【21】ガーちゃんに怒られちゃうね【28】
◇ ◇ ◇
私には師がいた。
とっても大切な師で、とっても好きな師。
いつも私の隣に居て、いつも私のことを導いてくれて、いつもいつも一緒だった。くすくす。
なんで今、思い返してるかってさ。師が本当はすっごい過保護だったんだなぁって実感してるからかな。
私の魔力は、師が少し貸してくれてたみたい。
私は魔力の器がすっごく大きい。魔王だった師が『自分より大きい』っていう程だから本当に大きいんだと思う。
ただ、私は魔力が溜まり辛いみたい。
なんでだろうね。もちろん、誰かから魔力を借りる方法もあるんだけどさ、自分で溜めるのが苦手な体質みたいなんだよね。
だから、師が居なくなってから──私はその体質と向き合うことになった。
あんまり頼りたくなかったけど、ジンに技とかも少しだけ教わったのは、魔法に頼らない戦いをする為。
魔法は最小限にしてる。
自分の身体能力強化。攻撃魔法は術技で大きく引き伸ばしてから発動する。
これが今の私の戦い方。
それに、今日に関して言えば『戦える日じゃない』んだよね。
転移魔法も使ったばかりだし、魔力のストックも無い。
だから今は、私──大きな魔法は後2回も使えないかな。
ガーちゃんに言わせると『仲間になった途端に弱くなるラスボス!』とか言うかなぁ? くすくす。そんなこと私に言わないね。
でも自分で言ってて確かにそう。
見方によってはかなりの弱体化に見えるよね。でもまぁ、魔法なんて無くってもさ。
◇ ◇ ◇
「この程度の人数に負ける訳が無いんだけどね」
頬に付いた返り血を指でなぞってヴィオレッタはくすくす笑う。
自称海賊の男が二人、地面に転がり呻き声を上げている。
残り8名、いや9名──後ろに下がりながら銃を構えている。
「怯むなッ! 所詮、ただの近接武器使い! 距離を取りながら攻撃をし続けろ!
あの娘、先ほどから我々の波状攻撃は回避しきれていないぞ!」
指揮官──顎が尖った男が怒号のように声を荒げる。
男の指摘通り、ヴィオレッタは頬や手足に擦り傷と切り傷があった。
弾丸も一発だけ肩を掠めているらしく、まだ新しい出血がある。
その戦いを見ている記者の女──レンカはその状況に混乱していた。
(なんで。ヴィオレッタさんの、あの魔王様らしい絶対的な力ならあっという間に制圧できそうなのに。私たちを守ってる?
ううん、私たちは今さっき建物の陰に隠れてるからそんなに邪魔にはなってない筈。
じゃあなんでさっきからヴィオレッタさんは変な戦いを──)
「撃て!」「はっ!」
「くすくす。無駄なんだけど?」
自称海賊たちの銃の一斉射──だがその程度は防御魔法も『絶景』を使うまでも無い。
大鎌を振り回し軽く弾ける。部下たちの銃は王国の市場で出回っている火力より高い程度だ。
ヴィオレッタは大きく体を振り回し、そして、全ての弾丸に向かっていくように攻撃を刻み弾く。
銃撃は対処できた。しかし、面倒なのは。
「この何の変哲もない『丸形爆弾』を!」
放り投げられたのは、絵に描いたような導火線に火が付いた丸い爆弾。
「【爆進】! 爆弾は進化する!!」
面倒なのは、この顎の尖った指揮官の術技。
丸形爆弾が鋼鉄で出来た鳳梨のような姿に変わる。
「またっ」
「今度は結構先の未来に進化させたッ! どんな威力かはその身で味わうがいいッ!」
(あの顎の人の術技は、自分の武器や道具を『未来の姿に進化させる』術技みたい。
何千年も先の未来には出来ないみたいだけど……どんな効果のある道具に変わったか分からないのは厄介っ)
三つの選択肢があった。
一つは斬り裂く。一つは魔法で防ぐ。一つは避ける。
火力が分からない。なら、避けるのが正解──だとヴィオレッタは瞬時に答えを出した後。
「【靄舞】、包めッ!」
左手から靄を生み出し『爆弾を包み込む』。
「起爆だッ!」「鉄化ッ!」
爆弾を包み鉄に変わった靄──が、赤く赤熱し、焼き飛ぶ。
「っち」
爆弾が炸裂し、破片の幾つかがヴィオレッタの左腕に突き刺さる。
「はっは! 判断を誤ったな!」
「くすくす。試しただけだよ。どの程度の威力かね」
「負け惜しみを。威力を見たいだけなら数歩後退すればいいだろう!
いや、そうか! なるほど、魔王殿! 分かったぞ! 得心が行く!!
魔王殿は今、後退が出来なかったのか!
そして、爆発を自身に向けることしか出来なかったのか!」
「……っ」
(このおじさん、妙な所だけ勘がいい……ッ)
「魔王殿! ならばこのプレゼントはどうかな! 行け、爆弾達よ! 【爆進】!」
尖った顎の男が爆弾を投げた──それも、たくさん。しかも。
(っ!)
全て、ヴィオレッタから見て左右四方向──的確に投げられたその場所は──『どの場所にもまだ心音がある場所』。
「納得! 魔王殿は、生き埋めになってる人間か魔族かを庇って戦っていたんだなぁ!」
(各方向に飛んだ爆弾が先ほどと同じ威力なら、地面に落ちる前に誘爆させないとまずいっ!)
ヴィオレッタは一歩跳び上がり、体を捻る。
「靄舞ッ! ──ッ 飛び散れッ!」
両腕と銃撃を受けた左肩の傷口から血が靄となり飛び散った。
まるで黒い手のように三方向へ飛ぶ。そしてもう一ヶ所へは大鎌を放り投げた。
「今だっ! 全体っ! ヴィオレッタへ集中砲火ァッ!!」
「はっ!!」
「っ──最っ悪!」
機関銃のような連射音と、無数の銃声が響き渡る。
遠巻きに靄と鎌で誘爆させた爆音が響き地面が揺れる。
そして悲鳴。
その悲鳴は──。
「ぎぁあっ!」
──野太い男の悲鳴だった。
「あんまり、お行儀よくないから使わないようにしてたんだけどね」
ヴィオレッタは着地する。
「【靄舞身衣】長靴──スカートの時にやっちゃダメって、またガーちゃんに怒られちゃうね。くすくす」
靄の刃が付いた黒い靴を返り血で赤く染め、ヴィオレッタはくすくす笑った。




