【22】姫殿下御用達廻刈転刃【01】
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『こちら第六防衛拠点ッ! 現在、敵勢力を外に目っ──ぎァッ!
なッ! 何だ貴さッ! がっ! ひっ、やめ──あ、あああっ!』
狂った怒号のような駆動音の後、劈くような叫び声がした。
そして、束ねた紐を引き千切ったようなブチっ! という嫌な音が脳内に木霊する。
その不快な音は、念話の魔法が意図せず強制終了された時に生じる。
意図せず、というのは魔力切れか、使用者の──死。
駐屯基地の屋上に集まり様子を伺っていた勇者たちが顔を見合わせて慌てだす。
「嘘だろッ! 第六防衛拠点が落ちたのか!?」
「ってことは、おれたちがいるこの『麓の駐屯基地』が……最終防衛線ってことか!?」
「おいおい! ここは防衛設備のある拠点じゃなくて駐屯基地だぞ?!」
「でも次に狙われるのはここですよね!?」「ど、どうやって止めるんだよ! だって相手は」
「馬鹿言うな!! あの伝令が間違えてたに決まってるだろ! 《あの伝説の勇者》の一人が王国と敵対するわけないだろ!?」
「で、でも、ライヴェルグは魔王に」「あれは嘘だ! 情報操作に騙されるなよ!!」
「なんにしてもだ! 敵はすぐそこに来てるっ! 全員、武器を取れ!
敵は《彼女》と言われているが根拠はない! それと同等の力を持った化物かもしれん! ともかく、迎撃の容易だ!」
司令官は決意を固め仲間たちを見た。
「で、でもよ、指令!! ここには大砲も無ければ弓弩もない! こんな防衛施設じゃ止められねぇよ!」
「だがそれでも止めなければならない! それにまだ時間はある! 第六拠点の司令官が討たれて念話が切れただけかもしれない! まだ第六防衛拠点が落ちたと決まった訳では──」
刹那。爆発。──駐屯基地の屋上に集まっていた勇者たちは慌てて頭を下げる。
そして、爆発が起きた方を──『第六防衛拠点』の方を恐る恐る見る。黙々と立ち込める黒い煙。立て続けに火柱も上がった。
「──落ち、たのか……」
「不味いですよ! 司令官!」「王国からの援軍はまだ来ないんですか!?」
「援軍は向かっている最中で、基地と拠点を、死守せよと……」
「ふ、ふざけんな! ここには2級勇者しかいないんだぞ!?
拠点を落とす勢力にどうやって立ち向かえっていうんだよ!?」
「──罠を仕掛ける! そうだ、在るだけの爆薬を持ってこい! 敵が来たら上から爆薬を投下する!」
「な、なるほど! 了解しました!」 ──ブロロ……。
「ありったけの銃火器を屋上へ運べ! ここで上から銃撃をする!」
「ほうほう、良いアイディア デスね!」 ──ブロロロ。
「それと入口にも仕掛け罠を張り付けろ!」
「それからそれから? どうするデース?」
ブロロ、ブロッ! 燃焼装置が起動した。
雪風が舞う。その可愛らしい声の方へ振り返り。
「それから──……」
ごくりと息を呑んだ。
狂った怒号のような駆動音が、響く。
雪風に舞うのは、長い藍色の髪と兎のような機耳。
ほのかに光る深蒼明の優しい瞳。
機械の両腕。後ろ首から赤と青のケーブル。
人懐っこくも凛々しく愛らしい顔立ちの──メイド服の少女。
──10年前の《人魔戦争》を経験した年齢の王国民なら、一度は見たことがある顔だ。
いや、その後に生まれた人間でも、彼女のことは誰でも知っている。
覚えやすいな見た目と喋り方で人気を博した《雷の翼》の勇者の一人。
「──ほ、本当に。《雷の翼》の勇者の……メッサーリナ様、なのですか」
「ンー。厳密には違いマースデス! 後継機に当たりマース。
名前はメッサーリナ2──リナリナとお呼びくださいデス。まぁ尤も──」
炎のような煙を吐き散らかす燃焼装置。
駆動音に合わせて目にも止まらぬ速さで回転する円盤刃。
「っ!」
「皆様がワタシの名を呼ぶことは もう無さそうデスけどね」
ピザカッターのような姿をした自走する刃──廻刈転刃が、肩から腰に掛けて斜めに斬り削ぐ。
電光のような一閃だった。電光と違ったのはその光が赤い飛沫だったということだろう。
「あ、あぁあああ!?」「ひぃぃい!?!」
鮮血。辺りに満遍なく飛び散った血飛沫は、その場にいた勇者たちを恐怖に突き落とすのに十分な量だった。
「尚、こちらの武器の名前は姫殿下御用達廻刈転刃『剪定者』。
ご存じの方も多いとは思いますデスが──正真正銘、『勇者の装備』デース。手入れもされて──全盛期より良く斬れるのデスよ」
武器を構える者には、武器を握った栄誉を称えて腕ごと切断する。
逃避を選んだ者には、その決断を賞賛し両足を切断する。
忘我で泣咽ぶ者には、慈愛を持ってその首を切断する。
血飛沫、血煙、血、噎せ返るその中で──機械の姫君は目を伏せて静かに微笑む。
「ワタシは先鋒。《翼》の障害を切断す者──の後継機デス!」
戦う者も、逃げる者も、叫ぶ者も──ただ平等に虐殺を。
「やめて、くれ……メッサーリナ、様っ……貴方は」
「?」
「貴方、は、……こんな、ことをする、人じゃ……無」
「……ソーリー。元存在はそうなのかもしれまセン。
が、ワタシはマイマスターの命令に従うのみなのデス」
──平等に虐殺を完遂した。
足元に伸びる血溜まりの上で、彼女はふと機耳をピクピクと動かした。
「あ、念話デース」
『あ、繋がった! やあ! リナリナ! もしかしてもう終わったかな!?
綺麗! 丁寧! 完全に! ゴミを潰しながらそれはもう鮮やかな血溜まりだけを作って!
勇者を木っ端みじんに! 麓の基地までの制圧を完了したのかな!?』
「あ、マイマスター! 念話でどうも! はい! 今、麓の駐屯基地デス! 制圧は今から致しマース!」
『今からかっ! そうか今からか! よし、念話を繋ぎっぱなしにしよう!
勇者の悲鳴をぜひとも聞きたい! 最後に彼らは何をいうのか! 『ころ、して』とか『たす、けて』とかだと逆に萎える!
勇ましく『まだ死なんぞぉ』とか言ってくれた方がぼくの趣味に合うね!!』
「Oh。だとしたらすみません。制圧は終わっておりませんが、敵残存戦力は、敷地内の僅か!
索敵によると勇者10名程度と思われマス!」
『なぁんだ、もう終わりかけか。まぁいいさ! 念話は繋ぎっぱなしにしよう!
今からぼくもそっちに行くからさ!』
「イェス。マイマスター。……それと確認デスが、どこまで制圧しマス?」
『ん、どこまでって?』
「この先に、町が見えるデス。宿場の町、デスね」
『ああ、そうか。もうそこから見える距離か。うーん。そうだなぁ。
まぁいっそそこまで侵略しちゃうのも一つだね! うんうん! 勇者が居たら排除したいな!』
「イェス。マイマスター。了解致しました」




