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【22】アキギ・ココ【06】



 ◆ ◆ ◆


 しかし……なんだか恐ろしいくらい平和だな。


 俺がいるのは宿場の町──雪厳連山の一角の一部、なだらかな麓の近くにある町で、20世帯くらいが住んでいる。立地的にはかなり帝国寄りの位置に当たる。

 ちなみに、共和国の国境へは馬で半日も掛からないので、王国から見たらかなり遠く……所謂、田舎だ。

 要所でこそないが列記とした王国領。

 雪厳連山の要塞に帝国が攻め込んできたそうだ。その防衛戦闘がどうなったかまでは知らないが……勇者の増員くらいはありそうなものだ。


 昨日の街道の兵士──思い返せば帝国の兵士だった。

 あれは少数での斥候? そうだ、メッサーリナ……いや、リナリナを名乗る謎の少女もそう。あれは何だったんだ。

 ……駄目だな。情報が少し足らん。俺には分析出来ない。



 一度整理するか。

 確定情報だけを集めれば。


 『帝国は雪厳要塞を攻撃して侵攻した』。

 『王国の援軍は何もない』。『王国からの退避命令は出ていない』。

 んで……『帝国の兵士が僅かに王国領内をうろうろしている』。

 そして『《雷の翼》に所属していたメッサーリナの『後継機』を名乗る謎の少女がいる』。



 直感で考えれば、危険な信号だ。前触れとも思える。

 戦争状態になる直前か……はたまたもっと動きが早く、連山の要塞が落とされているか。

 あのメッサーリナもどきの戦闘能力は、俺の知っている《メッサーリナ本人》と大して変わらなかった。まともな勇者を配備していなければ幾ら重装備の要塞でも一晩持たないだろう。特に、こと攻城戦となればメッサーリナの突破力は俺と同格……。


「……もう少し内地側に町民全員で避難することを、お勧めします」


 ──食後。俺はシキさんの部屋に居た。

 シキさんは王国では珍しい敷布団に座って頷いて話を聞いてくれていた。


「戦争になるのかな?」

「可能性としては決して低い可能性じゃないと思います。幸い、まだ敵も来ていない。

今なら比較的安全に逃げられると思います」

「ジンくんが言うなら、そうなんだろうね。分かった、町の皆にはそう伝えよう」


 シキさんは微笑む。

 この町の村長……町だから町長か? まぁともかくそういう長──『ではない』が、シキさんはまとめ役みたいな物をしているそうだ。

 その話がちらっと出たからこうやって避難の話をしていたのだ。


 ふと、シキさんが枕もとを撫でる。ごわごわと布団の中で何かが動き──ぽふん! とそれが顔を出す。

 丸い顔の……少し太り過ぎのような、茶色い毛で覆われた犬であった。なんだか眉っぽい模様のある丸犬だ。

 シキさんがその犬を撫でながら先ほどのことを伝えると、丸犬は尻尾を振りながら歩いて行った。


「王国ではあまり見ないですよね」

「確かに、王国では一部の魔法使いしか『従者(ファミリア)』を持たないね」

 従者(ファミリア)。使い魔とも言うが、割とポピュラーな魔法契約ではある。動物や精霊に魔物……果ては竜などと契約をして力を借りる魔法だ。

 尤も、力を借りると言っても戦闘面ではなく生活補助の面が多い。

 ただ王国ではあまり見ない。寧ろ帝国ではよく見る魔法だ。いや、帝国式だと錬金術による隷属式(オーサー)創り獣(つくりもの)があったはずだ。

 素人の俺から見れば違いは分からないんだがな。


「これで町の皆は連絡が行きわたるから大丈夫だけども」

 シキさんが歯切れ悪く言ってから、少し困ったね、と呟いた。


「? 何か問題でもあるんですか?」

「うん。アキギがね。まだ帰ってきてないからどうしたものかとね」

 アキギ……ハルルのお姉さんの一人だ。

 ハルルの姉妹は四人。ナツヅ、アキギ、フユユ、で、ハルル……だから上から二番目の姉か。

「どこか行ってるんですか?」

「そうなんだよ。困った子でね……。まぁそろそろ帰ってくると聞いているが」

 家族が揃わないと家から動かない、か。

 命が関わってるから後で合流というのを頷いて欲しい気持ちもあるが、確かにひっ迫した危機には見えない。当然と言えば当然か。

「アキギさんはどこに行ってるんですか?」

「それがね……実は。共和国に行ってるんだ」

「……共和国??」



 ◆ ◆ ◆



 ──人にはそれぞれ好きな物がある。

 特にうちの姉妹は全員が『異様に好きな物』を持っている。


 一番下のハルルが筆頭だけども、あの子は『魔王討伐の勇者隊《雷の翼》』を熱狂的に好き。

 部屋の中は全部、勇者様グッズで埋まってる。


 一番上のナツヅ姉はオジサン臭いけど釣りが趣味。

 おかげで山なのに活きの良い魚が食卓に並ぶことが多い。

 部屋は普通なんだけど、別の村に専用の家があって、船も三台くらいあるそうだ。

 専用の家とか何回か行ったけど最早あれだよね、セリでも始めるのかっていうくらいのちゃんとした市場に見えたよ。


 私の下のフユユは一番きれい系の普通の女の子──に擬態しているだけ。

 姉妹の中で最もぶっ飛んでる趣味だと思う。ぶっちゃけ、あの部屋には入りたくない。

 フユユの趣味は昆虫採集……特に芋虫が好きなんだって。ぶにぶにした感じが……って仰ってたけど、私はもう分からん世界だった。ハルルは物おじしないから『聖女様と似た趣味でいいと思うッス』なんて言ってたけども。


 だから姉妹の中で私が一番普通。一番まとも。一番、理解されやすい筈。


 ずっしりと重たい鞄を背負い。ぎっちりと詰まった布鞄を両腕に装着。鞄が重さに耐えきれなくなって絶対に破れたりしないように、革ベルトでがっちりと補修してある。


「ね、アキちゃん! 今日の公演、マジヤバかったね!」

「うむ!! 激熱でござったぁああ!」


 共和国の戦友(ともだち)である彼女と熱く語り、私は馬車を待っている。

 ──そう私は一番普通の熱狂者(ヲタク)。どの国にもいる『舞台ヲタク』である。

 特に白帽子工房に所属のライトくん推し。若手で夏くらいから活躍しだして顔もいいけどサービス精神とか熟れてない感じとか……いやもうなんだあのキラキラした奴! 推せるっ! って感じだけど、ああこの話は置いておこうか。


「でも何よりアキちゃんの気合が一番すごかったよ!」

「うぇ?」

「声、超出てた!」

「あ、あはは。つい、熱がね」

 それにしても、今日は乗合馬車が全然来ない日だった。

なんか事故でもあったのかな。などと考えていても時間だけが過ぎて、王国帰宅組の十数名がその場で立ち往生していた。

「アキちゃん、どうする? 馬車全然来ないね」

「うーん。……行商人の馬車に乗せてもらおうかなぁ」

 乗合馬車というのは、この辺りだと共和国と王国の共同事業で行っている行政の馬車だ。

 だから遅れることはよくあることだ。ここまで遅いのは珍しいけども。


 そういう時には行商人の馬車に一緒に乗せてもらうというのは割とよくある話だし、何度もやっていた。


 だから、私は今日もそうやって帰ろうと思った。実際、家も共和国領から近い方だし。

 そういう話をしている最中に──丁度良く行商隊の馬車が街道を通っているのが見えた。


「あれに乗せてもらうよ!」

「うん! 分かった! じゃあまたね、アキちゃん!」



 そして私は行商隊の馬車に乗せて貰ったワケだ。



 ──まぁお察しの通り、私はこの行動を後悔するワケだ。

 溜め息しか出ない、大ハズレを引き当てましたとさ……。


 



 ◆ ◇ ◆


 いつも読んで頂き本当にありがとうございます。

 やはり体力的に次の話を書き上げることが少し難しく、この時間になっても書きあがらず……。

 次の更新を勝手ながら早くて火曜日、または木曜日にさせて頂きます。

 誠に申し訳ございません。

 なるべく火曜日の投稿が行えるように頑張らせていただきます……。

(2024/7/15 1時 記入)  暁輝


◇ ◇ ◇

 誤変換及び名称間違いがあった為訂正しました。

 宿場の村 → 宿場の町 が正しいです。

 申し訳ございませんでした。

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