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【21】これから5回はフラれるがいい【34】


 ◆ ◆ ◆


「全弾不発です。我々の攻撃は先ほどとは別の『謎の盾』によって防御されました」

「っ。なんという術技(スキル)かッ! 超硬度の巨大盾と複数砲撃を防ぐ盾……! いや、または同じ盾を出せない制約のある術技(スキル)ということだなっ!」

「なるほど。それと先ほど指示いただいた荷重回式電壊砲の圧力が──っ」


 振動。砲の何かがまた小さく爆発したようだ。

 合わせて艦橋内の計器たちが発火(ショート)し幾つもの動きを止める。


「目測の最終計器のエネルギー圧力は30%でした。しかし、『自爆特攻』をするなら十分な圧力となっております」


「ぬっ! セリュース曹長! 貴様 何故、自爆特攻を行うことを知っているッ!? 

はっ!! まさか意識を読み取る術技(スキル)かッ!?」


「将軍。砲撃も出来ないのに圧力を限界まであげろと言った後、救命筏(ボート)で下艦命令を出されれば何をするか全てわかりますよ」


「ぬぅ。最近の奴らの頭の回転の速さにはつくづく嫌になるものだッ! 

自分の若い頃に上官が似たことを言った時に何が起こるか何にも分からなかったのを思い出したぞ」

「それは将軍が頭悪いからだと思いますよ」

「はっはっ! そうか! 死ねぇえい!」

「ええ。そのつもりです」

「……何ぃ?」


「将軍の操縦じゃ心許ないです。岩礁にぶつけて座礁するでしょう、下手だから」

何故(なぁぜ)岩礁にぶつけた話をしっておるぅ!? あれは箝口令を出したはずッ!」

「人の口に戸は立てられませんね。海軍学校で大爆笑ネタになってますよ。タイムリーでしたからね。

将軍が最新戦艦の馴らし運転で岩礁に思いっきりぶつけてお釈迦寸前にしたって」

「くっ……」


「ストルマーゲ副官は、優しい方でした。海軍学校でも一時先生をしていました。

……恩に報いる時でもあります。ですので、共に向かいましょう」


 赤い危険灯(ライト)、壊れたようになり続ける金管警報(アラート)、小刻みに爆発する動力炉の音。金切蠅(けたたまし)い物たちだけが鳴り響く中で、シェーヴェは机の上に投げるように置かれていた自身の軍帽を被り直す。


 奇妙な沈黙の後、シェーヴェは鼻を鳴らした。


「……はんっ。敵の持つ『盾の術技(スキル)』がもう一度使われたら、我々はただ壁に向かってぶつかるだけ。死ぬのだぞ」

「はっ! 覚悟の上です!」

「この作戦は、帝国の掌の上で転がされているだけだ。大義こそあるが我々の名前は語り継がれない。

帝国も作戦に失敗した場合、新制海王国が守ることはない。寧ろ国は国の存続の為に我々の名前を消し去るだろう。

だから、これは『無名誉の死』だ。意味が分かっているか?」

「承知です!」


 シェーヴェは静かに振り返り、目だけ微笑みながら、彼の肩を叩いた。


「ありがとう。貴官は勇敢だ。そして、有能かつ優秀な人材だ。

死地に置いても臆すことなく国に尽くすなど並大抵の者には出来ないだろう」

「ありがとうございます」


「自分が21の頃は何をしていたか思い出せん。しかし、そんな英断が出来るような人格者でなく跳ねっ返りだったのはよく覚えているよ」

「そうだと思います」

「そんなことないと思いますと言えぇい! まぁ、そういう所だ。海の国の若者は、こうでなければなっ!」


「ええ。そうですね。将軍。……未来の為に」


 まだ若い青年らしい真面目な笑顔を、セリュース軍曹は浮かべた。

 合わせて、シェーヴェは微笑んだ。


 直後、真顔に変わる。


「セリュース軍曹。──先ほど、キミは海軍学校で話題になっていると言ったな、岩礁に乗り上げたことが」

「? ええ?? シェーヴェ将軍?」




「それは箝口令に反している。立派な違法行為であり、軍法会議に掛けるのが妥当と判断した。

よって貴様の身柄を直ちに本国へと強制送還する」



「! 将軍! 私は何を言われても共に死地へ! ボートになど乗りませんっ!」

「言い訳無用! そしてボートに乗るのも不要ぅッ! 

何故なら『未来の救命胴衣』はきっと空くらい飛ぶだろうからな!」

「! なっ」


 シェーヴェが先ほど触れた肩から──彼の衣服が変わっていく。

 そして、シェーヴェは彼の肩を押して、艦橋の外へと扉ごと押し出した。



 真っ青な空が見えた時、若い軍曹の背に推進装置(ロケット)が生えた。



「貴官のような若く聡明な男は、もっと長生きしろ。これから5回はフラれるがいい。そしてもっと優賢を得ていい男になるがいい」

「将軍っ!」


「可愛いとも可愛くないとも言えない女と結婚し、幸せになれ。軍人風に言えば、それが国家国民の為になる。……さらばだ、セリュース軍曹」


 爆風と共にセリュース軍曹が空へと吹き飛ばされた。


 艦橋内の操舵を行い──シェーヴェは戦艦を走らせる。


「ふーん。この爆進(バーバリスク)でお前の服を『未来の救命胴衣』へと変えるなど造作もない。

造作もないが……皮肉なものだな。我が術技(スキル)で未来の道具は作れても、未来を創ることは出来ない。

いや、……最後は上官らしく未来を創ったと言ってもいいんじゃないか? 

ふむ。大満足の結果と言えるだろうか! はっはー! そう、未来を創ったぞ、ストルマーゲ!」


 少年のようにあどけなく笑いながら、爆風が足を焼いた。

 ガラス片が腰から足に突き刺さる。壁が爆発した。背中から熱風が押した。

 上下左右に揺られながらも、操舵輪から手を離さない。いや、もう凭れ掛かるように操舵している。

 左の足が無い。左手が目の前に転がり、耳はいつの間にかなくなっていた。

 それでも尚。


「ふっはっはっ! 操舵が下手だと言ったな。言い換えるがいい!

岩礁や障害物にぶつけるのが、とっても上手なのだとな!!」


 爆炎を巻き上げながら、進んでいった。




 ◆ ◆ ◆




 ──戦艦エーデレッゲ。

 最西端の港に自爆特攻を行うが、それを魔王ヴィオレッタとその腹心が間一髪で防衛。

 港町の崩壊は全体の4割。それは最初の奇襲時の砲撃によるものであり、魔王ヴィオレッタ到着後はそれ以上の崩壊は殆ど無かったとされている。


 最西端の港町は半壊。死者は316名。重軽傷者431名。

 この奇襲でその町に居た町民の約6割以上が被害に遭った計算となる。


 その後、他戦艦2隻は撤退。

 魔王ヴィオレッタの最初の戦闘と、人命救助を行った功績は色の無い文字で歴史に記録されることとなった。



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