。道具を用いて継承したり、契約によって獲得することもある』
「……つまり?」
『色々方法がある、ってことだ』
随分とざっくりしてるなぁ。
『こればかりは、時間が掛かる。二歳で使えることもあれば、壮齢になってから発現することもあるくらいだからな。
……まぁ、危機的な状況に陥ると発現する、と聞いたことはあるが』
そうか……。
「オレがレッタちゃんの欲しい術技を発現出来たら、一番、楽だよなぁ、って思ったんだけど」
『なるほどな。ただ、……まぁ、ありえなくはないが』
「多分、あり得ないかな」
気持ちは嬉しいけどね、と呟いて、くすくすとレッタちゃんは笑う。
「なんで、あり得ないんだ?」
『術技というものの本質は、その生物の性質や精神、特殊な経験や強い意志。
つまり、心の熱量から派生する』
「心の熱量から、派生??」
オレは素っ頓狂な声を上げた。
狼先生は、頷いて言葉を続けた。
『例えば、自身の体を強化する『肉体強化』の術技を持っている人間は、
そもそも自分の筋肉を好きだったり、鍛えてきた自負があったりする。
もしかすると、過去に、体が弱かったから、補う為にそういう力を望んで発現したかもしれない』
……。
「狼先生……」
『なんだ?』
「狼先生、もしかして、説明下手?」
『……なっ! わかりやすいだろう!?』
レッタちゃんがくすくす笑った。
「いや、オレ、あんまり理解力とか無くて」
楽ばかりしてきたもので……ははは。
『……まぁ。ざっくり言えば、術技は、とにかく自分らしい術技が発動する。
誰かに言われて、そういう術技を獲得しようとしても、まず不可能だ』
「で、いつ、発現するかも分からない、と」
『まぁ、凡そ、皆、十代のうちには発現しているみたいだな』
オレ、もう二十代中旬……。
「そうかぁ……一生、術技なし、ってことも」
「くすくす。ありえなく無いらしいよ」
まじか。
それは嫌だな。術技なかったら、オレ、レッタちゃんの足手まといだ。
ふと、小さな疑問が湧き上がった。
「……そういえば、質問してもいい?」
『ん? なんだ?』
「えっと、術技は厳密に同じものは無い、ってよく言われてるじゃん?」
術技は、似たものはあれど、同一の物はない。
個人個人で少しずつ違うらしい。
「なんで、レッタちゃんと狼先生の術技は、同じなんだ?」
そう、術技には、厳密に言って同一の物はない。
だけど、レッタちゃんと狼先生は、同じ靄舞を使う。
『それは、少し靄舞の説明をしなきゃいけなくなるが……』
術技、【靄舞】。
効果① 靄を発生させる。その靄に魔法を撃てば、その魔法の属性を靄が持つ。
効果② 靄自身の形状変化。靄の形を自由に変えることが出来る。
効果③ 自身の体を靄化し、別の物質に憑依できる。
「「へぇ、そうだったんだ」」
レッタちゃんとオレが同時に声を上げた。
『ガーはともかく、君まで……』
狼先生は、レッタちゃんを見て、おいおい、と嘆いていた。
「だって、なんとなくで使っちゃってるしさ。後、靄化? 憑依みたいなこと、戦いで使わないし」
『まぁ、君の戦い方には合わないだろうな』
狼先生が溜息を吐く。
いや、それより。
「三つの効果のどれも、他人に術技を譲渡する、って無いけど?」
『ああ。それはそうだ。この術技の、譲渡や盗用は、副次結果なんだからな』
「副次結果……?」
『そうとも。効果③の靄化。これを使って、相手の体に入り込む』
「体に入り込む……!」
『そうして、その体に、靄舞の残滓を置いていく』
「置いていく……!」
『または、相手の術技の欠片を取り込んで、元の体に戻る』
「取り込んで……!」
『靄舞の残滓を体に残した場合は、その体の中で術技として芽吹き始め、開花すれば、靄舞を使えるようになるんだ』
「使えるようになる……!」
『相手の術技の欠片を奪って持ち帰った時も同様。もちろん、確実にコピーできるとは限らないが、成功すれば、術技のコピーが作れる』
「コピーが作れる……!」
『お前さっきから同じこと繰り返してしかないな!? なんなの!? 新手の煽りか!?』
やべ、狼先生が毛を逆立てて怒ってる。ちょっと、冗談しすぎたか。
レッタちゃんは転げて、足をバタつかせて大爆笑している。
『ったくっ。真面目に解説して損した。これだから最近の若い奴らはっ』
「ごめんって狼先生。じゃぁ、核心の質問なんだけどさ」
『なんだ』
「オレも、靄舞、貰えたりする?」
その言葉に、狼先生とレッタちゃんの、二人ともが固まった。
オレのイメージだと……なんていうか。
靄舞レベル10で攻撃されたら。
靄舞レベル1を獲得できる。的な。
『不可能ではないな。理論上は』
「そうなのか。だったら」
「ダメ」
レッタちゃんが割って入ってきた。
「ガーちゃんに、靄舞は似合いません」
「そ、そうなのか?」
「うん。絶対に、ガーちゃんは、ガーちゃん自身の術技を発現して」
いつもよりも、更に、まっすぐな真剣な目で言われた。
「……わ、わかったよ」
頷く。
『まぁ、賢明だ。術技の譲渡は、簡単に言っているが……そう簡単な習得じゃない』
「そうなのか? ラクそうだけどなぁ」
『少し理論的に考えてみれば分かるだろう。
術技自体が、精神や経験、意志の力で出来たモノだ。
経験も意志も無い生物に与えたら……使えない、で済まないことになる』
素直に怖い。やっぱり、地道に術技を開花させるしかないか……。
「結局……どうすれば、術技って発現するんだ……?」
「ま。別に、時間を掛けて使えるようになればいいんじゃない?」
その時。バサッと力強い羽ばたきが聞こえた。
数枚の羽根がふわりと落ちてくる。
「わぁ……綺麗な鳥」
大きく羽を広げた白い鳥が、空を舞っていた。
……この距離から見て大きいって分かるってことは、あれ、相当でかいんじゃないか……?




